抄録
紫外線B(UVB)は、生体内のDNAに吸収され、DNA上にシクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)や(6-4)光産物などのDNA損傷を生じさせる。生物はこれらのDNA損傷を、光を利用する光回復や、光を利用しない暗修復によって修復している。(6-4)光産物は、CPDに比べ二本鎖DNAを大きく歪ませるため、ヒト細胞において暗修復により優先的に修復されることが知られている。植物においてCPDと(6-4)光産物は、それぞれの損傷に特異的なCPD光回復酵素と(6-4)光回復酵素によって主に修復されている。CPD光回復酵素は、植物個体のUVB抵抗性に大きく寄与する因子である。一方、イネにおける(6-4)光回復酵素のUVB抵抗性への寄与程度は明らかでない。そこで、UVB抵抗性の異なるイネ品種を用い、(6-4)光回復酵素活性を測定したところ、イネ個体のUVB抵抗性と酵素活性には相関が見られなかった。次に、レトロトランスポゾンTos17の挿入により(6-4)光回復酵素遺伝子が破壊された変異体を用い、UVB抵抗性試験を行ったところ、変異体のUVB抵抗性は野生型と同等であった。シロイヌナズナにおいては、(6-4)光回復酵素を欠損した変異体のUVB抵抗性が野生型よりも低下することが報告されている。それに対しイネにおいては、本研究結果より、(6-4)光回復酵素がUVB抵抗性に寄与する程度は低いと考えられた。