2020 年 36 巻 2 号 p. 101-108
身体的虐待では骨折の頻度が高い.しかし虐待を疑っていてもどのように骨折を評価したらよいのかわからないという話をしばしば耳にする.ここでは,骨折を評価するための全身骨の単純X線写真の方法の例を示し,虐待に特異的な骨折である骨幹端損傷や肋骨骨折を解説した.急性期の肋骨骨折の診断は単純X線写真だけでは難しいため,身体的虐待が疑われている状況では胸部CTも考慮し,確実に骨折を診断していくことが重要である.
また,肋骨骨折に限らず乳児の急性期骨折の診断は難しい.そこで1歳未満の乳児では2週間程度の経過観察の後,全身骨撮影を再撮影することが推奨されている.この時期になると骨折の治癒過程である骨膜反応や仮骨形成が画像で顕在化するため,骨折の診断が確実なものとなる.軽微な骨折を見逃さないためにも適切な全身骨撮影ができる体制づくりが肝要である.
Fractures are common injuries in physical abuse. Though skeletal survey is an important tool for the diagnosis of fractures, it is often performed in an inappropriate way. In this report, we show an example of the protocol of skeletal survey. Most fractures reported in abuse occur in young children, especially <12 months of age. So skeletal survey should be performed in children younger than 2 years with suspected abuse, and follow-up survey is important for children <12 month of age, because the acute fractures of infants are difficult to diagnosis. Follow-up survey can reveal the fractures in the healing phase.
Some fractures are specific for physical abuse, for example, classic metaphyseal lesions (CMLs) and rib fractures in infants. But the rib fractures are often missed, and so we should consider using chest CT in strongly suspected abuse. Finally, it is important to put the patient in a safe environment, and to obtain the most appropriate examinations for precise diagnosis.
身体的虐待の対象となるのは2歳未満の乳幼児が多く1),虐待によって受ける損傷としては擦過傷のような軟部組織損傷に次いで骨折の頻度が高い.しかし虐待によって骨折が生じたとしても,幼い子どもはそれを訴えることができず,さらに時間が経つと骨折による軟部組織の腫脹や痛み自体も消退してしまうため,臨床症状から骨折を疑うことすら難しくなる.このため画像検査によって初めて潜在性の骨折が発見されることも少なくはない.Kempらのシステマティックレビューでは虐待を疑われた児に骨折が発見される割合は3分の1程度とされている2).
骨折を評価するために基本となる画像検査は単純X線写真であるが,虐待ではあらゆる部位に骨折が生じている可能性がある.そこで乳幼児では全身骨撮影を行い,潜在性の骨折を検出することが重要である.
上述のように年齢が低いほど骨折の頻度が高くなるため,米国小児学会(American Academy of Pediatrics)では年齢に応じた検査の適応を提唱している3).特に2歳未満の場合は虐待の種類に関わらず全例に,2歳以上5歳未満では身体的虐待が疑われた場合に全身骨撮影を行うべきとされている(Table 1).ここでは米国での全身骨撮影についてのガイドライン4)をもとにTable 2に全身骨撮影部位,Fig. 1に全身骨撮影の例を示す.撮影範囲は対象となる児の体格にもよるため,必ずしもTable 2のとおりでなくてもよい.例えば体格の小さな児では上腕・前腕を1枚の単純写真でカバーできる場合,上肢全長として撮影してもよい.ただし,微細な骨折の評価を行うためには,頭部,体幹部,四肢,手足で分け,各部位に適した条件で撮影する必要がある.Barberらによれば,虐待が疑われた1歳未満の乳児に対して適切な全身骨撮影を行ったところ,55%の患者に骨折が認められ,20%の患者は潜在性の骨折であったと報告している5).
年齢 | 単純X線写真での撮影部位 |
---|---|
2歳未満 | 虐待の種類に関わらず全例に全身骨撮影 (1歳未満では2週間後に全身骨撮影を再撮影) |
2歳以上 5歳未満 |
身体的虐待が疑われた場合に全身骨撮影 |
5歳以上 | 本人の訴えがある部位,あるいは臨床的に外傷所見が明らかな部位を撮影 |
頭蓋骨正面,頭蓋骨側面 |
頸椎側面(頭蓋骨側面に含まれていれば省略)・腰仙椎側面 |
胸部正面・側面(胸椎) |
左右肋骨斜位 |
腹部~骨盤部正面 |
両上腕・前腕正面,両手正面 |
両大腿・下腿正面,両足正面 |
※身体所見上,骨折が疑われる部位では側面像や斜位像を追加する.
※肋骨骨折が疑われる場合には胸部の検査をCTで代用することも可.
※頭部CTが撮影されている場合には,頭部の検査は省略.
全身骨撮影の例
すでに頭部CTが撮影されている場合は,全身骨撮影では頭部の撮影を省略してもよい4).
また,1歳未満では2週間後に全身骨を再撮影することが推奨されている.これは小児の骨折は偏位が少ないことがあり,急性期の診断が難しいためである.骨折は受傷から10~14日経過すると,単純X線写真で骨膜反応や仮骨形成などの治癒過程の所見が顕在化するため見つけやすくなる.これにより初回の全身骨撮影で陰性であった乳児の9~12%に再撮影で治癒過程の骨折が認められたとの報告がある4).さらに乳児の骨には正常でも骨幹端に軽微な凹凸(step-offやspurと呼ばれる)があるため(後述),初回の写真では判定が難しい場合も再撮影によって真の骨折かどうかが判定できる.
Table 3は虐待によって起こりうる骨折を特異度によって分類したものである6).骨折のうち虐待に最も特異度が高いものは骨幹端損傷(Fig. 2)であり,そのほとんどが1歳未満の乳児である.好発部位は大腿骨遠位,脛骨近位・遠位,上腕骨近位,橈尺骨遠位で,Fig. 2のように骨幹端の縁に小さな骨片が認められる.乳児が激しく揺さぶられると,成長過程の長管骨骨幹端にある脆弱な一次海綿骨の層が剥離するような骨折が起こると考えられている6).骨幹端損傷は撮影する角度によって見え方が変わり,Fig. 2の大腿骨骨折はcorner fracture,脛骨骨折はbucket handle fractureと呼ばれるが,どちらも同じ骨折である(Fig. 3).
特異度の高いもの | |
---|---|
● | 骨幹端損傷 |
● | 肋骨骨折(特に背側) |
● | 肩甲骨骨折 |
● | 棘突起骨折 |
● | 胸骨骨折 |
中等度の特異度 | |
● | 多発骨折(特に両側) |
● | 新旧が混在した骨折 |
● | 骨端離開 |
● | 椎体骨折,亜脱臼 |
● | 指趾骨の骨折 |
● | 頭蓋骨複雑骨折 |
● | 骨盤骨折 |
頻度は高いが,特異性はそれほど高くないもの | |
● | 骨膜化骨新生 |
● | 鎖骨骨折 |
● | 長管骨の骨幹骨折 |
● | 頭蓋骨線状骨折 |
骨幹端損傷
8か月.大腿骨骨幹端の辺縁に小さな骨片を認める(矢印).この形はcorner fractureと呼ばれる.また,脛骨の骨幹端の周囲には薄い線状の骨片を認め(矢頭),こちらはbucket handle fractureと呼ばれる骨幹端損傷である.このような軽微な所見を拾うためにも,全身骨を正しい肢位で撮影する必要がある.
骨幹端損傷のシェーマ
a:corner fracture(矢印).
b:bucket handle fracture(矢印).
どちらも同じ骨幹端損傷だが,撮影時の骨幹端の角度によって単純X線での見え方が異なる.corner fractureは骨幹端を真横から撮影した場合,bucket handle fractureは骨幹端を斜めに撮影した場合の見え方である.
骨幹端損傷は軽微な所見であるため,Fig. 2では骨折の指摘は難しいかもしれない.Fig. 4に3週間後の状態を示す.大腿骨および脛骨の骨膜反応(骨膜下骨新生)が明らかであり,このように再撮影によって病変の指摘が容易となる.骨幹端損傷は虐待以外には起きにくいとされており,乳児にこの所見をみた場合には虐待の可能性が極めて高い6).
なお,乳児の骨幹端には成長過程を反映した軽微な凹凸が正常でもみられる(Fig. 5, 6).これらはstep-offやspurと呼ばれる正常変異であるが,骨幹端損傷との鑑別が難しいことがある.迷う場合には再撮影を行い,骨膜反応や仮骨形成がみられなければ正常変異と診断することができる.
骨幹端のstep-offとspur
2か月.橈骨骨幹端に段差のようにみえる部分があり,step-offと呼ばれる(矢印).尺骨骨幹端の小さな突出はspurと呼ばれる(矢頭).どちらも乳児の骨にみられる正常変異であるが,ときに骨幹端損傷との鑑別が難しいことがある.
骨幹端のstep-off
a:1か月.初回の全身骨撮影.脛骨骨幹端内側に不整がみられる.step-offとよばれる正常変異であるが,骨幹端損傷との鑑別が難しい.
b:2週間後の全身骨再撮影.aとはやや撮影の角度が異なるため,骨幹端の見え方が異なっているが,骨幹端に骨膜反応は生じていない.このように初回の写真で骨幹端損傷かどうか迷う場合にも再撮影によって骨折の有無を明らかにすることができる.
骨幹端損傷に次いで虐待に特異度の高い骨折は乳児の肋骨骨折である.肋骨骨折のほとんどは症状もなく画像検査によって偶発的に見つかることが多い.しかし,虐待における肋骨骨折は胸部に強い力が加わったことを示唆する重要な所見である.例えば大人が乳児の胸部をつかんで激しく揺さぶると,胸郭がたわみ,肋骨の側方・後方,肋横突起関節,肋骨肋軟骨結合部で骨折が起こりやすい.ところが急性期の肋骨骨折を単純X線写真で診断するのは容易ではない.全身骨撮影では肋骨の左右斜位像が指示されているが,呼気撮影であったり,縦隔陰影と重なったりすると骨折の検出は難しい.これに対して胸部CTでは骨折の検出感度が高くなるという報告が複数出ている7–9).CTは被ばくが問題となるが,これらの報告では低線量CTの活用について考察されている.虐待はその児にとって生命的危機であり,CTによって早く確実な診断が得られるならば検査は正当化されると考えられる.身体的虐待が疑われる状況では積極的に胸部CTを考慮すべきであろう.
Fig. 7は虐待が疑われた児に対して行った全身骨撮影での肋骨斜位像である.単純X線写真では複数か所に肋骨の変形があり陳旧性肋骨骨折が疑われる.しかし,胸部CTで確認するとさらに肋骨後方に陳旧性骨折があり(Fig. 8a),側方にも急性期と思われる骨折があることが判明した(Fig. 8b).この症例では後に虐待が確定されている.
7か月 肋骨骨折(全身骨撮影・肋骨斜位像)
複数か所に骨折を認める(矢印).しかし,皮質の断裂はなく,すでに治癒過程となっている陳旧性骨折と考えられる.また,Fig. 8aに示すようにこの時点で肋骨後方にも骨折が存在しているが,単純写真で指摘することは困難である.
肋骨骨折のCT(Fig. 7の症例の胸部CT)
a:肋骨後方に骨折を認める(矢印).この部分の骨折は単純写真での指摘は難しい.骨折部に硬化像があり,やや時間の経過した骨折と考えられる.
b:右側方の比較的新しい骨折(矢印).新旧が混在した骨折があり,虐待が強く疑われる所見である.
特にFig. 8aのような肋骨後方の骨折は虐待の可能性が強く疑われる所見である10).交通外傷のような高エネルギー外傷以外ではこの部分(肋骨後方)に骨折が起こることはほとんどないとされており,CTでは必ずチェックすべきポイントである.
肩甲骨骨折は胸郭を強い力で揺さぶられた場合や腕を掴まれて肩がねじられたり牽引された場合などに生じるのではないかと考えられている.このため,肩甲骨だけではなく,上腕骨や鎖骨,肋骨骨折を合併していることも多い10).肩甲骨では肩峰突起の骨折頻度が高いが5),慣れていないと診断が難しいことがある(Fig. 9).これに対しても胸部CTでの検出感度向上が報告されており9),CTを撮影した場合には肋骨骨折と併せて肩甲骨もチェックを行うべきであろう.
肩甲骨骨折
a:右側.正常.
b:左側.肩峰突起に骨折を認める(矢印).肩甲骨骨折の頻度は少ないが,虐待における特異度は高い.常に左右を見比べることが重要である.
腫脹や熱感があり身体所見からも骨折が疑われる四肢の長管骨に関しては,正面像だけではなく側面像を追加する.手足では斜位像を追加する.前述のような骨幹端損傷だけでなく,小児特有の若木骨折や膨隆骨折なども受傷直後は診断が困難なことがあるので(Fig. 10),時間をおいて再撮影し確実に診断する必要がある.
左橈骨の膨隆骨折
9か月.伝え歩き中に転倒.a:正面像.左橈骨の骨折は指摘困難である.
b:側面像.橈骨の骨幹端に皮質の不整があり(矢印),膨隆骨折を認める.
c:受傷から1か月後.橈骨骨幹端に線状の硬化性変化が認められ(矢頭),この部分で骨折が生じたと考えられる.骨折部に骨膜反応も認められる(矢印).このように偏位の少ない小児の骨折を急性期に診断することは困難である.
脊椎や骨盤骨,手足の骨折は非常にまれであるが1),日常ではほとんど起こり得ない骨折であるため,虐待での特異度は高い.
診察した乳児に多発骨折をみた場合は虐待の可能性を強く考えるだろう.さらに新旧の混在した骨折は虐待が繰り返されていたことが示唆され,児にとっては危機的な状況である.
しかし骨折が1か所しか認められない場合,はたしてそれが虐待によるものかどうかは画像のみで判断することは困難である.歩き始めた幼児では,下腿骨のよちよち歩き骨折や転倒による前腕骨骨折の頻度が高くなるため,児の活動性や養育環境を考慮して判断する必要がある.その一方で,多くの症例では初診時には単発の骨折しかみられないことも心に留めておかねばならない11).
画像診断の目的は,外傷部位・程度の把握,受傷時期の推測,虐待に特徴的な所見の検出,正常変異や虐待類似疾患の除外である.そのため,極力アーチファクトとなる要因を除き,適切な条件で画像を撮影する必要がある.
特に全身骨撮影で注意すべき点は,人手の少ない夜間に無理に撮影しようとしないことである.全身骨をすべてきちんと撮影しようとすると数人の技師が必要であり,きちんとしたポジションで撮影するには非常に時間がかかる.虐待を疑ったにも関わらず,忙しい夜間救急の場で不完全な全身骨撮影で済ませて「とりあえず骨折はなさそうだから」と患者を帰宅させてしまうと,重大な見逃しを犯しかねない.
Fig. 11は「全身骨」として撮影された写真の例である.一見,全身をカバーしているように見えるが,手足は撮影範囲外であり,骨幹端損傷の好発部位である下腿は脛骨・腓骨が重なり,評価することができない.こうした不完全な検査を防ぐためにも,院内で虐待に対する体制を準備しておく必要がある.
被虐待児の全身撮影
2か月.虐待が疑われ,「全身骨」として撮影された写真(他院).骨幹端損傷の好発部位である大腿骨や脛骨が正しい正面像となっておらず,軟部陰影との重なりによって骨幹端が見えにくい.体幹部,四肢はそれぞれに適した撮影条件があり,このように全身を同じ条件で撮影してしまうと,骨幹端損傷のような軽微な骨折の診断は困難である.
虐待を疑った場合,検査と診断を急ぐのではなく,まずすべきことは子供を安全な場所に保護する(=入院させる)ことである.また,虐待が疑われているのであれば全身骨の再撮影を行うまでの期間は児を入院させ,その間に鑑別疾患の除外も含めて児の様子を観察し続けていく必要があるだろう.Table 4に虐待による骨傷と鑑別を要する疾患の例を挙げた.子供も含めて家族を不幸にしないためにも鑑別疾患を丁寧に除外していくことが大切である.
● | 分娩外傷による骨折 |
● | 易骨折性を示す病態(骨形成不全症,くる病,白血病,先天性無痛無汗症など) |
● | 骨膜反応を呈する病態(生理的骨膜反応,白血病,骨髄炎,先天性梅毒,プロスタグランジンE1投与,ビタミンA中毒,壊血病,Caffey病など) |
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.