日本小児放射線学会雑誌
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特集 第60回日本小児放射線学会学術集会“Think globally, Act locally”より
ここまできた胎児画像診断と治療―胎児手術の現状―
小澤 克典
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2025 年 41 巻 1 号 p. 51-58

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要旨

胎児治療は出生前に症状が進行し胎児死亡や障害を起こす疾患を対象としており,治療の有益性が母児の侵襲や早産のリスクより上回る必要がある.現在の胎児治療は,侵襲度によって経胎盤的薬物治療,超音波ガイド下治療,胎児鏡下手術,開腹直視下手術に分けられる.双胎間輸血症候群(TTTS)に対する胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)と,先天性横隔膜ヘルニア(CDH)に対する胎児鏡下気管閉塞術(FETO)は,欧州を中心にランダム化比較試験(RCT)が実施された.脊髄髄膜瘤(MMC)に対する子宮切開法(open surgery)による胎児手術は,米国でRCTが実施された.胎児胸水に対する胎児胸腔羊水腔シャント術は日本で臨床試験を実施し,保険診療となった.現在,MMCに対するopen surgeryや,重症大動脈弁狭窄症(CAS)に対する胎児大動脈弁形成術(FAV)は国内で臨床試験を実施中である.

Abstract

Fetal therapy should be performed for diseases that progress prenatally and result in fetal death or disability, ensuring that the benefits of treatment outweigh the risks associated with maternal and fetal invasiveness, or preterm delivery. Current fetal treatments are categorized according to their level of invasiveness into transplacental pharmacotherapy, ultrasound-guided procedures, fetoscopic surgery, and open surgery. Fetoscopic laser photocoagulation for twin-to-twin transfusion syndrome and fetoscopic endoluminal tracheal occlusion for congenital diaphragmatic hernia have been evaluated in randomized controlled trials primarily conducted in Europe. In the United States, open fetal surgery for myelomeningocele has been evaluated in a randomized controlled trial. In Japan, fetal thoracoamniotic shunting for fetal hydrothorax has been approved and covered by National Health Insurance following clinical trials. Additionally, clinical trials of open surgery to treat myelomeningocele and fetal aortic valvuloplasty for severe aortic stenosis are currently underway in Japan.

 はじめに

胎児治療は1993年,および2004年の「The Fetus as a Patient」宣言を経て,急速に発展をしてきた.福岡で開催されたThe Fetus as a Patient 2004の宣言は,以下の内容である.

・医師,医療に携わる人々,および社会は,患者である胎児に対して,適正な診断と治療を提供する真摯な義務を有する.

・胎児に対する新しい治療,管理方法の科学的検証,社会的認知の手続きは,小児,成人に対するそれと同等の扱いを受けなければならない.

・胎児に対する診断,治療に際して,母親の人権と判断は充分に尊重されるべきである.

胎児治療の特徴は,この宣言にある「科学的検証」の難しさと「母親の人権と判断」の必要性にある.胎児は母体の子宮内にいるため,検査によって得られる情報が制限される.また,多くの薬剤は妊娠中の安全性データが少ない.そして,胎児への治療は病気でない母体を介して実施されるため,母体やその妊娠に及ぼす影響の説明と,治療への同意が必須である.胎児治療の適応は,出生後の治療では間に合わない,出生前に症状が進行し胎児死亡や障害を起こす疾患を対象とすべきであり,治療の有益性が母児の侵襲や早産のリスクより上回るべきである.現在ある胎児治療を母体の侵襲度から分類すると,侵襲度が低い順から以下の治療方法に分けられる.

・経胎盤的薬物治療

母体に投与した薬物が胎盤を介して胎児に効果を及ぼす治療

例:頻脈性不整脈,徐脈性不整脈

・超音波ガイド下治療

超音波ガイド下に胎児もしくは臍帯や羊水に穿刺する治療

例:胎児胸水,無心体双胎,胎児輸血,重症大動脈弁狭窄症

・胎児鏡下手術

胎児鏡を子宮内に挿入する治療

例:双胎間輸血症候群(twin-to-twin transfusion syndrome; TTTS),selective intrauterine growth restriction(IUGR),横隔膜ヘルニア,下部尿路閉鎖

・開腹直視下手術

子宮を切開し,直視下に胎児手術をする治療

例:脊髄髄膜瘤

 双胎間輸血症候群(TTTS)

一絨毛膜双胎は両児が1つの胎盤を共有するが,基本的にはそれぞれの胎児の血流はそれぞれの胎盤を循環する.しかし,両児の血管が直接,もしくは胎盤のコチルドンを介してつながっていることがあり,それを吻合血管と呼ぶ.直接つながる吻合は動脈-動脈吻合,もしくは静脈-静脈吻合,コチルドンを介してつながる吻合は動脈-静脈吻合である.吻合血管はほぼすべての一絨毛膜双胎に認めるが,約10%の頻度で吻合血管を介した両児間の血流の病的な不均衡を認める.この状態をTTTSと呼んでいる.症状としては血流が減少する供血児(donor)に羊水過少,発育不全などを認め,血流が増加する受血児(recipient)に羊水過多,心機能低下,胎児水腫などを認める.無治療では半数以上で胎児・新生児死亡や出生児の神経学的異常が起こる.TTTSは超音波検査で一児の羊水過多と,もう片方の児の羊水過少によって診断される(Fig. 1).重症度にはQuintero stageが一般的に用いられており,stage Iの羊水過多・過少に加えてdonorの膀胱が描出されないとstage II,donorの臍帯動脈もしくはrecipientの静脈管や臍静脈に血流異常があるとstage III,recipientの心機能が低下して胎児水腫になるとstage IV,胎児死亡に至るとstage Vと分類されている.しかし,recipientの心機能低下はQuintero stage IやIIでも見られ,右室流出路狭窄が見られることもあるため,右室機能を中心とした胎児心機能評価が必要である(Fig. 2).胎児心機能評価としては右室流出路評価が入ったCHOP scoreの他に,Tei-index(myocardial performance index)や房室弁逆流の評価を中心としたCincinnati stagingなどがある.

Fig. 1  TTTSの超音波所見

TTTSの供血児は羊水過少を認め,臍帯動脈の拡張期血流が途絶することがある.受血児は羊水過多を認め,心機能障害のため静脈管の拡張末期血流が逆流することがある.

Fig. 2  TTTS受血児の心機能障害(妊娠19週)

TTTSの受血児は心機能が障害され,三尖弁逆流(左図)や肺動脈弁逆流(右図)が見られることがある.

TTTSに対する胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation; FLP)(Fig. 3)は,妊娠16~27週のQuintero stage I~IVを適応としている.母体の腹壁から受血児の羊水腔にトロッカーを挿入し,トロッカーを通して胎児鏡を子宮内に挿入する,胎児鏡は2 mmと小さいため,一度に子宮内を見渡すことはできず,動かしながら胎盤の表面を観察し,すべての吻合血管を同定する.Donorは羊水過少のために膜が胎盤表面に張り付いていることが多く,両児間の隔膜が折り返しているラインをwhite lineと呼んで吻合血管の位置の同定に役立てている.当院ではYAGレーザーを用いて吻合血管を凝固している.吻合血管の遺残があるとTTTSの症状が改善しなかったり,再発したりすることがある.また,細い吻合血管が遺残すると双胎貧血多血症(twin anemia-polycythemia sequence; TAPS)を起こすこともある.近年は,吻合血管の遺残をなくすため,吻合血管の凝固部をつなぐように胎盤上を端から端まで凝固するSolomon法を用いるようになった1).ランダム化比較試験(randomized controlled trials; RCT)によって,羊水除去のみ実施する胎児管理と比較してFLPは明らかに児の予後を改善させることが示された2).しかし,FLPは前期破水や早産などの合併症を増加させる.FLP後の分娩週数の中央値は33週である,FLPの成績は時代と共に向上し,近年では両児生存が約80%,一児生存が約20%,3歳の神経発達異常は約10%となっている3,4)

Fig. 3  胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)胎児鏡画像

 胎児胸水

胎児胸水は原発性と二次性に分類され,原発性は乳び胸水である.二次性の原因としては感染症や肺分画症,心疾患,染色体異常などがある.原発性乳び胸水の予後は,胎児水腫を合併すると生存率が30~50%と低くなる.胎児胸水の問題点は主に2つあり,1つ目は肺低形成である.早い週数から胸水が貯留することで肺が圧迫され,肺の成長が妨げられる.肺低形成は出生直後から呼吸不全を引き起こす.2つ目は循環障害である.胸水の貯留に伴う胸腔内圧の上昇によって心臓への還流が妨げられ,胎児水腫を起こす.その他,低たんぱく血症なども胎児水腫の原因となる.循環不全や胎児水腫は,胎児死亡の原因となる.胎児胸水を除去することで肺低形成の予防や胎児水腫の改善を目指すことは,生命予後の改善に寄与する.

胎児胸腔羊水腔シャント術(Fig. 4)は,胸水による肺や心臓の圧迫が見られ,単回の胸腔穿刺後に速やかに胸水が再貯留する場合に適応となる.技術的に実施可能であることも含めて,通常は胸水の貯留幅が10 mm以上であることが多い.対象は原発性乳び胸水だが,肺分画症など胸水除去が予後改善に寄与することが分かっている二次性胸水も対象となる.超音波ガイド下に母体腹壁からイントロデューサーを穿刺,胎児の胸腔まで進める.次に,イントロデューサーの内筒を抜去してシャントチューブが先端に設置されたカテーテルを挿入する.シャントチューブが挿入される位置を確認し,カテーテル内のプッシャーを抜去してカテーテル両端のバスケットを開く.最後にイントロデューサーを抜いてくるとシャントチューブがカテーテルから離れて留置が完了する.日本のバスケットカテーテルを用いた胎児胸腔羊水腔シャント術287例の生存率は,胎児水腫で63%,非胎児水腫で100%であった5).カナダのダブルピッグテイルカテーテルを用いた胎児胸腔羊水腔シャント術132例の生存率は65%と同様であり,生後18か月の神経発達予後においては84%が正常であった6)

Fig. 4  胎児胸腔羊水腔シャント術 手術画像

胎児治療をしても胎児水腫例では約4割が予後不良である.その理由の一つとして,原発性胸水と診断されている例の中には遺伝子疾患が含まれていることが近年分かってきた.原因不明の胎児水腫127例の全エクソーム解析をした研究では,37例(29%)に病的遺伝子変異を認めたと報告されている.当院の前方視的研究でも,原因不明の乳び胸水21例中19例に全エクソーム解析を実施し,8例に病的遺伝子変異を認めた.遺伝子変異で最も多いのはヌーナン症候群関連であり,ムコ多糖症VII型やKabuki症候群なども認めた7).胎児水腫の原因が早期に分かれば,より疾患特異的な治療を早くから始めることができるかもしれない.今後の研究の発展が期待される.

 先天性横隔膜ヘルニア(CDH)

先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia; CDH)は横隔膜の欠損孔から腹部臓器が胸腔内に脱出する先天性疾患であり,有病率は出生4000人に1人とされている.妊娠早期から胸腔内に脱出した胃や腸,肝臓といった臓器が肺を圧迫し,肺低形成が生じる.CDHは重症度の幅が広く,軽症例の予後が良好であるのに対し,重症のCDHの生存率は依然として低い.これは重度の肺低形成に対する出生後の治療の限界を示している.

出生前のCDHの重症度予測において,様々な評価法がある.Lung to head ratio(LHR)は健側の肺の断面積を頭囲で除した指標である.肺が小さいほど数値が小さくなり,重症である.LHRは在胎週数と共に変化するため,observed/expected(o/e)LHRが使用されるようになった.o/e LHRはLHRを在胎週数に応じた正常値で除した指標である.他の指標としては肝脱出の有無がある.肝脱出がある方がより重症である.また,胃の位置による分類がある2).北野分類と呼ばれるこの指標は4段階に分かれており,grade 0:胃が腹腔内,grade 1:胃が胸腔内左側,grade 2:胸腔内右側に胃の半分以下,grade 3:胸腔内右側に胃の半分以上となる.

重症のCDHに対して,これまで様々な胎児治療が試みられてきた.胎児鏡下で気管に着脱可能なバルーンを留置して気管を閉塞する胎児鏡下バルーン気管閉塞術(fetoscopic endoluminal tracheal occlusion; FETO)(Fig. 5)は,現在CDHに対して最も実施されている胎児治療である.FETOは,先天性上気道閉鎖症の胎児では肺が過膨張することから考案された.胎児の気管閉塞によって肺胞液が貯留し,肺の拡張が起こると考えられる.Harrisonらは2003年,肝脱出を伴う左側CDHでLHR < 1.4の症例に対して,開腹下で子宮内に5 mmのポートを挿入したFETOのRCTを報告した8).しかし,この試験ではFETO群に早産が多く,対照群の生存率が高かったため,FETOによる生存率の改善は認められなかった.その後,欧州のグループによる後方視的研究でFETOを実施した群の生存率が上昇した.この研究はより重症のLHR < 1.0の左側CDHを対象にしており,母体腹壁から3.3 mmのシースを子宮内に挿入する方法であった.この研究結果を元に,Tracheal Occlusion To Accelerate Lung Growth(TOTAL)試験と呼ばれる国際ランダム化比較試験が実施された.TOTAL試験は2種類の対象から構成された9,10).生存率の改善を目的とした重症の左側CDH(o/e LHR < 25%)に対するプロトコルと,肺の合併症の改善を目的とした中等症の左側CDH(25% ≤ o/e LHR < 35%,または肝脱出を伴う35% ≤ o/e LHR < 45%)に対するプロトコルである.バルーンの挿入時期は,重症CDHでは27~29週,中等症CDHでは30~31週に実施された.バルーンの抜去時期は,重症・中等症ともに34週での実施が計画された.重症例におけるTOTAL試験は,児の退院時の生存率と生後6か月時の生存率がFETO群で40%であったのに対し,対照群では15%であったため,FETOの有効性が示された.中等症の試験単独ではFETOの有効性を示すことはできなかったが,重症例の試験と合わせたデータの解析によって,FETOは中等症と重症の両方において生存率を向上させることが示唆された11).早期にバルーンを挿入したほうが生存率の向上に寄与する可能性があるが,早期にバルーンを挿入すると早産率が上がることが問題である.

Fig. 5  胎児鏡下バルーン気管閉塞術(FETO)胎児鏡画像

日本におけるFETOは,2013年から2016年にかけて,肝挙上を伴う北野分類grade 3(胸腔内右側に胃の半分以上)の重症の左側CDHを対象に,FETOの実施可能性と安全性の臨床試験を実施した12).その後,2018年から重症例(o/e LHR < 25%)のみTOTAL試験に参加した.TOTAL試験は2020年に終了したため,その後は臨床として実施している.対象はTOTAL試験の重症例と同様に設定し,妊娠27週0日~29週6日の重症の左側CDH(o/e LHR < 25%)である.母体に脊椎麻酔を実施し,胎児にはフェンタニルとロクロニウムを筋注する.母体腹壁から4 mmのトロッカーを子宮内に挿入,胎児鏡のシースは3.3 mm,カメラは1.3 mmである.胎児鏡をエコーガイド下に胎児の口腔内に挿入,喉頭蓋を目安に気管内に進め,気管分岐部の手前にバルーンを留置する.バルーンは妊娠34週に胎児鏡下,超音波ガイド下穿刺,またはEx utero intrapartum treatment(EXIT)で抜去される.現在までの重症の左側CDHに対するFETOの成績はTOTAL試験と類似しており,出生後6か月時の生存率は約40%,37週未満の前期破水は約40%,分娩週数の中央値は妊娠36週である.

 脊髄髄膜瘤(MMC)

脊髄髄膜瘤(myelomeningocele; MMC)は先天的に脊椎の一部が欠損し,脊椎の中にある脊髄が外に出ているため,病変より下方の神経が障害される.MMCは腰椎や仙椎に多く,歩行障害や排尿・排便障害を起こす.また,脳全体が下方に落ち込むキアリ奇形による呼吸障害や,脳脊髄液の還流の障害によって生じる水頭症による発達障害などを起こすことがある.

MMCにおける胎児治療は,2003年~2010年に米国でthe Management of Myelomeningocele Study(MOMS)というRCTが実施された13).母体を開腹し,子宮切開(open surgery)によって胎児のMMCを直視下に修復し,子宮を閉創して妊娠を維持する(Fig. 6).この試験の結果では,水頭症に対する脳室-腹腔シャント術(VPシャント)が対照群の82%に対して40%と有意に低く,独立歩行は対照群の21%に対して42%と有意に高かったため,胎児治療の有効性が示された.しかし,合併症として分娩時の子宮創部の離開が10%,常位胎盤早期剥離が6%,羊水過少が21%に生じ,分娩週数は平均34週と早産が多かった.近年はopen surgeryではなくて胎児鏡による胎児治療も実施され始めている.

Fig. 6  脊髄髄膜瘤(MMC)に対する直視下胎児手術 手術画像

日本でも2020年からopen surgery によるMMCの胎児治療の臨床試験が開始された.対象は妊娠19週0日~25週6日の第1胸椎から第1仙椎の脊髄髄膜瘤もしくは脊髄披裂で,後脳ヘルニア(キアリ奇形)がある症例である.

 重症大動脈弁狭窄症(CAS)

重症大動脈弁狭窄症(critical aortic stenosis; CAS)は左室流出路の狭窄によって左室の後負荷が増加し,左室が拡張する.中には左室機能が低下して胎児期に左室内腔が狭小化し,左心低形成症候群(hypoplastic left heart syndrome; HLHS)になっていく例がある.このような対象に胎内で左室流出路狭窄を解除できれば,HLHSへの進行を防ぐことができる可能性がある.こうしてCASに対して超音波ガイド下で実施する胎児大動脈弁形成術(fetal aortic valvuloplasty; FAV)が考案された(Fig. 7).

Fig. 7  胎児大動脈弁形成術(FAV)超音波画像

FAVの適応基準に関しては,2009年にBoston Children’s Hospitalが70例のFAVの結果から二心室循環を獲得するためのFAVの対象選択基準を発表した14).その基準では左室の長軸Z score > −2の他に,threshold scoreとして左室長軸径Z score > 0,左室短軸径Z score > 0,大動脈弁輪径Z score > −3.5,僧帽弁輪径Z score > −2,僧帽弁逆流または大動脈弁狭窄の最大収縮期圧較差≥20 mmHgの5項目のうち4項目以上が当てはまることが必要とされている.つまり,左室が大きくて圧が高い例である.

FAVの成績としては,Boston Children’s Hospitalが対象選択基準修正後の2009年~2015年に実施した52例のFAVの成績を報告し,技術的成功率は94%,そのうち二心室循環の獲得率は59%であった15).欧州では2005年~2012年に6施設でFAVを実施した67例を報告している16).FAVを施行した妊娠週数の中央値は26週(21~34週)で,技術的成功は59例(88%),そのうち生存出生は47例(80%)であった.24例に胎児水腫があり,9例(38%)は胎児水腫が改善した.出生後の治療を受けた43例中19例(44%)で二心室循環を獲得した.合併症として,FAVに関連した胎児死亡を10%に認めている.FAV後の分娩週数の中央値は妊娠38週であった.

日本では2019年から早期安全性試験を開始した.対象週数は妊娠22週0日~31週6日であり,適応はBoston Children’s Hospitalが2009年に発表した基準に合わせている.母体麻酔と胎児麻酔後,超音波ガイド下に18G針を母体腹壁から胎児の左室内に穿刺する.次に穿刺針からガイドワイヤーを挿入し,大動脈弁を通過させる.そして,バルーンカテーテルをガイドワイヤーに沿わせて挿入し,大動脈弁まで進めたところでバルーンを拡張させる.2回の拡張後,バルーンカテーテルは穿刺針と共に抜去する.

 まとめ

現在臨床として,あるいは研究として実施されている胎児治療をいくつか紹介した.近年,胎児を診断・治療することが標準医療になってきた.しかし,胎児治療は健康な母体を介して実施されるため,有益性が母児のリスクを上回るときに正当化される.胎児治療は小児治療に連続しており,一人の子どもに対する治療として連携していく必要がある.正確な胎児診断や胎児治療の成功には,精密な画像検査が必須である.

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