2025 年 65 巻 1 号 p. 39-47
平仮名清音一文字の書取はできたにもかかわらず,その音読,単語水準での書取,音読が難しかった知的発達症児に対して漢字を用いて音韻意識を促す指導を行った.音読に必要な音韻意識や自動化能力,視覚認知能力は不十分で,語音の想起ができなかった.書取に必要な視覚認知能力は不十分であったが,語音から文字の再認はでき,筆順通りに繰り返し書くことを通して平仮名文字の記憶を形成することができたと考えられた.語音の再認はできたが想起ができなかったことが平仮名一文字を書けるが読めない大きな要因と考えられた.音読は平仮名一文字では困難だが単純な漢字なら1回の指導で可となる傾向にあった.書取は平仮名一文字で可だが単語や漢字で不可であった.音読と書取の障害構造が異なっており,平仮名一文字水準で読みと書きが独立して発達した稀な症例と考えられた.