2024 年 40 巻 2 号 p. 90-97
先天性サイトメガロウイルス感染はTORCH症候群の中で最多で,新生児300人に1人の頻度と推定される.症候性感染児には生後2か月以内のバルガンシクロビル投与が有効で,頭部画像所見に脳内石灰化や白質病変など異常所見を認めた場合は症候性感染として治療開始が検討される.画像所見は感染時期によって様々であり,また,神経学的予後や難聴との関連が判明している所見もある.本稿では先天性サイトメガロウイルス感染の臨床的事項,画像所見とその鑑別となる疾患について概説する.
Congenital cytomegalovirus (CMV) infection is the most common type of TORCH syndrome, and it is estimated to occur at a frequency of 1 in 300 newborns. For symptomatic infants, the administration of valganciclovir within the first 2 months of life is effective. Treatment initiation should be considered for symptomatic infections, and abnormalities, such as intracranial calcifications or white matter lesions, which are observed on head imaging. The imaging findings vary depending on the timing of the infection, and some findings have been associated with the neurological prognosis and a risk of hearing loss. This article provides an overview of the clinical aspects of congenital CMV infection, including the imaging findings, and the differential diagnosis.
先天性サイトメガロウイルス(cytomegalovirus; CMV)感染はTORCH症候群の中で最も多く,新生児300人に1人の頻度と推定される.胎児期に中枢神経系に浸潤し,影響を及ぼすことがあり,その頭部画像所見の特徴を熟知しておく必要がある.また肝脾腫や点状出血,難聴など何らかの症状を示す症候性CMV感染では,早期のバルガンシクロビル投与が有効である一方,全身所見のないCMV感染でも,頭部画像所見に脳内石灰化や白質病変など異常所見を認めた場合は症候性感染として治療開始が検討される.よって頭部画像所見は,早期診断・早期治療の側面からも重要といえる.本稿では先天性CMV感染の臨床的事項,画像所見とその鑑別となる疾患について概説する.
CMVはベータヘルペスウイルス科に分類され,主に幼児時に感染し,ほとんどが不顕性で潜伏感染する.先天性CMV感染は,CMV感染母体からウイルスが経胎盤的に胎児に感染することで成立する.妊娠中の母体の初感染,もしくは既感染妊婦におけるウイルスの再活性化や,異なるウイルス株による再感染によって生じる.胎児感染のリスクは初感染妊婦で20–40%,既感染妊婦で0.5–2%である.全体としては既感染妊婦からの出生が75%と多い.以前は初感染妊婦からの感染の方が症候性感染や後遺症を来す確率が高いと考えられていたが,近年の研究からは,初感染妊婦と既感染妊婦で差がないことが分かってきた.
出生時に胎児発育不全,肝脾腫,難聴,小頭症,腹水,点状出血などの臨床症状を呈する場合に加え,全身所見のないCMV感染でも,頭部画像所見に脳内石灰化や白質病変など異常所見を認めた場合は症候性感染とされる.症候性感染が20–30%,無症候性感染が70–80%を占める.症候性感染児では無症候性感染児に比べて血中ウイルス量が多く,知的運動発達の遅れや感音難聴などの後遺症率も高い(40–60%).一方で,無症候性感染児でも10–15%で後遺症がみられ,日本では年間約1000人が知的運動発達の遅れや感音難聴などの後遺症を呈すると推察される.
先天性CMV感染の診断は,生後3週間を超えると先天性感染と後天性感染の区別が困難となるため,生後3週間以内に新生児の尿や血液,唾液のCMV核酸検出法によって行う.特に,尿のCMV核酸検出法は簡便で,最も感度が高く(感度93%)1),保険適応である.また,新生児聴覚スクリーニングで要再検になる新生児の約5%に先天性CMV感染児が存在し,新生児聴覚スクリーニングで要再検となった場合は積極的に尿中核酸検査を行うべきとされる.
治療には抗ウイルス薬であるガンシクロビル/バルガンシクロビルが用いられる.ガンシクロビルは6週間の静注が行われ,長期の入院と静脈路の確保が必要となる.一方でバルガンシクロビルは内服薬であるため外来で治療が可能であり,また,ガンシクロビルとの比較試験で優位性が示されている.症候性感染児では,抗ウイルス薬治療によって,後遺症リスクを6割に減少させる効果が期待できる2).一方で,無症候性感染児に対する治療効果はデータが乏しく,現時点では治療は推奨されていない3).
先天性CMV感染児による頭部画像の異常所見は,症候性感染児の方が無症候性感染児よりも高頻度に認められるが,出生時に無症候で,乳児期~小児期(中央値12か月)に知的運動発達の遅れやけいれん,難聴などの症状を呈した先天性CMV感染児の研究では,症候性感染児と同等の頻度が報告されている(Table 1).
CMVは向神経性ウイルスであり,ニューロン及びグリア細胞の起源であるgerminal matrixに好んで感染する.Germinal matrixは,在胎8–10週頃にニューロンとグリア細胞の増殖から始まり,ニューロンは在胎25週頃までに放射状グリア細胞を足場として大脳半球を通って遊走(migrate)し,皮質の組織化や髄鞘形成,シナプス形成などが生じる4).また,小脳の発達は在胎4週頃に始まり,20週頃には基本的な形態になる5).以上より,感染時期によって様々な画像所見を呈する(Table 2).
感染時期 | 画像所見 |
---|---|
妊娠初期~中期前半(~18週) | 重度の皮質形成異常(無脳回,滑脳症) 顕著な脳萎縮と脳室拡大 小脳低形成 |
妊娠第2期以降(13週~) | 上衣下/脳室周囲嚢胞,脳室内隔壁 |
妊娠中期後半(18–24週頃) | 軽度の脳室拡大 多小脳回 小脳異常(±) |
妊娠後期(24週~) | 白質異常信号 |
全ての時期 | 石灰化 |
① 妊娠初期~中期前半(18週頃まで)にかけての感染:ニューロンやグリア細胞の増殖,遊走が障害され,無脳症(agyria)や滑脳症(lissencephaly),多小脳回(polymicrogyria)のような重度の皮質形成異常,顕著な脳萎縮と脳室拡大,小脳低形成などが生じる6).ただし妊娠初期の感染では死産率が約11倍増加し7),画像検査で脳の異常が検出されるよりも前に死産となっている症例も多いと思われる.
② 妊娠第2期以降(13週以降)の感染:上衣下嚢胞(subependymal cyst),脳室周囲嚢胞(periventricular cyst),脳室内隔壁(intraventricular septa)などが生じる8,9).
③ 妊娠中期後半(18–24週頃)の感染:ニューロンの遊走の後期段階または皮質組織化が障害され,軽度の脳室拡大や多小脳回がみられる.また希突起膠細胞(oligodendrocyte)の障害により髄鞘化の遅延やgliosisが生じ,大脳白質病変が生じる.
両側大脳半球の脳回,脳溝の形成不全,および皮質のびまん性肥厚を認め,滑脳症(lissencephaly)を示唆する.また大脳白質の容積減少,脳室拡大を認める.
両側シルビウス裂を中心に脳回の形成不全を認め,皮質白質境界が凹凸不整(いわゆるbumpy cortex )で,多小脳回(polymicrogyria)を示唆する.
皮質形成異常には滑脳症(lissencephaly),多小脳回(polymicrogyria)などがあり,前頭葉やシルビウス裂周囲にみられる多小脳回が最も一般的である.滑脳症は,より早期の感染を示唆し,神経学的予後が不良である.滑脳症は一般的には皮質が肥厚するが,先天性CMV感染では神経細胞の喪失を伴い,皮質が菲薄化することがある13).
2. 大脳半球の容積減少,脳室拡大脳室拡大は大脳半球の容積減少により生じる.胎児MRIでは軽度から中等度(側脳室三角部幅 < 15 mm)であることが多いが,出生後のMRIでは中等度から重度の脳室拡大が症候性感染児の半数近くで認められる14).重度の脳室拡大(側脳室三角部幅 ≥ 15 mm)は,神経学的予後不良と関連する10).
3. 小脳形成異常(Fig. 3)両側小脳の低形成(→)を認める.
小脳形成異常には低形成,異形成があり10,14),CMVによる小脳の顆粒細胞への損傷が原因と考えられている15).
4. 上衣下嚢胞(subependymal cyst),脳室周囲嚢胞(periventricular cyst),脳室内隔壁(intraventricular septum)(Fig. 4–6)胎児MRI(a)にて,両側尾状核視床溝に上衣下に嚢胞(→)を認める.側脳室三角部幅19 mmで,重度の脳室拡大を示唆する.
1歳7か月時のT2強調横断像(b)では,右側の上衣下嚢胞(→)は縮小し,左側は消失している.
胎児MRI横断像(a)では,側脳室下角近傍に脳室周囲嚢胞(*)を認めるが,矢状断像(b)で観察すると形態的にはtemporal horn cystic dilatation(*)に合致する.日齢21のT2強調像横断像(c)では,脳室周囲嚢胞(*)であるが,thin slice trueFISPの矢状断像で観察すると,脳室周囲嚢胞と側脳室下角の間の隔壁には一部欠損(→)を認め,脳室周囲嚢胞,temporal horn cystic dilatationの名称の混同の原因が分かる.
脳室の拡大を認め,左側脳室後角に隔壁(→)が指摘される.脳室内隔壁以外に脳室癒着(ventricle adhesion)とも呼ばれる.
脳室周囲の嚢胞について,上衣下嚢胞,脳室周囲嚢胞,脳室内隔壁以外に側脳室下角の嚢状拡張(temporal horn cystic dilatation),脳室癒着(ventricle adhesion)など様々な表現があり,混同されている.原因は十分に解明されていないが,ウイルスによる直接の細胞障害という説や,血管の炎症による出血や虚血の結果とする説,脳室の炎症とする説などが挙げられている8,9,16).上衣下嚢胞は,尾状核視床溝(caudothalamic groove)などで認められることが多く,経過で縮小・消失する12).脳室周囲嚢胞は側脳室下角近傍に認められることが多く,temporal horn cystic dilatationなどとも呼ばれ,経過観察中に嚢胞が顕在化することがある17).
5. 大脳白質病変(white matter lesions)(Fig. 7,8)日齢8(a)では髄鞘化が未発達で背景の白質も高信号となるため,大脳白質病変の検出は困難である.その後髄鞘化が進行し,5か月後(b)では白質病変(→)が明瞭となる.生後20か月(c)では,白質病変(→)は縮小するが,より明瞭に描出される.
FLAIRにて,両側前頭葉,頭頂葉の皮質下白質や深部白質に多発する高信号病変(→)を認める.また両側側脳室下角近傍に脳室周囲嚢胞(🞯),側頭葉皮質下に白質病変(▶)を認め,先天性CMV感染を疑うことができる.
愛媛大学医学部放射線科 中村壮志先生のご厚意による
大脳白質病変は,T2強調像にて左右非対称性に,びまん性あるいは斑状に高信号を示し,頭頂葉の深部白質に好発する6).側頭葉皮質下の白質病変は特徴的とされ18),先天性CMV感染を考慮すべきである.髄鞘化が未発達な時期は,T2強調像で正常な白質も高信号を示すため,白質病変の検出が難しい.また白質病変は年長児期に縮小し,白質容量の減少や脳軟化の原因にもなる12,17).側頭葉皮質下の白質病変は,感音難聴や神経学的後遺症のリスクと関連する.前頭葉や頭頂後頭葉の白質病変のみが認められる場合は,神経学的に予後良好とされる10,17,19).
Kidokoroらは,周産期は問題なかったが,出生後に知的運動発達の遅れを認め,乾燥臍帯のCMV核酸検査が陽性であった患児30例全例で大脳白質病変を認めたと報告している6).よって,小児期に知的運動発達の遅れなどで撮影されたMRIで大脳白質病変を認めた場合,先天性CMV感染も鑑別に挙げるべきと考える.
6. 脳内石灰化(intracranial calcification)(Fig. 9)重度の脳室拡大と両側脳室壁に沿った石灰化(→)を認める.基底核領域にも点状の石灰化(▶)を散見し,レンズ核線条体血管症(lenticulostriate vasculopathy; LSV)による石灰化が疑われる.
脳内石灰化は,germinal matrixに相当する脳室周囲に好発し,そのほか基底核,視床,大脳白質にみられることがある.妊娠中のいずれの時期の感染でも認められ,経過観察で変化しない12).また,知的運動発達の遅れと有意に関連する13).新生児の脳超音波検査では,レンズ核線条体血管症(lenticulostriate vasculopathy; LSV,メモ)によってレンズ核線条体に沿った線状の石灰化を認めることがある13).脳内石灰化は,超音波検査で検出されることがあるが,頭部CTで確認されることが多く,特に微細な石灰化はthin slice CTで確認すべきである.
LSVは,中大脳動脈の穿通枝であるレンズ核線条体動脈の血管壁の変化で,感染や虚血によって石灰化が生じるとされる.先天性CMV感染の他,染色体異常や周産期の低酸素などの様々な疾患でみられる.新生児の脳超音波検査で視床や基底核に線状または斑状の高エコーとして認められ,新生児の0.4–5.8%にみられる.偶発的に発見された場合は正常な神経学的発達を遂げることもあるが,少なくとも1本の線が2.5 mm以上の重度LSVが脳の構造異常を伴ってみられた場合,先天性CMV感染を考慮する25). |
CT(a)で両側大脳深部白質や,両側基底核に点状の石灰化を多数認める.FLAIR(b)では両側前頭葉皮質下に白質の障害を反映した低信号域(→)を認める.
九州大学 放射線科 菊地一史先生のご厚意による
Aicardi-Goutières症候群は,遺伝性自己炎症性疾患で,I 型インターフェロンを過剰産生するI 型インターフェロン症(type I interferonopathy)である.通常は常染色体潜性(劣性)遺伝で,原因遺伝子として,TREX1,RNASEH2A,RNASEH2B,RNASEH2C,SAMHD1,ADAR,IFIH1 が報告されている.ほとんどが生後1年以内に発達遅延やミオクローヌスなどの神経障害や,発熱や肝脾腫などを呈する.画像所見として,①T2強調像で,前頭葉,側頭葉の脳室周囲の高信号病変,②基底核,深部白質の点状,結節状の石灰化(石灰化は経過で進行することがある),③脳萎縮,④脳室周囲嚢胞が挙げられ,先天性CMV感染と類似する.一方で④脳梁形成異常,⑤半球間嚢胞,⑥異所性灰白質が多いことは先天性CMV感染との鑑別点となる20,21).
2. COL4A1変異関連疾患(Fig. 11)右前頭葉に孔脳症(→)を認め,両側前頭葉に実質の欠損(*)を伴う.両側側脳室上衣下,孔脳症周囲に石灰化(▶)を認める.
COL4A1変異関連疾患は,IV型コラーゲンα1鎖をコードするCOL4A1遺伝子の変異により,全身の基底膜の脆弱性に起因する様々な異常を来すsmall vessel diseaseである.胎児期から成人期まで幅広い時期にさまざまな表現型を呈する.脳血管の脆弱性に起因する脳出血はいずれの時期にも認められるが,周産期から乳児期にかけて最も頻繁に起こり,脳実質内,上衣下,脳室内のいずれにも生じる.また眼球,腎臓,筋肉など血流の豊富な複数臓器の異常や胎児発育不全,溶血性貧血などの多彩な臨床症状を来す.画像所見として①裂脳症,孔脳症,②小脳の形態異常,③点状,線状の石灰化が認められる.石灰化は上衣下や孔脳症の周囲に好発し,そのほか基底核や深部白質にも認められる22,23).
先天性CMV感染による中枢神経への影響は,臨床上重要である.頭部画像診断は病態把握,症候性感染の判断に用いられ,その特徴を熟知することは,先天性CMV感染の早期診断,早期治療に貢献することができる.