日本小児放射線学会雑誌
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第56回日本小児放射線学会学術集会“新時代の小児診療,360度の評価をめざして”より
小児てんかんの画像評価
夏目 淳
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2021 年 37 巻 1 号 p. 55-60

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要旨

小児てんかんの原因や焦点の診断に神経画像は重要な役割を持つ.内側側頭葉てんかん(MTLE)では,海馬硬化と呼ばれる海馬の萎縮やT2強調像高信号が見られるが,高解像度MRIでは内部構造の評価も可能である.MTLEの患者では乳幼児期の熱性けいれん重積状態(FSE)が高頻度に見られる.我々はFSE発症後早期の海馬の体積増大と拡散強調像(DWI)高信号,その後の海馬萎縮を明らかにした.海馬体積増大やDWI高信号はFSEによるcytotoxic edemaを表していると考えられる.

局所性皮質形成異常のMRI所見は,皮質の肥厚,皮髄境界の不明瞭,皮質下白質のT2強調像高信号が特徴である.ただし髄鞘化が未完成の乳児期にはこれらの所見がわかりにくい場合がある.

MRI拡散テンソル画像や脳波-機能的MRI同時記録など,新しい画像評価法も小児てんかんの病態解明や焦点診断に用いられるようになっている.

Abstract

Neuroimaging has an important role in the diagnosis of underlying disorders and seizure focus in childhood epilepsy. In mesial temporal lobe epilepsy (MTLE), MRI shows hippocampal atrophy and hyperintense signal that are called hippocampal sclerosis. Recent high-resolution images reveal internal structural abnormality in the hippocampus. Many patients with MTLE have febrile status epilepticus (FSE) during infancy. We have revealed hippocampal enlargement and high intense signal on diffusion-weighted images during the acute period after FSE, and subsequent hippocampal atrophy. Hippocampal enlargement and DWI high intensity suggest cytotoxic edema caused by FSE.

MRI shows thick cortex, blurred cortical-subcortical junction, and subcortical high intensity at the site of focal cortical dysplasia. However, these findings are often difficult to detect during the infantile period because of incomplete myelination.

New MRI techniques such as diffusion tensor imaging or simultaneous recording of electroencephalogram and functional MRI (EEG-fMRI) are promising tools to reveal the pathophysiology and epilepsy focus in childhood epilepsy.

はじめに

てんかんは有病率が100~200人に1人の疾患である.どの年齢でも発症するが小児期に発症が多い.遺伝的な素因で発症する患者がいる一方で,脳の構造的な病変が原因となる患者もいる.抗てんかん薬の内服により7割程度の患者で発作がみられなくなるが,残りの3割の患者では発作が存続する.薬剤抵抗性の患者ではてんかん外科手術が積極的に検討されるようになっている.MRI,positron emission tomography(PET)など神経画像検査の進歩は小児てんかんの原因や病態の解明とあわせて,外科治療の進歩にも貢献している.本稿では小児てんかんの画像評価について解説する.

内側側頭葉てんかん

側頭葉てんかんの中でも,特に海馬,扁桃体など側頭葉内側の大脳辺縁系にてんかん焦点があるタイプを内側側頭葉てんかん(mesial temporal lobe epilepsy, MTLE)と呼ぶ.MTLEは10~20歳前後に発症することが多く,発作症状として胃部不快感などの前兆,意識減損,自動症がみられる.抗てんかん薬に抵抗性である一方,選択的海馬扁桃体切除などてんかん外科手術が有効である.切除された海馬の病理所見では神経脱落やグリオーシスを伴う海馬硬化と呼ばれる所見が見られることが多い.神経脱落とグリオーシスは特に海馬のCA1領域に強く認められ,CA3,CA4,歯状回にもみられる一方,CA2とsubiculumの所見は軽度である.CA1領域の障害が強いのは,CA1領域にはNMDAなど興奮性神経伝達物質の受容体密度が高いことが理由の一つと考えられる.MRIでは海馬硬化のある海馬は萎縮しT2強調像やFLAIR像で高信号を示し,18F-fluorodeoxyglucose (FDG)-PETでは焦点側の側頭葉の広範囲な集積低下が見られる(Fig. 1).MPRAGEなど3D画像を用いて海馬体積を測定することは,海馬萎縮の客観的な評価になる.近年の高解像度のMRIでは海馬の内部構造も評価が可能でCA1領域が特に高信号を呈していることも確認できる(Fig. 2).また海馬のみでなくentorhinal cortexや視床の萎縮,側頭葉白質のT2強調像における高信号などが報告されており,海馬のみならず周囲の構造の評価も重要である1)

Fig. 1 

内側側頭葉てんかんのMRI,PET所見

T2強調像の冠状断で右海馬(矢印)は萎縮し高信号を呈している.FDG-PETでは右側頭葉から前頭葉にも及ぶ広範な集積低下がみられる.右側の画像は選択的海馬扁桃体切除後の画像である.

Fig. 2 

海馬のCA1領域の高信号

T2強調像で右海馬は特に下から外側のCA1領域(矢印)が高信号を呈している.

熱性けいれん重積状態における海馬の障害

熱性けいれんは,主に生後6か月~5歳の乳幼児に38°C以上の発熱に伴い起こる発作で,頭蓋内感染症や明らかな発作の原因がみられないものとされる.欧米では人口の2~4%に熱性けいれんがみられるが,日本では5~8%前後と有病率が高い.熱性けいれんの発作は通常は予後良好の疾患で,後にてんかんを発症する患者は熱性けいれん患者のうち2~7.5%とされる.熱性けいれんは通常は数分で自然におさまるが,まれに30分以上発作が持続するような熱性けいれん重積状態(febrile status epilepticus, FSE)がみられることがある.海馬硬化を持つ典型例なMTLEでは30~40%の患者で乳幼児期にFSEの既往があるとされる.ただしFSEとMTLEの関係には議論がある.MTLEの患者において乳幼児期のFSEの既往の頻度は多いが,一方でFSEを起こした乳幼児を前方視的に追跡してもMTLEを発症する患者はまれである.FSEの患者群のうちで後にMTLEを発症する患者は特殊なサブグループと言うことができる.さらにFSEとMTLEの因果関係には次のような3つの仮説が考えられる.(1)海馬無罪仮説:正常な海馬がFSEによる神経障害で海馬硬化を呈する.(2)もともとあった仮説:海馬の障害はFSEより前に存在し,それが乳幼児期のFSEや年長になってからのMTLEを引き起こす.(3)2ヒット仮説:遺伝的素因または脳の先天的な構造異常などからFSEが起こりやすい状態があり,FSEが起きたことにより海馬の障害が引き起こされ,MTLE発症に至る.我々はFSEが起きた後3日以内にMRIを撮像し海馬体積の測定と拡散強調画像(DWI)の評価を行った.その結果,患者の約4分の1でFSE後早期に海馬体積の増大と海馬のDWI高信号がみられ(Fig. 3),その後のMRIでは海馬は萎縮を呈することが確認された2,3).我々の検討では,特に発作持続時間が長かった患者において海馬体積の増大やDWIにおける海馬高信号がみられやすい傾向があった.このことから,FSEによる興奮毒性で海馬の細胞性浮腫が起こり,海馬硬化にいたる病態が示唆された.FSE後早期のMRI で海馬の異常信号がみられるとの報告は国内外でいくつかあるが,その頻度は1.7%~64%と大きな開きがある27).それらの報告を見ると,撮像時期が発作後早期であったり対象の発作持続時間が長い報告ほど,海馬の高信号の頻度が高い.また多くの報告はT2強調像で評価がされているが我々の報告のようにDWIは急性期の細胞性浮腫を評価するのに有用な撮像法と考える.以上の結果からはFSEとMTLEの因果関係は海馬無罪仮説のようにもみえるが,一方でFSEの患者では海馬の先天的な異常を示唆するHIMAL(hippocampal malrotation)という所見が報告されている3,4).HIMALは胎生期に海馬が側頭葉の内側で反転して形成されるのが不良な場合にできる所見とされる.このことからはFSEとMTLEの因果関係は2ヒット仮説で説明するのが妥当であろう.今後の目標は,FSE後の急性期に海馬の障害に対して神経保護を目的とした治療を行うことで,将来のMTLE発症の予防ができるかである.

Fig. 3 

拡散強調像における熱性けいれん重積状態後の海馬の高信号

熱性けいれん重積状態後早期に撮像した拡散強調像で,左海馬(矢印)が頭部から体部,尾部まで高信号を呈している.

局所性皮質形成異常

局所性皮質形成異常(focal cortical dysplasia; FCD)は薬剤抵抗性の焦点てんかんを起こしやすい.MRI技術の進歩で以前は原因不明とされた焦点てんかんの患者でFCDが発見されるようになっている.FCDを示唆するMRI所見は,皮質の肥厚,皮髄境界の不明瞭化,皮質下白質(および皮質)のT2強調像高信号である.ただしてんかん外科で切除した病理所見でFCDと診断される症例のうち約3分の1は通常のMRIでは異常が確認できないと言われる.そこで高解像度MRIやPETなど様々な画像技術を用いての評価が必要になる.また髄鞘化が完成していない乳児期には皮髄境界の不明瞭化や皮質下白質の高信号がわかりにくい(Fig. 48).そのため乳児期のMRIで異常が見られなくても臨床経過や脳波所見などから皮質形成異常の存在が疑われる場合には経時的に画像の再評価が必要である.また,乳児期にはFCDのある部位の白質がT1強調像で高信号,T2強調像で低信号と髄鞘化が正常所見よりも進んでみえることがあるなど,乳児期特有のFCDの画像所見を知っておく必要がある(Fig. 5).FDG-PETでは一般にはFCDは集積低下を示すことが多いが,てんかん性活動が強い場合には高集積になることもあり,FDG-PETの所見もてんかんの状態によって変化がある8)

Fig. 4 

局所性皮質形成異常のT2強調像所見の経時変化

右前頭葉の皮質形成異常(矢印)は生後4か月では判別が困難だが,髄鞘化が進んだ生後12か月,24か月では皮質下白質の高信号が明瞭化している.

Fig. 5 

乳児期の局所性皮質形成異常のMRI所見

右前頭葉(矢印)の皮質形成異常の部位では皮質下白質がT1強調像で高信号,T2強調像で低信号になり,対側より髄鞘化が進んだ過成熟の所見を呈している.

新しい撮像法

小児てんかんの画像評価においても様々な新しい方法が試みられている.拡散テンソル画像(DTI)は水分子の拡散の偏り,異方性を画像化したものである.白質では神経線維の走行する方向には拡散が大きく,その垂直方向には拡散が小さいため,白質の微細構造を評価するのにDTIが用いられている.特に小児期では髄鞘化の進行に伴いDTIの異方性が上昇するため,脳成熟の評価にDTIが有用である.我々はDTIを用いてWest症候群の患者を発症時から生後12か月,24か月と経時的に評価し,白質のFA値が精神運動発達やてんかん発作の予後と相関し,てんかん性脳症が大脳白質の成熟に影響することを示してきた9,10)

また脳波と機能的MRIを同時計測するEEG-fMRIは,脳波のてんかん放電に同期して起こるblood oxygenation level dependent(BOLD)変化をfMRIで評価し,てんかん焦点やてんかん性ネットワーク異常を明らかにする方法である(Fig. 611,12).脳波とfMRIを同時記録するにはMRI検査室でも使用が可能なネット型電極やシールドされたアンプ,脳波とfMRIの時間的同期,脳波のアーティファクト除去ソフトウェアなど特別な機器や技術が必要となる.これら新しいMRI撮像法によって小児てんかんを含む小児神経疾患の病態解明が進んでいる.

Fig. 6 

焦点てんかんの脳波-fMRI同時記録

中心側頭部に棘波を持つ小児てんかんにおいて,てんかん放電に同期して左中心側頭部にBOLD信号の上昇が認められる.

まとめ

小児てんかんの診断,治療においてMRI,PETなどの神経画像評価は重要な役割を持つ.特に髄鞘化が未完成の乳児期の評価には特有の知識や経験が必要となる.詳細で正確な評価を行うためには小児神経科医と放射線科医の連携が重要である.画像検査のオーダーと読影,レポート作成の関係にとどまらず,合同カンファレンスや学会・研究会における議論など相互関係の構築が求められる.

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