2020 年 36 巻 1 号 p. 2-11
小児の悪性腫瘍は極めて稀といわれるが,小児期の死因をみると常に上位にあり大まかにでも知っておくことが望ましい.主要な小児がんのおおよその発生数は神経芽腫150/年,網膜芽腫・肝芽腫・腎芽腫・横紋筋肉腫は50/年とすると覚えやすい.各領域でどのような腫瘍が鑑別に上がるかや,診断するうえで役立つ知識などをアドバイスするように解説した.小児固形腫瘍で最多の神経芽腫は未分化なものになるとMIBGシンチグラフィが集積しない場合がある.腎腫瘍の中心疾患はWilms腫瘍で,肝腫瘍の中心疾患は肝芽腫や血管腫,FNH-like lesion,膵腫瘍の中心疾患はsolid pseudo-papillary neoplasmでこれらの基礎知識と鑑別に役立つ所見を解説した.膀胱腫瘍や精巣,卵巣腫瘍についても中心疾患とその鑑別について触れた.
Childhood malignant tumors are said to be extremely rare, but they are always ranked within the top 3 causes of death in childhood. It is thus desirable for us to have basic knowledge of childhood tumors roughly. We reviewed the overview of childhood tumors in every region with a little relaxation. The basic knowledge of major tumors and useful imaging findings were discussed.
近年,肝芽腫のPRETEXT分類や神経芽腫のIDRF(image defined risk factor),治療効果判定に関するRECISTガイドラインなど画像診断に求められる知識が複雑で多くなっている.また,腫瘍に対する名称も新たなものが次々に出てきており,それについていく努力も大変なものとなってきている.こういった知識をわかりやすく解説することも必要なことであると認識しているが,小児腫瘍には興味があるけれどあまり数多く見る機会のない放射線科医にとってはむしろ小児腫瘍をいろんな角度から気楽に見渡してもらい,診断するうえで有用なちょっとした知識を気楽に聞いてもらう方が実際的と考える.
小児腫瘍は稀といえどもいろいろな疾患があり,小児がん全体にわたるオーバービューを簡単に概説したい.全体としてあまり内容が重たくなく,ちょっとライトになるように配慮したい.
厚生労働省平成29年死因統計によると(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai17/dl/h7.pdf),成人を含めた全体での死因第1位は悪性新生物であり,第2位に心疾患,第3位脳血管疾患と続く.小児がんは非常に希少であると一般に聞くことも多いが,さすがに0歳の死因の3位までには悪性新生物は入ってこないが1歳から19歳までの死因の3位までに必ず入っている.すなわち,こどもの死自体が成人に比べてかなり少ないが,こどもの死からみれば悪性新生物がかなり身近なところにあると考えられる.
ちなみに,この死因統計における1歳から19歳までの10万人当たりの悪性新生物による死亡率は各年代層あまり変わりなくおおよそ1.4–2.1で,0歳における先天奇形は67.3と桁違いに多く先天奇形や呼吸障害といったこの時期に多い死因に隠れているものと推測される.
小児がんの大まかな発生数日本小児血液・がん学会の疾患登録状況(https://www.jspho.jp/pdf/touroku_1.pdf)によると,血液腫瘍ではALLが群を抜いて多く,AMLはリンパ腫より若干多い程度である.また,LCHがそれらに続いている.
固形腫瘍については骨腫瘍や軟部腫瘍,脳脊髄腫瘍など小児血液・がん学会以外への登録数もかなりあると思われ,実数を反映していないかもしれない.
固形腫瘍で最多は神経芽腫群腫瘍でおよそ150くらいとすると覚えやすい.そのほかはおよそ数が拮抗しているが,網膜芽腫,腎芽腫,肝芽腫,横紋筋肉腫などは50くらいとすると覚えやすい(Table 1).
血液系腫瘍 ALL>>AML=lymphoma>LCH |
|
---|---|
神経芽腫 | 150 |
網膜芽腫 | 50 |
肝芽腫 | 50 |
腎芽腫 | 50 |
骨肉腫 | 50 |
横紋筋肉腫 | 50 |
それぞれの発生領域ごとに小児ではどのような腫瘍があり,どのような臨床的特徴があるのか簡単に全景を眺めてみたい.覚えやすいように簡単にアドバイス的に述べるが,多分に筆者の思い込みもあるので気楽に眺めていただきたい.
1. 神経芽腫小児の固形腫瘍では最多で,75%が腹部1/3が副腎原発といわれる.尿中VMA,HVAが高値でMIBGシンチグラフィが集積する.Fig. 1はMIBGシンチグラフィが腫瘍に集積する典型例であるが,Fig. 2のように腫瘍へ集積があまりないものもある.本例は未分化型であった.肝・骨髄・皮下に転移が限局しているものは予後の上では必ずしも悪い兆候ではない.成人で発見される神経節腫は小児期にはもともと神経芽腫であったと推測される.
神経芽腫典型例
a:腹部造影CT
左副腎領域から後腹膜に広く進展する腫瘍.腹部大動脈や右腎動脈など腫瘍に取り囲まれている.
b:MIBGシンチグラフィ
腫瘍に一致したRIの集積.椎体や下肢骨にも淡く集積が認められる.
MIBG陰性例
a:造影CT
椎体前面の後腹膜に大きな腫瘤が認められる.腹部大動脈は腫瘍に取り囲まれている.腫瘍による圧迫で両側水腎症をきたしていたため両側の腎盂にはWJカテーテルが挿入されている.
b:MIBGシンチグラフィ
両側腎盂,尿管にRIの集積が認められるがその間の腫瘍部分には有意な集積は認められない.
a.悪性:Wilms腫瘍,CCSK(clear cell sarcoma of kidney),MRTK(malignant rhabdoid tumor of kidney),腎細胞癌など
b.良性:多房性腎腫(MLCN, multilocular cystic nephroma),血管筋脂肪腫(AML, angiomyolipoma),腎膿瘍など腫瘍類似病変
c.malignant potentialを有するもの:CPDN(cystic partially differentiated nephroblastoma),腎芽腫症(nephroblastomatosis),先天性間葉芽腎腫(CMN, congenital mesoblastic nephroma)
小児腎腫瘍の鑑別:大雑把な見方a.本当に腎腫瘍なのか?
Fig. 3のa,bともに右腎にbeak signがあるようにみえる.Aは神経芽腫であった.BはCCSKと病理診断され,腎より腹腔側へ大きく進展した腫瘍であった.このように腎腫瘍と間違いやすい腫瘍に神経芽腫がある.
どちらが腎腫瘍?
b.腎腫瘍であればまずはWilms腫瘍を疑う
後述する多房性腫瘍や多嚢胞腫瘍,脂肪成分の含有などの特徴のある良性腫瘍の所見でなく,悪性の疑われる像であれば頻度からまずはWilms腫瘍を疑って鑑別を進める.
c.Wilms腫瘍の特徴を知る
〈臨床的特徴〉
新生児・乳児期の症例は両側性や腎芽腫症の合併頻度が高い.
予後は比較的良好であるが病理的に退形成(anaplasia)があるものは予後不良.
先天性尿路奇形,片側肥大症,虹彩欠損,Beckwith-Wiedeman症候群,Drash症候群などの症例では発生頻度が高いと言われる.
〈画像の特徴〉
周囲との境界は明瞭であることが多く圧排性発育形態をとりやすい.
発見時平均腫瘍径は12 cmと大きく,71%に出血や壊死などの嚢胞状構造がみられる.
石灰化は少ない(CTで15%).
初診時肺転移が20%にみられる.
しかし,画像は多彩で特徴的でなくとも否定できない.
Fig. 4は典型的な症例と変性壊死の目立つ症例.
Wilms腫瘍
a:造影CT冠状断再構成画像
右腎の下極側に比較的境界明瞭な充実性腫瘍が認められる.
b:単純MRIT1強調冠状断像
左腎の上極側に巨大な腫瘍があり,境界は明瞭であるが内部は広範に高信号で,出血壊死が示唆される.
d.特徴のある他の腫瘍をおさえる
〈CCSKとMRTK〉
これらはWilms腫瘍より予後が悪く,特にMRTKで不良.
CCSKは骨転移しやすいとされるが意外と少ない.
MRTKは低年齢発症(80%が2歳以下).
MRTKは発熱,高血圧,高Ca血症で発症することもある.
初診時,傍大動脈への転移が目立っていればこれらの予後の悪い腫瘍を疑う(Fig. 5).
傍大動脈リンパ節転移
a,b:造影CT
aはMRTK,bはCCSKであった.どちらも初診時より傍大動脈に転移が描出されている.
〈間葉芽腎腫〉
新生児・胎児期に見つかる腫瘍としてはWilms腫瘍より多く,良性のclassic typeと転移・再発をきたすcellular typeがある.Classic typeは壊死の無い均質な充実性腫瘍の像,cellular typeは中心壊死を伴う悪性の像を呈しやすい(Fig. 6).
間葉芽腎腫
a:造影CT冠状断再構成画像(classic type)
内部の造影効果は比較的均質な充実性腫瘍.正常腎実質との境界は不明瞭.
b:造影CT(cellular type)
正常腎実質との境界は明瞭であるが内部は変性・壊死をきたしている.
〈MLCNとCPDN〉
どちらも基本的に良性で画像は多房性嚢胞性腫瘍で似ている.両者の違いは隔壁などに病理上,未熟間葉組織があるかないかで,あればCPDN,なければMLCNとなる.
未熟間葉組織が悪性化のpotentialがあるとされる(Fig. 7).
腎の多房性腫瘍
a,b:MRI造影T1強調横断像
a,bともに多房性の腫瘍で画像上そっくりである.aはmultilocular cystic nephroma,bはcystic partially differentiated nephroblastomaと診断された.
小児の肝腫瘍では悪性の肝芽腫,良性の血管腫やFNH(focal nodular hyperplasia:限局性結節性過形成)が臨床的にしばしば鑑別を要する.手術にならないが,FNH-like lesionとして画像診断されて経過観察される小病変もしばしばみられ,まとめてFNH-like lesionとして述べる.その他としては頻度が低いが間葉性過誤腫,胎児性肉腫,肝細胞性腺腫,肝膿瘍などがあげられる.
肝芽腫vs肝血管腫vs FNH-like lesionTable 2に肝芽腫,肝血管腫,FNH-like lesionの特徴を示す.胎児期や新生児期には肝芽腫と肝血管腫の鑑別が必要な状況が生じる.両者は退縮傾向が生じると血管腫と診断でき,肝芽腫ではBeckwith-Wiedeman症候群,糖尿病,18 trisomy,Gardner症候群,未熟児などの発生頻度の高いリスクファクターが知られる(Fig. 8).FNH-like lesionは,肝内のある領域で肝動脈と門脈からの供血比率が周囲より肝動脈優位となった場合に過形成性に腫瘤状となったもので,動脈相で濃染し,周囲が脂肪肝になったときにその領域のみ脂肪沈着がなかったりして(focal spared fatty liver)発見される.最近ではEOBによる造影MRIの肝実質層でEOBが取り込まれることで画像診断されることが多くなっている(Fig. 9).
肝芽腫 | 肝血管腫 | FNH-like lesion | |
---|---|---|---|
臨床的特徴 | 最多 幅広い年齢 AFP上昇 リスクファクター |
縮小ないし退縮 Kasabach-Merrit synd. AV shunt |
化学療法後に多い (限局性脂肪肝) |
画像の特徴 | 悪性を疑う像 非特異的 |
血管腔と同様の濃度・造影効果(小病変) 辺縁部よりゆっくり造影(大きな病変) |
EOBの後期相で取り込み 動脈相で膿戦 おとなしい像 |
画像上最も 鑑別すべき疾患 |
血管腫(胎児期・新生児期) HCC(年長児) |
肝芽腫 退縮で診断確実 |
肝細胞性腺腫(経口避妊薬) |
18 trisomy患児にみられた肝腫瘍
a:T1強調横断像
b:T2強調横断像
c:拡散強調横断像
手術にて肝芽腫と診断された.
FNH/FNH-like lesion
a:MRI T1強調横断像
b:MRI脂肪抑制併用T2強調横断像
c:MRI dymanic造影T1強調横断像早期相
d:MRI EOB肝実質相
dynamic造影早期相では肝右葉前区域に早期濃染する腫瘍が認められる(c).T1強調像,T2強調像では周囲正常肝実質と似た信号である(a,b).EOBの肝実質相では周囲同様に取り込みがみられている(d).
小児の膵腫瘍は稀であるが,最多は良性のsolid pseudo-papillary neoplasmで転移がなければまずはこれを疑う.以前solid cystic tumorと呼ばれていた腫瘍で充実性でも嚢胞性腫瘍でもあり得る(Fig. 10).もし,初診時より肝転移やリンパ節転移があれば膵芽腫という悪性腫瘍の可能性があるが平均5歳の発症でAFPは上昇する.この腫瘍も含めて成人でもみられる膵悪性腫瘍については筆者も経験がなく極めてまれと考えられる.むしろ悪性リンパ腫や白血病などの転移性腫瘍や膵炎に伴った仮性嚢胞の方が鑑別すべき機会が多いと言える.
solid pseudo-papillary neoplasm
a,bは充実性(→),c,dは嚢胞状(*)を呈するSPN
(a,cは単純T1強調横断像,b,dは造影後T1強調横断像)
日常診療で小児の膀胱に腫瘤状構造をみたときは,圧倒的に腫瘤状を呈する膀胱炎の頻度が高い.抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬や漢方などの関与が報告される.これらは経過とともに改善へ向かうが,真の膀胱腫瘍としては小児では悪性の方が頻度が高く,中でも最多は横紋筋肉腫である.
良性腫瘍としては神経線維腫,血管腫,褐色細胞腫などがある.
膀胱横紋筋肉腫組織学的にはembryonal typeが多い.画像的に膀胱三角部,頸部より内腔側へ突出するものが多く,典型的にはぶどうの房状を呈し,botryoid sarcomaとよばれる.三角部・頸部以外に主座を置く場合は異なる腫瘍も考慮に入れるべきである(Fig. 11).約20%程度は膀胱頂部より膀胱外に腫瘤を形成するものがあると言われ,この場合,大網播種や浸潤の頻度が高いと言われる.
典型的でない膀胱腫瘍
a:造影CT冠状断再構成画像
b:T1強調冠状断像
c:T2強調冠状断像
aの症例は炎症性偽腫瘍,bの症例は低悪性度移行上皮癌,cの症例は悪性リンパ腫と診断された
小児期の精巣悪性腫瘍ではYolk sac tumorが多く,思春期以後ではseminomaの頻度が高くなる.良性腫瘍では,epidermoid(類上皮腫)がもっと多く,画像上複雑であれば奇形腫もみられる.良悪に関係なく,小児期の精巣腫瘍は胚細胞系腫瘍からの鑑別が主になるといえる.
Yolk sac tumorは充実性悪性の所見で,壊死や嚢胞も含まれる.急速な増大を示す(Fig. 12).epidermoidや奇形腫は貯留嚢胞の像で,境界が明瞭である.ゆっくりと増大する.
Yolk sac tumor
a:超音波
右精巣は腫大し,内部に多数の嚢胞を伴う腫瘤が認められる.
b:造影CT矢状断再構成画像
腫大した右精巣は不均一に軽度造影されている.
子宮・膣に発生する小児期の腫瘍では横紋筋肉腫が知られる(Fig. 13).
膣原発横紋筋肉腫
a:MRI T2強調冠状断像
b:MRI T2強調矢状断像
膣内に多数の嚢胞を含む腫瘍があり,充満している.
(*は内腔が拡大した子宮)
卵巣腫瘍では,各年代により考えるべき疾患が変わってくる.
まず,胎児期,新生児期,乳児期では卵巣嚢腫が中心になる.各種画像検査で一見,充実性腫瘍のように見えても捻転や出血などによって卵巣嚢腫のバリエーションを見ていることがほとんどである.この時期卵巣に真の新生物を見ることは極めてまれである(Fig. 14).注意すべきは捻転と退縮で,捻転すると出血性嚢胞となり超音波検査上complicated cystの像を呈する.捻転していないものでは退縮が重要で,その過程で小嚢胞の出現をみるとより卵巣嚢腫の診断が確実となる(daughter cyst sign).
胎児MRでみられた卵巣嚢腫
a:T1強調冠状断像
b:T2強調冠状断像
幼児期・学童期になると成熟奇形腫の頻度が高くなる.偶然発見されることもあるし,捻転がきっかけで腹痛をきたしてみつかることも多い.成熟奇形腫の診断の根拠となる脂肪成分や石灰化などの所見は,小児期には非常に小さいので注意して観察する(Fig. 15).
成熟嚢胞性奇形腫
下腹部正中に嚢胞性腫瘤があり,壁面に小さく石灰化と脂肪が認められる(→).
学童期から思春期頃になると若年成人でみられる腫瘍が鑑別に入ってくる.Yolk sac tumorやjuvenile granulosa cell tumor,dysgerminoma,mucinous cystic tumorなど多岐にわたる.
小児期に考えるべき腫瘍を各領域ごとに眺め,全体像を把握しようとアドバイス的に全体像を解説した.あまり疲れないように配慮したつもりであるが小児期の腫瘍を見る機会の少ない先生方にはすこししんどかったかもしれない.