リンパ管疾患は難治性のものが多いが,近年になって疾患の理解と共に治療へ結びつく研究が進んでいる.基礎研究においてリンパ管形成の分子機構が徐々に明らかになり,リンパ浮腫の原因遺伝子が列挙されている.一方,各種疾患におけるPIK3CAを始めとする変遺伝子変異の検討が進み,シロリムスなどの新たな治療薬の開発に至っている.今後,疾患の分類もさらに整理されていくと考えられる.一方,ICGリンパ管造影やMRリンパ管造影等,リンパ管を可視化する技術は臨床において急速に発展している.その応用としてこれまで困難であったリンパ管内へのアプローチが可能となり,特にリンパ漏に対する塞栓術は有効な治療法として確立されつつある.広角の研究の展開により今後理解がさらに進み,そしていずれ治療法が確立することが期待される.
インドシアニングリーンを用いたリンパ管蛍光造影法は,リンパ液の皮膚逆流所見を詳細に評価できるほか,高い解像度と再現性ゆえリンパ管の走行位置の同定にも有効である.被ばくの心配がなく,副作用としてのアレルギー反応も頻度が極めて低く,小児患者においても安全に施行できるという利点がある.実際にリンパ浮腫の治療法としてリンパ管静脈吻合術が一般化するに従って,臨床現場で広く使用されるようになってきた.さらに適応は広がり,リンパ浮腫以外のリンパ管疾患に対しても応用されるようになったことで,個々の症例におけるリンパ流が詳しく評価できるようになってきた.ますます発展するリンパ管疾患の診断・治療において重要な役割を担う本法の実際について概要を解説する.
リンパ系システムは水分バランスの調整に於いて重要な役割を担っている.従来リンパ系システムの重要性は認識されてきたが,臨床的にリンパ系システムの画像化が困難であり,インターベンションによる治療介入も他の脈管系と比較して遅れをとってきた.しかし近年発達してきた鼠径部リンパ節からのリンパ管造影やMR lymphangiographyは新たな画像診断とインターベンションへのへの門戸を開いた.リンパ系システムの異常はリンパ浮腫とリンパ漏に大別される.この中で,リンパ漏れまれであるが重篤になり得る状態である.術後リンパ漏はリンパ漏の原因では頻度が高く,乳び胸水や腹部リンパ漏に代表される.適切な画像診断を行い,漏れを描出することでインターベンションにて治療可能となる.本稿では,総括的に臨床に重要なリンパ管解剖,リンパ管造影,適切なリンパ管造影の選択や様々なリンパ漏に対するインターベンションによる治療戦略を概説する.
乳幼児の乳び胸は,その多岐にわたる病態・病因の把握が容易ではなく,治療に難渋する症例が少なからずある.しかし近年,画像技術の向上により中枢リンパ管の評価が可能となり,これまで未知であった病態も一部解明されつつある.また,治療技術もめざましく進歩しており,乳び胸の背景に存在する病態を評価することの重要性は増している.病態と画像診断を中心に,乳幼児における乳び胸について述べる.
小児は検査に対する理解や協力を得ることが難しく,鎮静が必要となることが多い.特に,騒音の中で長時間静止が必要な乳幼児のMRI検査では鎮静は必須である.鎮静薬の多くは呼吸や循環など全身に影響を及ぼし,呼吸停止や心停止の合併症を念頭に2013年に日本小児科学会,日本小児麻酔学会,日本小児放射線学会が合同で,「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」,2020年2月にその改訂版を発表している.提言を遵守するために検討した結果,これまで外来で行っていた鎮静下MRIを日帰り入院で行うことにした.病棟で監視を行うために安全性が向上し,静かな個室で鎮静することで鎮静薬の追加をせずに睡眠導入に成功する率が増加した.一方で,病棟から検査室への移動距離が長く途中で覚醒することもあり,検査室との連携などの課題もあった.また,3000~4000点程度の診療報酬の増加も得られた.
化膿性筋炎の罹患筋は下肢や体幹の骨格筋が多く,外傷や免疫能低下などの素因を伴わない上肢発症例の報告は少ない.今回,MRI所見から左上腕三頭筋化膿性筋炎を疑い加療を行った症例を経験したため報告する.症例は3歳女児.左上肢を動かさない事と発熱を主訴に受診した.血液検査で炎症反応は高値で,骨軟部感染症を疑いMRI検査を行ったところ,上腕三頭筋や周囲の脂肪組織に炎症所見を認め,同部の化膿性筋炎の可能性が高いと判断した.血液培養検査後,抗菌薬の点滴静注加療で症状とMRI所見の改善を得て合併症なく退院した.血液培養は2セットとも陰性だったが,臨床経過より化膿性筋炎と診断した.化膿性筋炎は進行すると膿瘍形成するため外科的治療を要し,後遺症を残すこともある.MRI検査で早期診断することで,侵襲的な処置を行わず治療できる可能性がある.発熱に加えて上肢の痛みがある場合には当疾患の存在も念頭に診察・検査を行うべきである.
唾石症は,青壮年期に片側の顎下腺および顎下腺管に好発する疾患であり,食事中や食後に唾液腺の腫脹と疼痛を一過性に生じる.今回,右頬部の持続的な腫脹,発赤,疼痛を契機に受診し,CT検査にて右耳下腺管を閉塞する唾石と,両側耳下腺体内の唾石を認め,両側耳下腺唾石症と診断した13歳の小児例を経験した.右耳下腺管の唾石症は,右閉塞性化膿性耳下腺炎をきたしており,経静脈的抗菌薬治療と唾液腺管開口部からのブジー挿入,唾液腺マッサージを施行し軽快した.両側耳下腺体内の唾石については,無症状であり経過観察中である.小児の唾石症は,頻度は少ないもののプライマリケアでも遭遇しうる疾患である.摂食時に一過性の唾液腺の腫脹や疼痛を認める場合だけでなく,急性耳下腺炎や頬部の発赤,腫脹を認める場合でも,唾石症が鑑別診断に挙がる.唾石症は治療に外科的介入を要するため,画像検査の必要性に留意し,評価すべきである.
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