抄録
我々は、植物の自然免疫応答のモデル系として、細胞内分子動態の観察に適したタバコ培養細胞BY-2株が、病原性卵菌由来のタンパク質cryptogeinを認識し、プログラム細胞死を伴う感染防御応答を誘導する実験系を構築し、シグナル伝達系や細胞内動態のイメージング解析を進めて来た。ATG8とYFPとの融合タンパク質を発現させたBY-2細胞を作出し、オートファゴソームの可視化系を構築した。感染シグナルの認識直後に見られるCa2+の動員と、NADPH oxidaseの活性化による活性酸素種の生成に引き続いて、オートファゴソーム様構造体の迅速な減少が見られ、感染防御応答の初期過程で、オートファジーが抑制される可能性が示唆された。一方、オートファジー阻害剤で前処理した細胞では、cryptogeinにより誘導される細胞死や活性酸素種生成、遺伝子発現等の一連の防御応答が顕著に亢進されていた。オートファジーを介した感染防御応答の制御、ジャスモン酸等の植物ホルモンとの関連性、新しい植物防除法開発の可能性について議論する。細胞周期を同調させた細胞を用いた解析結果についても報告し、感染防御応答、細胞周期及びオートファジーの三者の関係についても議論したい。