抄録
陸上高等植物の多くは、塩ストレスにより成長阻害を受けたり、枯死する。塩害を受けた農耕地では作物の成長が低下することから、塩ストレス下における植物の反応を調べることは基礎研究のみならず、応用面でも重要な課題である。
本研究は、植物の耐塩性機構を細胞,分子レベルで明らかにすることを目的として行った。実験材料として、高塩環境下でも生育できるマングローブ植物 (Bruguiera sexangula) の培養細胞を用いた。まず、塩ストレスによる培養細胞の液胞の形態や細胞内イオン量の変化を調べた。細胞内への塩蓄積に伴い液胞体積は増大していくが、高塩条件下での長期の培養ではイオン濃度が下がることを再確認した。さらに、塩ストレス下における培養細胞のイオン輸送機構を明らかにするため、耐塩性に関与している遺伝子に注目し、細胞膜局在型 Na+/H+ (BsSOS1) 遺伝子および二種の液胞膜局在型 Na+/H+ antipoter (BsNHX2, BsNHX14) 遺伝子についてリアルタイムPCRを用いて、様々な塩ストレス条件下における発現様式を調べた。さらに、培養細胞で得られた結果がマングローブの植物個体においても当てはまるのかを検討するため、個体レベルにおける遺伝子発現量の解析を予定している。