抄録
紫外線UVBは、植物細胞内の核、葉緑体、ミトコンドリアゲノム上にDNA損傷の一つであるピリミジン二量体 (CPD) を誘発する。CPD損傷の蓄積は、UVBによる生育抑制の主要因であるため、その修復機構の存在は重要である。これまでの研究から、核においてはCPDを青色光を利用して修復するCPD光回復酵素が主要な修復系となっていることが示されてきたが、葉緑体やミトコンドリアでの修復機構は明らかとなっていない。
我々は、イネでは核、葉緑体、ミトコンドリアDNA上に誘発されたCPDが青色光の照射時間に依存して減少することを示した。本研究では、この青色光依存的なCPDの減少がCPD光回復酵素によるのか否かに関して、CPD光回復活性が異なるイネ、CPD光回復酵素組換えイネを材料に解析を行った。その結果、(1)酵素活性の高いイネは、低いイネより各オルガネラでのCPDの減少が速いこと、(2)CPD光回復酵素を過剰に発現した組換えイネでは、親株と比較してCPD減少の速度が著しく速いことが分かった。さらに、単離オルガネラ画分を用いたウェスタンブロッティング解析や、免疫電顕による解析では、核、葉緑体、ミトコンドリアでCPD光回復酵素が検出された。以上の結果から、イネでは1コピーで核にコードされているCPD光回復酵素が、核、葉緑体、ミトコンドリアに移行してCPD修復の機能を担っていることが明らかとなった。