本稿では,臨床事例を紹介しながら,トラウマの語りづらさを考察し,トラウマを抱えた人々に寄り添う支援のあり方について考える.まず,トラウマとは何かを説明する.次に,トラウマの語りづらさについて「環状島モデル」を用いて考察する.環状島は,語りの不在を表す<内海>が真ん中にあるドーナツ型の島であり,当事者の発話可能性や,当事者・支援者・傍観者といった人々の関係性とポジショナリティ,トラウマに対する社会の無理解・偏見などを視覚的に分析することができる.次に,臨床でのアプローチとして,支援者が自分の中の聞きづらさを振り返ることの重要性や,子ども支援においては養育者への支援が重要であることなどを述べる.最後に,支援者の傷つきやケアについて考える.トラウマにていねいに関わり,トラウマを耕すことは,当事者にとっても支援者にとってもよい精神科医療の実現につながる.