2025 年 41 巻 2 号 p. 125-132
小児消化管疾患における画像検査として,単純X線検査,超音波検査,CT・MRI検査,消化管造影検査,消化管内視鏡検査,核医学検査などが挙げられるが,疾患や年齢,放射線被ばくと検査の必要性を考慮し,適切な画像検査の選択が求められる.特に超音波検査はあらゆる年齢の小児患者で施行でき,リアルタイムで情報を得られるため汎用性の高い検査であり,追加検査を行うかの判断材料ともなり得る.代表的な疾患の画像の特徴を把握し画像検査を活用することで,今後の診療の一助となると幸いである.
Various imaging modalities are used in the evaluation of pediatric gastrointestinal diseases, including plain radiography, ultrasonography, CT and MRI, gastrointestinal contrast studies, endoscopy, and nuclear medicine. Selection of an appropriate imaging technique should take into account the specific disease, the child’s age, radiation exposure, and the necessity of the examination. Among the imaging methods, ultrasonography is a highly versatile modality that can be performed across all pediatric age groups and provides real-time diagnostic information. Understanding the characteristic imaging findings of common pediatric gastrointestinal disorders and utilizing appropriate imaging techniques can greatly support future clinical practice.
小児消化管疾患は胃・小腸・大腸と広範囲にわたり,しばしば診断に難渋する.画像検査として,単純X線検査,超音波検査,CT・MRI検査,消化管造影検査,消化管内視鏡検査,核医学検査などが挙げられるが,疾患によって好発年齢があること,年齢によって身体や臓器の大きさが異なること,さらに放射線被ばくと検査の必要性を考慮し,適切な画像検査の選択が求められる.特に超音波検査はあらゆる年齢の小児患者で施行でき,リアルタイムで情報を得られるため汎用性の高い検査である.近年,技術の進歩や人工知能の発達により,画像検査機器の精度は向上し,様々な新機能も開発されている.小児領域でも同様に従来より詳細な情報が得られるようになり,活用の幅が広がっている.本章では,代表的な小児消化管疾患の画像検査について,内科的疾患を中心に提示する.
感染性胃腸炎はウイルス性胃腸炎と細菌性腸炎に分類され,前者は超音波検査で小腸主体の液体貯留と腸管拡張,蠕動低下によるto and fro所見を認める.また,小腸周辺の腸間膜リンパ節腫大を認めることもあるが,他疾患でもみられるため,非特的所見である(Fig. 1).細菌性腸炎は,食餌由来が大半を占め,カンピロバクター,サルモネラ,病原性大腸菌などが原因菌となる.超音波検査で右側結腸優位の浮腫性壁肥厚を認め,血流シグナルの亢進を伴う1).また,腸管出血性大腸菌感染症(O157など)において,腸管壁厚が10 mm径に達する浮腫性壁肥厚と腹水を伴う場合は溶血性尿毒症症候群の発症リスクが高いといわれている(Fig. 2).エルシニア腸炎は,他の腸炎と比較して,終末回腸の壁肥厚が強く,腸管膜リンパ節が球状に近いことを当施設から報告している2).エルシニア腸炎を疑った場合は,低温培養を指示することで検出率が上がる可能性がある.

腸液が貯留した拡張腸管を認め,小腸蠕動は低下している.周囲に複数の腫大した腸管膜リンパ節(矢頭)を認める.

a:カンピロバクター腸炎.第3層を中心に壁肥厚を認める.層構造は保たれている.b:病原性大腸菌O-157による腸炎(溶血性尿毒素症候群発症例).層構造とハウストラは消失し,10 mmを超える著明な壁肥厚を認める.
幼児から学童期に好発する疾患で,皮膚症状(点状出血・紫斑),腹痛を主症状とする3).腹痛が先行する症例や,皮膚症状が判然としない症例では,腹部超音波検査が極めて有用である.超音波像は,胃から小腸にかけスキップ状に病変を呈し,特に胃前底部の病変はほぼ必発である.病変部は限局性に浮腫性壁肥厚を呈し(Fig. 3),時に潰瘍底がみられる.また,血流シグナルは著明に亢進し,腸管膜肥厚を伴うこともある.経時的に腹部超音波検査を確認することは,治療方針を決定する一助となる.血流シグナルが低下している場合や壁のエコー輝度低下がみられる場合は穿孔のリスクが高く,注意深く観察する必要がある.

5歳男児.遷延する腹痛と嘔吐あり入院.血便もみられたため,腹部超音波検査を施行した.回腸壁は著明に肥厚し,層構造は消失している.血流は亢進している(a).治療開始から2日目(b),3日目(c)と経時的に壁肥厚は改善し,蠕動がみられるようになった.
人工乳による食物蛋白誘発胃腸症は,新生児・乳児期に多く,嘔吐・下痢・血便を主症状とし,胃・小腸・大腸に病変を生じうる.いずれも消化管壁の浮腫性壁肥厚を認め,血流シグナルは亢進し,蠕動低下を認める(Fig. 4).超音波検査を用いることで,従来のクラスター分類4)と組み合わせ罹患部位を正確に評価でき,病態に応じた治療選択ができる可能性がある.

日齢14,人工乳栄養の新生児.嘔吐と便回数増加を認めたため,腹部超音波検査を施行した.小腸の浮腫性壁肥厚と血流シグナル亢進がみられ,蠕動は低下している.
小児の炎症性腸疾患(IBD)は潰瘍性大腸炎,Crohn病,分類不能型IBDに分けられ,好発年齢は10歳以降とされる.一方で,6歳未満で発症する超早期発症型IBDとされ,内視鏡所見が非典型的であることから診断に難渋することが多く,遺伝的背景や免疫異常との関連が注目されている.
潰瘍性大腸炎の腸管炎症は大腸の粘膜層内に留まることから,浅い潰瘍病変が主体となる.診断には内視鏡検査が必須であるが,腹部超音波検査を用いることで,他疾患との鑑別や経時的変化を観察することができる.超音波像では,直腸から連続した左側結腸優位の大腸壁肥厚,あるいはハウストラの消失を認める.炎症が粘膜層(第1~3層)に留まることから,第4~5層の構造は比較的保たれていることが多いが(Fig. 5a),超音波像のみでは細菌性腸炎との鑑別が難しい場合も多々経験される.また,経会陰超音波検査での直腸の壁肥厚や血流亢進所見は内視鏡的重症度と相関することを当施設から報告している5).内視鏡検査では,易出血性の細顆粒状粘膜を認める.血便と腹痛症状が急激に悪化する場合は,急性大腸炎や中毒性巨大結腸症などを考慮し,腹部造影CT検査などにより早期診断と介入が必要である(Fig. 5b).

a:10歳男児.3か月間,血便と下痢を繰り返していた.腹部超音波検査で,左側結腸優位に第1層から第3層に壁肥厚と血流亢進を認めた.内視鏡検査で全結腸に小潰瘍を伴う細顆粒状粘膜を認め,潰瘍性大腸炎の診断となった.b:8歳女児.3か月間,腹痛と下痢を増悪と寛解を反復し,1週間の経過で急激に腹痛と血便が増悪しDICをきたした.腹部造影CT検査で多量の腹水と右側優位の全結腸壁の肥厚を認め,一部造影効果の乏しい箇所(矢頭)を認めた.感染症検査は陰性で,潰瘍性大腸炎に伴う急性大腸炎と診断した.
Crohn病は口腔から肛門までの全消化管に非連続性の全層性炎症を生じる.腹痛,下痢,血便などの消化器症状に加え,発熱や成長障害もみられる.小児での好発年齢は潰瘍性大腸炎同様に10歳以降である.全消化管の評価が必要であり,上下部内視鏡検査に加え,小腸カプセル内視鏡検査やダブルバルーン小腸内視鏡検査により小腸の評価も可能となっている.腹部超音波像では,全層性の非連続性炎症を反映し,潰瘍性大腸炎よりも高度の浮腫性壁肥厚を局所的に呈し,炎症が漿膜側を越え波及することで,周囲脂肪織のエコー輝度上昇(creeping fat sign)を認める(Fig. 6).本症の合併症として消化管狭窄をきたすことがあるため,カプセル内視鏡の施行が困難な場合は,ダブルバルーン小腸内視鏡検査や小腸造影検査,MRエンテログラフィーにより評価することができる6).特にダブルバルーン小腸内視鏡では狭窄拡張術が可能である点で優れている.

14歳女子.難治性の陰部膿瘍と成長障害を認めた.腹部超音波検査で,腸管壁肥厚と血流亢進を認め,回盲部に潰瘍と間質エコー輝度の亢進(creeping fat:矢頭)を認めた.内視鏡検査で終末回腸,大腸に縦走潰瘍を認め小腸大腸Crohn病の診断となった.
若年性ポリープは小児期の無症候性血便の80%を占め,好発年齢は3~10歳である.下行結腸からS状結腸に好発するものの全結腸に発生しうる7).まれに腸重積の原因となる.下部消化管造影検査で透亮像が検出されることや,超音波検査で描出されることもあるが,確定診断やポリープ切除を行う場合は下部消化管内視鏡検査が必須となる.超音波像は,有茎性の低エコー腫瘤として描出されることが多く,血流シグナルを認める.内視鏡所見は,表面に粘液や白苔が付着し発赤調の有茎性腫瘤が多く,サイズは数mmのことが多い(Fig. 7).

超音波検査で,S状結腸に内部に嚢胞構造を伴う腫瘤を認め,茎部から腫瘤内に血流シグナルを認める.内視鏡検査では同部位に約5 mm大のIp型ポリープを認めた.
蛋白漏出性胃腸症は血液中の蛋白が消化管内腔へ異常に漏れ出て,低蛋白血症を呈する疾患である.主な原因として,リンパ管の異常,消化管粘障害,血管透過性亢進がある.蛋白漏出性胃腸症を疑った場合,99mTc-human serum albmin-diethylenetrimaminepentaacetic acidを標識とした蛋白漏出シンチグラフィーは,感度70%,特異度93%と早期診断に有用であることが報告されている8)(Fig. 8).

14歳女子.低蛋白血症の精査で蛋白漏出シンチグラフィー検査を施行した.腹部単純X線検査(左)では異常所見は認めず,蛋白漏出グラフィー検査(右)で大腸内に集積を認めた.
消化性潰瘍は小児患者ではまれであるが,胃腸炎後やストレス,薬剤などにより,粘膜障害が起きうる状況下で発症し,腹痛や嘔気,出血が進行すると黒色便や貧血を呈することがある.また,国内の小児では十二指腸潰瘍の約80%,胃潰瘍の約40%にHelicobacter pylori感染症が関与していると報告されている9).画像検査では,腹部超音波検査で粘膜の途絶や浮腫性肥厚を認め,潰瘍底まで確認することも可能であるが,止血処置もできる上部消化管内視鏡検査で診断を行うことが多く,成人と同様のステージ分類を用いる(Fig. 9).

腹部超音波検査で十二指腸球部に限局する浮腫性壁肥厚と潰瘍底(矢頭)を認め,上部消化管内視鏡検査で広範な潰瘍底と拍動性の露出血管(矢印)を認め,内視鏡的止血術を行った.
小児の日常診療で多く遭遇する疾患であり,3歳児での有病率は12%と推定されている.画像検査として腹部単純X線検査,腹部超音波検査,下部消化管造影検査などが挙げられる.腹部単純X線検査では全体の便貯留や腸管拡張,ガス分布を確認できる.直腸骨盤比(正常値<60%)を参考にすると経時的変化がとらえやすい.異常な腸管拡張を認める場合は,Hirschsprung病を念頭に下部消化管造影検査を検討する.また,ガストログラフィンを用いることで便塞栓除去を行うことができる(Fig. 10).

自閉スペクトラム症の4歳男児.偏食と便秘があり内服加療していたが10日間排便なく,腹痛と嘔吐を認めた.浣腸と摘便を行うも便塞栓除去が困難なため,ガストログラフィン注腸を施行した.腹部単純X線検査では直腸内に便塊を認め,下部消化管造影検査では直腸の著明な拡張を認めた.
小児消化器疾患は臨床症状と年齢から鑑別疾患を挙げ,侵襲性と必要性を考慮しながら画像検査を選択していく.緊急性の高い疾患も含まれるため,疾患ごとの画像検査の特徴を念頭におき,診療することが重要である.