抄録
我々は、乾燥法による植物培養細胞の超低温保存の研究を行っている。ある種のコケ培養細胞(コスギゴケ)では、前培養することなく乾燥法による超低温保存が可能であった。この培養細胞は、十分乾燥した状態だと冷蔵庫内でも室温でも保存可能であった。本研究では、高等植物であるイネの培養細胞を乾燥により超低温保存したので報告する。
継代培養しているイネ細胞は乾燥に耐えられないのに対し、0.4 Mショ糖を含む培地で5日間前培養することにより乾燥耐性が高まることが分かった。例えば、相対湿度70%,27℃の条件下で18時間乾燥した細胞は、乾燥後もさらに液体窒素保存後もほぼ100%と高い生存率を示した。コスギゴケと同様に乾燥した細胞を液体窒素温度以外の温度で保存した。コスギゴケでは26℃で8週間、4℃で20週間の保存が可能であったのに対し、イネでは4℃では、ある程度の保存が可能であったが、26℃では1日後にはすべての細胞が死滅した。乾燥したコスギゴケとイネの細胞の間には何らかの物理化学的な状態に何らかの違いがあるのかもしれない。さらに、乾燥したイネ培養細胞の高温耐性を調べたところ、コスギゴケでは80℃で1時間の処理後にも60%の生存率があったのに対しイネでは50℃で1時間の処理ですべての細胞が死滅した。