抄録
オカヒジキは、日本各地の海岸砂地に自生しているヒユ科NADP-ME型C4植物である。グリシンベタイン(ベタイン)は、ヒユ科やイネ科などの一部の植物で塩や乾燥に応答して合成され、細胞内の浸透圧調節や酵素・膜の保護の機能をもつ適合溶質である。塩存在下のオカヒジキは、葉において貯水組織を発達させて塩を隔離する他、高濃度のベタインを合成・蓄積するため、耐塩性が高いと考えられる。本研究では、オカヒジキの耐塩性機構におけるベタインの生理的役割を調べることを目的とし、塩存在下のオカヒジキにおけるベタイン合成酵素の組織局在性を調べた。
ベタイン合成の最終段階を触媒する酵素はベタインアルデヒド脱水素酵素(BADH)であり、BADHがベタイン合成の組織局在性を決定している。ウエスタンブロット解析の結果、オカヒジキの葉におけるBADHタンパク質発現量は塩処理により増加した。次に免疫組織染色によりオカヒジキの葉におけるBADHタンパク質の組織局在性を調べた結果、通常時では維管束、塩処理後では維管束および維管束鞘組織で強いシグナルが見られた。したがって、維管束および維管束鞘組織でのベタインの蓄積が、オカヒジキの耐塩性機構において重要であることが示唆された。