日本小児放射線学会雑誌
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症例報告
無痛性の右前頭部進行性骨融解像を契機にGorham-Stout病と診断した男児例
小倉(川上) 愛由 田中 邦昭渥美 ゆかり日馬 由貴岩井 篤小林 健一郎高橋 由紀松原 菜穂子山田 圭介宇佐美 郁哉
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2025 年 41 巻 1 号 p. 71-78

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要旨

ゴーハム・スタウト病(Gorham-Stout disease; GSD)は,異常なリンパ管増生に伴う進行性骨融解を呈する疾患である.今回,局所症状を伴わず進行性に頭蓋骨の骨融解を認めGSDと診断した3歳男児を報告する.

特に既往のない男児.3歳児健診で前頭部の陥凹を指摘され,その後7か月間で陥凹が増加した.頭部CT検査で陥凹部には軟部腫瘤を伴わず,骨硬化像や骨膜反応を欠く辺縁平滑な前頭骨の骨融解像を認めた.MRI検査でT2強調脂肪抑制にて頭蓋骨以外に脊椎骨・骨盤骨・大腿骨に多発性の高信号領域を認めた.後頭骨の高信号部位で骨生検を行いリンパ管の増殖像を認めGSDと診断した.髄液漏とキアリ奇形I型を合併していたためmTOR阻害薬であるシロリムス内服を開始し,その後は骨融解の進行なく経過している.

進行性の骨融解をきたす疾患の鑑別,及び,GSDの合併症評価に詳細な画像検査は有用かつ必須である.

Abstract

Gorham-Stout disease (GSD) is a rare disease characterized by progressive osteolysis with abnormal lymphovascular proliferation. We herein report a pediatric case of GSD presenting with progressive bone absorption of the skull without local symptoms. A three-year-old boy with no remarkable history had a depressive lesion of the forehead at the three-year medical checkup. The number of depressive lesions increased over the next seven months. Computed tomography (CT) of the head revealed osteolysis of the frontal bone without soft tissue involvement, osteosclerosis, or periosteal reaction. Magnetic resonance imaging (MRI) revealed multiple hyperintense lesions on T2 fat-suppression imaging of the skull, vertebrae, pelvis, and femur. GSD was diagnosed by confirming abnormal lymphovascular invasion in a bone biopsy of the occipital bone. Owing to the concomitant cerebrospinal fluid leak leading to Chiari malformation type I, sirolimus, an oral mammalian target of rapamycin inhibitor (mTOR), was initiated to avoid major neurological complications by spiral cord compression. At the 20-month follow-up, sirolimus achieved stability in all altered intensity lesions on MRI. Prompt and detailed radiological examinations are needed to differentiate GSD from other pediatric osteolytic diseases and to assess the risk of complications due to affected bone lesions.

 緒言

ゴーハム・スタウト病(Gorham-Stout disease; GSD)は,1955年にGorhamとStoutが24症例をまとめて報告した,リンパ管増生により進行性骨融解を呈する疾患である1).明確な診断基準はなく,病変部位の骨融解に起因する臨床症状,画像検査,及び,罹患骨の組織学的検査でリンパ管の増生が認められ,内分泌代謝異常,悪性腫瘍や感染症などの他疾患を除外することで診断される.胸郭病変による難治性乳び胸を呈し致死的な症例2)や頭蓋底病変による髄液漏や髄膜炎を反復する症例3)が報告されており,早期に診断し合併症のリスクの評価を進めることが疾患の管理において非常に重要である.しかし,疾患の稀少性のため,小児科医の間でも疾患の認識が十分ではない.今回,進行性の前頭部陥凹から画像検査と生検によりGSDと診断し,シロリムス内服によって骨融解の進行が抑制できた3歳の男児例を経験したため報告する.

 症例

初診時3歳11か月男児

主訴:右前頭部の陥凹

家族歴:リンパ管腫症やその他,悪性腫瘍・骨系統疾患の家族歴なし.

既往歴:生下時に右前頭部に紅潮を認め,サイズの増大はなかったが一過性に紅潮が増悪した後に2歳時に自然消退した(Fig. 1a).運動発達・身体発育の遅れの指摘はなし,特記すべき外傷歴なし.

Fig. 1  生下時の前頭部写真と3歳6か月時の頭部単純X線写真

a:生下時の右前頭部に紅潮(矢印)を認める.b:頭蓋骨全体に copper beaten skull の像を認める.

現病歴:生来健康であり,特に自覚症状は認めていなかった.3歳児健診で右前頭部の陥凹を指摘され,3歳11か月時に当院外来を受診した.頭部単純X線写真を撮像し,頭蓋骨全体にcopper beaten skullの所見を認めた(Fig. 1b).頭蓋内圧亢進を疑う臨床症状を認めなかったため病的所見とは考えられず,経過観察とされた.その後,4歳6か月時に前頭部陥凹が1か所から2か所へ増えたため精査目的に画像検査を行った.

再診時(4歳6か月)の現症:身長92.4 cm(−1.77 SD),体重12.85 kg(−0.23 SD),四肢・体幹の均整は正常であった.体温37.1°C,脈拍112回/分,血圧85/53 mmHg,SpO2 98%(室内気),意識清明であった.右前額部に表面から触診可能な1 cm × 2 cmの陥凹を2か所認めた(Fig. 2a).陥凹底は触知可能であり軟部腫瘤は触知しなかった.その他,胸腹部・四肢に異常所見は認めなかった.

Fig. 2  頭部陥凹部の写真,頭部CT及び頭部MRI T2強調脂肪抑制画像

a:右前頭部に2箇所の皮膚陥凹を認める(点線部).b:頭蓋骨の3D再構築画像.辺縁が整な骨欠損部(矢頭)を認める.c,d(拡大図):頭部CT画像.右前頭部の陥凹部に骨欠損像(矢印)を認める.e,f(拡大図):頭部MRI T2強調脂肪抑制画像.右前頭部の陥凹部に骨欠損と皮下の線状高信号を認める(矢印).

血液・尿検査:血液・尿検査で血清カルシウム・血清リン濃度は年齢における正常範囲内であった.その他,血算・生化学検査に異常所見は認めなかった(Table 1).

Table 1 初診時の血液検査

血算 生化学
WBC 7,200/μl TP 7.6 g/dl TSH 2.99 mIU/L
 Neut 34.0% Alb 4.5 g/dl F-T3 3.68 pg/ml
 Lymph 51.0% T-Bill 0.3 mg/dl F-T4 1.14 ng/dl
 Baso 0.0% AST 26 U/L I-PTH 67.4 pg/ml
 Eosino 5.0% ALT 10 U/L 25-OHD 17.3 ng/ml
 Mono 9.0% ALP 207 U/L
RBC 501 × 104/μl LD 266 U/L
Hb 13.5 g/dl CK 104 U/L
Ht 41.3% BUN 11.3 mg/dl
Plt 52.3/μl Cr 0.32 mg/dl
Na 142 mEq/L
凝固 K 4.3 mEq/L
PT-INR 1.03 Cl 106 mEq/L
APTT 30.9 sec Ca 10.2 mg/dl
Fib 213 mg/dl CRP 0.29 mg/dl
D-dimer 0.9 μg/ml

初診時の血液検査を記載した.血算・生化学検査に異常所見は認めなかった.

画像検査:(4歳5か月)頭部CT検査で右前頭部の陥凹部に一致した骨欠損像を認め,辺縁部に骨膜反応や骨硬化像は認めなかった(Fig. 2c, d).頭部MRI検査脂肪抑制T2強調画像において,陥凹部には皮下に線状の高信号を認めたが明らかな軟部腫瘤像は認めなかった(Fig. 2e, f).また,前頭部の骨欠損部以外にも頭部MRI検査脂肪抑制T2強調画像において右側の後頭骨から側頭骨にかけて高信号を呈する領域を認め(Fig. 3a),頭部CT検査でも同部位に溶骨性変化を認めた(Fig. 3b).同部位では,骨病変の周囲の皮下軟部組織も高信号領域を認めた.また,右側頭骨骨内と直上の皮下組織にも同様の変化を認めた(Fig. 3d, e).加えて,小脳扁桃が脊柱管内に下垂しキアリI型奇形の合併を認めた(Fig. 3f).脊椎造影MRI検査では,T2強調画像で第4頸椎椎体,第2胸椎椎体,第7胸椎椎体,第7頸椎椎弓,第4胸椎椎弓,第3仙椎,右仙骨翼,左腸骨,及び,右大腿骨に高信号を呈する領域を認めた(Fig. 4a–e).

Fig. 3  診断時の頭部CT画像及びMRI

a,c,d:頭部MRI T2強調脂肪抑制画像.①右後頭骨から皮下軟部組織,②側頭骨,③骨病変から隣接する皮下軟部組織,④右側頭骨の骨内,及び,直上の皮下組織に高信号領域(矢印)を認める.b,e:頭部CT画像.MRI画像における高信号領域に一致して溶骨性変化(矢印)を認める.f:頭部MRI T2強調脂肪抑制画像矢状断像で小脳扁桃の脊柱管内への下垂(矢頭)を認める.

Fig. 4  診断時の脊髄MRI画像 T2強調矢状断像

a:上部脊髄.①第4頸椎椎体,②第7頸椎椎弓,③第2胸椎椎体,④第7胸椎椎体に高信号を呈する領域(矢印)を認める.b–e:下部脊髄.⑤第3仙椎,⑥右仙骨翼,⑦左腸骨,及び,⑧右大腿骨に高信号を呈する領域(矢印)を認める.

臨床経過:画像検査上,陥凹部には明らかな軟部腫瘤を伴わず,無痛性で症状を伴わない骨融解像と進行性の経過から GSDを疑った.病理学的なリンパ管増生の確認を目的として,頭蓋骨生検を計画した.MRI検査のT2強調脂肪抑制画像で高信号を呈する右後頭骨から側頭骨,及び,右側頭骨骨内に認められる部位が活動性病変と考え,右後頭骨の骨生検術を実施した.骨生検時の術中所見では病変部骨組織は脆弱で一部硬膜破綻による髄液漏を認めた.病理検査結果では,紡錘形細胞の集簇といった異型性を伴わない一層のCD31/Podoplanin陽性内皮細胞を有する拡張リンパ管の骨内への浸潤像を認めた.画像検査上で検出される乳び胸や腹腔内の他臓器病変は検出されなかった.本邦の厚生労働科学研究費難治性疾患政策研究事業で作成された「血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症 診療ガイドライン2022」(第3版)4)での診断基準に従いGSDと診断した.生検時に髄液漏を合併していたこと,また,キアリ奇形I型を合併が認められていることから,頭蓋骨病変や脊椎骨病変の進行による髄膜炎の発症や脳幹圧迫による神経障害のリスクが高いと考え,mammalian target of rapamycin(mTOR)阻害薬であるシロリムスの内服加療を開始した.シロリムスはトラフ血中濃度が5–10 ng/mlとなるように内服量をコントロールした.シロリムス内服に伴う口内炎・皮疹・間質性肺疾患といった有害事象は認めなかった.シロリムス内服を開始後6か月・12か月後に頭部MRI検査によるフォローアップを行っているが,新規病変の出現や既知病変部の拡大や信号変化を認めておらず,シロリムスによって病勢は抑制できていると考えた.現在,内服開始から2年を経過し,新規症状の出現なくシロリムス内服を継続している.

 考察

GSDはこれまでの報告例が約350症例と非常に稀な疾患である.Angeliniらのsystematic reviewでは,発症年齢の中央値は25歳で,0–10歳の発症例が80例,11–18歳の症例が79例と小児期は好発時期とされる.人種差・性差は認めず,遺伝的素因を含めた発症の要因や誘因は報告されていない5).本症例では,骨融解部に一致し生下時に紅潮を認めサイズの増大は認めなかったが一過性に紅潮が悪化し2歳ごろに消退するという,乳児血管腫(infantile hemangioma)を疑う経過を認めており,発症との関連は不明だが興味深い所見である.罹患骨は,頭蓋骨・顎骨・脊椎骨・骨盤骨の頻度が高いが,全身のいずれの骨にも病変が生じうる.GSDの典型的症状は,骨融解部の疼痛,腫脹,及び病的骨折・変形である.併せて,罹患骨の欠損による局所症状を生じ,頭蓋底や脊椎骨病変では骨融解による瘻孔からの髄液漏が生じ頭蓋内圧の低下による嘔吐・頭痛といった症状とともにキアリ奇形I型を呈することが知られている6).本症例では,骨融解部に局所症状は乏しかったが,生検時に骨融解部からの髄液漏を認めた.キアリ奇形I型を合併していたことから,髄液漏に伴う頭蓋内圧の低下が一定期間続いていたと推定される.局所症状は乏しくとも,特に頭部・脊椎骨では骨融解を疑う所見を認めた場合は画像評価を行い,髄液漏をはじめとする合併症の評価を早期に行うべきと考えられる.

GSDの診断が困難な理由は,疾患の希少性により明確な診断基準が確立されておらず,他のリンパ管奇形との鑑別は臨床症状,画像所見,病理組織学的所見から総合的に判斷する必要があるためである.本症例では,多発性の骨融解像と併せて骨内のみならず骨皮質にも溶骨性変化が認められること,また腫瘤としては明らかではないもののMRI検査脂肪抑制T2強調画像で骨病変の周囲の軟部組織に高信号域を伴うこと,乳び胸を含めて他臓器への浸潤傾向のないこと,及び,病理検査で異型性が認めないことを総合的にGSDと診断した.また,Heffezらは,GSDの診断には遺伝性骨系統疾患,代謝疾患,悪性腫瘍,免疫疾患,及び感染症の除外が必要としている7).除外診断を行う上で,画像検査が中心的な役割を果たす.小児期における骨融解を呈する代表的な鑑別疾患はランゲルハンス組織球症(Langerhans cell histiocytosis; LCH)であり,辺縁の骨硬化像を伴わないbeveled edgeを伴う境界明瞭な骨融解像を呈し,溶骨部に軟部腫瘤形成を伴うことが特徴である8).また,GSDにおいてもactiveな骨融解が進行している病変部では軟部組織に画像上の変化を伴うことが多いとされるが9),骨肉腫,ユーイング肉腫といった骨原発悪性腫瘍,もしくは神経芽腫を含めた悪性腫瘍の転移性病変による溶骨性病変では辺縁不整な骨欠損と新生骨の骨膜への付着による骨膜反応を伴うことが特徴である10).その他,骨欠損と嚢胞性腫瘤を伴う類表皮嚢胞も鑑別診断に挙がるが,類表皮嚢胞は辺縁の骨硬化像を伴う嚢胞性の骨内腫瘤が特徴である11).本症例のように,病変部に軟部腫瘤や骨膜反応がみられず,かつ,辺縁が平滑な進行性の骨融解像は積極的にGSDを疑う有力な所見である.

GSDに対する内科的治療の有効性は定まっておらず,ビスフォスフォネート製剤,ビタミンD製剤,インターフェロンα-2bなどが使用される症例もあるが,いずれも小児期での使用報告は少ない.近年,phosphoinositide 3-kinase(PI3K)/protein kinase B(AKT)/mTOR経路がGSDを含めたリンパ管腫症の進展に関与することが報告され12),mTOR阻害薬であるシロリムスの治療効果が期待されている.シロリムスは,本邦においてもOzekiらを中心とした治験を経てGSDを含めたリンパ管腫症に保険適応となっている13).検索しえた小児期診断のGSD症例に対するシロリムスの報告4例と本症例の臨床的な特徴を比較しTable 2にまとめた1417).報告数は多くはないものの,骨融解の進行抑制効果が複数報告され,本症例も使用開始後2年の間,骨融解の進行抑制効果を認めており,大きな有害事象なく安全に使用可能であった.今後,治療終了のタイミングを検討している.

Table 2 既報のGSDに対するシロリムス使用症例との比較

報告者 Mo AZ et al.14) Cho S et al.15) Hall NS et al.16) Liang Y et al.17) 本症例
年齢 14歳 11歳 10歳 1歳 3歳
性別 男子 女児 女児 男児 男児
初発症状所見 側弯の進行 発熱,咳嗽,呼吸困難(乳び胸) 胸部レントゲンで第9肋骨の欠損 頸部腫瘤 頭蓋骨の陥凹
病変部位 第6頸椎-第12胸椎 第11–12胸椎,肩甲骨,鎖骨,乳び胸 右第9肋骨 大腿骨,鎖骨,乳び胸 頭蓋骨,第4頸椎,第2,7胸椎,仙骨
シロリムス血中濃度 7–13 mg/L 9–12 mg/L N/A 7–13 mg/L 6–11 ng/ml
シロリムスの併用治療 なし プロプラノロール なし 胸腔鏡下手術 なし
治療効果 2年間寛解 2年間増悪なし 2年間寛解 2年間無症状 2年間増悪なし

N/A; not available

小児期診断のGSD症例に対するシロリムスの報告4例と本症例の臨床的な特徴を比較した.

本症例報告において患者・保護者に書面で同意を得た.

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項は特にありません.

 著者役割

小倉(川上)愛由は筆頭著者として,論文の構想,考察,執筆において関与し,出版原稿の最終承認を行った.田中邦昭は直接的指導者として論文の構想,データの収集・分析・解釈に実質的に貢献し,論文作成または知的内容に関わる批判的校閲に関与した.日馬由貴,渥美ゆかりは共著者として論文の構想,考察,執筆において関与し,論文作成または知的内容に関わる批判的校閲に関与し,草稿の修正を行った.岩井篤,小林健一郎,高橋由紀,松原菜穂子,山田圭介,宇佐美郁哉は共同著者として論文の着想と企画に実質的に貢献し,論文の知的内容に関わる批判的校閲に貢献した.また,著者全員が論文原稿の最終版を確認し承認した.

 謝辞

本症例の診断・治療に貴重なご助言を賜りました,兵庫県立こども病院放射線診断科 赤坂好宣先生,岐阜大学医学部附属病院小児科 小関道夫先生に深謝申し上げます.

文献
 
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