日本小児放射線学会雑誌
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特集 リンパ管造影のトピックス
小児リンパ管疾患に対する最近の研究
藤野 明浩
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2021 年 37 巻 2 号 p. 121-126

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要旨

リンパ管疾患は難治性のものが多いが,近年になって疾患の理解と共に治療へ結びつく研究が進んでいる.基礎研究においてリンパ管形成の分子機構が徐々に明らかになり,リンパ浮腫の原因遺伝子が列挙されている.一方,各種疾患におけるPIK3CAを始めとする変遺伝子変異の検討が進み,シロリムスなどの新たな治療薬の開発に至っている.今後,疾患の分類もさらに整理されていくと考えられる.一方,ICGリンパ管造影やMRリンパ管造影等,リンパ管を可視化する技術は臨床において急速に発展している.その応用としてこれまで困難であったリンパ管内へのアプローチが可能となり,特にリンパ漏に対する塞栓術は有効な治療法として確立されつつある.広角の研究の展開により今後理解がさらに進み,そしていずれ治療法が確立することが期待される.

Abstract

Many lymphatic diseases are intractable, but in recent years, research into them has been progressing, helping to clarify the disease and develop treatment. In basic research, the molecular mechanism of lymphangiogenesis was gradually elucidated, and the causative genes of lymphedema were listed. In addition, studies on mutant gene mutations such as PIK3CA in various diseases are advancing, and new therapeutic agents such as sirolimus are being developed. In the future, the classification of diseases would be further organized by type of gene mutation. On the other hand, techniques for visualizing lymphatic vessels, such as ICG lymphangiography and MR lymphangiography, are rapidly developing in clinical practice. As an application, it has become possible to approach the lymphatic vessels, which has been difficult until now, and embolization for lymphatic leakage is being established as an effective treatment method. It is hoped that the development of wide-angle research will further advance understanding and eventually lead to an optimal treatment method.

はじめに

リンパ管疾患は一般的に難治性で,リンパ管形成に関わる先天性の異常と正常なリンパ管形成後すなわち後天性に発生した異常に大きく分けられる.前者は原発性リンパ浮腫,リンパ管腫(嚢胞状リンパ管奇形),リンパ管拡張症等.また後者の代表はリンパ節郭清後の四肢の二次性リンパ浮腫であるが,リンパ管腫症,ゴーハム病など病態の発生時期が明らかでないものもあるし,高齢(60歳代)で発症するリンパ管腫例では病態発生が出生前のリンパ管形成期であったという証拠はない.成人に多い二次性リンパ浮腫を除くと,いずれも稀少疾患であり,それぞれの疾患の理解は十分ではなく,お互いの境界が明瞭でないのがリンパ管疾患全体としての特徴といえる.

本稿ではそのような難治性リンパ管疾患(主に成人で発症する二次性リンパ浮腫を除く)について,基礎と臨床の研究が同時に進行しお互いに絡み合いながら発展している状況を概説する.

リンパ管疾患の分類に関する研究

小児にみられるリンパ管疾患としてもっとも一般的なものは,リンパ管腫(lymphangioma, hygroma)と呼ばれてきたものであるが,「腫,-oma」という名の示すとおりリンパ液を内包する嚢胞が集まって腫瘤を形成しそれが整容的・機能的に問題となる疾患であり,良性腫瘍として長らく捉えられてきた.このリンパ管腫を中心として,似たような異常拡張したリンパ管やリンパ嚢胞が多発,進行傾向を示すリンパ管腫症(lymphangiomatosis)や骨の溶解と周囲組織内のリンパ嚢胞の拡大・進行を示すゴーハム病(Gorham’s disease, Gorham-Stout disease),そして特に肺や腸管においてよく知られている,リンパ鬱滞やリンパ漏を生じる異常に拡張したリンパ管ネットワークを形成しているリンパ管拡張症など,稀少・難治性疾患が,それぞれの疾患名で認められていた.

しかしながら,症状や病変分布の臨床情報,そして病理学的所見があっても,リンパ管腫なのかリンパ管腫症なのか,リンパ管拡張症なのか,境界領域にあってどちらの性質も示すためはっきり診断できない症例は少なくなかった.

一方,血管疾患の中にも「血管腫」と呼ばれるものの中にはいちご状血管腫,海綿状血管腫,蔓状血管腫など,様々な異なる病態の疾患があり,疾患名が本来のそれぞれの性質に応じた適切な治療が選択される道筋への障害になっていることが指摘され,1980年代より発展してきた新たな脈管疾患の分類ISSVA(International Society of Studying Vascular Anomalies)においてまず脈管(血管とリンパ管)を腫瘍性(tumor)の疾患と発生異常(malformation)に分け,さらにその病変の発生母体(毛細血管,静脈,動脈,リンパ管等)によって,分類することが提唱された(Table 1).そして疾患の名称も生物学的特性に基づいたものに変更することが提唱され,例えばリンパ管腫はリンパ管奇形(lymphatic malformation,以下LM)に分類され,その中ひとつとしてCommon or cystic LMという名称が当てられている(Table 2).この分類により疾患の性質を理解しやすくなり,正しい診断へたどり着く道筋が大きく整理され,早く適切な治療選択がなされるようになったと考えられる.

Table 1  ISSVA分類の概要表(抜粋)
Vascular anomalies(脈管異常)
Vascular tumors(脈管腫瘍) Vascular malformations(脈管奇形)
Benign
Locally aggressive or borderline
Malignant
Simple Combined
Capillary malformations
Lymphatic malformations
Venous malformations
Arteriovenous malformations
Arteriovenous fistula
CVM, CLM
LVM, CLVM
CAVM
CLAVM
Others
Table 2  ISSVA分類のリンパ管奇形の細分類と従来の疾患名(日本語病名)
Lymphatic malformations in ISSVA リンパ管疾患(日本名)
​Common(or cystic)LM ​リンパ管奇形(リンパ管腫)
​ Macrocystic LM ​ 嚢胞型
​ Microcystic LM ​ 海綿状
​ Mixed cystic LM ​ 混合型
​Generalized lymphatic anomaly(GLA) ​リンパ管腫症
​ Kaposiform lymphangiomatosis(KLA) ​ カポジ型リンパ管腫症
​LM in Gorham-Stout disease(GSD) ​ゴーハム病
​Channel type LM, CCLA ​リンパ管拡張症
​“Acquired” progressive lymphatic anomaly ​(後天性進行性リンパ管腫)
​Primary lymphedema ​原発性リンパ浮腫
​その他

それぞれの枠の中でも,様々な異なる性質により疾患として細分化が必要であり,2年毎のISSVAのコンセンサス会議にて少しずつ修正と細分化が進められている.2018年の最新版では,後述の疾患毎の遺伝子異常が次々と明らかとなってきたことを反映して,対応する遺伝子名が疾患分類の表に組み込まれるようになった(https://www.issva.org/UserFiles/file/ISSVA-Classification-2018.pdf).

リンパ管の発生分子生物学的研究

リンパ管の特異的分子マーカーで最も画期的なものは1999年に発見されたProx1といえるであろう1).マウス主静脈(Cardinal vein, CV)の一隅の内皮細胞にProx1陽性細胞が出現しそして発芽する.この細胞群が新たに遠心性にリンパ管ネットワークを形成していくことが確認された.20世紀初頭にフランスの解剖学者Sabinにより示された遠心性のリンパ管発生説2)を支持するとともに,血管内皮の鑑別に大きな役割を果たした.そしてVEGFR3,そのligandのVEGF-C,Dなど,発生・リンパ管形成の中心を担うシグナル伝達系分子の発見,Podoplanin等のリンパ管内皮特異的細胞膜タンパクの発見と機能解析により,21世紀の始めの20年間は,まさに飛躍的にリンパ管発生の研究が進み全盛期の現在に至っている3)

遺伝子研究(基礎から臨床へ)

リンパ管内皮特異マーカーの過剰発現やノックアウト,ノックダウンモデルにより各遺伝子のリンパ管形成における役割3)は急速に明らかになってきた.当然,各遺伝子の異常とヒト疾患との関連が検討されている.その中で,特にいくつかの遺伝子異常により,遺伝性を認めるが発現し,リンパ浮腫を認める疾患と関連があることが明らかになった4).しかし,これらのリンパ管形成過程で重要なリンパ管マーカー遺伝子とリンパ管腫やリンパ管腫症等の形態発現との直接の関係は認められていない.

リンパ管疾患の最近の研究のトピック

1. PIK3CA変異同定からシグナル伝達阻害剤の臨床応用へ

各病変組織における遺伝子変異解析は,近年急速に進歩した網羅的解析技術により,疾患毎に強い相関のある特定の遺伝子変異が明らかとなっている.これらの疾患特異的な変異は疾患病態の理解とともにこれまで難しかった類似病変における鑑別診断の強力な根拠となっていくと考えられる.リンパ管疾患の中ではPIK3CAの変異が重要なものとして発見された.リンパ管腫症,ゴーハム病においても同様の検索が進められ,疾患関連候補遺伝子は挙げられているが,まだ十分に関連性が証明された遺伝子はない.

〈PIK3CA遺伝子の変異〉

PIK3CA遺伝子の変異は腫瘍を含め様々な疾患の病態発生に関与することが知られていた.この数年,世界中の複数の研究によって,リンパ管腫やKlippel-Trenaunay症候群においても病変組織の解析でPIK3CA遺伝子のGain of function変異が,多くの患者の病変内に存在することが報告されてきた5)Fig. 1).

Fig. 1 PI3K-AKT細胞内刺激伝導系と変異,阻害剤の関係

変異が認められたリンパ管腫病変においては,リンパ管内皮細胞のみに変異を証明した報告がある6).一方,上述のPIK3CA遺伝子のgain of function変異マウスを用いた基礎実験では,ヒトリンパ管腫を完全に模倣しているとは言えないまでも,リンパ管の嚢胞性病変の形成が認められた報告がある7).詳細なメカニズム解明は今後の課題であるが,病変形成との関係は証明されつつある.

〈PI3K-AKT伝達系阻害剤〉

一方,この発見に呼応するように,この変異が関わる主要な細胞内シグナル伝達系であるPI3K-AKT系の阻害剤の臨床薬としての開発研究が進んでいる.

・シロリムス(mTOR阻害剤)

mTOR(mammalian target of rapamycin)はPI3K-AKT伝達系の下流にあって,様々な細胞機能を司る分子である(Fig. 1).そのmTORの阻害剤であるsirolimus(シロリムス,ラパマイシン)(Fig. 1)は,従来腎移植後の拒絶反応に対する免疫抑制剤の一つとして用いられてきたが,2010年代後半にリンパ管腫症やゴーハム病を含む様々なリンパ管疾患で病変の縮小や,リンパ漏等の停止に効果があると言う臨床研究や症例報告が続いた8).特に生命予後の悪いリンパ管腫症(カポジ様リンパ管腫症を含む)においてKasabach-Merritt現象の改善や,リンパ漏の改善に明らかに寄与する初めての薬剤であり画期的であった.

我が国では難治性リンパ管疾患を対象として臨床研究9)と並行して,2017年より,世界で初めて保険収載を目指した「難治性リンパ管疾患に対するシロリムスの有効性及び安全性を検討する多施設共同第III相医師主導治験」が行われた.治験は既に終了しており,現在保険収載へ向けて準備が進んでいるようであり,臨床の現場に大きな治療戦略の変革をもたらすことになると思われる.

・PIK3CA阻害剤(BYL719)

前述のPIK3CA対する阻害剤(BLY719)が製造されており,薬剤としての開発研究が進んでいる(Fig. 1).2018年に本剤がPROS(PIK3CA related overgrowth syndrome)の患者に有効であったという報告がなされた10).現在欧州にて第II相の治験が行われており(Study Assessing the Efficacy, Safety and PK of Alpelisib (BYL719) in Pediatric and Adult Patients With PIK3CA-related Overgrowth Spectrum, NCT04589650),有効性が証明されれば,今後PIK3CA変異を病変に含む難治性リンパ管疾患に対して治療オプションの一つとなることが期待される.

2. リンパ管の可視化からリンパ管内治療へ

血管は,現代医療における薬物治療の最も重要なアクセス経路であるとともに,血管や血流,そして血管と臓器を可視化することによる各種画像診断に大きな役割を示し,さらには血管内を通して身体のあらゆる位置にアクセスして治療するための重要なアクセス経路として活躍の場が多い.一方,リンパ管は,生体において,血管と比較すると捉えることが難しい.この視認しにくいことはリンパ管の臨床・基礎研究が進みにくい理由の一つである.

しかし,末梢リンパ管は組織内で組織液とともに多くの高分子を取り込む性質を持つことを利用し,末梢組織内に様々な色素を注入することで中枢へ向かうリンパ管を可視化すること(lymphography)が行われてきた.足や手の指間の皮内・皮下に色素を注入し揉むとしばらくして一筋のリンパ管を皮下に認め中枢へ進むのが観察される.リンパ管シンチグラフフィ(lymphoscintigraphy)はこのようにアイソトープを付加したタンパクを投与して行われる.リンパ漏の部位の大まかな同定,リンパ鬱滞の把握などに有益な検査である.SPECT/CTにより空間的位置把握は可能だが,得られる画像は直径が1 mmにも満たないリンパ管の微細な位置をフォーカスすることはできず,また被ばくの問題もある.

そういった中でこの10年ほどの間に新たな技術が開発され,リンパ管疾患の臨床において機器の発展とともに応用研究が進められてきた.

〈ICG蛍光リンパ管造影〉

ICG(インドシアニングリーン)は静注すると速やかに肝から排泄されるため,血中濃度は肝の排泄能を間接的に示す.これを利用したICG排泄能は肝の予備能の指標として古くから臨床検査として用いられてきた.一方ICGは生体内で赤外線により励起されると蛍光を発する性質を持つ.間質組織内に注入すると速やかにリンパ管に取り込まれるが,その動きをリンパ流として特殊な赤外線カメラで可視化することができる(Fig. 2).皮膚表面から深さ1~2 cmまでの表在のリンパ管しか観察できないが,放射線被ばくがなく,リアルタイムにリンパ流を可視化できる11).微細なリンパ管静脈吻合術12),リンパ浮腫の重症度診断13),術中のセンチネルリンパ節の検出14)等,リンパ管の可視化が必要な検査・治療において大きな武器となっている.

Fig. 2 右足背のICGリンパ管造影

第1・2趾間皮下に注入したICGの動きを近赤外線カメラにて観察.皮下のリンパ管が描出されている.

〈MR lymphography〉

MRIは画像診断において最も情報量の多い検査であるが,造影剤のガドリニウムの末梢での皮下注や鼠径リンパ節への穿刺注入後に撮像すると,その中枢側のリンパ管を明瞭に描出できる(MR lymphography, MRL).一方,造影剤を用いなくとも胸管など体幹の太いリンパ管を画像構成によって三次元的に描出することができる15).三次元的なリンパ管の解剖の把握は外科手術,病態の理解に非常に有益である.特に,胸管の描出は胸管からのリンパ漏による乳び胸水に対する胸管塞栓療法のアプローチ法の決定に非常に役立つ.小児,特に乳び胸水の治療を要する新生児や乳児においては,解像度の問題や,鎮静の問題,造影剤を穿刺投与するリンパ節の小ささ等,様々な問題があり簡単には行えないが,研究は進み応用範囲は広がっている.

〈深部リンパ管造影とinterventional radiology〉

後腹膜や胸管を描出するリンパ管造影は次の段階の応用へ発展し,リンパ管を通したinterventional radiologyの新たな展開が著しい.直視下もしくは超音波ガイド下に鼠径部リンパ節に脂溶性造影剤(リピオドール)を注入すると,鼠径部から後腹膜を経て,乳び槽や胸管を描出可能である.透視下に描出された乳び槽を経腹的に穿刺しワイヤーガイド下に胸管内にカテーテルを挿入することができる.また胸管から左静脈角を経由して静脈内まで誘導したガイドワイヤーを左鎖骨下静脈より挿入したスネアにて把持,血管外まで誘導することで,逆向きに左静脈角を経由して胸管内へカテーテルを誘導する技術,経皮経肝的に肝内グリソン内のリンパ管を経由して肝門部から十二指腸へ造影する技術など,これまでになかったリンパ管内アプローチ法が発展している16).これらのアプローチにより胸管や腸管のリンパ漏の部位を明らかにし,塞栓により選択的に治療することが可能になった.外科的リンパ管結紮とはそのアプローチの侵襲度において比較にならないほど有益である.この技術は,特にリンパ管拡張症におけるリンパ漏の治療には大きな役割を果たしている.現時点ではどこでも行える技法ではないが,発展は著しく今後も徐々に普及するとともにさらなる展開が期待されている.

おわりに

リンパ管の研究は基礎そして臨床において近年の発展が著しい.基礎研究においてリンパ管形成の分子機構が徐々に明らかになっている.遺伝子変異の検討が臨床の疾患へと結びつき,新たな治療薬の開発が進んでいる.疾患の分類も今後さらに整理されていくと考えられる.一方,リンパ管を可視化する技術は臨床において急速に展開されており,これまで困難であったリンパ管内へのアプローチにより特にリンパ漏において有効な治療法として守備範囲を拡張していっている.

多くが難治性のリンパ管疾患であるが,広角の研究の展開により今後理解がさらに進み,そしていずれ治療法が確立することが期待される.

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