日本小児放射線学会雑誌
Online ISSN : 2432-4388
Print ISSN : 0918-8487
ISSN-L : 0918-8487
第55回日本小児放射線学会学術集会 フィルムインタープリテーションセッション 解答
症例4 日齢13 女児
野澤 久美子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 36 巻 1 号 p. 78-81

詳細

問題

主訴:嘔吐

胎児期にUSで水頭症と腹腔内嚢胞性腫瘤を指摘され,在胎30週時に胎児MRIを施行.

在胎37週0日 予定帝王切開で出生.出生時体重2,985 g Apgar score 6/8/9

日齢6に水頭症(中脳水道狭窄)に対しオンマイヤ留置術施行.

術前の腹部USで明らかな嚢胞性腫瘤認めず.

日齢4から経腸栄養を開始,日齢13から嘔吐を繰り返す.

 

診断は?

Fig. 1 

胎児MRI(在胎30週)

Fig. 2 

腹部単純X線写真

Fig. 3 

腹部US(日齢13)

解説

《画像所見》

胎児USで指摘された腹腔内嚢胞性腫瘤は,胎児MRIで右上腹部を占拠するT1強調画像で強い高信号,T2強調画像で低信号を示す腫瘤として認められた(Fig. 4*).

Fig. 4 

胎児MRI(在胎30週)

出生後,日齢4に施行した腹部USで明らかな腫瘤は指摘されなかった.

嘔吐を認めた日齢13での腹部単純X線写真で,右側腹部に空気と腸管内容物を含むような腫瘤性病変が認められ(Fig. 5矢印),腸管の拡張を示す病態が疑われた.USでは腸管内容物を含む腫瘤の壁構造は,腸管壁を思わせる層状の構造を呈した(Fig. 6矢印).

Fig. 5 

腹部単純X線写真

Fig. 6 

腹部US(日齢13)

開腹術が行われ,回腸末端から20 cmの部位に嚢腫状に拡張した腸管が認められ,部分切除が施行された.術中所見で腸管の閉塞部位は認められず,口側腸管の拡張も認めなかった.組織学的に腸管壁は粘膜層,粘膜下層,筋層が保たれており,神経節細胞が確認された.

《解答》

回腸限局性拡張症(segmental dilatation of the intestine)

《解説》

腸管限局性拡張症(segmental dilatation;以下SD)はまれな先天性疾患で,機械的閉塞機転や神経節細胞の欠損を伴わない局所的な腸管拡張を呈する.新生児期に腹部症状を呈して診断されることが多く,年長児で診断される場合もまれにある.腹部膨満や嘔吐,便秘や腸炎を契機に診断され,年長児では腹痛や貧血などを呈する1).好発部位は回腸(50%)と結腸(35%)で,空腸や十二指腸は少ない.腸回転異常や小腸閉鎖,鎖肛など他の先天性腸疾患や,先天性心疾患の合併が報告されている1)

近年では胎児診断での報告も認められ,腸管の軸念や閉鎖・狭窄といった閉塞性疾患や嚢胞性腫瘤との鑑別を要する2)

胎児期に診断される腹部嚢胞性腫瘤には,胆道拡張症や腸管重複嚢腫,卵巣嚢腫,尿管瘤や水腎症,奇形腫,リンパ管奇形などがあり3),近年は胎児MRIを施行される機会が増えている.胎児期の腸管内容物がT1強調画像で強い高信号を示すことは特徴的な所見で,腸管の状態を評価する上で有用な情報である.

文献
 
© 2020 日本小児放射線学会
feedback
Top