日本小児放射線学会雑誌
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特集 小児の画像検査のコツ
腸重積症の診断と治療
齋藤 祐貴
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2022 年 38 巻 2 号 p. 92-96

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要旨

腸重積症は小児救急外来でしばしば遭遇する緊急性の高い急性腹症の一つであり,注腸造影および非観血的整復は診断・治療において重要である.しかし,画像モダリティとしてX線透視・超音波検査が,使用する媒体としてヨード造影剤・バリウム・空気が選択肢としてあり,施設ごとでその方法や使用機材が異なる.各施設の環境によって適切な方法を選択すべきではあると考えるが,本稿では当院で実際に行っている方法を例として紹介しながら腸重積の診断と治療について呈示する.

Abstract

The diagnostic approach to childhood intussusception in most cases involves ultrasonography and fluoroscopy. However, controversy remains regarding which type of enema is most efficacious, and methods differ between facilities. This article reviews the imaging diagnosis of intussusception with ultrasonography and enema examination, and presents the method of enema reduction used in our hospital.

腸重積症の病態・概要

腸重積症は口側腸管が肛門側腸管に嵌入し,腸管が重なり合った状態であり,それにより消化管の閉塞を来し,血液還流障害(絞扼)を生じる.小児の腸重積症の大多数が特発性とされ,好発年齢は3歳未満であり,乳幼児期の消化管閉塞の原因として最も多いとされる.その原因の大多数が回腸末端のパイエル板や腫大した腸間膜リンパ節が先進部となる「特発性」であるとされるが,病的な先進部が確認できる場合は,Meckel憩室,良性ポリープ,悪性リンパ腫,重複腸管,IgA血管炎による壁内血腫など原因となる.なお5歳以上では先進病変を伴う頻度が約60%程度と高い1)

腸重積症の病型は嵌入する腸管によって回腸結腸型,回腸回腸結腸型,小腸小腸型,結腸結腸型があり,回腸結腸型が最も高頻度,結腸結腸型は稀であるとされる.また小腸小腸型は,しばしば一過性で整復なしに自然経過で改善することが多い(benign small bowel intussusception)が,一方で病的先進部が多いことも知られている24)

腸重積症を疑わせる臨床所見と画像検査

・臨床所見

腸重積症の症状は典型的には突然発症で,間欠的腹痛・不機嫌・啼泣,嘔吐,血便(典型的にはイチゴゼリー状とされる)が見られる.ただし血便は初発症状としては必須ではなく,認められない場合もあるため,急な間欠的腹痛・不機嫌・啼泣と嘔吐を見たときに腸重積症を考慮して検査を進めていく.

・腹部単純X線写真

腸重積症の腹部単純X線写真の特徴的な所見は右上腹部の腫瘤像(Fig.1)・右側腹部のガスレス像・小腸閉塞を示唆する所見であるが,単純X線写真で腸重積症を診断・除外することはできない.しかし,単純X線写真で腹腔内遊離ガス像の確認をすることは,このあとに控えている画像検査の選択や非観血的整復もしくは開腹手術を行うかの治療方針の決定に関与するため重要である.

Fig. 1 腸重積症の単純X線写真

生後8か月女児 発熱,嘔吐,鮮血便にて受診.

A:腹部単純X線写真では右上腹部に腫瘤状陰影が認められる(矢印).

B:注腸造影では単純X線写真で腫瘤状の陰影が見られた領域でカニ爪様の陰影欠損が認められる(矢頭).

・超音波検査(US)

USによる腸重積症の診断は感度,特異度ともに97%以上と報告されており5),病的先進部の確認や腸管血流の評価も可能である.腸重積症の確定診断はUSもしくは注腸造影で行う.

検査時は,結腸の走行を念頭に置きながら,縦断・横断像にて腹部全体を観察する.腸重積症は,短軸方向で重積を生じた腸管が内筒・外筒を形成し,複数の層が同心円状に並ぶtarget signを示す.さらに長軸像では腸管が楕円形の腫瘤像として描出され,中央部が高エコー,周囲が低エコーを呈し,あたかも腎臓のようにも見えるpseudokidney signが認められる6)Fig.2A, B).target signを認めた場合は長軸で腸管の嵌入を確認し,またカラードプラで血流の有無も確認する.カラードプラで壁への血流が見られない場合は血流障害の存在が考えられるため,高圧注腸の適応を慎重に判断する必要がある.その他,先進病変の有無,腹水の有無などを評価する.

Fig. 2 腸重積症のUSと注腸造影

生後6か月女児.嘔吐・血便にて受診.

A,B:腹部US:短軸像では腸管壁が同心円状に並ぶtarget signを示し(黒矢印),長軸像では中央部が高エコー,周囲が低エコーを呈する腎臓様の所見(pseudokidney sign)が認められる(矢頭).

C,D,E:注腸造影:右上腹部にはカニ爪様の陰影欠損が認められる(白矢印).さらに加圧し腸重積を整復していき,小腸まで造影剤が十分流れ込んでいることを確認して整復を終了としている.

・注腸造影

注腸造影は上記の臨床所見,腹部単純X線撮影,USによって腸重積症が疑われた際に確定診断および非観血的整復術として実施する.手技の詳細については後述する.

・CT

腸重積症におけるCT撮影は被ばくの観点から必須とならないが,急性腹症の鑑別として他の疾患が想定される場合,腸重積症の病的先進部の描出が期待できる場合,腸重積症以外を原因とする消化管閉塞が疑われる場合などはCT(特に造影CT)が考慮される.

注腸造影検査と非観血的整復

腸重積症に対する注腸造影は非観血的整復が主な目的である.ただし全身状態が不良な場合もしくはショック症状,腹膜刺激症状や腹部単純X線写真で遊離ガス像が見られるなど消化管穿孔が疑われる場合は非観血的整復が絶対的禁忌となる.腹部単純X線写真で小腸閉塞の所見がある場合は,絶対的禁忌ではないものの穿孔するリスクを考慮し,実施の有無や回数・圧などを慎重に決定する必要がある3)

注腸造影は,腸重積症の非観血的整復を目的とする場合,充盈像のみで十分であり,緩下剤やポリエチレングリコール製剤などの前処置も必要とはならない.

非観血的整復はX線透視またはUS(あるいはその併用)で観察しながら行う.整復に用いる造影剤については,水溶性ヨード造影剤や空気が主に用いられる.バリウムも選択肢としてはあるがバリウムを用いた際,穿孔を生じてしまうと予後の悪いバリウム性腹膜炎を合併してしまうため6),その実施にはより一層の注意が必要となる.またバリウム使用の欠点としてUS下では音響陰影を生じてしまうことも挙げられる.なお水溶性ヨード造影剤を用いる場合は,造影剤の浸透圧が高く,穿孔時に水分バランスが崩れるなど危険性が高いため,必ず希釈し等張に近づけて用いることが重要である7)

非観血的整復はrule of threesといわれる約80–100 cmの高さから1回3分間加圧を3回繰り返すことが基準となる(rule of threes: three feet high, three minutes, three times).まず注腸造影によって重積腸管にカニ爪様の陰影欠損を認め(Fig.2C),さらに間欠的透視またはUSで重積腸管が整復される様子を観察する.非観血的整復が不成功であった場合は開腹手術が必要となるが,全身状態が良好で先進部が移動している場合は,時間を空けて,再度非観血的整復(DRE: delayed repeated enema)を行うと整復率が高くなるとされる8)

実際の注腸造影・非観血的整復の手順

腸重積症の整復については各施設がその施設ごとの環境,マンパワー等を考慮した上でそれぞれの方法で行っていることと思われる.本項では当院で実際に行っている検査方法を提示し,その中で実施者が気を付けていることなども紹介する.

・準備

X線透視室で使用するチューブや造影剤などを準備していく.Fig.3に当院で使用している器材を提示する.

Fig. 3 当院で腸重積症の注腸造影に用いている器材のセット

バルーンチューブ,生理食塩水(2000 ml),ガストログラフィン®(200 ml),接続用チューブ,カップ,潤滑ゼリー,吸水シート,バケツ

注腸造影は臥位で行うため検査台を水平に倒す.透視装置のX線照射にはX線が患者の上から照射されるオーバーチューブと患者の下から照射されるアンダーチューブの2種類があり,X線が散乱する分布が異なる.オーバーチューブはアンダーチューブと比べて,術者の上半身のリスク臓器への被ばくが多くなってしまうが,X線管球と検査台の間の距離が大きく,作業スペースが確保しやすい利点もある.当院ではオーバーチューブで実施している.

児に対しては,嘔吐に伴う循環血液量の低下・脱水,非観血的整復の合併症などに対処できるように,実施前に静脈ルートを確保しておくことが望ましい.

・チューブ挿入

当院ではチューブは36 Fr.のバルーンチューブを用いている.造影剤を使用する場合,チューブの内部を造影剤で満たし,空気を抜いておく必要がある.児を寝台の上で仰臥位にするが,寝台に児を寝かせた際に児が泣いて暴れてしまうことが多く,転落の危険性も高いため,十分なマンパワーをしっかり確保しておくことも大切である.続いてチューブ挿入のため児の肛門にゼリーを塗り,チューブを5 cm程度挿入し,固定のためのバルーンを拡張させる.バルーンチューブには先端側と後側にそれぞれバルーンがあり,2か所のバルーンで肛門を挟み込むように拡張させる.なお先端バルーンを拡張させる際には,先端バルーンがしっかり腸管内に挿入されていることを確認してから拡張させることに注意する.

・造影剤注入と整復術

当院では非観血的整復は前述のrule of threesに準じて行っており,希釈したヨード造影剤(ガストログラフィン®)を含んだカップの液面を寝台から約90–100 cmの高さに置き,加圧している.造影剤を注入する際にはチューブが抜けてしまわないように注意しながら先端バルーンを肛門に押し付けるように引っ張るとチューブから造影剤がわき漏れしにくくなる.

透視は間欠的に照射し,被ばくを可能な限り減らす努力をする.その際にカップ内の造影剤の液面を観察することで整復が進んでいるか,停滞しているかの目安とすることができる.またUSを併用できる環境であれば,USで観察しながら整復することで被ばく低減が可能となる.腸重積症はときおり瞬時に整復されてしまうこともあるため,カニ爪様の陰影欠損を撮り逃さないように注意したい.

非観血的整復は小腸が十分描出されるまで造影剤が流入したことを確認して完了としている(Fig.2E).またUS併用下であれば小腸内の病変を検索することも有効である.終了時には腸管内に注入した造影剤をチューブから可能な限り吸引して終了とする.

おわりに

当院で実際に行っている方法を紹介した.腸重積症の整復については多くの施設がガイドラインに準じて施設ごとの環境に合ったそれぞれの方法で行っていることと思われるが,日常診療でその方法に迷った際に本稿の内容が役に立てば幸いである.

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