日本小児放射線学会雑誌
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特集 小児呼吸器疾患に対する放射線診断のトピックス
上気道側面X線と喉頭内視鏡の比較
石立 誠人 清水 青葉
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2023 年 39 巻 2 号 p. 54-61

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要旨

小児の上気道狭窄を疑った場合,画像検査の第一選択は上気道側面X線検査である.この検査は簡便に行えるものの撮影条件によっては有用な所見が得られない場合がある.上気道は内腔が変化しやすいため,ダイナミックな評価である喉頭内視鏡検査が診断に有用である.内視鏡検査は実施者に習練が必要であり行える施設は限られるが,麻酔なしで検査でき,CTやMRIよりも簡便に行えるという利点がある.

今回は小児における上気道狭窄の診断において上気道側面X線と喉頭内視鏡を比較し,その役割の違いや特徴について概説する.また,各疾患において両検査の診断率を比較検討した結果を述べる.

Abstract

When upper airway obstruction is suspected in pediatric cases, the primary choice for imaging is lateral radiography of the upper airway. While this examination is straightforward, it may not yield useful findings depending on the imaging conditions. Since the lumen of the upper airway can easily change, dynamic assessment through laryngoscopy is valuable for diagnosis. Laryngoscopy requires trained personnel and is limited to certain facilities, but it offers the advantage of being able to be performed without anesthesia and is more convenient compared to CT or MRI.

In this context, we compare lateral upper airway radiography and laryngoscopy in the diagnosis of upper airway obstruction in pediatric patients, and provide an overview of the differences in and characteristics of their roles. In addition, we will present the results of a comparison of the diagnostic rates of both examinations for various conditions.

はじめに

上気道側面X線検査は,鼻腔から咽頭,喉頭,声門下に至るまでの気道内腔の評価として日常臨床によく用いられている.簡便な検査であるが,一方で胸部単純X線検査のように小児科医が日常的に目にする機会は多くはなく,読影において評価に困ることがよくある.

今回,小児の喉頭内視鏡検査を日常診療として行っている小児呼吸器科医の立場からみた上気道X線の評価について,当科での臨床例の写真とともにみていきたい.上気道X線の陰影の成り立ちを理解し,臨床に役立つような読影の指針について概説する.

小児の上気道の特徴

上気道は解剖学的に気道抵抗が高く,全気道抵抗の65%とされる.気道抵抗は気道内腔半径の4乗に反比例する(Poiseuilleの法則)ため,気道内腔の狭い小児では,成人よりも狭窄症状が出やすく重症化しやすい1)

上気道の最狭窄部は鼻腔であり,浮腫や分泌物の影響を受けやすい.さらに乳幼児早期までの児は口呼吸が困難であるため,鼻腔閉塞により容易に呼吸不全にいたる.

咽頭は,乳幼児では相対的に舌が大きいことや下顎の発達が未熟なため喉頭の前後径が狭いこと,喉頭蓋が軟口蓋に近いことなどから解剖学的に閉塞しやすく,さらにアデノイド肥大や口蓋扁桃肥大の影響を受けやすい.

喉頭の最狭窄部は,声門あるいは輪状軟骨部とされている.

Fig.1に上気道の解剖の模式図と,実際のX線像を示す.

Fig. 1 上気道の解剖とX線

i)上気道の解剖と喉頭内視鏡での観察範囲

ii)5歳児の上気道側面X線(正常像)

上気道狭窄を疑う臨床症状

小児の上気道狭窄を疑う臨床症状としては以下の3通りがあげられる.

①急性の窒息,吸気性喘鳴を伴う呼吸不全

②亜急性あるいは慢性の吸気性喘鳴

③睡眠時無呼吸

それぞれにおいて,考慮すべき疾患としては

①では,感染症(クループ,細菌性気管炎,咽後膿瘍,扁桃周囲膿瘍,喉頭蓋炎),気道異物,外傷,熱傷,アナフィラキシー,喉頭痙攣,声帯機能不全など

②では,喉頭軟化症,喉頭奇形,声帯麻痺,乳児血管腫,声門下狭窄,腫瘍,低カルシウム性喉頭痙攣,気管軟化症,血管輪,気管支原性嚢胞など

③では慢性鼻炎,アデノイド肥大,口蓋扁桃肥大,舌根沈下,小顎症など

があげられる2,3).①については診断と呼吸管理を同時に行う必要があり,救急外来や集中治療室での診療に大きく関わる.診断や治療の過程が大きく違うため今回は割愛し,②,③のシチュエーションにおいての上気道X線検査,喉頭内視鏡検査の果たす役割と有用性,デメリットについて述べる.

1. 亜急性あるいは慢性の吸気性喘鳴

想定される疾患群を考慮すると,声帯運動の評価,分泌物や粘膜表面の状態の評価が必要となるため,喉頭内視鏡検査がゴールドスタンダードであると思われる.上気道X線検査は気道内腔の外の情報として,診断の参考になるものも多い.

2. 睡眠時無呼吸

アデノイド肥大,口蓋扁桃肥大についてはX線検査が簡便で有用である.鼻炎や鼻道の評価については内視鏡が必要である.当施設での検討結果について後述する.

検査の実際(当院での方法)

1. 上気道側面X線

1)撮影方法

立位または坐位で行う.正中矢状面を撮影台に対し平行とする.やや上方を向かせ,閉口,吸気時に撮影する.顎関節の下方2 cmの点に入射する.

2)画像評価

咽頭部の気道が明瞭に観察できる撮影範囲は,鼻腔と口腔の前縁から頸椎までとする.

口腔,軟口蓋,硬口蓋,喉頭を描出する.

3)撮影条件の評価

良好な撮影条件とは,①左右の耳介が一致してみえること,②頸部が前屈していないこと,③閉口であること,④高圧(100 kV)での撮影を行うこと,の4点である.これらの条件がそろわなかった撮影画像は評価が困難なことがある(Fig.2).

Fig. 2 条件の悪いX線写真の例

i)頸部の過度の後屈:喉頭から声門下が見づらい

ii)頸部の前屈:気道の前後径がやや狭くなる

iii)高圧でない撮影:全体的に気道が不鮮明

iv)左右の耳介のずれ:喉頭の構造が不鮮明

2. 喉頭内視鏡検査

1)検査方法

仰臥位にて行う.麻酔は原則として使用しない.呼吸状態が増悪する可能性を考慮し,十分なモニタリングのもとで検査を行う.酸素やジャクソンリースバッグ,口鼻腔吸引の準備を必ず行う.啼泣により嘔吐する可能性があるため,乳幼児では空腹状態で行うことが望ましい.自施設では年齢にかかわらず3時間以上の禁飲食のうえ行っている.検者は患者の頭側あるいは左側の頭部の近い部位に立ち,小児用の細い径の気管支ファイバースコープ(外径2.2 mmまたは2.8 mm)を用いて鼻から挿入する.鼻腔から上咽頭,中咽頭,下咽頭,喉頭,声門,声門下などを観察する(Fig.3).

Fig. 3 喉頭内視鏡正常像

i)鼻腔

ii)後鼻孔~上咽頭

iii)中咽頭

iv)喉頭(吸気時)

v)喉頭(啼泣時)

2)内視鏡の利点

静止画ではみられないダイナミックな画像が得られる.吸気・呼気の両方の状態が観察可能,粘膜表面の状態や分泌物の有無がわかる,体位によっての変化が観察可能などである.これらの特徴を踏まえて実際の検査を行う.

各疾患の画像診断

1. 喉頭軟化症(Fig.4
Fig. 4 喉頭軟化症の図,X線および内視鏡写真

i)中下咽頭腔が扇型に拡大しており(丸部分),それ以下の気道の狭窄が疑われる.

ii)II型喉頭軟化症患者の吸気時の内視鏡写真.披裂部の声門への被さりと喉頭蓋がΩ型にすぼまる喉頭披裂ひだの短縮を認める.

iii)III型喉頭軟化症患者の吸気時の内視鏡写真.吸気時に喉頭蓋が倒れ声門部に引き込まれている.

喉頭軟化症は小児における吸気性喘鳴の最多の原因であり,I型(披裂部型),II型(喉頭披裂ひだ短縮型),III型(喉頭蓋型)に分類される5).一般的には生後2週間程度で低調性の吸気性喘鳴によって発症し,最大生後6か月程度まで症状が増悪する6)

診断は喉頭内視鏡によって行われる.上気道側面X線では下咽頭腔の前後径が拡大して見える場合7)や,特にII型喉頭軟化症では喉頭蓋が肥厚して見えることがあるが撮影のタイミングによるぶれの影響も受けるため参考所見である.

2. 舌根部嚢胞(Fig.5
Fig. 5 舌根部嚢胞のX線および内視鏡写真

i)吸気性喘鳴を主訴に受診した3か月児.舌根部に腫瘤状の陰影を認める(丸部分).

ii)舌根部の嚢胞性病変が喉頭蓋を圧排し気道閉塞を来している.

舌根部に形成される嚢胞性病変には舌根嚢胞,喉頭蓋谷嚢胞,喉頭蓋嚢胞などがある7).喉頭蓋を圧排し二次性にIII型の喉頭軟化症を来たすため,III型喉頭軟化症患者では舌根部嚢胞の有無を確認する必要がある8).上気道側面X線で舌根部に腫瘤状陰影を認めることが診断に有用であるが,嚢胞が小さい場合などは腫瘤状陰影を認めずに下咽頭腔の拡大のみが見られる場合や有意な所見を認めない場合もある.

3. アデノイド肥大,口蓋扁桃肥大(Fig.6
Fig. 6 アデノイド・口蓋扁桃肥大のX線および内視鏡写真

i)いびき,無呼吸を主訴に受診した3歳児.上咽頭後壁にアデノイドと考えられる腫大した軟部組織陰影を認める(矢印).また,中咽頭に口蓋扁桃と考えられる腫大した軟部組織陰影を認める(丸部分).

ii)アデノイドが高度に腫大し,後鼻腔を閉塞している.

iii)口蓋扁桃が左右から腫大し,中咽頭腔が狭窄している.

アデノイド,口蓋扁桃肥大は幼児の口呼吸や睡眠時無呼吸の最多の原因である9).上気道側面X線で後鼻腔から盛り上がるような形態でアデノイドの肥大を認める場合や,中-下咽頭に口蓋扁桃の腫瘤影を認める.

4. 舌根沈下,小顎症(Fig.7
Fig. 7 小顎症のX線および内視鏡写真

i)トリーチャーコリンズ症候群を基礎疾患にもつ気管切開の既往のある6歳児.喉頭の前後径が極端に狭小化している(矢印).

ii)舌根により喉頭蓋が後方へ圧排されており,喉頭内腔が扁平となっている.

舌根沈下や小顎症は基礎疾患のある児で多く,舌根が2次的に喉頭を圧排することで低調性の吸気性喘鳴を呈する.上気道側面X線で下顎の低形成と下咽頭腔の前後径の狭小化を認める.

5. 声門下狭窄(Fig.8
Fig. 8 声門下狭窄のX線および内視鏡写真

i)クループ様の喘鳴を主訴に受診した10か月児.声門下に前後径が狭まる狭窄を認める(丸).

ii)声門下腔に全周性狭窄を認める.

声門下狭窄は吸気性喘鳴の2番目に多い原因であり,先天性(輪状軟骨の形成異常など)あるいは後天性(長期挿管に伴う炎症性気道リモデリングなど)に声門下に狭窄を来たす.臨床的には高調性の吸気性(時に往復性)喘鳴や,感冒時に反復するクループ様症状を呈する6)

診断は喉頭内視鏡,あるいは気管支鏡で行うが,頸部正面X線で声門下の左右非対称な狭窄を認める場合や,上気道側面X線で声門下腔の前後の狭小化を認める場合がある.

上気道X線と喉頭内視鏡所見の比較(当院での検討)

小児においては,上気道X線は喉頭内視鏡検査と比較して多くの施設で容易に行える検査であるが,その有用性を網羅的に評価した研究は検索する限り過去にない.我々は当院で2020年5月から2021年4月に上気道側面X線撮影の後,1週間以内に喉頭内視鏡を行い,X線での診断が困難な病態を除外した44例について,当科医師2名でX線を読影し喉頭内視鏡と上気道側面X線の診断能力の差異を後方視的に検討した.また,撮影条件(①左右の耳介の一致,②頸部が前屈していない,③閉口,④高圧での撮影)が良好であることの診断精度への影響も検討した.結果の数値に関しては,2名の結果を平均し算出した.

結果,年齢の中央値は4か月(0か月~12歳10か月)で,内視鏡診断ではアデノイド・口蓋扁桃肥大を認めたのが18例,その他の器質的異常を認めたのが15例(うち中下咽頭狭窄5例,声帯外転障害4例,喉頭軟化症3例,鼻腔後鼻腔狭窄3例),異常なしが11例であった.アデノイド口蓋扁桃肥大の18例は撮影条件の良否によらず,全例でX線と喉頭内視鏡の診断が一致した.その他の器質的異常に関してはX線と喉頭内視鏡の診断一致率は37%で,撮影条件が良好な場合(4項目を全て満たす場合)でも50%と低値であった(Table 1).

Table 1 上気道X線と喉頭内視鏡所見の比較

i)アデノイド・口蓋扁桃肥大の診断精度

X線撮影条件
良好(4項目一致) 不良
診断一致(例)117
不一致(例)00
診断の一致率100%100%
100%

i)アデノイド口蓋扁桃肥大においてはX線撮影条件の良否に関わらず,全例でX線での診断と内視鏡診断が一致した.

 

ii)アデノイド・口蓋扁桃肥大を除く器質的異常の診断精度

X線撮影条件
良好 不良
診断一致(例)2.53
不一致(例)2.57
診断の一致率50%30%
37%

ii)アデノイド口蓋扁桃肥大以外の器質的疾患においてはX線撮影条件の良否に関わらず,X線診断と内視鏡診断の一致率は低値であった. 

以上より,アデノイド・口蓋扁桃肥大に関してはX線の診断が有用であると考えられるが,その他の器質的異常には内視鏡診断が必要であり,X線は舌根部嚢胞や声門下狭窄などのスクリーニング的な役割を担うと考えられる.

おわりに

小児の上気道側面X線検査は,簡便であり使い方によっては有用な情報を得られる検査である.臨床症状で上気道狭窄が疑われる場合にはスクリーニングとして実施する価値があるが,撮影条件が悪い場合があり,所見を過信してはならない.確定診断においては喉頭内視鏡検査が有用であり,検査ができる専門施設への紹介が望ましい.

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