日本小児放射線学会雑誌
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特集 小児の画像検査のコツ
小児造影CTのコツ―当施設の経験を踏まえて―
青木 英和
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2022 年 38 巻 2 号 p. 84-91

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要旨

CT検査は放射線被ばくによる発癌リスクがあるため,単純X線写真や超音波検査が画像診断の基本であるが,それらの検査で十分な情報が得られない場合や緊急性の高い場合などでは,短時間に広範囲の客観的情報が得られるCT検査の利点は大きい.適切な撮影を行うためには,患者の状態や検査目的の情報共有など,臨床医と放射線診断医のコミュニケーションが欠かせない.小児は脂肪が少なく組織コントラストが得られにくいことが多いため,不明熱精査や腫瘍評価などでは造影CTが推奨される.術前や動脈性出血疑いで動脈相が必要な場合は多相撮影の適応となるが,経験的には,3相以上の撮影が必要なケースは少ない.しかし,小児では体格や検査目的に応じて必要な造影剤量や至適な撮影タイミングが異なるため,撮影方法を一律に決めることが難しい.本稿では,当施設での経験を元に,小児体幹部造影CTの適正な撮影方法について考察する.

Abstract

Computed tomography (CT) is a valuable tool because of its excellent diagnostic accuracy, wide availability, and short acquisition time. However, because children are more radiosensitive than adults, the indications for pediatric CT should be considered carefully. Non-essential radiation exposure can be avoided by prior discussion between clinicians and diagnostic radiologists to evaluate justification of the scan and the need for contrast agent, pre-contrast imaging, and dynamic scanning.

Contrast agent is essential for evaluating internal organs, vascular systems, and the extent of tumors because it increases the conspicuity of targeted tissues and improves the diagnostic value. However, it is difficult to determine appropriate infusion rates and scan delay times due to the wide variations in body size and circulatory dynamics in the pediatric population. Because pediatric contrast-enhanced CT protocols are not fully established, it is important to share experiences among institutions. In this article, we suggest tips for performing pediatric contrast-enhanced CT appropriately based on the experience of our institution.

はじめに

CT検査はMRI検査と比べると検査時間が短く,また,超音波検査のように術者依存性がなく,客観性の高い詳細な画像情報が得られるため,利便性が高い.しかし,小児では放射線被ばくによる発癌リスクが高いとされるため,小児の画像検査では,単純X線写真や超音波検査を画像診断の基本とすべきである.これらの検査で十分な情報が得られない場合や,状態が悪く緊急性が高い場合,被ばくや造影剤使用によるリスクよりも造影CT検査により得られる利点が上回る場合,造影CT検査を選択すべきである.

当施設における小児造影CTの現状

当施設で1年間(2021年4月~2022年3月)に施行された造影CT全22507件のうち,17才以下の小児造影CTは189例(0.83%)であり,そのうち,0才から6才の未就学児の造影CTは38例(0.16%)であった.当施設のような小児専門病院以外の施設において,いかに小児造影CT検査の割合が低いかが分かる.そのため,多くの放射線診断医にとって馴染みのない検査となっているのが現状である.

189例の小児造影CTのうち,2相以上の撮影が行われた症例は52例であった.そのうち,撮影範囲のオーバーラップのない/少ない撮影(肺動脈塞栓および下肢深部静脈血栓症評価[造影1相目で胸部,造影2相目で肝~下肢]や,体幹部腫瘍+脳転移検索[造影1相目で頸部~骨盤,造影2相目で頭部]など)を除いた多相撮影は,45例であった.撮影範囲別に見ると,体幹部の造影CTが全体の約9割を占め,胸部+腹部118例(62%),腹部のみ35例(18%),胸部のみ14例(7%)であり(Fig.1),他,心臓CT,頭部CT angiography,頸部造影CTなどが含まれる.

Fig. 1 当施設で1年間(2021/4~2022/3)に施行された小児造影CT(0~17才)の内訳

造影CTの依頼をうけて

成人の造影CTと同様の感覚で,不必要な単純相や造影多相撮影がオーダーされることがある.「とりあえず単純も」,「腹部を撮るついでに胸部も」などの依頼も稀に経験するが,それぞれ必要な明確な理由があるか,吟味すべきである.「もう10才だから被ばくを気にしなくてよいのでは」という意見を受け,被ばく低減の認識がいかに浸透していないかを痛感した経験もある.また,小児造影CTに不慣れな放射線診断医が対応せざるを得ない場合,臨床医の依頼通りに多相撮影を指示したり,成人と同様のプロトコルを適用したりしてしまうこともある.臨床医と放射線診断医の双方が,造影CTの適応の有無や撮影方法について意識を払うことが必要である.撮影方法は,検査依頼文をもとに判断されることが多いため,依頼文には,患者の状態が端的に伝わるような臨床情報と,検査目的の詳細を明記する必要がある.しかし,依頼文のみでは判断しえないような情報がある可能性は常につきまとうため,放射線診断医はできる限り臨床医とコミュニケーションをとり,臨床医立ち合いのもとに検査に臨むことが理想的である.本稿では,不明熱精査など,経験する頻度の高い一般的な体幹部造影CT検査を中心に,①臨床医に知って欲しい造影CTのコツ,②放射線診断医に知って欲しい造影CTのコツについて,それぞれ解説する.

① 臨床医に知って欲しい造影CTのコツ

1) 造影CTの適応疾患

造影CTが診断アプローチに最適な検査であるか,第一に考察すべき点である.まず,体幹部造影CT(胸部,腹部)の適応となる一般的な病態・疾患を解説する.一般的には,小児では内臓脂肪が少なく,単純CTでは十分なコントラストが得られにくいことが多いため,以下に列挙するような疾患では,造影CTを積極的にオーダーすべきである.

・胸腹部造影CT

肺尖部(あるいは頸部)から骨盤底部までを含めた胸腹部造影CTは,最も頻度の高い小児造影CT撮影である.不明熱精査,外傷,全身に発生リスクの高い腫瘍の初回画像評価(白血病や悪性リンパ腫などの血液悪性腫瘍,神経芽腫など),胸部あるいは腹部の悪性腫瘍の初回画像評価および転移検索(肝芽腫の原発巣評価+肺転移検索など)が,良い適応となる.悪性腫瘍の化学療法後や術後など,頻回の画像フォローが必要になる場合は,肺転移は単純CTで,腹部は超音波やMRIなどの非侵襲的画像検査で評価するなど,被ばくの影響をより考慮する必要がある.

・腹部造影CT

腹部に撮影範囲を限定した造影CTは,当施設では胸腹部造影CTに次いで多く,消化器疾患(虫垂炎,炎症性腸疾患,イレウス,消化管出血精査など),肝胆道系疾患(胆道閉鎖症術後,肝移植後,肝外門脈閉塞症など),膵炎評価の頻度が高い.急性腹症は,一般的にはまずは単純X線写真による腸閉塞・腹水評価,超音波検査による腹部臓器・腸管評価を優先すべきであり,これらの検査で評価不十分な場合,これらの画像所見と臨床症状に解離がある場合,治療介入のために三次元解剖評価(血管の走行や,腫瘍あるいは腸閉塞などの客観的画像所見)が必要な場合などに,造影CTを検討する.虫垂炎は,超音波で盲端部まで観察できた場合,造影CTを撮影する必要はない.尿路感染症評価も超音波検査を優先する.腎盂腎炎や腎膿瘍の評価には造影CTが適応となるが必須ではなく,尿路形態もあわせて評価できるMRI(MR urography)の有用性も高い.

・胸部造影CT(心臓CTを除く)

胸部造影CTは,腹部に比べると頻度は低い.縦隔悪性腫瘍で比較的頻度の高い悪性リンパ腫や神経芽腫では,骨盤まで撮影範囲を広げることが多いことや,良性腫瘍ではCTよりMRIが適用されることが多いこと,肺野の評価では造影不要なことなどが要因と考えられる.肺分画症や血管輪などの血管評価,縦隔炎や胸膜炎などの炎症評価などが胸部造影CTの適応となる.ただし,肺分画症では栄養動脈が腹腔動脈などの腹部血管から起始することがあるため,上腹部も撮影範囲に含める必要がある.気管と周囲血管の評価のみが必要な場合(気管切開前の腕頭動脈と気道の位置関係評価,気道狭窄の原因検索など),撮影範囲を気管分岐部付近までに限定することができる.

2) 単純相の必要性

単純相は,活動性出血や腹部臓器損傷が疑われる場合で必要となるが,その他の多くの症例では不要である.脂肪肝評価は,造影すると評価困難となりえるため適応となるが,超音波でもフォロー可能であり,造影後でもある程度評価できることも多く,撮影1回分の被ばくのデメリットの方が大きいと感じる.肝脾コントラスト(L/S比)を計測する場合には必要となる.胆石や腎結石,ステントやチューブ位置確認は,単純相がなくとも評価可能である(ステントの位置確認のため単純も必要と依頼された経験がある).腫瘍内石灰化は単純相で評価しやすいが,造影後でも評価できることが多く,単純相がないことで診断の幅が狭まるケースは実際にはほとんどない.

3) 多相撮影の必要性

多相撮影は,出血源検索や,悪性腫瘍などの術前で動脈相や尿路排泄相が必要な場合に適応となるが,3相以上の撮影が必要となる症例は成人に比べて極めて少ない.小児の循環動態は早く,解剖学的形態評価だけであれば,造影1相で動脈も静脈も評価できるケースも多い(Fig.2).当施設で経験した造影3相撮影の7例は(肝移植後拒絶精査,膵腫瘍精査,膵炎精査),後方視的に見て,3相撮影することで得られた追加情報は少なく,結果的に不必要であったと感じた.腹部腫瘍と尿管の位置関係を評価するために尿路排泄相の評価を求められることがあるが,造影剤の分割投与など撮影方法を工夫することで,造影1相で評価することもできる(Fig.3).

Fig. 2 2才9か月男児,不明熱精査.

造影剤20 mlを30秒で用手注入,50秒で撮影(600 mgI/kg, 80 kV).肝,脾の造影効果は概ね均質で,腎には皮髄相~実質相の造影効果を認める.動脈(),門脈(),静脈()の造影効果も良好であり,造影1相のみで,腹部臓器,血管の評価が可能である.

Fig. 3 10か月女児,後腹膜奇形腫.血管系,尿路系の評価も含めた術前精査.

造影剤5 mlを先行して用手注入し,5分後にスカウトで尿路の描出を確認()(左上図).腫瘍の石灰化も確認できる()(左上図).続いて,造影剤13 ml+生理食塩水7 mlの希釈造影剤を約30秒で注入し,注入直後に撮影(総造影剤量600 mgI/kg, 80 kV).造影1相のみで,腫瘍(*)と動脈(),門脈(),静脈(),尿管()との位置関係を評価できる.

4) 造影CTの撮影方法,適応を考慮すべき症例

症例①:1才11か月女児,胆道閉鎖症,生体肝移植後.門脈狭窄評価目的に,単純+造影4相(早期動脈相,後期動脈相,門脈相,平衡相)の多相撮影が依頼された.成人に比し肝実質の造影効果のピークは早く,動脈相,門脈相,静脈相の区別は,特に体格の小さな乳幼児では困難である.経験的には,少なくとも造影2相あれば,肝動脈,門脈,肝静脈,肝実質に関する十分な情報が得られると考える(Fig.4, 5).

Fig. 4 1才11か月女児,胆道閉鎖症,生体肝移植後.超音波で門脈狭窄疑われ,精査.

単純+造影4相の多相撮影依頼であったが,主治医と協議の上,造影2相撮影とした.造影剤18 mlを用手注入し,30秒(造影剤入れ終わり直後:a,b)と60秒(c, d)で撮影(aとc,bとdは同一断面.600 mgI/kg,80 kV).造影1相目では肝動脈()に良好な造影効果を認めるが,門脈()の造影効果は乏しく(a),門脈血流低下が示唆される(通常この撮影タイミングですでに門脈の造影効果が確認できる).造影2相目では門脈()にも肝動脈()と同等の造影効果を認める(c).1相目では確認できなかった肝静脈()の造影効果も2相目では良好である(b, d).肝実質の造影効果も比較的均質で,造影2相で十分な情報が得られたと判断し,追加撮影は行わなかった.

Fig. 5 1才11か月女児,門脈吻合部狭窄拡張術後(Fig.4と同一症例.Fig.4の2週間後に撮影).

前回同様の撮影条件(18 ml用手注入,30秒で撮影.600 mgI/kg,80 kV)であるが,門脈()の造影効果は前回(Fig.4a)より良好である.早期動脈相を撮影するためにはさらに早いタイミング(おそらく15~20秒程度)での撮影が必要となるが,動脈()優位の造影効果や走行から門脈との区別は容易であり,被ばくの観点から適応は吟味すべきである.

症例②:17才男児,遺伝性膵炎でフォロー中.反復する腹痛あり.5か月で5回の単純+造影ダイナミック撮影(そのうち3回は造影3相)が行われた.そのうち1回は臨床症状改善後の画像フォローであった.頻回に造影CTが必要になるリスクの高い患者では,特に被ばく低減に注意を払う必要がある.膵壊死などの実質評価や炎症の進展範囲は造影1相でも評価可能であり,また,単純相は省略可能である.仮性動脈瘤などの血管評価のために動脈相も評価したい場合,造影剤の分割投与で撮影回数を減らすことができる1).しかしスクリーニングレベルの検査においては,必須ではないと考える.

症例③:10才女児,2か月前からの腹部腫脹,腹痛.前医超音波検査で骨盤腔内に15 cmを超える嚢胞性腫瘤があり紹介となった.卵巣腫瘍疑いで,腫瘍の状態と転移検索の精査のため,胸腹部造影CT検査が依頼された.局所診断が不明確な状態で全身検索がオーダーされており,不適切である.超音波検査を再検し,典型的な腟閉鎖の所見であり,CT検査はキャンセルした.腫瘍疑いとして紹介されると,造影CTやPET-CTなどの全身検索が先行してしまうことがあり,注意が必要である.

② 放射線診断医に知って欲しい造影CTのコツ

小児造影CTでは至適な造影剤量や撮影タイミングにばらつきがあるため,一律な撮影条件設定が難しい.また,血管確保に伴う問題(上肢血管確保困難による下肢からの造影,固定バンド内での留置針の折れ曲がりなど),検査中のトラブル(検査への協力が得られない,不十分な鎮静による造影剤注入後の体動・覚醒など)により,臨機応変な対応が必要となる場合もある.ここでは,心臓CTや頭部CT angiographyを除く,一般的な体幹部造影CTにおける撮影方法について,当施設の経験を元に考察する.当施設における体幹部造影CTの撮影方法を表に提示する(Table 1, 2).明確なプロトコルはなく,経験則に基づいた撮影方法を本稿執筆にあたって要約したものであり,参考値として参照いただきたい.

Table 1  当施設における体幹部造影1相撮影方法(不明熱精査,腫瘍評価など)
体重 造影剤濃度 造影剤量 注入速度 静脈留置針 注入方法 撮影時間*4
5 kg 300 mgI/ml 10 ml*1 0.7~1.0 ml/s*2(30 ml>) 24G(30 kg≥) 用手注入(30 ml≥)*3 35~50秒
10 kg 20 ml 40~55秒
15 kg 30 ml 1.0 ml/s 45~60秒
20 kg 40 ml インジェクター(30 ml<) 55~70秒
30 kg 60 ml 75~90秒
40 kg 80 ml 60秒注入(60 ml≤) 22G(30 kg<)
50 kg 100 ml

*1 造影剤量20 ml未満の場合,総造影剤量担保のため,生理食塩水で希釈することもある(1.5~2倍希釈程度).

*2 造影ルートの死腔分の後押しも含め,20~30秒程度で入れ終わるよう緩徐に注入.

*3 体重10~15 kgではインジェクターを用いるか,20 mlシリンジ1本で用手注入(400~600 mgI/kg)とすることもある.

*4 注入開始時点から撮影までの時間.撮影時間の目安は,造影剤入れ終わり直後から30秒程度であるが,依頼内容に合わせて適宜微調整(体格が非常に小さい小児や,動脈形態もある程度評価したい場合などでは早めに設定).胸部造影1相で血管評価が検査目的の場合,入れ終わり直後に撮影.

Table 2  当施設における体幹部造影2相撮影方法(出血源精査や術前で,動脈相が必要な場合)
体重 造影剤濃度 造影剤量 注入速度*2 静脈留置針 注入方法 撮影時間
5 kg 300 mgI/ml 10 ml*1 0.7~1.0 ml/s *2
(30 ml>)
原則22G*3
(45 kg≥)
用手注入(20 ml≥) 1相目は入れ終わり直後
2相目は1相目から30秒程度開ける
10 kg 20 ml
15 kg 30 ml 30秒注入(30 ml≤) インジェクター
(20 ml<)
20 kg 40 ml
30 kg 60 ml
40 kg 80 ml
50 kg 100 ml 20G(45 kg<)

*1 造影剤量20 ml未満の場合,総造影剤量担保のため,生理食塩水で希釈することもある(1.5~2倍希釈程度).

*2 造影ルートの死腔分の後押しも含め,20~30秒程度で入れ終わるよう注入.

*3 血管確保困難な症例で,1.0 ml/s以下の注入速度でも評価可能と判断した場合,24Gで造影することもある.

1) 造影剤

当施設では,300 mgI/mlの造影剤を使用し,投与量は600 mgI/kg(2.0 ml/kg)を基本としている.10 kg未満の乳幼児の場合,総造影剤量を担保するために,生理食塩水で希釈した造影剤(1.5~2倍希釈程度)を用いることもある.採用している造影剤の種類やインジェクター設定との兼ね合いで,造影剤投与量30 mlまでは用手注入対応を基本としている.

2) 造影ルート

・静脈留置針の太さ

良好な造影効果を得るためには短時間にある程度多くの造影剤を注入することが望ましく,造影効果を高めることだけを考えれば,太い静脈留置針の方が望ましい.しかし,一般的な体幹部造影1相の場合,小児では1.0 ml/sの注入速度で十分なケースが多い.24Gでは1.5 ml/sまで,22Gでは2.5 ml/sまで,20Gでは4.0 ml/sまでの注入速度が担保できるとする報告もあるが,当施設では,24Gでは1.0 ml/sまで,22Gでは2.0 ml/sまでの注入速度設定を基本としている2).22G以上での血管確保が困難なことも多い,患児の負担軽減といった臨床医からの要望もあり,不必要な22G以上の血管確保を避け,1.0 ml/sより速い注入速度が必要な症例においてのみ,22G以上の血管確保を依頼している.血管確保部位は,静脈穿刺部から心臓までの死腔の長さや,左上肢から造影した場合の無名静脈内の造影剤アーチファクトによる弓部分枝への干渉などを考慮し,右上肢を基本としているが,困難な場合,左上肢や下肢からの造影も可としている.

・中心静脈カテーテルからの造影

末梢血管確保が困難な場合,中心静脈カテーテルからの造影依頼を受けることがある.当施設で採用している中心静脈カテーテル(ブロビアックカテーテル,メディコン社製)の添付文書には,血管および臓器損傷のリスクから,10 mlよりも小さなシリンジを使用するなど過剰な圧をかけないよう注意喚起がされている.6.6 Fr.ブロビアックカテーテル(内径1.0 mm)を用いた実験では,240 mgI/mlの低濃度造影剤を用いた1.0 ml/sの注入でも,添付文書に示す耐圧制限である25 psiを超えた.この結果を踏まえ,当施設では,既定の耐圧設定では充分な注入速度が担保できない,用手注入でも耐圧基準を超える可能性があることから,中心静脈カテーテルからの造影検査は原則禁止とし,「末梢確保が困難であり,造影CT検査がどうしても必要な場合(単純CTやMRIで代替できない場合)に限り,カテーテル破損のリスク,良質な画像が得られない可能性について了承を得た上で,中心静脈カテーテルからの造影の適否を検討する」としている.造影する場合,インジェクターを用いた注入は禁止し,10 ml以上のシリンジによる愛護的用手注入のみ可としている.

3) 注入速度

・胸腹部または腹部造影1相撮影

注入速度は,体重と検査目的を元に,必要な総造影剤投与量と至適撮影時間を逆算し,決定する.不明熱精査,転移検索などの一般的な体幹部造影CTでは,1.0 ml/sでの造影1相撮影で十分である.成人における不明熱精査や転移検索などの造影1相撮影プロトコル(60秒注入,90秒撮影)にあわせ,30 kg以上の小児では,22Gの静脈留置針を用いて60秒注入に設定している.10 kg以下の体格の小さな小児では,造影ルートの死腔分の造影剤にも特に配慮し,生食の後押し分も含め,20~30秒程度で注入し終えるように,緩徐に用手注入する.10~15 kgの小児でも用手注入で対応するが,600 mgI/kgを遵守すると20 mlシリンジ1本では足りず注入時にシリンジのつなぎ変えが必要となるため,インジェクターを用いるか,600 mgI/kg未満とすることもある.

・胸部造影1相撮影

検査目的が腫瘍評価や熱源精査の場合,胸腹部あるは腹部のみの造影1相の撮影方法(Table 1)と同様である.胸部造影CTでは血管形態評価が主目的であることが多く,その場合,造影剤入れ終わり直後に撮影する.血管形態評価だけであれば造影剤の減量可能と考えるが,現状は,一律600 mgI/kgの設定としている.注入速度は,体重15 kg以上の小児で,より厳密な動脈相が必要な場合は,22G以上での血管確保と30秒注入設定が望ましいが,走行確認だけであれば,Table 1と同様の設定でも評価可能である.

4) 撮影タイミング

・単相撮影

不明熱精査など,1.0 ml/s程度の緩徐な注入による平衡相の1相撮影では,標的臓器の均質な造影効果と,他臓器とのコントラストが得られるタイミングで撮影できれば良い.症例ごとに微調整すると煩雑なため,おおまかに,入れ終わり直後から30秒後を目安に撮影と覚えておくと良い.新生児など極端に体格の小さな小児や,動脈や門脈も同時に評価したい場合は,入れ終わり直後から30秒未満での撮影も考慮する.30 kgを超える小児では,60秒撮影でも腹部臓器の評価は可能であり,血管も評価したい場合は入れ終わり直後の撮影も検討できる.

・多相撮影

動脈相を含む多相撮影が必要な場合,原則22G以上の血管確保を依頼し,30秒注入,入れ終わり直後撮影を動脈相の目安としている.10~15 kgの小児では20~30秒程度で注入し,10 kg未満など特に体格の小さな小児では適宜希釈造影剤を用いて20秒を目安に注入し,注入直後撮影とする.2相目の撮影タイミングは体格や検査目的により適宜微調整が必要となる.造影1相目から概ね30秒後に撮影すれば,門脈や静脈の造影効果と各腹部臓器の均質な造影効果が得られるため,おおまかに,動脈相の30秒後を目安と覚えておくと分かりやすい.新生児など極端に体格の小さな小児では30秒より早く,思春期以降など体格の大きな小児では30秒より遅く撮影することも考慮する.

5) その他の注意点

乳幼児では,手背で血管確保され,造影時に刺入部が固定バンドに覆われ目視できないことがある.刺入部を直接監視しながら用手注入することが望ましいが,鎮静から覚めるリスクも考慮すると,その都度固定を外すことは現実的ではない.また,血管に適切に留置されていても良好な逆血が確認できないことも多いため,適切に血管に留置されているかの判断は,テスト用手注入の感覚に頼らざるをえないことも多い.テスト注入の抵抗に少しでも違和感がある場合には,造影剤漏出や固定内部での留置針の折れ曲がりの可能性があるため,固定を解除し刺入部を目視して注入すべきである.

乳幼児での下肢からの造影では,心臓までの死腔が上肢より大きいため,死腔分の生食後押しを通常よりも多少意識する必要がある.下大静脈内の造影剤アーチファクトをより軽減したい場合には特に注意する.しかし,10 ml未満程度の生食で十分に後押しすれば,その他の撮影条件は表と同様でも,経験的には問題とならないことが多い.

造影剤注入中に,刺激により体動がおきる場合がある.体動アーチファクトによる画質劣化の軽減を優先すべきであり,撮影時間を厳密にしなければならない場合を除き,体動がある程度落ち着いたタイミングで撮影すると良い.そのためにも,撮影時間は最初に固定せず,こちらの合図でスキャンできるように放射線技師と打ち合わせておくとよい.動脈相が必要で撮影時間の厳密さが求められる場合は,多少の体動は許容して撮影することもあるが,それでもやはり,可能な範囲で微調整すべきである.また前提として,十分な鎮静,タオルやベルトでの外固定が重要である.

おわりに

臨床医,放射線診断医のそれぞれの視点から,小児造影CTにおけるコツを考察した.本稿は筆者の経験に基づいたものであり,適切な撮影方法の構築には,施設間での情報共有が重要と考える.本稿が今後の日常診療の一助となれば幸いである.

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