日本小児放射線学会雑誌
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原著
鎮静下MRI検査における日帰り入院の利点
片岡 貴昭高橋 努
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2021 年 37 巻 2 号 p. 156-159

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要旨

小児は検査に対する理解や協力を得ることが難しく,鎮静が必要となることが多い.特に,騒音の中で長時間静止が必要な乳幼児のMRI検査では鎮静は必須である.鎮静薬の多くは呼吸や循環など全身に影響を及ぼし,呼吸停止や心停止の合併症を念頭に2013年に日本小児科学会,日本小児麻酔学会,日本小児放射線学会が合同で,「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」,2020年2月にその改訂版を発表している.提言を遵守するために検討した結果,これまで外来で行っていた鎮静下MRIを日帰り入院で行うことにした.病棟で監視を行うために安全性が向上し,静かな個室で鎮静することで鎮静薬の追加をせずに睡眠導入に成功する率が増加した.一方で,病棟から検査室への移動距離が長く途中で覚醒することもあり,検査室との連携などの課題もあった.また,3000~4000点程度の診療報酬の増加も得られた.

Abstract

Pediatric patients often need sedation because they cannot understand and cooperate with the examination. Especially, infants and young children have to stay still during MRI examination and always need sedation. Sedative drugs influence general conditions such as respiration and circulation. Committee of the Japan Pediatric Society, the Japanese Society of Pediatric Anesthesiology, and the Japanese Society of Pediatric Radiology published “Recommendations on Pediatric Sedation for MRI Examination” in 2013 and its revised edition in 2020. We decided to manage sedation of pediatric patients undergoing MRI examination under one-day hospitalization. The safety of MRI examination improved by monitoring vital signs in a hospital ward and the dosage of sedative drugs was reduced due to being in a calm single room. On the other hand, some patients awoke during waiting or moving to an examination room after they were sedated with sedative drugs. Issues such as cooperation with the radiology technicians should be resolved. The medical fee increased from 3000 to 4000 points.

はじめに

小児は検査に関する理解や協力を得ることが難しく,疼痛を伴わない検査でも鎮静が必要となることが多い.特に,騒音の中で長時間静止していなければならないMRI検査では鎮静は必須である.鎮静薬の多くは麻酔薬としても使用されており,呼吸をはじめ全身に影響を及ぼす.そのため,全身麻酔と同様の注意が必要であるが,MRI検査中は医療者が患者から離れざるを得ず,しっかりとした監視がなければ鎮静による様々な危険因子を孕んだ医療行為となってしまう.2013年に日本小児科学会,日本小児麻酔学会,日本小児放射線学会が合同で,検査前の鎮静に関する安全確保を目的とした「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」1),2020年2月にその改訂版2)を発表している.提言を遵守するために,呼吸や循環の管理を鎮静開始から覚醒後まで確実に行うことを検討した結果,日帰り入院で鎮静下MRIを行うことにした.病棟で監視を行うために安全性が向上するが,その他にも静かな個室で鎮静することで鎮静薬の追加が減少することも予測し,日帰り入院導入前後で鎮静薬を追加する頻度の比較を行った.また,入院にすることによる診療報酬についても報告する.

方法

当院の医療圏は約50万人の人口を有し,小児病床は45床を抱え,病床稼働率は季節による変動はあるが80%を超える総合病院である.比較はその中から新生児を除く0歳から6歳まで,発達障害のある10歳までの児も対象とし,院内倫理委員会を受審し,個人情報を利用する承認を得て実施した.日帰り入院導入前の2016年1月1日から2017年6月30日までの126例(外来群)と,導入後の2017年7月1日から2018年12月31日までの106例(入院群)で実施した.鎮静薬の追加投与率は鎮静薬を追加した患者数を全体の患者数で除して計算し,カイ二乗検定を用いて比較した.

日帰り入院の検査手順は,まず鎮静下MRIの適応が決まった時点で外来で提言内容を説明し,その遵守のために日帰り入院で行うことの同意を得た.日帰り入院に同意しなかった例は見られなかった.検査当日は予定された検査時間に合わせ午前9時から11時に外来を受診してもらい,感冒症状,鎮静の合併症が生じやすい扁桃肥大や気道狭窄所見などがないかを確認した.経口摂取は全身麻酔と同様に,母乳は4時間,人工乳・食事は6時間,水やお茶,スポーツドリンクは2時間前までの制限とした.入院後は病棟の個室で看護師がバイタルサインを確認し,総量2 gを超えないように留意しトリクロホスナトリウムシロップ80 mg/kgを投与し,30分経過後も入眠しない,また覚醒してしまった場合はトリクロホスナトリウムシロップ40 mg/kg,あるいは抱水クロラール坐剤30 mg/kgのいずれかを初回投与と合わせ総量2 gを超えないように留意し,1回のみを追加投与した.検査終了後の経過観察に充分な時間を確保するため,午後3時には終了できるように追加投与後は30分から1時間程度の観察を行い,鎮静が得られなければ当日の検査を見送った.入眠確認後に検査室に連絡し,ストレッチャー,あるいは保護者が抱き抱えたままで検査室へ移動し検査を行った.検査中はMRI対応生体情報モニター(Expression MR400®)でSpO2,EtCO2,心拍数の監視を行い,検査後は病棟に戻り,覚醒までモニター装着を続け,看護師がクリニカルパスに準じバイタルサインを確認し,観察した.覚醒を確認してから主治医が乳児及び小児用に改変されたGlasgow Coma Scaleで意識清明であることを確認し,水分摂取し,嘔吐などが見られなければ退院とした(Fig. 1).

Fig. 1 

日帰り入院とすることで,外来群に比べ「病棟」滞在と検査室までの「移動」が加わる.

結果

両群ともに呼吸抑制や循環障害などの重篤な合併症は認めなかった.鎮静薬の追加投与率に関しては外来群42.0%,入院群54.7%であり統計学的有意差は認めなかったものの(p = 0.07),入院群で高い傾向にあった.その他,両群で男女差はなく,疾患の内訳ではてんかんと発達障害で症例数に有意差を認めたが,鎮静薬の追加は有意差を認めなかった.結果をTable 1に記す.検証のため,入院群での追加投与の理由を確認したところ,病室で一旦入眠が得られた後に,出棟待ちの時間や病棟からMRI検査室への移動中に覚醒してしまった例が予想外に多いことが分かった.鎮静薬の追加をせずに睡眠導入に成功する率を反映させるために,それらの理由での覚醒例を除いて検証したところ,鎮静薬の追加投与率は入院群は21.7%まで減少した.外来群においても検査の待ち時間で覚醒してしまう例があったが,カルテの情報のみでは十分に検証できず比較できなかった.診療報酬の点数について検証したところ,1回の検査につき外来群ではMRI撮影,乳児加算,画像管理加算,コンピューター断層診断などを合わせ2700点程度であったが,日帰り入院群では入院期間Iに医療機関別係数を乗じ,さらにDPC包括外合計を加えることで7000点程度と,外来群と比べ約3000~4000点の収益増加が認められた.

Table 1  患者背景
外来群 入院群 p値*
件数 126 106 NA
男:女 72:54 65:41 0.61
てんかん 36 12 0.002
発達障害 13 33 0.0001
けいれん重積 10 10 0.86
仙骨部の陥凹 20 22 0.43
その他 45 34 0.66

* Pearson’s chi-square test

考察

2010年の日本小児科学会安全委員会報告では,小児科専門医研修施設の35%が鎮静により生じる合併症を経験しており,呼吸停止や心停止などの重篤な合併症も含まれることが明らかとなった.それを受けて2013年に日本小児科学会,日本小児麻酔学会,日本小児放射線学会が合同で,検査前の鎮静に関する安全確保を目的とした「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」を発表した.提言発表後には2017年に小児科専門医研修施設におけるMRI検査時鎮静の現状として,管理体制は共同提言以降改善されている傾向がみられたが,人的資源の問題は解決困難であることが報告された3).それを受け,2020年2月にはその改訂版も発表されている.

提言で強調されている内容は,①鎮静は自然睡眠と全く異なる,②深い鎮静に陥った場合に早く気付き対処する,③内服の鎮静薬も危険である,④パルスオキシメーターによる監視だけでは不十分である,ことである.

当院においても提言に沿った呼吸・循環の監視を行う必要があると考えた.従来(外来群)は,①経口摂取制限をせず来院し,②MRI検査室の待機室でトリクロホスナトリウムシロップまたは抱水クロラール坐剤を投与し,③保護者が患児を監視しながら入眠したら看護師に声をかけてもらい検査開始,④検査終了後はそのまま帰宅,という流れで行っていた.幸い過去に呼吸停止,心停止を含む重篤な合併症を経験したことはなかった.提言を遵守するためにはモニターの装着のみではなく,鎮静前から覚醒の確認までバイタルサインを頻回に確認する必要があり,外来スタッフのみでは困難との結論に至った.また,病棟の方が患児のバイタルサインの確認がしやすく,静かな環境を確保できる個室での睡眠導入の方が鎮静の成功率が高まり,鎮静薬の追加の必要性が減ることも期待でき,従来は外来で実施していた鎮静下MRI検査を,2017年7月から日帰り検査入院に変更した.実際,提言発表後1年経過した時点で小児神経専門医所属施設への実態調査において,外来で鎮静下MRIを行う施設は83%から75%に減少し,鎮静を要する場合には入院させる傾向が見られている4)

今回の結果では,鎮静薬の追加投与率は外来群42.0%,入院群54.7%であり統計学的有意差は認めなかったものの,入院群でむしろ高い傾向にあった.しかし,入院群での追加投与の理由を確認したところ,病室で一旦入眠が得られた後に,出棟待ちの時間や病棟からMRI検査室への移動中に覚醒してしまった例が予想外に多いことが分かり,それを差し引いて再検証したところ入院群の鎮静薬の追加投与率は21.7%に減っていることが判明した.外来群はカルテの情報のみでは十分に検証することができず,比較検討ができなかったが,鎮静薬追加を減らすには,スムースに検査に移行できるように病棟と検査室との連携をよくし待機時間を減らす等の課題を認識した.

提言は具体的な鎮静薬の投与量等を記載するものではなく,鎮静の考え方に重みを置いたものであり,当初提言を実行するには人的資源からも非現実的である等の批判もあったと聞く5,6).また,数時間間隔で哺乳をしている乳児では空腹では入眠しにくいため,哺乳で満腹にしてから鎮静薬を飲ませることも以前は普通に行われていたことである.しかし,提言が出されて以降,薬に頼らないMRI検査の報告が増えてきている.ショ糖溶液,おしゃぶり,おくるみ,固定具の利用,睡眠時間の調整などである2).時間や人手がかかるものが多いが鎮静薬による合併症がない分,患者にとっては安全性が上がった良い例であろう.

今回の我々の報告でも,小児病棟の性質上緊急の入院が多く,検査入院に対応する看護師確保が困難になる懸念があったが,病床の使用状況を外来とも共有し,コントロールすることで負担軽減に努め,クリニカルパス導入による観察項目の効率化で対応した.放射線科からは移動にかかる時間で成人を含めた検査に滞りが出る可能性について指摘があった.鎮静を確認し次第直ぐに検査室へ連絡し,直ぐに移動できる体制を整え,MRI検査の空き時間をなるべく作らないように工夫した.このように当院の医療体制下で提言を遵守するには如何にMRI検査を行うかを多職種で検討し,日帰り入院を導入できた.結果として鎮静薬の追加投与率に統計学的な有意差が見られなかったことから,患者の不利益になることはなく,提言を遵守することで外来での鎮静以上の安全性が確保できたと考えられた.診療報酬の点数についての検証では,患者ごとの疾患名や病院ごとの医療機関別係数にもよるため一概には言えないが,1回の検査につき約3000~4000点の収益増加が認められた.

各施設での人的資源や医療体制を理由に提言を実行することをあきらめるのではなく,置かれた環境下で如何に提言を実行するかを多職種で良く検討することにより予想以上の成果が得られることもある.今回の報告が参考になれば幸いである.

 

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません

文献
  • 1)  日本小児科学会・日本小児麻酔学会・日本小児放射線学会.MRI検査時の鎮静に関する共同提言.日児誌 2013; 117: 1172–1201.
  • 2)  日本小児科学会・日本小児麻酔学会・日本小児放射線学会.MRI検査時の鎮静に関する共同提言(改訂版).日児誌 2020; 124: 771–805.
  • 3)   山中  岳, 勝盛  宏, 草川  功,他.小児科専門医研修施設におけるMRI検査時鎮静の現状.日児誌 2017; 121: 1920–1929.
  • 4)   是松  聖悟, 山内  秀雄.「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」からの発展と課題.脳と発達 2016; 48: 107–110.
  • 5)   久我  修二.MRI検査時の鎮静に関する共同提言は机上の空論か? 臨小児医 2015; 63: 11–16.
  • 6)   草川  功.「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」の現状と未来.日小児放線会誌 2017; 33: 46–50.
 
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