ケルビズムは,小児期に顎骨膨隆をきたす,稀な常染色体顕性遺伝疾患である.活動期には進行性に発育するが,思春期以降にしばしば退縮傾向となる.治療方針は経過観察から手術まで多岐にわたる.今回,手術介入した兄弟発症のケルビズムの治療経過をCT画像で追跡することができたため,画像所見を中心に報告する.1例は典型的な両側例,もう1例は極めて稀な片側例であった.両症例とも手術により縮小傾向となった.
Cherubism is a rare autosomal dominant disorder that is characterized by bilateral mandibular swelling. It typically develops bilaterally and symmetrically, and tends to regress after puberty. Unilateral involvement of cherubism is extremely rare. Due to its self-limiting nature, treatment options range from observation to surgery. We report two cases of sibling-onset unilateral and bilateral cherubism. Both cases showed a tendency to regress after surgery.
ケルビズムは,小児期に顎骨の膨隆をきたす,稀な常染色体顕性遺伝疾患である1).今回,兄弟発症のケルビズムを経験し,1例は両側例,1例は極めて稀な片側発症例であった.いずれも手術介入され,病変は退縮傾向で経過良好であった.手術前後の変化・治療過程を画像で追跡できた貴重な症例を経験したため報告する.
7歳男児.4,5歳からの無痛性の両頬腫脹を主訴に当院を紹介受診した.家族歴として,母,母方の兄弟,母方の従兄弟に類似症状があり,母以外が小学生時に骨削除術を受けていた(Fig. 1).特記既往やアレルギーなく,血液検査ではカルシウム,リン,アルカリフォスファターゼ,副甲状腺ホルモンは正常であった.
兄弟の母,母方の兄弟,母方の従兄弟にケルビズムの家族歴が疑われた.両側性か片側性かは不明.
初診時の画像所見は以下の通りである.オルソパントモグラフィーでは上下顎に両側対称性の境界明瞭な多房性嚢胞性透亮像を認め,萌出歯の偏位や歯根吸収を伴った(Fig. 2a).CTでは,顎骨内に内部隔壁や皮質骨の膨隆菲薄化を伴う多房性の低吸収域を認めた(Fig. 2b).これら嚢胞性病変は,MRI T1強調画像で筋肉と同程度の低信号,T2強調画像では高信号から低信号が混在し内部は不均一であった(Fig. 2c).拡散強調画像では高信号域を認めなかった.99mTc-methylene diphosphonate(MDP)骨シンチグラフィでは,腫瘤の辺縁に淡い集積を呈した(非提示).
(a)オルソパントモグラフィー:両側の上下顎に多房性の透亮像あり(→).
(b)CT軸位断像:両側の上下顎に多房性の溶骨性病変あり(→).
(c)MRI,T2強調冠状断像:病変は不均一な高~低信号である(→).
以上よりケルビズムを疑い生検し,生検では間質の紡錘形細胞と多核巨細胞が混在する巨細胞性肉芽腫を認め,臨床的にケルビズムと診断した.本人や家族の希望により,骨削除術を施行した.顎骨病変内には肉眼的に白色~暗赤色の易出血性組織が充満していた.組織学的には,生検と同様の巨細胞性肉芽腫を認めた(Fig. 3).
単核紡錘形細胞(→)と多核巨細胞(○)の集簇を認める.異型は認めない.
手術は二期的に施行された.まずは上下顎病変(Fig. 4a)に対し,9歳時に上顎病変に対して掻爬と部分骨削除術が施行され,術直後,溶骨性病変部の縮小を認めた.11歳時CT(Fig. 4b)では,上顎病変はさらに縮小し,骨表面も滑らかとなった.また,頬骨突起や歯槽突起の膨隆部が縮小し,両側上顎洞の含気が増加していた.下顎病変は,両側の筋突起では軽度縮小が見られたが,大部分は残存しており,12歳時に下顎病変の掻爬と部分骨削除術が施行された.12歳時の術後CT(Fig. 4c)では,下顎病変の縮小を認め,骨表面も周囲骨皮質と同様に滑らかになった.上顎病変は更に縮小した.現在も経過観察中である.
(a)8歳,術直前:上下顎の多房性病変あり.
(b)11歳,上顎骨術後:上顎の病変は縮小し,骨表面は骨皮質様に滑らかとなった(→).
(c)12歳,下顎骨術後:下顎部でも同様の病変の縮小が得られた(→).
12歳男児.右頬の無痛性腫脹を母に心配され,当院を紹介受診した.弟同様に特記既往なく,血液検査で副甲状腺ホルモンや電解質の異常は認めなかった.
オルソパントモグラフィーで,右下顎枝に限局する単房性の透亮像を認めた(Fig. 5a).透亮像に隣接する右下第2大臼歯は低位であったが,その他の部位に歯牙の萌芽異常や低形成は認めなかった.CTでは右下顎枝の上記透亮像に一致して単房性の低吸収病変を認めた(Fig. 5b).MRI,99mTc-MDP骨シンチグラフィの所見は症例1と同様であった.家族歴と合わせて,ケルビズムを疑い,12歳時に局所摘出術を施行した.摘出病変の病理組織診断は症例1と同様であり,ケルビズムと診断した.術後13歳時,術部に線維骨硬化を考える石灰化が進行したが,中心に2 mm大の透亮像が残存した(Fig. 6a).14歳時,中心の透亮部の増大があり再摘出術が施行された(Fig. 6b).15歳時,術部の硬化が進行し,透亮像は消失した.左側下顎枝と同様の骨形態へとリモデリングが得られた.15歳までの経過観察中に対側病変の出現は認められていない(Fig. 6c).
(a)オルソパントモグラフィー:右下顎枝に透亮像あり(→).
(b)CT再構成冠状断像:右下顎枝に多房性の溶骨像あり(→).
(a)13歳,術後:透亮性病変の縮小と骨硬化の進行あり,内部に溶骨部が残存 した(→).
(b)14歳,溶骨部は1年前から拡大を認めた(→).
(c)15歳,再手術後 :硬化が進行し,溶骨部は消失した(→).
ケルビズムは1933年にJonesらが兄妹例を初めて報告し,1938年に同一患者の報告で顔貌がルネサンス絵画のcherub(天童子)に類似することから命名した2).常染色体顕性遺伝を示し,発症は2~7歳頃に多く,進行性に顎骨の侵食をきたし,歯牙発生の関与が推定されている3,4).思春期以降に線維・骨組織へ置換され,退縮傾向を示しうるが,増大する報告例もある1).病因は未解明だが,約80%の症例で染色体4p16上のアダプター蛋白SH3BP2(Src homology-3 binding protein 2)遺伝子変異を認め,破骨細胞の活性化や炎症性サイトカイン産生に寄与し,RAS(rat sarcoma virus)-MAPK(mitogen activated protein kinase)経路の活性化による巨細病性病変の形成が推察されている1,4–6).病理では反応性の修復性肉芽腫が主態で,線維血管間質と多核巨細胞を認め,巨細胞肉芽腫に類似する3).Eosinophilic perivascular cuffingと呼ばれる好酸性沈着物も診断の一助とされるが,感度は50%程度で必須ではない3).
頻度は稀で,片側例は極めて稀である.2021年の後方視的レビュー文献では過去に513例が報告されている7).また2023年8月9日時点でPubMedで“unilateral”,“cherubism”で検索し,かつ画像によるフォローアップがなされていた症例は4例で,Table 1に概要を示す8–11).自験例も兄は経過観察で右下顎枝以外の発症がなく,片側例に相当しうる.
稀な疾患であることから,確立された診断基準はなく,画像診断も重要となる.また思春期以降に自然退縮が見られうることや,手術介入で増悪や再燃を認める症例もあることから,治療方針の決定にも難渋することが多く,経過観察される症例も多い5).
まず,診断時に必要な画像所見について述べる.典型例では,活動期には単純X線撮影で境界明瞭で多房性の骨透亮像を認め,CT でも骨皮質を膨隆性に圧排して菲薄化させる多房性の低吸収病変を認め,残存骨は高吸収を呈する.骨皮質の菲薄化や破壊,歯牙の変位,歯根吸収,無形成もしばしば伴う.成熟期では,病変退縮と骨修復の進行を反映し,病変の縮小や高吸収化を認める12).自験例の弟例は,両側上下顎の多房性低吸収病変と多数歯先天欠損や歯牙変位があり,典型例であった.
巨細胞性の溶骨性病変をきたす疾患(褐色腫,RASopathies,巨細胞腫,巨細胞肉芽腫など)が画像上も鑑別疾患として挙げられ,ケルビズムとの鑑別点は以下の通りである6).褐色腫では,顎骨を含む全身骨に単発性あるいは多発性に病変が出現しうるが,副甲状腺機能亢進症に続発する病変であるため,鑑別は容易である13,14).RASopathiesは,RAS-MAPKシグナル伝達経路の関連遺伝子の生殖細胞変異により生じる発生学的な症候群の総症であり,Noonan症候群,神経線維腫症1型などが含まれる.これら症候群を疑う顎骨以外の病変がある場合には鑑別に挙げる必要がある6).巨細胞腫は,単核細胞の間質と豊富な多核巨細胞を特徴とし,下顎での発生は稀(2%未満)で,好発年齢など患者背景が異なる(20~40歳前後に好発し,女性にやや多い)15,16).巨細胞肉芽腫は,組織学的には巨細胞を伴う修復性肉芽腫であり,単発発症のケルビズムとは画像上最も鑑別が困難とされ,家族歴や遺伝子変異が見られない症例では鑑別に難渋する.こちらも好発年齢など患者背景が異なる(10~25歳頃に発症ピークがあり,女性にやや多く,上顎より下顎に好発する)17).
次に,手術介入後の画像所見は様々な報告がある.そもそも一般に確立した手術適応はなく,片側例ではTable 1に示すように手術介入の報告はない.活動期の手術介入では,病変の増悪や再燃を認めた報告や,逆に病変の増大抑制や骨形成促進が得られた報告の両者があり1,4–6),術部の経過観察に画像検査は必須と考えられる.今回我々が提示した症例では,弟では骨皮質様構造の再形成を認めた.兄では残存病変の再燃が見られたが,最終的に下顎枝の硬化が得られている.いずれも経時的な骨硬化やリモデリングを見ていると考えられる.病変の術前後の容量の変化,骨皮質の状態の変化,再発の有無など,経過観察に単純X線写真並びにCTは有効と考えられる.兄は病変が限局していたので全摘出可能であったが,弟は全摘出はできず,可及的摘出ならびに減量に留まっているため,今後も経過観察が必要と考えられる.
発症時期や部位の異なり,手術介入したケルビズムの兄弟例を経験した.手術介入前後の画像検査は診断並びに経過観察に有効と考えられる.
本症例の報告にあたり,本論文の著者全員について,報告すべき利益相反はありません.
本症例の画像は,患者家族の同意を得て使用しています.