2020 年 36 巻 2 号 p. 164-169
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)はANCA関連疾患の一つであり,15歳以下の小児では稀である.症例は13歳女子.1年前に気管支喘息を発症し,1週間続く発熱,喘鳴,両下肢痛を主訴に来院した.末梢血好酸球数の著増(14,692/μl),神経伝導速度検査では下肢末梢神経の軸索障害を認めた.胸部単純X線では両肺野に斑状のすりガラス状陰影・浸潤影が散在し,心拡大が認められた.EGPAとして,プレドニゾロン投与を開始した.治療開始後,解熱し,呼吸器症状も改善した.治療開始10日目には末梢血好酸球数は正常化した.また心臓超音波検査では心膜液貯留を認めたが,治療により改善した.本症例ではEGPAに典型的な移動性,非区域性の多発浸潤影,すりガラス陰影が認められた.今回の症例で認められた胸部X線・CT所見はEGPAに典型的だが特異的ではない.しかし,早期発見や治療効果の確認の点で画像検査は有用である.
Eosinophilic granulomatosis with polyangiitis (EGPA) is a type of ANCA-associated vasculitis that is rare in children. We report the case of a 13-year-old girl who developed bronchial asthma one year prior to admission. She complained of fever, wheezing, and pain in both legs that lasted for a week. The peripheral blood eosinophil count was significantly increased (14,692/μl). Chest radiography and computed tomography (CT) findings consisted of patchy ground-glass opacities and infiltrates and pericardial effusion. Based on these findings, EGPA was strongly suspected. Prednisolone therapy was initiated, and her respiratory condition improved. The peripheral blood eosinophil count normalized on the 10th day of treatment. Echocardiography also showed pericardial effusion and hypokinesis, suggestive of pericarditis, which improved with treatment. The abnormalities on chest radiography improved gradually over time after initiating the treatment. The typical findings of EGPA on chest radiography and CT include diverse, migratory non-segmental multiple infiltrates, and ground-glass opacities, which were also observed in this case. The symptoms improved as treatment proceeded and almost disappeared after 2 weeks.
These findings of chest radiology and CT are not specific to EGPA, but help to examine complications and confirm the effect of treatment.
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis; EGPA)は,1951年にChurgとStraussにより報告された疾患である.従来Churg-Strauss症候群またはアレルギー性肉芽腫性血管炎と呼ばれていたが,チャペルヒル・コンセンサス会議2012で名称が変更された1).
顕微鏡的多発血管炎や多発血管炎性肉芽腫症とともに,ANCA関連血管炎の一つであるが,p-ANCAの陽性率は30~40%程度で,重度の腎障害例は少なく,肺病変が多い.アトピー素因の少ない好酸球増多の目立つ重症の気管支喘息(以下,喘息)と好酸球性副鼻腔炎が先行し,末梢血好酸球数の著増とともに,身体諸臓器の好酸球性炎症と血管炎症状(臓器虚血)の二つの病態で発症するのが特徴である.病理学的には,中・小血管(主に細動脈)の血管周囲への好酸球浸潤と,壊死性および壊死性肉芽腫性血管炎または血管外肉芽腫の存在が認められる.
疫学的には,10~13人/100万人の有病率で,本邦では年間約100人の新規発症者がいると推定される.好発年齢は40~70歳代の中年以降で,発症平均年齢は55歳であり2),15歳以下の小児期発症は非常に稀である.治療はステロイド薬が主体で,免疫抑制剤を併用することもある.10年生存率は81~92%であるが,心臓病変などの合併症は予後に影響を与えることがある3).
今回,発症1年前から気管支喘息が先行し,発熱,喘鳴,両下肢痛を主訴として受診した13歳女子をEGPAと診断し,ステロイド治療により速やかに症状改善を認めた.
症例:13歳女子.
主訴:発熱,喘鳴,両下肢痛.
既往歴:喘息(12歳発症),アレルギー性鼻炎(13歳発症).
家族歴:アレルギー疾患なし.
現病歴:入院2週間前に微熱が出現,両足の痺れを自覚した.入院1週間前に38度台の発熱と喘息発作のため前医を受診し,吸入薬(ステロイド薬・β2刺激薬配合剤),経口ステロイド薬・抗菌薬内服で治療を開始した.入院6日前に下肢痛が増悪し,足趾の屈曲不可や下肢の温度覚の鈍麻を認め,近医の整形外科を受診した.腰椎MRIを撮像されるも異常所見は認めなかった.症状改善に乏しく入院2日前に前医再診し,血液検査上,白血球23,100/μl(好酸球63.6%,14,692/μl)と末梢血中の好酸球数増多を認めたため,当科紹介受診となった.
身体所見:体重49.0 kg,体温38.2°C,血圧101/65 mmHg,脈拍120回/分,呼吸数18回/分,SpO2 93%(室内気).咽頭発赤は認めず,聴診上,両側含気不良で呼気時に軽度の喘鳴を聴取した.心音は整,心雑音は聴取せず.四肢は両側足関節から足背にかけて浮腫を認めたが,足関節の可動域制限は認めなかった.徒手筋力テストで前脛骨筋,腓腹筋,長母趾伸筋,長母趾屈筋とも右5レベル,左4レベルであり,両側足関節の5 cm上位から末梢側にかけて知覚鈍麻を認めた.皮膚所見は紫斑を含め皮疹は認めなかった.
血液検査所見:白血球数24,500/μl,好酸球数15,484/μlと著増し,CRP 0.5 mg/dlと軽度の上昇を認めた.免疫学的検査ではIgG 2,321 mg/dl,IgE 7,782 mg/dl,CH50 69 U/mlと高値であったが,リウマトイド因子,抗核抗体,MPO-ANCA,PR3-ANCAは陰性であった.静脈血液ガス分析ではCO2貯留は認めなかった(Table 1).
Peripheral blood | Blood chemistry | Serology | Venous blood gas analysis (room air) |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
WBC | 24,500/μl | TP | 7.5 g/dl | C3 | 121 mg/dl | pH | 7.407 |
Neutro. | 25.2% | BUN | 6 mg/dl | C4 | 24 mg/dl | PaCO2 | 35.2 mmHg |
Lymph. | 8.3% | Cre | 0.45 mg/dl | CH50 | 69 U/ml | PaO2 | 39.9 mmHg |
Eosino. | 63.2% | ASL | 22 IU/L | IgG | 2,321 mg/dl | HCO3− | 24.6 mmol/L |
(14,692/μl) | ALT | 26 IU/L | IgA | 175 mg/dl | BE | −0.1 mmol/L | |
Hb | 11.1 g/dl | LDH | 486 IU/L | IgM | 125 mg/dl | Lac | 20.1 mg/dl |
Plt | 38.6 × 104/μl | CK | 127 IU/L | IgE | 7,782 mg/dl | ||
CRP | 0.5 mg/dl | RF | 19 IU/ml | ||||
ANA | <40倍 | ||||||
PR3-ANCA | <1.0 U/ml | ||||||
MPO-ANCA | <1.0 U/ml |
胸部X線所見:CTR 53%,両側中~下肺野主体にびまん性に斑状の浸潤影を認めた(Fig. 1).
入院時胸部単純X線写真(正面像)
両側中~下肺野に浸潤影を認める.CTR 53%と心拡大も認められた.右側優位に少量の胸水貯留あり.
胸部単純CT所見:両肺野の広範にわたり斑状のすりガラス陰影,浸潤影が非区域性に広がり,気管支壁肥厚,気管支内貯留物を認めた(Fig. 2).
入院時胸部CT所見(肺野条件,水平断)
両側肺野に斑状のすりガラス影,浸潤影(矢印)が散在している.また,気管支壁肥厚(矢尻)を認める.
心電図:肢誘導および左側胸部誘導で低電位所見であった.
心臓超音波検査:収縮期で最大12 mmの心膜液貯留あり,左室駆出率50.7%と壁運動低下を認めた(Fig. 3).
入院時心臓超音波所見
(a)収縮期で最大12 mmの心膜液貯留を認める(矢印部位).
(b)LVEF 50.7%であり,壁運動の低下を認める.
入院後経過(Fig. 4):喘息,アレルギー性鼻炎,好酸球の著増,多発単神経炎,筋肉痛・筋力低下の症状・所見,また臨床経過の特徴から,厚生労働省の診断基準(Table 2)を満たし4),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)と診断した.入院2日目よりプレドニゾロン(PSL)50 mg/日で治療を開始し,入院3日目に解熱,咳嗽・喘鳴も軽減し酸素需要は改善した.胸部X線上でも斑状のすりガラス陰影や心拡大の所見は経時的に改善した(Fig. 5).浸潤影は移動性を認めるものの,徐々に消退した.しかし下肢の痺れや感覚鈍麻は残存し,入院13日目の神経伝導速度検査では左下肢の複合筋活動電位は低下し,複合感覚神経電位は導出不可であった.軸索型感覚・運動障害に対するステロイド薬の治療効果が十分に得られていないことから免疫グロブリン療法(IVIG 400 mg/kg/日,5日間投与)を施行したところ,下肢痛や痺れの症状も改善傾向となり下肢筋力も回復した.入院34日目の神経伝導速度検査再検では複合筋活動電位および複合感覚神経電位の改善が認められた.PSLを漸減したが再燃はみられず,入院45日目に退院となった.退院後,外来で施行した胸部CT画像では浸潤影・すりガラス影,気管支壁肥厚,心膜液などの所見は消失していた.
入院後経過
(1)主要臨床所見 |
①気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎 |
②好酸球増加 |
③血管炎による症状:発熱,体重減少,多発性単神経炎,消化管出血,紫斑,多関節痛,筋肉痛,筋力低下 |
(2)臨床経過の特徴①,②が先行し③発症が発症する |
(3)主要組織所見 |
①周囲組織に著明な好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫またはフィブリノイド壊死性血管炎の存在 |
②血管外肉芽腫の存在 |
(4)判定 |
①確実 |
(a)(1)の①と②と③+(3)の①か② |
(b)(1)の①と②と③+(2) |
②疑い |
(a)(1)の①か②か③+(3)の①か② |
(b)(1)の①と②と③+(2)なし |
(5)参考となる所見 |
①白血球増加(1万/μl以上) |
②血小板増加(40万/μl以上) |
③血清IgE増加(600 IU/ml以上) |
④MPO-ANCA陽性 |
⑤RA因子陽性 |
⑥胸部X線写真にて肺浸潤影 |
文献4)より引用
入院後胸部単純X線所見(正面像)
(a)入院6日目,(b)入院20日目
治療開始後,経時的に両側肺野の浸潤影・すりガラス影,心拡大は改善している.
現在は発症から2年以上経過したが,年数回,軽度~中等度の喘息の急性増悪は認めるものの,胸部X線所見の増悪は認めず,寛解を維持している.メソトレキサートを併用しながらステロイド漸減を続け,メポリズマブ併用も開始し現在PSL 7 mg/dayまで減量している.
EGPAは小児期には稀な疾患であり,その臨床経過や臨床像は成人と異なる特徴があるといわれている.Finaらはフランスのコホート研究データから,小児例(14例)と成人例(383例)を比較し,臨床経過の特徴として,小児例では成人よりも喘息発症からEGPA診断までの期間の中央値が短い(小児34.5か月<成人120か月,P値0.005)ことを報告している5).自験例においても,喘息発症から1年程度と,比較的短期間で症状が進行し,診断に至っている.またFinaらは,成人に比して小児のEGPAでは耳鼻科病変,心病変,消化器病変,皮膚病変の割合が多いことにも触れている.Zwerinaらが18歳以下の症例を分析した報告6)では,小児例(33例)は成人例(205例)に比して肺病変(小児例88%>成人例59%,P値0.001),心病変(小児例55%>成人例26%,P値0.003)が多く認められた.また,死亡率も成人より小児の方が高く(小児例19%>成人例5%,P値0.019),合併する心病変の重症度は予後に影響を与えるとされた.EGPAの70%に何らかの心臓病変を認め,ANCA陰性例は小児,成人ともにANCA陽性例に比し心臓病変の合併率が高いといわれるが3),無症状もしくは軽度の動悸程度のため心臓病変に気づかれにくい.EGPAを疑う場合は胸部X線での心拡大の有無や血清BNP上昇の確認,心電図検査,超音波検査を行い評価することが重要である4).
本症例では血液検査とCT検査に加え,心臓超音波検査で心膜炎の所見(心膜液貯留,LVEF低下)を認めたが,治療により症状を改善させることができた.ANCA関連血管炎診療ガイドライン20174)では,早期診断のためのアプローチとして好酸球増多が目立つ重症の喘息や好酸球性副鼻腔炎に血管炎症状を合併した場合,EGPAを疑うこととしている.小児期発症のEGPAは稀ではあるが,患者のQOLを保つためにもEGPAが疑われる場合には,病歴聴取,身体診察,各種検査による早期診断および早期治療介入が重要と考えられている.他疾患の鑑別は重要であるが,そのために治療が遅れることは避けるべきである.
治療は標準的治療としてステロイド治療を行ったが,残存する末梢神経障害に対してはIVIG療法を行ったところ奏功した.多発性単神経炎による知覚障害は6割以上で不可逆的障害を残すといわれており2),初診時の評価および早期の治療介入は重要である.EGPAにおける多発単神経炎に対するIVIG療法の有効性に関してはTaniguchiらが報告している7).免疫抑制剤はステロイド減量効果を期待して使用され,急性期にシクロホスファミド,寛解期にメソトレキサートまたはアザチオンプリンが推奨されている2).また,抗IL-5抗体であるメポリズマブはEGPAに対して寛解期間を延長し,経口ステロイド使用量を減少させる効果があるとして,2018年から本邦においても保険適応となった8).抗CD20抗体のリツキシマブは顕微鏡的多発血管炎(MPA)と多発血管炎性肉芽腫症(GPA)に対しては保険適応であるが,EGPAに関しては適応外であるものの,難治例で有効との報告がある2).
EGPAの胸部画像所見としては,①喘息(気管支壁肥厚,気管支内貯留物,末梢肺のair trapping),②肉芽腫(小葉中心性分布の多発小結節,tree-in-bud appearance),③好酸球性肺炎(境界不明瞭な不整形の浸潤影やすりガラス影,広義間質の肥厚,経時的に分布や程度は変化する移動性)などが典型的9)とされ,本症例でも同様の所見を胸部X線・CT検査で確認できた.非特異的所見ではあるが,診断的役割,治療効果・再発の確認に画像所見は有用であった.急激な経過で発症した重症の喘息では,EGPAを鑑別に挙げ画像検査を行うことが重要と考えられた.
小児では稀なEGPAの1例を経験した.重症喘息に伴う著しい好酸球増加を認めた際には鑑別疾患としてEGPAも考慮することが必要である.また,重篤な合併症の検索や治療効果の確認に胸部X線・CT画像,超音波検査所見が有用であった.
本報告に関連し,日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.