日本小児放射線学会雑誌
Online ISSN : 2432-4388
Print ISSN : 0918-8487
ISSN-L : 0918-8487
第56回日本小児放射線学会学術集会“新時代の小児診療,360度の評価をめざして”より
小児急性腹症に対する外科医としての画像読影法
鈴木 信
著者情報
キーワード: 急性腹症, 小児, 画像検査
ジャーナル フリー HTML

2021 年 37 巻 1 号 p. 2-10

詳細
要旨

急性腹症は手術など何らかの治療介入を要することが稀ではなく,限られた時間内に適切な対応が求められる.しかしながら,急性腹症の原因疾患は多彩であり,診断は容易ではない.通常は病歴,身体所見,血液検査,画像検査などから総合的に診断され,治療方針が決定されるが,小児は適切な言葉で自分の症状を表現することが困難で,身体所見に次いで画像診断が重要となってくる.本来は放射線科医による適切な検査,撮影条件の決定を行い,質の高い診断が行われるべきであるが,本邦では諸外国に比し放射線科医が大幅に不足しており,24時間,365日対応が可能な施設は大学病院などのごく一部の施設に限定される.このような現状においては,担当する各診療科の医師が検査の選択から診断まで行わざるを得ない.そのためには各画像検査の利点・欠点を理解し,それぞれの検査によって治療方針に影響を与えるどのような情報が得られるかを考え選択する必要がある.

Abstract

It is not uncommon for acute abdomen to require some therapeutic intervention, such as surgery, and appropriate measures must be taken within a limited period. However, the causes of acute abdomen are diverse, and the diagnosis is not easy. Usually, a comprehensive diagnosis is made based on medical history, physical examination, blood tests, and imaging studies, and a treatment plan is determined. However, the number of radiologists in Japan is much less than in other countries, and only a few facilities, such as university hospitals, are capable of providing 24-hour, 365-day care. Under these circumstances, the physician in charge of each department has no choice but to perform everything from selection of tests to diagnosis. In order to do so, it is necessary to understand the advantages and disadvantages of each imaging study, and to consider what kind of information each study can provide that will affect the treatment plan.

はじめに

本稿ではCovid-19流行に伴い2020年8月にオンライン開催された第56回日本小児放射線学会教育講演の「診断に苦慮した小児画像診断」で発表した内容から抜粋し,急性腹症の概論を述べると共に,初診時の読影で見逃された症例の中から小児外科医として注目した画像所見を提示し,小児急性腹症に対する外科医としての画像読影法について述べる.

急性腹症総論

1. 急性腹症とは

急性腹症とは2015年発表の「急性腹症診療ガイドライン2015」1)では「発症一時間以内の急性発症で,手術などの迅速な対応が必要な腹部(胸部等も含む)疾患」と定義され,広義には全ての腹痛が急性腹症の範疇に入り得ることや,新生児腹膜炎などの新生児疾患も急性腹症として扱われ得る.

腹痛は小児の日常診療や救急診療の現場において最も一般的に遭遇する主訴の1つであり,急性腸炎や便秘などの軽症疾患が多くを占めるが,ときに外科的治療を含む緊急処置が必要な症例が含まれ,判断を誤れば致死的な転帰をとる可能性がある症例が一定の割合で含まれる.

Table 1に極簡単に急性腹症として診ることがある小児外科疾患を列記するが,これ以外にも多くの疾患が存在し,一つ一つを救急外来において短時間で瞬時に鑑別することはしばしば困難を極める.

Table 1  小児外科で遭遇する急性腹症の代表的疾患
臓器分類 代表的疾患
食道 異物の誤嚥・誤飲
横隔膜 横隔膜ヘルニア
肝臓・胆道 胆道閉鎖症,先天性胆道拡張症,胆石
消化管 異物の誤嚥・誤飲,胃潰瘍,胃軸捻転,消化管穿孔,腸閉鎖症 ,腸回転異常症,腸重積症,メッケル憩室,腸閉塞,急性虫垂炎,壊死性腸炎,胎便性腹膜炎,クローン病,潰瘍性大腸炎
膵臓 膵炎,膵嚢胞
腹壁・臍 腹壁破裂,尿膜管遺残
鼠径部・精巣 鼠径ヘルニア,精巣捻転症(睾丸捻転症)
腫瘍 神経芽腫,腎腫瘍,肝腫瘍,胚細胞性腫瘍(奇形腫)

2. 急性腹症の原因(Table 2
Table 2  原因別の腹部救急疾患
原因 代表的疾患
穿孔・破裂 消化管穿孔,メッケル憩室穿孔,胆道穿孔,外傷による腸穿孔,腫瘍破裂,実質臓器損傷 など
絞扼(循環障害) 腸重積症,鼠径ヘルニア嵌頓,腸閉塞・内ヘルニア,腸回転異常症・中腸軸捻転,卵巣茎捻転 など
炎症 急性虫垂炎,膵炎,胆のう炎 など
蠕動亢進・不全 急性腸炎,便秘症,腸閉塞 など

急性腹症,すなわち腹痛を訴える原因には大きく分けて,①消化管穿孔や実質臓器損傷などの穿孔・破裂に伴うもの,②循環障害を生じるような絞扼によるもの,③炎症に伴うもの,④消化管の蠕動に伴うものがあり,前二者は特に急を要する疾患で,症状も強いため鑑別も比較的容易ではあるが,後二者は症状が曖昧であることが多く,診断に苦慮することに度々遭遇する.

3. 外科的疾患を疑わせる所見

急性腹症の患児を診る上で注意すべきことは,持続性・間欠性・増悪傾向等を含めた腹痛の性状に関する問診,姿勢・腫脹や発赤等の全身の視診,腸音の有無や金属音等の聴診,再現性のある局所圧痛・筋性防御・腫瘤等の触診で,これらを総合して前項の原因を類推し,緊急性の判断および最小限で診断にたどりつく検査を選択する必要がある.

また,救急外来へ入ってくる際の患児の歩行状態やベッドへ移る際の痛がり方,痛い部分を保護するような姿勢からも情報が得られるため,患児が入室してくるところから注意深い観察が必須である.画像診断に携わる医師も同様で,超音波検査前には患児からの話を聞き,痛みの性状を確かめ,触診によって所見を確かめた後に検査を始める必要がある.画像を見るだけでは症状との関連や,重症度の僅かな違いは分かり難く,撮影に来た際の患児の動きにも注目する必要がある.

4. 年代別腹部疾患(Table 3
Table 3  腹部疾患の年代別変化
年代 代表的疾患
新生児期(生後4週まで) 十二指腸腸閉鎖・狭窄症,小腸閉鎖・狭窄症,直腸肛門奇形,腹壁異常,Hirschsprung病,食道閉鎖症,腸回転異常症,胸膜裂孔ヘルニア(Bochdalekヘルニア)
乳児期(生後1年未満) 肥厚性幽門狭窄症,胆道閉鎖症,胆道拡張症,直腸肛門奇形,Hirschsprung病,腸回転異常症,鼠径ヘルニア嵌頓
幼児期(1~6歳未満) 腸重積症,腸回転異常症,胆道拡張症,メッケル憩室,鼠径ヘルニア嵌頓
学童期(6~12歳未満) 胃・十二指腸潰瘍,直腸ポリープ,潰瘍性大腸炎,Crohn病,食道裂孔ヘルニア,急性虫垂炎,胆道拡張症,膵・胆管合流異常による膵炎,泌尿器疾患,婦人科系疾患
思春期(12~15歳以下) 胃・十二指腸潰瘍,直腸ポリープ,潰瘍性大腸炎,Crohn病,食道裂孔ヘルニア,急性虫垂炎

例外はあるが,年代別に好発の疾患を大まかに分類し記す.急性腹症をきたす疾患群において,年齢別に発症しやすい疾患を熟知しておくことも多くの疾患から考えられ得る疾患を早期に絞り込むためには必須だと考える.

5. 局在別原因疾患(Fig. 1
Fig. 1 

腹部症状の部位別代表的疾患

小児では症状の訴えが曖昧であることや一定でないことから参考程度にしかならないが,所見の局在別の原因疾患を示す.腹部触診の際に,触診部位によって僅かな表情の変化を見せることがあり,注意深く観察することで部位診断も可能である.

6. 診察時のポイント

救急の場において,限られた時間および検査情報で,危険な急性腹症と保存的治療で経過をみるべき腹痛を鑑別することは,ときに非常に難しく,どのタイミングでコンサルテーションすべきかが問題となるが,少しでも疑う所見を認めた場合には検査等の重複を避けるためにも,早期の小児外科医もしくは小児専門施設へコンサルテーションが良いと思われる.

急性腹症に対する画像検査

1. 診断モダリティーの選択1)Table 4
Table 4  診断モダリティーと主な評価対象
画像検査 主な評価対象
腹部超音波検査(US) 管腔臓器や実質臓器の評価,スクリーニング
腹腔内の液体貯留の有無
腹部単純X線検査 腹腔内遊離ガス像や腸管拡張や鏡面形成の有無
腸管ガス像の著明な変位(圧排像)
造影CT検査 臓器の虚血性変化や炎症の有無
腹腔内膿瘍の評価
消化管造影 腸回転異常症の確定診断や腸重積の診断および治療
MRI 婦人科系疾患の評価や胆道系評価
妊娠中の腹部疾患全般

急性腹症に用いられる診断モダリティーだが,成人領域では現在,CTが第一選択となっているが,被ばく低減の撮影プロトコールが充実してきたとはいえ,小児においては,放射線感受性の問題からも安易にCT撮影を行うべきではない.特に近年,安易にCT撮影を行う傾向があり,救急担当医により診察前にCTのオーダーがなされている現場に遭遇することがある.疾患によって最適な診断モダリティーの選択を行うことが重要で,我々は丁寧な問診と身体所見の評価の後に,より患児に侵襲度の低い超音波検査をスクリーニングの第一選択として行い,必要に応じて単純X線撮影を行い詳細な読影を行った後に,それらのモダリティーでは診断が困難な場合や撮影の意義が高い疾患と判断した場合にのみ,主に造影剤を用いたCT検査を追加している.

2. 超音波検査

腹部疾患の日常診療では,腹部超音波検査を「お腹の聴診器」のように使いこなせるかどうかによって,消化器疾患やその他の疾患の診断の正確さと迅速性に大きな差がでる.

超音波検査はCTより空間分解能が高く,痛みや放射線被ばくのない非侵襲的検査である.鎮静の必要もないため,外来やベッドサイドで迅速に反復して行うことができる検査であり,第一選択となり得る.また,消化管の蠕動運動などをリアルタイムに観察できる即時性を有しており,同時に血流も評価することができるため,小児急性腹症においては消化管疾患での有用性が高い.しかしながら,診断能は術者の技量に大きく依存し,CTより客観性が劣る.また,腹部全体を網羅した観察をすることや消化管ガス貯留時の観察は困難で,さらに肥満傾向の患児では観察精度が低下する.

こうした長所および短所を十分に理解した上で,描出した画像を「自分の頭の中にある正常像」とリアルタイムに比較しながら進めることができるように,常日頃から腹部全体をスクリーニングし,正常像を身につける習慣をつけることが重要である.

3. 腹部単純X線検査

腹部X線検査は急性腹症を呈する疾患で重要な情報を提供することが少なくない.腹部X線検査は,簡便で低侵襲・低コストであることに加え,超音波検査の短所である腹部全体の観察が可能で,腸管ガスの分布などの全体像の把握やX線非透過性の異物診断や気腹の有無,石灰化の有無などを含めた診断が可能である.

腹部X線写真を読影する際には,①フリーエアの有無,②腸管麻痺像,③限局性の腸管拡張,④鏡面像,⑤無ガス像,⑥腸管壁の肥厚,⑦腹水貯留,⑧側彎像,⑨傍結腸溝の開大,⑩胸水貯留,⑪石灰化像・結石陰影,等の所見に注意することで,一枚の画像からも多くの情報や疾患の類推が得られため,不必要なCT検査や追加検査が避けられる可能性がある.

4. 腹部(造影)CT

腹部CTでは局所の疾患特異的な画像所見に加え,炎症のおよんだ汚い脂肪織や膿瘍の広がりなど,腹部全体の病変の範囲も把握することができる.さらに,造影効果の有無による臓器血流の評価や,血管の描出による腸管捻転や血行途絶の診断も可能である.一方で,CTには看過できない放射線被ばく量の問題があり,急性腹症に対するルーチン検査としての使用の是非は議論が分かれる.放射線被ばくを可能な限り低減し,評価の質を高めるために,CT撮影の際は,常に代替検査の有無を考慮し,ルーチン検査としての使用は控え,造影の必要性や撮影相に関しても配慮が必要である.

注意すべき腹部CT所見としては,①腸管壁の肥厚・造影効果の有無,②拡張および虚脱腸管の有無,③腸間膜の肥厚,④捻転像(whirlpool sign),⑤重積像,⑥フリーエア・異常ガス像,⑦膿瘍・液体貯留,⑧石灰化病変の有無,⑨腫瘤陰影,等が挙げられる.

症例提示(自験例)

症例1(Fig. 2
Fig. 2 

カンピロバクター腸炎

a.腹部単純X線写真(立位):小腸ガスを認めるもニボー形成は認めない.

b.腹部造影CT:(上部)盲腸背側に造影効果を有する軽度虫垂腫大を認める.(下部)小腸の造影効果を有するびまん性壁肥厚所見を認める.

3歳女児,発熱・間歇的腹痛を主訴に近医受診し,急性虫垂炎疑いにて紹介となった.来院時,腹部軽度膨満を認めるも,弾性軟で圧痛点ははっきりせず,筋性防御も認めなかった.腹部超音波検査にて,一部6 mm大の虫垂腫大を認めるも急性虫垂炎を疑う虫垂腫大を同定できず,腹水も認めなかったが,腸間膜リンパ節の腫大が目立ったことから他疾患が疑われ,腹部造影CTが施行された.腹部造影CTにて虫垂腫大は一部のみで全体の腫大なく,回腸を中心とした腸管全体に造影効果を有するびまん性の壁肥厚有り,腸炎を強く疑い経過観察目的の入院加療の方針とした.後日,便培養の結果からカンピロバクター腸炎の確定診断を得た.

腸間膜リンパ節炎は,血液検査では,急性虫垂炎と鑑別することはできず,確定診断には画像検査が必要である.腸間膜リンパ節炎は超音波検査で回盲部周囲の腸間膜リンパ節腫大,終末回腸壁の肥厚を認め炎症性虫垂腫大が描出されないことで診断される.急性虫垂炎との鑑別において重要な点は,正常の虫垂の描出の有無にある.また,Crohn病やアレルギー性紫斑病,YersiniaやCampylobacter,Salmonellaなどによる感染性腸炎は回腸末端に病変を認めることが多く,右下腹部痛を呈して虫垂炎との鑑別を要する2).虫垂炎の周囲への炎症波及により回盲部腸管の壁肥厚を認めることがあり,一方で回盲部腸管の炎症性変化による虫垂の腫大もおこりうるが,虫垂の腫大を認めるものの程度は軽く,それに比して回盲部腸管の壁肥厚の程度が強く範囲が広い場合は後者を考える必要がある.

症例2.(Fig. 3
Fig. 3 

非閉塞性腸管虚血(NOMI)

a.胸部単純X線写真:気管内挿管後,右上葉の無気肺像を認める.胃泡の拡張および腸管内ガスの著明な貯留を認めるも,明らかなフリーエアは認めない.

b.腹部単純X線写真:小腸ガスの著明な貯留とびまん性に壁内ガス(▲)を認める.

c.腹部単純CT:小腸壁内へのガス漏出を認める.右大腿静脈からの静脈内カテーテル挿入あり.

d.術中写真:分節状の腸管虚血所見を認める.

6番染色体長腕染色体異常にてフォロー中の2歳女児,胃瘻造設術の既往あり.頻回下痢,41℃台の発熱あり,徐々に多呼吸状態となったため再診となった・病院到着時には頻呼吸およびチアノーゼを認め,呼吸窮迫症候群としてICUに緊急入室となった.入室時の胸腹部X線写真では指摘されなかったが,徐々に全身状態悪化傾向あり,腸管ガスの拡張が目立つため腸閉塞疑いにて,ICU入室後6時間程度経過した時点で当科コンサルトとなった.その際,入室時の腹部X線写真を再読影し腸管の壁内ガスを認めたことから,緊急手術の方針となり,全身状態から術前に腹部単純CTのみの追加検査となった.腹部単純CTにて腸管壁内のびまん性ガス像および肝内門脈の気腫像を認め,絞扼性腸閉塞に伴う壊死性腸炎疑いとなった.手術所見にて,明らかな絞扼所見等の閉塞所見を認めず,主幹動脈の明らかな閉塞機転を認めなかったことから,非閉塞性腸管虚血(non-occlusive mesenteric ischemia; NOMI)の診断に至った.

NOMIは1958年にEndeら3)が初めて心不全患者に発症した小腸壊死として報告された疾患概念で,腸間膜血管主幹部に器質的な閉塞を伴わないにもかかわらず,文節状,非連続性に腸管の血流障害をきたす病態で,致死率も56~79%と高く,予後不良な疾患である4).腹部単純X線検査では,特徴的所見として腸管壁内ガス,腸間膜静脈・門脈ガスなどが挙げられるが,腸管壊死を発症した進行症例に限られる.CTによる診断は血管に認められる異常所見と,その結果としてもたらされる腸管・腸間膜の虚血性変化を評価する必要があり造影CTが必須とされる.本症例はショック状態から造影CTを施行できなかったが,術中所見にてNOMIの診断に至った.

症例3.(Fig. 4
Fig. 4 

左傍十二指腸ヘルニア

a.腹部X線写真(臥位,入院時):立位のX線写真(非提示)と同様の横行結腸の骨盤側への圧排像を認める.

b.腹部X線写真(臥位,入院翌日):胃泡の軽度頭側圧排と,胃および結腸間に小腸ガス像(▲)を認める.

c.腹部造影CT(冠状断):網嚢腔内に小腸の脱出を認める.

d.腹腔鏡所見:脱出腸管の整復後,トライツ靱帯左側にヘルニア門を認める.

6歳女児.朝方より間歇的腹痛出現,既往に腸重積があり同様の症状であったため近医総合病院受診.画像検査(腹部単純X線,腹部造影CT)にて原因が特定できず,経過観察目的に入院,絶食による経過観察および保存療法の方針となった.翌日になっても間歇的腹痛が改善せず,嘔吐も出現したことから,小児外科にコンサルトとなった.入院日の腹部単純X線(臥位および立位)像にて横行結腸の下方偏位に変化がないことと腹部造影CT検査にて網嚢腔内への腸管脱出を疑わせる所見を認めたため,再度,腹部単純X線写真を撮影し胃と横行結腸の間に小腸ガスを認めるようになっていたことから内ヘルニアを疑い,緊急手術の方針となった.腹腔鏡下に腹腔内を観察すると,トライツ靱帯左側にヘルニア門を認め傍十二指腸ヘルニアと診断した.本症例は明らかな腸管の絞扼性変化は認めず,ヘルニア内容の整復を施行した.

手術既往がなく突然発症の激しい腹痛を訴える場合は内ヘルニアの可能性があり,内ヘルニアは腸間膜等の腹腔内での裂孔,陥没,嚢状部に腸管等が陥入し通過障害をきたす疾患である5).内ヘルニアは絞拒性変化をきたしやすく緊急手術の適応となるため,絞拒性腸閉塞の評価を行うとともに,速やかに造影CT検査や治療へ移行できるように検査を進める必要がある.

症例4.(Fig. 5
Fig. 5 

外傷性膵損傷

a.腹部単純CT:膵体尾部の腫大と楔状の低吸収域(▲)を認める.

b.腹部単純X線:十二指腸ループの拡張・ガス貯留像,colon cut-off signを認める.

c.腹部造影CT(早期相):腹部疼痛所見が強く側臥位での撮影.腹水の貯留と膵体尾部での膵完全離断を認める.末梢側膵管拡張や脾動静脈の損傷は認めない.

d.術中写真:膵の完全離断(▲)を認める.膵液の漏出に伴う周囲組織の鹸化が進んでいる.

11歳男児.学校の休み時間に走りながら転倒.その際,左前胸部を花壇の縁に強打したため,近医整形外科受診するも骨折所見を認めないことから,症状悪化時の総合病院受診を指示された.その後,腹痛が出現したことから総合病院小児科受診し,同病院小児外科にコンサルトとなった.喘息の既往があり単純のみの腹部CT撮影となったが明らかな異常は指摘されなかった.しかしながら,腹部所見にて上腹部に軽度筋性防御を認めることと血清アミラーゼ値の軽度上昇を認めたため経過観察目的に入院となった.受傷後の翌々日に腹痛所見の著明な悪化と血清アミラーゼ値の著明な上昇を認めることから,外傷性膵炎疑いにて当院へ搬送となった.前医CTを再読影し,著明な膵腫大および膵体尾部に楔状にCT値が低い部分を認めることから膵断裂が疑われた.転院後,脾動静脈等の評価目的に腹部造影CT検査を施行,膵体尾部における完全断裂所見を認め,離開範囲が広く保存的治療は困難と判断し緊急に膵体尾部切除を行った.

急性膵炎における腹部単純X線所見として,イレウス像,大腸の拡張の急な途絶(colon cut-off sign),左上腹部の局所的な小腸拡張像(sentinel loop sign),十二指腸ループの拡張・ガス貯留像,後腹膜ガス像,石灰化胆石,膵石像などがある6).本症例においてもcolon cut-off signやsentinel loop signを認めることから,腹部単純X線写真のみでも膵断裂を疑うことができたと考えられる.また,気管支喘息患者は,造影剤による重篤な副作用の発現率が高く,喘息既往の患者への造影剤使用は原則禁忌となっているが,本症例は喘息の既往があったため造影剤の使用が躊躇され,単純CTとなり診断目的が達成されず,診断の遅れの一因となったと考える.本症例のような場合には,他のモダリティーを考慮するか,リスク・ベネフィットを臨床所見から十分に検討した上での画像診断方法の選択が必要であり,示唆に富む症例と思われる.

おわりに

急性腹症に対する対応は,最終的には手術が必要か否かの二者択一の判断となるが,迅速な判断を求められる現場においても,丁寧な問診と注意深い身体所見をとることを忘れてはならない.画像検査においても同様で,安易なCT撮影に頼ることなく,単純X線写真や超音波検査の利点を十分に利用し,より低侵襲で簡便な検査に習熟するトレーニングを常日頃から心掛ける必要がある.また,画像診断の上達には,多くの画像を見て,結果すなわち実物を見る機会をもつことが重要である.画像診断はあくまでも予測診断であり,実物を見なければ推測の域を脱しない.是非,外科的疾患を有する腹部救急診断の際は結果を確認するためにも,手術室に足を運んでいただきたい.その経験を次の診断にフィードバックすることが,より診断能力を高めることに繋がることは疑いようのないことと考える.

 

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

謝辞

本教育講演での発表機会を与えていただいた会長の東海大学医学部総合診療学系小児科学 望月博之先生,座長の東京都立小児総合医療センター放射線科 河野達夫先生および東京都立墨東病院小児科 三澤正弘先生に深謝致します.

文献
 
© 2021 日本小児放射線学会
feedback
Top