日本小児放射線学会雑誌
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特集 第60回日本小児放射線学会学術集会“Think globally, Act locally”より
造影剤の適正使用と安全性―小児画像診断の立場から―
野澤 久美子
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キーワード: 造影剤, 安全性, 適正使用, 小児
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2025 年 41 巻 1 号 p. 59-63

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要旨

造影剤には様々な種類があり,日常診療に欠かせない存在である.造影剤の使用は画像検査に有益な情報を加えることが多いが,使用に伴う一定のリスクがあり,造影剤毎に使用用途が決められている.安全に検査を施行し,検査をうけた患児が最大限の利益を得るためには,造影剤使用の必要性について検討し,禁忌や使用にあたっての重要な注意事項を正しく理解している必要がある.そのためには,造影剤の安全性に関する重要な情報を定期的に更新し,知識をアップデートすることが重要である.本稿では,CTに用いるヨード造影剤とMRIに用いるガドリニウム造影剤を中心に,造影剤使用の適応や使用の際の注意事項,副作用などのリスクといった基本的事項に加えて,小児特有の注意点や造影剤使用の考え方について述べる.

Abstract

There are many types of contrast agents, which have long been indispensable in daily medical practice. Although the use of contrast agents often adds useful information to imaging examinations, their use is associated with certain risks, and the intended use of each contrast agent is determined. To perform examinations safely and obtain the maximum benefit, it is necessary to consider the necessity of using contrast agents and correctly understand contraindications and important precautions for use. Therefore, it is important to regularly update important information on the safety of contrast agents and update related knowledge. In this article, we focus on iodine contrast agents used in CT and gadolinium contrast agents used in MRI, as well as basic matters such as indications for contrast agent use, precautions to take when using contrast agents, and risks such as side effects. We also discuss precautions specific to children and the concept of using contrast agents.

 はじめに

造影剤の使用は画像検査に有益な情報を加えることが多く,日常診療に欠かせない存在である.しかし,その使用には一定のリスクがあり,安全に検査を施行し,検査をうけた患児が最大限の利益を得るためには,造影剤使用の必要性について検討し,禁忌や使用にあたっての重要な注意事項を正しく理解する必要がある.そのためには,造影剤の安全性に関する重要な情報を定期的に更新し,知識をアップデートすることが重要である.本稿では,CTに用いるヨード造影剤とMRIに用いるガドリニウム造影剤について,造影剤使用の適応や使用の際の注意事項,副作用などのリスクといった基本的事項について,小児特有の注意点を含めて述べる.

 CT用造影剤

1. 造影剤の種類

CTでは非イオン性ヨード造影剤を経静脈的に投与する.日本国内でCT検査に適応を持つ非イオン性モノマーのヨード造影剤一覧をTable 1に示す.ヨード濃度と血管や臓器などの造影効果の関係は,単位時間あたり,単位体重あたり,のヨード投与量(mg/kg/sec)によって決まるので,製剤のヨード濃度が高いことが直接造影効果に結びつくわけではない.CTでは中濃度製剤(300, 320 mg/ml)が中心に使用され,高濃度製剤(350, 370 mg/ml)は成人での心臓CTやCT angiography,高体重のため総投与ヨード量が必要な場合などに,低濃度製剤(150, 240 mg/ml)は投与量の少ない小児や低用量でも造影診断能の高い低管電圧CTやdual-energy CTに用いられることが多い.

Table 1 国内でCT適応をもつ非イオン性モノマーヨード造影剤一覧(2024年6月現在)

一般名 先発医薬品 ヨード濃度(mg/ml) 浸透圧比(生理食塩液比)
イオパミドール イオパミロン 150 約1
300 約3
370 約4
イオヘキソール オムニパーク 240 約2
300 約2
350 約3
イオベルソール オプチレイ 240 約2
320 約2
350(腹部のみ) 約3
イオメプロール イオメロン 300 約2
350 約2
イオプロミド プロスコープ 300 約2~3
370 約3~4

2. 造影剤使用の目的

造影剤を使用する目的は大きく2つあり,第1の目的は臓器や組織間のコントラストを付加することで正常構造と病変との識別を容易にすることで,第2の目的は病変の血行動態を分析し鑑別診断や治療方針の決定,病変活動性の判定などを行うことである.人体の組織は,骨や肺を除き,臓器・血管・神経・筋肉などのCT値が近い範囲(40~70 HU)のため,非造影CTでは正常組織と病変のCT値に差が少なく,病変の認識が困難な場合がある.特に小児では腹腔内脂肪が少ないため,非造影CTでは腸管や血管などの既存構造と病変のコントラストが乏しく,適切な評価が行えないことが少なくない.小児で造影CTを行う目的の多くは,第1の目的である組織間コントラストを増強させることで正常構造と病変の認識を容易にすることである.第2の目的のためには多相撮影が必要となるが,小児で必要となる事例は限られる.CT被ばくが増えることになり,成人でのCT撮影プロトコールを安易に使用することは避けなければならない.

3. ヨード造影剤の生体組織への影響

ヨード造影剤の生体組織への影響として,血影凝固系や血管系(血管緊張,血管内皮への影響),循環系,肺循環や気道抵抗,腎への影響(腎血流・尿生成,尿細管毒性)などがあるが,現在CTで使用される非イオン性造影剤では影響がほとんどない,あるいはあっても著しく少なく,イオン性造影剤に比べて安全に使用できるようになった.しかし,経静脈性投与で最初に高濃度造影剤に曝露される肺では,肺循環や気道抵抗への影響,肺水腫の誘発リスクが少ないながらもあり留意が必要である.その他生体への影響として,造影剤投与時の熱感や疼痛が知られている.造影剤は末梢血管の拡張作用があり,経静脈性投与では疼痛は少なく一過性の熱感がみられる.熱感や疼痛は患者の不快感に加え,撮影時の体動による画質に影響を及ぼす.浸透圧が低い方が不快感は低減する.

4. 造影剤使用の適応の考え方

安全に造影CTを行うために,以下の点につき事前に検討・確認・準備を行う.造影剤の禁忌や注意事項については,製剤の添付文書に詳細な記載があるため,一読することをお勧めする.

1) 診断に造影CTが必要か

肺や骨のように,非造影CTで正常と異常(病変)との区別を判断できる臓器では造影剤使用は必要でなく,腫瘍や炎症性疾患,心大血管疾患や血管系の評価を行う場合は造影剤使用が必要なことが多い.

2) 造影剤使用の禁忌事項の有無の確認

ヨード造影剤使用の禁忌は,①ヨードまたはヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者,②重篤な甲状腺疾患のある患者,の2点である.この禁忌事項のどちらかがある場合は,ヨード造影剤を使用できないので,非造影CT,あるいはMRIなど他のモダリティでの画像検査を行う.

3) ヨード造影剤を使用する上での基本的な注意事項

①ショックの発言に備え,十分な問診を行うこと.

②投与量と投与方法の如何に関わらず,過敏反応を示す可能性があるため,投与の際に必ず救急処置の準備を行うこと.

③重篤な遅延性副作用(ショックを含む)等が出現する可能性があるため,投与中・投与後も患者の状態を十分に観察すること.また,患者本人への注意事項の説明を事前に行うこと.

④造影剤使用による腎機能低下のおそれがあるので,適切な水分補給を行うこと.腎機能が正常であっても,急性造影剤腎症を生じるリスクがある.

4) 特定の背景を有する患者に関する注意

一般状態が極度に悪い患者や,気管支喘息,重篤な心機能障害,褐色細胞腫またはパラガングリオーマの患者およびその疑いのある患者,重篤な腎障害(無尿等)のある患者,重篤な肝障害のある患者,では診断上やむを得ないと判断される場合を除き造影剤を使用しない.このような症例では,造影剤を使用した場合のリスクと診断の必要性を慎重に検討し,やむを得ず造影剤を使用すると判断した場合は起こりうる有害事象に適切に対処できる準備を整えた上で検査をする必要がある.また,そのリスクについての患者あるいはその家族への説明と同意取得も必要である.アレルギー素因(気管支喘息の既往を含む)や腎機能障害(軽度~中等度)の症例は,ヨード造影剤使用の禁忌ではないが,有害事象が生じるリスクが高くなるため,造影剤使用の必要性についての慎重な検討(代替検査についての検討を含む)や,準備等は同様の対応が必要である.

5. 造影剤投与量,検査中の注意点

CTでの造影剤投与量は,非イオン性ヨード造影剤(ヨード濃度300 mg/ml)1.5~2.0 ml/kg,最大投与量5 ml/kg(新生児・乳児は4 ml/kg)または100 ml以下を目安,とされている1).注入速度は造影効果に影響するため,特に心大血管の評価やCT angiography では急速静注が必要となり,注入予定量を20秒~30秒で注入するように設定する.静注方法は自動注入器あるいは用手を選択する.小児では成人よりも細い留置針が選択されることが多いが,24G留置針でも最大流速1.5 ml/秒,最大圧力150 psiの条件での注入が可能との報告があり,20G留置針では成人と同様3~4 ml/秒で注入が可能である.留置針の太さにかかわらず,造影剤静注前に滴下が良好であるか,生理食塩液等をスムーズに用手で注入出来るかを確認することは,血管外漏出などのトラブルを避けるために有用である.

鎮静の有無にかかわらず,造影CTを行う場合は,検査中の生体モニター使用は必須で,造影剤静注後に患者の状態に変化が生じないかを観察する.

6. ヨード造影剤の副作用・有害事象

重篤な副作用(呼吸困難,急激な血圧低下,心停止,意識消失のいずれかあるいは複数の症状のために治療を要する状態)の発現頻度は0.04~0.004%(2.5万例に1例),死亡例は約40万例に1例で,年齢による違いは認められないとされている.

悪心・嘔吐やじんま疹などを含めた副作用全般としては,小児は成人よりも発生率が低いとされている2).しかし,鎮静下に検査を施行する場合は,軽微な反応は認識困難な可能性がある.

副作用に対する対応・治療は成人と同様であるが,治療薬の大まかな体重別投与量を救急カートやCT室に掲示することは,アナフィラキシーショックなど緊急時の対応に役立つ.

造影剤腎症は,造影剤使用により腎機能低下が生じる生体への影響の一つで,一過性で回復することが多いが,重篤化や腎障害が持続する場合がありその予測は難しい.小児における造影剤腎症の発生頻度は低い(1.5%)とされるが,腎機能が正常であっても急性造影剤腎症を起こすことがあるため,安易な使用は慎むべきである3,4).腎機能障害がある場合,造影剤腎症のリスクはより高くなる.腎機能障害がある場合は,「eGFR <60 ml/min/1.73 m2では造影剤腎症のリスクを増加させる懸念があるため,造影剤投与前後での生理食塩液の経静脈投与が予防措置として推奨される」といった成人と同様の対応を行うが,小児の腎機能評価は成人で用いられるGFR推算式をあてはめることは適切ではなく,日本小児科学会,日本小児泌尿器科学会,日本小児腎臓病学会承認の『小児慢性腎臓病(小児CKD):小児の「腎機能障害の診断」と「腎機能評価」の手引き』を参照されたい5).また,生後3か月未満の乳児や新生児は,腎機能が正常であっても腎機能が生理的に未熟であることを留意した上で造影剤を使用する必要がある.

 MRI造影剤

造影剤使用の考え方や副作用は,基本的にはヨード造影剤に準ずるが,MRI造影剤特有の注意点や最近の情報を以下に記載する.

1. 造影剤の種類

MRIで用いる経静脈性造影剤はガドリニウム造影剤とも呼ばれ,国内でMRI経静脈造影剤として販売されている一覧をTable 2に示す.キレート構造は環状型と線状型があり,肝特異性造影剤であるガドキセト酸ナトリウム以外は全て環状型である.

Table 2 国内で用いられる経静脈性ガドリニウム造影剤一覧(2024年6月現在)

一般名 先発医薬品 キレート構造
ガドテリドール プロハンス 非イオン性環状型
ガドテル酸メグルミン マグネスコープ イオン性環状型
ガドブトロール ガドビスト 非イオン性環状型
ガドキセト酸ナトリウム* EOB・プリモビスト イオン性線状型 肝特異性造影剤

*:肝特異性造影剤

2. 造影剤の使用量

製剤毎に決められた使用量(ml/kg)を経静脈性に投与する.CTのような急速静注が必要なことは少なく,また投与量も少ないため,用手で注入することが多い.

3. ガドリニウム造影剤の副作用

重篤な副作用の頻度は1.9万例に1例,死亡例は約83万例に1例といわれている.その症状は,ショックやアナフィラキシー,けいれん発作,腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis; NSF)が挙がる.その他の副作用としては,ヨード造影剤と同様に発疹やじんま疹などの過敏症,頭痛,頻脈,熱感などの注射部位反応があり,いずれも1%未満の頻度である.

NSFは,ガドリニウム造影剤使用後数日から数か月後(時に数年後)に皮膚の腫脹・発赤・疼痛などが急性・亜急性に発症する疾患で,進行すると皮膚の硬化,筋肉表面や腱などに石灰化が生じ,関節が拘縮して高度の身体機能障害に陥る重篤な副作用である.下肢から上肢,体幹部に進展:皮膚,皮下組織,筋肉,横紋筋,胸膜,心,腎などの多臓器に線維化が進行し,死亡例の報告もある.1997年に最初の報告があり,その後透析を必要とするような重篤な腎機能障害患者でのリスクが高いことがわかり,学会活動やガイドラインなどでの啓蒙や注意勧告が進められた.また,線状型ガドリニウム造影剤の頻回投与により,体内の組織にガドリニウムが沈着する事象が生じることが知られるようになった6,7).キレート状態がより不安定な線状型でのリスクが高いことが考慮され,ガドリニウム造影剤使用(量,回数)を必要最低限にとどめることや,環状型造影剤使用の推奨などが進められ,国内で販売されるガドリニウム造影剤は,肝特異性造影剤を除くと環状型のみとなった.そのような変化の中で,NSFの発症は減少し,最新のエビデンスからは,機能障害患者あるいは透析患者であっても,現在国内で販売されているガドリニウム造影剤を使用する限りにおいて,NSFの発生は極めて稀と考えられる状況となった.それに伴い,透析を行う腎機能障害患者におけるガドリニウム造影剤の使用制限は従来よりも緩和された.「腎障害患者におけるガドリニウム造影剤使用に関するガイドライン」で,長期透析が行われている終末期腎障害,eGFRが30 ml/min/1.73 m2未満の慢性腎不全,急性腎不全におけるガドリニウム造影剤使用については,「原則としてガドリニウム造影剤を使用せず,他の検査法で代替すべき病態」とされていたが,改訂後は「可能な限りガドリニウム造影剤の使用を避け,他の検査法で代替することが望ましい病態」と変更され,「他の検査法で代替困難な場合はNSFのリスクを考慮し,ガドリニウム造影剤の適正使用量を守る,繰り返し使用する必要がある場合は可能な限り間隔を空けるなど,十分に注意して投与する.」の文言が追加された.ガドリニウム造影剤については,キレート状態のより安定性の高い,造影能(緩和能)の高い造影剤の開発も進められているが,体内沈着などまだ詳細に解明されていないこともあり,生命予後の長い小児においては成人よりも更に使用適応を慎重に検討する必要があると考えられる.

 終わりに

日常診療に欠かせないCT・MRI造影剤について,第60回日本小児放射線学会学術集会イブニングセミナーでの講演内容を基に,概説した.安全に検査を行うためには,造影剤使用のリスクを知り,必要な準備を整えて検査を行うことは言うまでもないが,造影剤に関する最新の情報を,学会や製薬会社からの広報を通じて適宜アップデートすることも必要である.

文献
  • 1)   ACR Manual on Contrast  Media 2024. ACR Committee on Drugs and Contrast Media. https://edge.sitecorecloud.io/americancoldf5f-acrorgf92a-productioncb02-3650/media/ACR/Files/Clinical/Contrast-Manual/ACR-Manual-on-Contrast-Media.pdf(参照2024/10/24)
  • 2)   Katayama  H,  Yamaguchi  K,  Kozuka  T, et al. Adverse reactions to ionic and nonionic contrast media. A report from the Japanese Committee on the Safety of Contrast Media. Radiology 1990; 175: 621–628.
  • 3)   McDonald  JS. Is contrast-induced acute kidney injury still a risk in pediatric patients? Radiology 2023; 307(1): e222775.
  • 4)   Calle-Toro  J,  Viteri  B,  Ballester  L, et al. Risk of acute kidney injury following contrast-enhanced CT in a cohort of 10 407 children and adolescents. Radiology 2023; 307(1): e210816.
  • 5)  小児慢性腎臓病(小児CKD)承認の「腎機能障害の診断」と「腎機能評価」の手引き編集委員会(編).小児慢性腎臓病(小児CKD)承認の「腎機能障害の診断」と「腎機能評価」の手引き.(承認)日本小児科学会, 日本小児泌尿器科学会, 日本小児腎臓病学会.http://www.jspn.jp/guideline/pdf/20191003_01.pdf(参照2024/5/20)
  • 6)   Balassy  C,  Roberts  D,  Miller  SF. Safety and efficacy of gadoteric acid in pediatric magnetic resonance imaging: Overview of clinical trials and post-marketing studies. Pediatr Radiol 2017; 45: 1831–1841.
  • 7)   Mithal  LB,  Patel  PS,  Mithal  D, et al. Use of gadolinium-based magnetic resonance imaging contrast agents and awareness of brain gadolinium deposition among pediatric providers in North America. Pediatr Radiol 2017; 47: 657–664.
  • ・林 宏光(監修・編著).ちょっと役立つ造影検査に関する話題 CT編 Contrast Media in Practice(ver. 3.0).日本放射線科専門医会・医会.
  • ・桑鶴 良平(監修・編著).ちょっと役立つ造影検査に関する話題 MRI編 Contrast Media in Practice(ver. 2.1).日本放射線科専門医会・医会.
  • ・粟井 和夫.エビデンスに基づくCT用造影剤の投与と安全対策.東京:メジカルビュー,2024.
 
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