日本小児放射線学会雑誌
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第57回日本小児放射線学会学術集会“こども達の未来が私たちの未来”より
小児肝移植後のIVR
野坂 俊介 宮嵜 治笠原 群生
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キーワード: 画像下治療, 肝移植, 小児
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2022 年 38 巻 1 号 p. 11-20

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要旨

小児肝移植後のIVRには,診断目的の肝生検(経皮経肝,経内頸静脈),血管合併症治療,胆管合併症治療,液体貯留治療(経皮的ドレナージ)がある.放射線診療部が特に深く関わっているのは,血管合併症と胆管合併症に対するIVRである.IVRが適応となった場合は,全例麻酔科医による全身管理下に,移植外科医と放射線科医が協同で手技に臨む.ほとんどの場合,透視を併用した超音波ガイド下経皮経肝穿刺にて手技を開始する.移植肝の解剖学的特性から,バイプレーンの血管造影装置の使用が望ましい(特に側面透視が極めて有用).移植肝に対する経皮経肝穿刺からシース挿入までは経験豊富な移植外科医により行われる.続くIVR手技は放射線科医が中心となって行う.

本稿では,血管合併症と胆管合併症のIVRについて自験例を中心に典型例と非典型例,さらには難渋例に対する工夫など,症例を提示しながら解説する.

Abstract

Interventional radiology procedures after pediatric liver transplantation include diagnostic liver biopsy (percutaneous transhepatic and percutaneous transjugular approaches), treatments for vascular and biliary complications, and percutaneous fluid drainage. Of these, Department of Radiology at National Center for Child Health and Development is deeply involved in treatments for vascular and biliary complications. Once interventional procedures are indicated, all patients are treated in collaborative work between transplant surgeons and radiologists. All procedures are managed under general anesthesia. The majority of interventional procedures are started with fluoroscopy-assisted ultrasound-guided percutaneous transhepatic puncture. Once percutaneous transhepatic access is accomplished, both vascular and biliary complications are managed with biplane fluoroscopic angiography equipment. We strongly recommend the use of lateral projection fluoroscopy, considering the anatomy of the transplanted liver. During the procedures, transhepatic puncture followed by sheath placement is performed by an experienced transplant surgeon. Subsequent interventional procedures are mainly performed by radiologists. This review demonstrates both typical and atypical cases necessitating technical modifications based on the clinician’s experience with interventional radiology procedures after liver transplantation.

はじめに

国立成育医療研究センターで最初に肝移植が行われたのは2005年11月である.それ以降,肝移植手術総数は2016年末で440例1),2020年末で655例,2021年10月には700例となった.放射線診療部は診療協力部門として,診療放射線技師ならびに放射線診断科医師(放射線科医)が一丸となって,休むことなく肝移植チームの一員として機能する機会に恵まれ今日に至っている.

2016年末までの440例の肝移植手術の内訳は,426人のレシピエントに対して生体肝移植414例,脳死肝移植22例,ドミノ移植4例であった1).426人には再移植13人,再々移植1人が含まれている.Table 1に2016年末までの426人のレシピエントの基礎疾患の内訳を示す.基礎疾患は,胆汁うっ滞性疾患が半数を占めているが,その他多岐にわたっている.

Table 1  レシピエントの基礎疾患の内訳(N = 426)
胆汁うっ滞性疾患 214人
代謝性肝疾患 84
急性肝不全 56
先天性肝線維症/Carori病 26
肝腫瘍 19
肝血管性病変 14
自己免疫性肝疾患 5
原因不明の肝硬変症 8

本稿では,筆者らの施設における画像診断医の肝‍移植へのかかわり,小児IVR(Interventional Radiology)の一般的事項に触れた後,肝移植後のIVRのなかでも放射線科医が深く関わっている血管合併症と胆管合併症のIVRについて自験例を中心に典型例と非典型例さらには難渋例に対する工夫など,症例を提示しながら解説する.

放射線科医の肝移植へのかかわり

2005年当時,放射線診療部内に肝移植に関連する画像診断ならびにIVRの経験者がほとんどいなかったことから,実際の肝移植に先立ち,ドナーならびにレシピエントの術前・術後の画像診断に関する講義を受けることから始まった.以来,レシピエントについては,移植前はもちろん,移植後は直後のPICU入室中から一般病棟退院までの超音波検査を放射線科医が担当している.

入院中の超音波検査では,移植肝の門脈,肝動脈ならびに肝静脈血流,胆管拡張の有無・程度,断端液体貯留の有無・性状・拡がり,胸水・腹水の有無・性状・量,腸管壁肥厚の有無・内腔拡張の有無・蠕動の多寡,といった点を評価する.入院中の超音波検査は,術後1週目は朝夕2回(7:30, 17:00),2週目は朝1回(7:30),3週目以降は原則週2回(日中)行っている.

臨床症状,超音波検査所見,血液検査所見を参考に,造影CTの適応を検討する.また,実際に放射線科医が日々の超音波検査を担当することで,肝移植後のIVRの適応決定ならびに適応となった場合の戦略に関する検討にもリアルタイムに参加できるというメリットがある.

小児IVRの特徴2)

IVRは,欧米ではInterventional Radiologyの頭文字からIRと略され,日本語では画像下治療と称される.IVRは,画像診断技術をガイドとして経皮的に病変に到達し,治療を行う手技の総称で,血管系と非血管系に大別される(Table 2).手技を行う際,病変へ到達するためのガイドは,X線透視,超音波(US),CTが一般的である.Table 3にIVRの際に使用する代表的な器材を示す.一般的に,これらのIVR手技や器材は,成人を対象として実施・開発されたのちに,選択的に小児に応用・導入されることが多い.

Table 2  主なIVR手技(文献2より一部改)
血管系
 拡張術
 塞栓術
 血栓溶解術
 血液サンプリング
 中心静脈カテーテル挿入
 異物回収
 生検(経内頸静脈的肝生検)
非血管系
 拡張術
 ドレナージ
 チューブ挿入:消化管減圧チューブ(イレウス管),EDチューブ
 消化管異物回収
 生検
Table 3  IVRの際に使用する器材(文献2より一部改)
穿刺針
シース
ガイドワイヤー
カテーテル
 血管造影用カテーテル
 マイクロカテーテル
 ドレナージ用カテーテル
血管閉塞用バルーンカテーテル
塞栓物質
 ゼラチンスポンジ細片
 コイル
 プラグ
 液体塞栓物質
拡張用バルーンカテーテル
ステント

小児は,成人と比較して体格が小さい,治療対象が小さい,手技に必ずしも協力的になれない,といった特徴がある.これらの特徴を考慮すると,器材も体格に合ったサイズの物品を選択することが重要である.また,これらの特徴から,小児IVRは,ほとんどの場合で全身麻酔下に行うことになる.

X線透視を用いて手技を行う場合はアンダーチューブ型装置(X線管球が下にある)の使用,パルス透視の使用,といった被検患児ならびに術者の‍被ばく低減への配慮は言うまでもなく,X線透視の際に術者の手が視野に入り込まない工夫も重要である.

血管や胆管などを造影する際は造影剤を用いる.造影剤は,目的に応じて用手的あるいはインジェクターを用いて投与する.一般的に,胆道系の造影,血管内のカテーテル先端位置確認や細径の血管の造影では用手的に造影する.血管内への造影剤総投与量には上限があり,通常は5 ml/kgとしている.手技が長時間となる場合は造影剤が尿路から排泄されるため,上限を上回って投与することもある.そのような場合は,手技終了後造影剤排泄を促す工夫が必要である.

肝移植後のIVR

肝移植後のIVRには,移植肝の評価,血管系合併症の治療,胆道系合併症の治療,液体貯留の治療があり3),詳細をTable 4に示す.これらのうち,放射線診療部がその実施に深く関わっているは,血管系合併症と胆管系合併症に対するIVRならびに経内頸静脈的肝生検である.

Table 4  肝移植後のIVR(文献3より一部改)
移植肝の評価
 経皮的肝生検
 経内頸静脈的肝生検
血管系合併症の治療
 門脈:血栓,狭窄,門脈体循環短絡
 肝静脈:狭窄
 肝動脈:血栓
胆道系合併症の治療
 吻合部狭窄
 肝内胆管狭窄ならびに肝外胆汁性嚢胞(biloma)
液体貯留の治療
 胸水
 腹水

IVRが適応となった場合は,全例麻酔科医による全身管理下に,移植外科医と放射線科医が協同で手‍技に臨む.ほとんどの場合,X線透視を併用したUSガイド下経皮経肝穿刺にて手技を開始する.移植肝の解剖学的特性から,バイプレーンの血管造影装置の使用が望ましい(特に側面透視が極めて有用).移植肝に対する経皮経肝穿刺からシース挿入までは経験豊富な移植外科医により行われる(Table 5).続くIVR手技は放射線科医が中心となって行う(Table 6).

Table 5  経皮経肝アプローチの実際―1
•超音波ならびに透視をガイドとして用いる
•18G Chiba針を用いて穿刺
•シリンジを接続した短い延長チューブを内筒抜去後の穿刺針に繋ぐ
•慎重な吸引下に穿刺針を徐々に浅くする
•血液あるいは胆汁が吸引できたら少量造影剤で造影
•X線透視下に0.035-inch先端アングル型親水性ガイドワイヤーを注意深く挿入
•ガイドワイヤーを残し,続く手技に応じたサイズのシースに交換する
Table 6  経皮経肝アプローチの実際―2
•先端屈曲型の血管造影用カテーテル(コブラ型など)を挿入し,ガイドワイヤーとともに狭窄部あるいは閉塞部を探る
•正面・側面透視下にガイドワイヤー先端を注意深く回転させながら狭窄部通過を試みる
•ガイドワイヤー先端が狭窄部を越えたと判断できたらカテーテル先端を進める
•ガイドワイヤーを抜去し,少量の造影剤にて造影し,カテーテル先端位置を確認する
•狭窄部ならびに閉塞部評価目的に造影する(必要に応じてシースからの造影も行う)
•至適なサイズの拡張用バルーンカテーテルで拡張術を実施する
 •血管系の拡張術では,拡張前にヘパリン50 IU/kgをシースまたはカテーテルより投与する
 •バルーン拡張時間は,血管系は30秒間,胆道系は3分間
 •1セッションで3回の拡張術を行う
•血管系の拡張術では可能な限り治療前後に圧計測を実施する

血管合併症には,門脈,肝静脈,肝動脈があり,自験440例の経験では,それぞれ5.2%,1.1%,0%の頻度であった(Table 71).胆管合併症は,自験440例の経験では,7.3%の頻度であった(Table 71).門脈ならびに肝静脈合併症に対するIVRは前‍述のごとく,原則として経皮経肝穿刺にて手技を行う.

Table 7  肝移植後の血管合併症ならびに胆管合併症の内訳(N = 440)
門脈合併症 23例(5.2%)
 ステント留置 3例
 門脈再吻合術 4例
肝静脈合併症 5例(1.1%)
 ステント留置 2例
 肝静脈再吻合 1例
肝動脈合併症 0例(0%)
胆管合併症 32例(7.3%)
 胆汁リーク 7例
 胆管狭窄 25例:全例経皮経肝胆管バルーン拡張術で治療
 胆道再建術 2例:再狭窄に対する治療後

門脈狭窄3,4)

頻度は小児肝移植の4–8%である.生体部分肝移植では,ドナーから得られる門脈の長さが短く,狭窄が生じやすい.門脈狭窄を示唆する所見としては,静脈瘤からの出血,脾腫,腹水,血液検査での血小板減少などである.門脈狭窄の危険因子は,門脈血流低下,移植前に存在する門脈体循環短絡,脾腫,血管の捻じれや屈曲の存在,門脈間置グラフトの進展などである.

門脈合併症は,狭窄部のバルーン拡張術が主な治療法(Fig. 1)で,短期再発例やelastic recoil 例ではステント留置について検討する(Fig. 2).

Fig. 1 門脈狭窄

2歳女児,先天性門脈欠損症で1歳時に他施設で生体肝移植が行われている.移植後1年の腹部USで肝内門脈のバルーン状拡張と乱流を認め(未提示),続いて行った腹部造影CTでも吻合部狭窄認め(未提示),狭窄部に対するバルーン拡張術の適応と判断した.

a:経皮経肝アプローチによる門脈造影側面像では,吻合部狭窄を認める(カテーテル先端は上腸間膜静脈内).圧計測では,上腸間膜静脈17 mmHg,肝内門脈11 mmHgで圧較差6 mmHgと有意であった.

b:8 mm径 × 20 mm長の血管拡張用バルーンカテーテルで拡張術を行った.拡張時の正面像ではバルーンの拡張は良好である.

c:バルーン拡張術後の側面像では,狭窄は改善し,圧較差は消失した.

Fig. 2 門脈狭窄

生体肝移植後.定期的超音波検査で吻合部狭窄を認め,造影CTで確認された(未提示).狭窄部に対するバルーン拡張術の適応と判断した.経皮経肝アプローチで,シース挿入,狭窄部を介してガイドワイヤーを上腸間膜静脈に誘導することができた.

a:シースからの造影側面像では,肝内門脈枝は良好に造影されているが,上腸間膜静脈の逆行性造影はわずかである.

b:上腸間膜静脈に先端を誘導したカテーテルからの造影側面像では,狭窄を認め,順行性の肝内門脈枝の造影は乏しい.

c:10 mm径 × 20 mm長の血管拡張用バルーンカテーテルで拡張術を行った.バルーン拡張初期の側面像では,狭窄部に一致してバルーン下面に陥凹を認める.

d:バルーン拡張後半の側面像では,狭窄は消失している.

e:30秒間のバルーン拡張後の解除時の透視画像では,再び狭窄部に一致してバルーン下面に陥凹を認め,elastic recoil(弾性収縮)と判断した.再度のバルーン拡張後も同様な所見であった(未提示)ため,ステント留置をすることにした.

f:バルーンエクスパンダブルステントであるExpress LD stent(ボストンサイエンティフィック)10 mm径 × 25 mm長を留置した際の透視画像では,狭窄部に一致した陥凹を認める.

g:ステント留置後の造影側面像では,狭窄部は良好に拡張され,門脈の造影は良好である.

慢性門脈閉塞5,6)

肝左葉外側区域を用いた生体肝移植における門脈再建は技術面での課題である.間置グラフトの使用は晩期門脈血栓の有意な危険因子となる.晩期門脈血栓の頻度は19%で,肝移植時の体重6 kg未満ならびに胆道系合併症を認める場合に頻度が高くなる.門脈の慢性長区間閉塞など特殊な場合は,経上腸間膜動脈的門脈造影による門脈系の血行動態の評価が有用である.

慢性長区間門脈閉塞で経皮経肝アプローチでは再開通困難な場合,小開腹下の経腸間膜静脈アプローチの併用も考慮する必要がある.このような状況は,自験例では経験ないが,他施設での肝移植後紹介受診となった症例で経験がある(Fig. 3).

Fig. 3 慢性長区間門脈閉塞

8歳男児.生後2か月時に急性肝不全のため他施設で生体肝移植が行われた.突然発症の下血のため救急搬送となった.

前医での腹部造影CTでは,移植肝門脈臍部不明瞭,側副路の発達を認めた(未提示).門脈圧低下を目的に緊急脾動脈コイル塞栓術を行うも,効果は一時的であった.後日準緊急で外部施設から専門家を招聘し,門脈再開通を試みることになった.

a:緊急脾動脈塞栓術前の脾動脈造影門脈相では,求肝性側副路の発達を認めるが,移植肝内の門脈臍部は確認できない.

b:準緊急で行った門脈再開通時の経皮経肝アプローチ後のシースからの造影では,肝内門脈枝の開存が確認できる.移植肝側の門脈閉塞部は嘴様形態を示している(矢印).

c:小開腹下に経腸間膜的に上腸間膜静脈にシースを留置した際のシースからの造影正面像では,求肝性側副路を介して肝内門脈枝が造影されている.

d:ガイドワイヤー先端を上腸間膜静脈閉塞部に置いた状態(矢印)での上腸間膜静脈のシースからの造影側面像でも求肝性側副路を介する肝内門脈枝の造影が確認できる.

e:親水性のラジフォーカスガイドワイヤー(テルモ)を用い,肝内門脈側ならびに上腸間膜静脈側の両方から再開通を試み,再開通させることができた.

閉塞部の長さは70 mmと長く,最終的に3個のExpress LD stent(ボストンサイエンティフィック)留置となった.

f:ステント留置後の造影側面像では,ステント内腔の閉塞が確認された.

ステント内の求肝性血流増加目的に遠肝性側副路のコイル塞栓術を行った.

g:塞栓術後の腸間膜静脈側からの造影側面像では,ステント内の造影は確認できなかった.遠肝性側副路塞栓術によるコイルを認める.

経皮経肝アプローチでステント内にカテーテルを留置し,血栓溶解目的にウロキナーゼ5000 U/kg/日,ヘパリン240 U/kg/日を2週間持続とした.血栓溶解術開始2日後の超音波検査でステント内の血流が確認できた(未提示).その後,胆管吻合部狭窄に対して経皮経肝胆道ドレナージならびに狭窄部バルーン拡張術に続く内瘻用チューブステント留置術が行われた(未提示).

h:血栓溶解術開始から2週間後の造影側面像でステント内腔の開存が確認できる.胆道内瘻化用チューブステントも確認できる(矢印).

その後,少量のワーファリン投与(0.05 mg/kg/日)を1年間行うこととなった.

門脈体循環短絡7,8)

肝移植後に門脈圧亢進を伴っていない場合は稀な合併症である.短絡により求肝性門脈血流が減少する可能性があり,グラフトの委縮あるいは機能不全を生じる.バルーン閉塞下逆行性静脈塞栓術(B-RTO)は,安全かつ有効で,低侵襲性治療の一つである(Fig. 4).

Fig. 4 門脈体循環短絡

23歳女性.胆道閉鎖症に対して13歳時に他施設で生体肝移植が行われた.肝性脳症に起因する症状が徐々に悪化したことから,原因として門脈体循環短絡の存在を考え腹部造影CTを行った.

a:腹部造影CT 3D再構成画像では,上腸間膜静脈-右腎静脈シャント(矢印)ならびに脾腎シャント(未提示)を認めた.

B-RTOの適応と判断し,外部施設から専門家を招聘し,行うことにした.

b,c:バルーン閉塞下の逆行性門脈造影では,求肝性門脈血流が確認できた.

d:コイル塞栓術に続いて硬化剤でB-RTOを行った.

e:腹部造影CT(門脈臍部レベル)B-RTO前

f:腹部造影CT(門脈臍部レベル)B-RTO 3か月後

B-RTO前の腹部造影CT(e)と比較するとB-RTO 3か月後の腹部造影CT(f)では,求肝性門脈血流増加に伴って,臍部門脈径はより太径となっている.

B-RTO後,肝性脳症に起因する症状は改善した.

肝静脈狭窄3,4)

小児肝移植におけるグラフト機能不全の5%を占め,部分肝移植で最も多い.肝静脈狭窄を示唆する症状は,腹水,肝機能障害である.肝静脈狭窄の主な原因はグラフトのずれによる肝静脈の捻じれである.圧較差3 mmHg以上で有意な狭窄と判断する.

肝静脈狭窄に対してはバルーン拡張術が有効で,時に繰り返しの拡張術が必要となる.再発狭窄を繰り返す症例へのステント留置の適応は慎重に決める必要がある(Fig. 5).

Fig. 5 肝静脈狭窄

生体肝移植後.過去に2回の肝静脈狭窄に対するバルーン拡張術実施歴がある.今回3回目の狭窄に対し,通常通り経皮経肝アプローチにて肝静脈にシースを留置し,狭窄部に対するバルーン拡張術を行うことになった.

a:ガイドワイヤー先端を右房内に誘導した後の側面像では,吻合部狭窄を認める.

12 mm径 × 20 mm長の血管拡張用バルーンカテーテルで拡張術を行った.

b:バルーン拡張開始初期の側面像では,狭窄部に一致して全周性の陥凹を認める.

c:バルーン拡張開始後期の側面像では,狭窄は解除されている.

d:バルーン拡張術直後のシースからの造影側面像では,狭窄はほぼ解除されているが,短期間の再発であり,ステント留置の適応と判断した.

e:Express LD stent 10 mm × 25 mm(ボストンサイエンティフィック)留置後の撮影側面像では,静脈の内腔は十分に保たれ,造影剤の流れも良好となった.

肝動脈血栓1,4)

肝動脈血栓症は,肝移植の合併症として最も致死‍的で,しばしば再移植を必要とする.早期発症の肝動脈血栓は外科的な血栓除去や再吻合が行われる.重要なのは,肝動脈血栓が外科的に治療された後でも,胆道系の虚血が生じ胆道系合併症を来たし得ることである.肝動脈血栓症は,動脈が細径であることから,成人に比し小児で頻度が高いと言われている.

筆者らの施設で肝移植が始まって間もなくは,移植手術後に肝動脈の径に関する情報が入り,肝動脈血栓発症時に血栓圧着目的の血管拡張用バルーンカ‍テーテル(冠動脈用を要することもある)を手術から2週間確保していたが,前述のごとく自験440例では肝動脈血栓は1例もなく,従って本病態に対するIVRの経験はない.術後の肝動脈狭窄に対するバルーン拡張術も経験することなく,今日に至っている.

胆管吻合部狭窄1,3,4)

一般的には胆道系合併症の頻度は,小児肝移植の20–40%と言われているが,前述のごとく自験例では7.3%の頻度で,それらのうち78%(全体の5.7%)が吻合部狭窄であった.胆管吻合部狭窄に先行する状況としては,吻合部胆汁リーク,血液型不適合,肝動脈血栓が挙げられる.臨床症状は,血管系合併症,拒絶,移植肝の機能不全や感染の症状と似ており,しばしば鑑別困難である.

バルーン拡張術に先立ち,通常の0.035-inchガイドワイヤーで狭窄部通過が困難な場合,0.014~0.016-inchのマイクロガイドワイヤーとマイクロカテーテルのセットが通過に有用なことがある(Fig. 6c).また,拡張用のバルーンカテーテルを進めることが困難な場合は,ガイドワイヤーを0.035-inchスーパースティッフガイドワイヤー(クック)に交換すると,容易にバルーンカテーテルを進められる(Fig. 6d, e).狭窄部の狭窄部バルーン拡張術後は,14あるいは16 Fr内瘻用チューブを8週間留置する(Fig. 6f).

Fig. 6 胆管吻合部狭窄

生後20か月の男児.胆道閉鎖症術後の生後10か月時に生体肝移植を行った.経過観察中に胆管拡張を認め,経皮経肝胆道ドレナージを行うことになった.B3胆管穿刺に続いて8 Frシースを管内胆管に留置した.シース内の先端J型の0.035-inchラジフォーカスガイドワイヤー(テルモ)に先端屈曲型の4 Frカテーテルを沿わせて挿入し内瘻化の準備とした.

a:シースからの造影正面像では空腸への造影剤の流れはほとんどなく,内瘻化を断念し,8 Frスケータードレナージカテーテル(シーマン)にて外瘻管理となった(未提示).2週間後に再度内瘻化を試みることにした.

b:シースからの造影正面像では,吻合した空腸への造影剤の流れ(矢印)が確認できた.

先端J型の0.035-inchラジフォーカスガイドワイヤー(テルモ)で内瘻化を試みるも不可能であった.4 Frカテーテル内に,マイクロカテーテルならびにマイクロガイドワイヤーである先端90°アングルの0.016-inch ラジフォーカスガイドワイヤーM(テルモ)を進め,注意深くガイドワイヤーを回転させながら進めたところ,内瘻化に成功した.

c:マイクロカテーテルからの造影正面像で,カテーテル先端が確実に空腸内であることが確認できた.

再度マイクロガイドワイヤーをマイクロカテーテル内に進め,マイクロガイドワイヤー先端を空腸内とした状態で,マイクロカテーテルに沿わせて4 Frカテーテルを空腸内に誘導し,0.035-inchスーパースティフガイドガイドワイヤー(クック)を進め,バルーン拡張術の準備とした.その後,10 mm径 × 20 mm長の胆管拡張用バルーンカテーテルで拡張術を行った.

d:バルーン拡張開始初期2 atm時の正面像では,バルーン中央に吻合部狭窄に伴う全周性陥凹を認める.

e:10 atm時の正面像ではバルーンがフルに拡張し,陥凹が消失している.

f:14 Frのピッグテール型カテーテルで内瘻化し,8週間カテーテルを留置した後に抜去した.

極めて稀ではあるが,胆管-胆管吻合例で,穿刺肝内胆管と総胆管が鋭角となっていると,狭窄部を介して十二指腸まで誘導することができたガイドワイヤーに沿わせて拡張用バルーンカテーテルを進めることができない場合がある(Fig. 7a, b).このような状況では,消化器科医に依頼し,十二指腸まで進めることができたガイドワイヤーを内視鏡的に把持しながら引き上げ,口から体外に出し,これを用手的に引っ張ることで,鋭角部分が鈍角となり,経皮経肝的に至適部位へ拡張用バルーンカテーテルを進めることができる(rendezvous法)(Fig. 7c–f).

Fig. 7 胆管-胆管吻合部狭窄

10歳男児.3歳時に急性化不全で生体肝移植を行った.胆管-胆管吻合実施例である.肝内胆管拡張を認め,経過観察中であったが,経皮経肝胆道ドレナージ,狭窄部バルーン拡張術,内瘻化チューブ留置を行うことになった.B3胆管穿刺にてシースを挿入し,先端J型の0.035-inchラジフォーカスガイドワイヤー(テルモ)に先端屈曲型の4 Frカテーテルを沿わせて挿入し,ガイドワイヤー先端を十二指腸に誘導することができた.

a:シースからの造影右前斜位像では,狭窄部が確認できる.

b:弱拡大とした,より広い範囲を含めた右前斜位像では,肝内胆管と総胆管が鋭角(矢印)であることがわかる.

胆管拡張用バルーンカテーテルを進めることが困難であったため,内視鏡による補助を依頼した.

c:十二指腸まで進めることができたガイドワイヤーを内視鏡的に把持しながら引き上げると,鋭角であった部分が鈍角(矢印)になっていることが確認できる.

d:ガイドワイヤーを内視鏡的に把持しながら引き上げ,口から体外に出し,これを用手的に引っ張った状態.

e:シースからの造影側面像では,狭窄部分から下方に造影剤が流れないことが確認できる.

f:10 mm径 × 20 mm長の胆管拡張用バルーンカテーテルで拡張術を行った.

g:拡張術後,10 Frのスケータードレナージカテーテル(シーマン)を内瘻化用チューブとして留置した.その際の造影では,狭窄は改善し,総胆管下部を含め全体が造影されている.

おわりに

国立成育医療研究センターにおける放射線科医の肝移植へのかかわり,小児IVRの特徴,肝移植後のIVRのうち放射線科医が深く関わってきた血管合併症と胆管合併症のIVRについて自験例を中心に典型例と非典型例さらには難渋例に対する工夫など,症例を提示しながら解説した.

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