日本小児放射線学会雑誌
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特集 肝胆膵・消化器疾患の画像Up Date
小児肝疾患(肝硬変,脂肪肝)―小児期治療のその先に―
服部 真也 羽柴 淳
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2025 年 41 巻 2 号 p. 81-91

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要旨

本稿は小児期発症の肝疾患のうち,Fontan術後肝疾患(FALD),胆道閉鎖症による肝硬変,下垂体機能低下症に伴うMASLD/MASHを概説する.いずれも肝の線維化,肝硬変に至るリスクが高く,小児期から成人期に至る多領域連携と長期経過観察が必要な病態である.FALDはFontan循環に伴って生じる高い中心静脈圧とそれによる慢性的なうっ血が主たる原因であり,肝線維化と肝結節の画像評価が重要である.胆道閉鎖症は葛西手術後にも多くの症例で線維化が進行し,胆管炎,肝内結石や門脈圧亢進症が問題となる.下垂体機能低下症ではMASLD/MASHが好発し,線維化が進行して肝硬変にまで至る例がある.原因として特にGH/IGF-1の低下が示唆されている.非侵襲的に肝の脂肪沈着を定量評価できる手法として,PDFFなどMRIの有用性が注目されている.

Abstract

This article reviews three pediatric-onset liver diseases: Fontan-associated liver disease (FALD), liver cirrhosis caused by biliary atresia, and MASLD/MASH associated with hypopituitarism. All of these conditions carry a high risk of progression to liver fibrosis and cirrhosis, and require multidisciplinary collaborative treatment and long-term follow-up from childhood into adulthood. FALD is mainly caused by chronically elevated central venous pressure in the Fontan circulation, with imaging required for assessment of hepatic fibrosis and nodules. In biliary atresia, hepatic fibrosis often progresses even after a Kasai operation, with complications such as cholangitis, hepatolithiasis, and portal hypertension. Hypopituitarism predisposes a patient to MASLD/MASH, which may advance to cirrhosis, particularly due to reduced GH and IGF-1. MRI techniques, especially PDFF, are promising for noninvasive quantification of hepatic steatosis.

 はじめに

小児に生じる肝疾患は成人とは病因や病態が大きく異なる.中には線維化の進行から肝硬変に至るものがあり,患者の管理や治療介入において画像検査は重要な役割を果たす.本稿では,Fontan-associated liver disease(FALD),胆道閉鎖症による肝硬変,そして下垂体機能低下症(特にgrowth hormone(GH)の分泌不全)によるmetabolic dysfunction–associated steatotic liver disease(MASLD)/metabolic dysfunction associated steatohepatitis(MASH)を取り上げる.これら3つの病態は機序は異なるものの,肝の線維化,肝硬変に至るリスクが高く,小児期から成人期に至る長期的なフォローアップと多領域の診療連携が必要な点が共通する.

 Fontan-associated liver disease(FALD)

1. 疾患概念

Fontan手術は二心室修復が困難な先天性心疾患に対して施行される,解剖学的根治には至らないが長期的な循環維持を目的とした最終段階の循環再建術である.上大静脈と下大静脈を肺動脈に吻合することで,全身の静脈血は心室を介さずに肺動脈に還流され,単一の心室は体循環を担う.心室によるポンプ機能なしに肺循環を維持するためには高い中心静脈圧が必要となり,この非生理的な循環は肝臓に慢性的なうっ血を引き起こす.また,Fontan循環では前負荷が減少することから心拍出量が低下しやすく,組織の低酸素も惹起される.この他に自己免疫反応,慢性炎症,微小血栓形成,リンパのうっ滞などの要素が加わることでFontan手術後の患者には肝の線維化,肝硬変が生じる.これらFontan手術後に生じる肝の構造的,機能的,臨床的変化を包括的に示す概念としてFALDが定義されている1).FALDの診療では,肝の線維化と肝結節の評価がとりわけ重要である.本邦におけるFontan手術後の1,260例を対象とした解析では,肝硬変の累積発生率は術後10年で0.9%,20年で11.6%,30年で25.7%であり,肝細胞癌はそれぞれ0%,0.8%,2.8%といずれも経時的に上昇することが示されている2).また,中心静脈圧は肝硬変,肝細胞癌いずれにおいても発生率との間に相関関係が確認されており,特に15 mmHg以上では発生率が急激に上昇する3)

2. 画像検査

1) 肝のうっ血,線維化,肝硬変

CT,MRIでは肝表面の分葉化,辺縁の鈍化といった慢性肝障害の所見が見られる他,うっ血を反映して下大静脈の拡張を認める.Gd-EOB-DTPAの肝細胞相では肝実質が網目状,モザイク状に不均一に造影される.肝細胞相での造影効果は特に肝静脈周囲で低く,門脈周囲で相対的に強く造影され,“frog spawn-like pattern”(カエルの卵様の外観)と称される.FALDでは中心静脈圧の上昇により門脈から肝中心静脈領域への血流が停滞し,これが類洞のうっ血および虚血を引き起こす.慢性的な静脈うっ滞は肝中心静脈領域から線維化を進行させると考えられており,一方門脈周囲は門脈および肝動脈が供給する酸素分圧が高いため,比較的進行期まで障害を受けにくいとされる.このために,Gd-EOB-DTPAの取り込みが肝静脈周囲で低く,門脈周囲で比較的保たれる特徴的な画像所見を示すのではないかと考えられている(Fig. 14)

Fig. 1  FALD (A)MRI Gd-EOB-DTPA肝細胞相 (B)(A)の拡大 (C)カエルの卵

18歳男性 無脾症,左室型単心室,共通房室弁,肺動脈狭窄,総肺静脈環流異常(type 1b)が背景にあり,3歳時にFontan手術がなされている.

A,B:肝細胞相では,肝実質には不均一な造影効果が見られる.拡大すると,Gd-EOB-DTPAの取り込みは門脈の周囲で保たれており(赤矢印),相対的に強い造影効果を示していることがわかる.門脈を示す低信号(黄矢印)とその周囲の高信号(赤矢印)はあたかも“カエルの卵”のように見える.

C:カエルの卵(https://www.photo-ac.com/より引用).

ウイルス性肝炎やMASLD/MASHでは超音波やmagnetic resonance elastography(MRE)による肝硬度測定の有用性が示されている.しかし,FALDでは肝のうっ血だけでも肝硬度上昇をきたす可能性があり,線維化の程度を正確に評価することができない5).また心不全の病勢によりうっ血の程度や肝硬度が変化すること,肝内での線維化の進行が不均一なため,測定部位によって診断精度が大きく変わる可能性も指摘されている6).FALDにおける肝硬度の非侵襲的な評価方法は今後の課題として残っている.

2) 肝結節

FALDには高頻度に肝結節が生じる.その多くはfocal nodular hyperplasia(FNH)(あるいはFNH-like lesion),肝細胞腺腫といった良性結節である.一方,本邦における大規模な後方視的観察研究によると,術後20年で0.8%にhepatocellular carcinoma(HCC)が生じたと報告されており2),肝結節に対する良悪性の鑑別は重要である(Fig. 2).良性結節とHCCとの鑑別にはGd-EOB-DTPA が有用である.HCCは典型的には肝細胞相で染まり抜け,Gd-EOB-DTPAの取り込みを示すFNHと鑑別できる.FALDに生じたFNHとHCCのMRI所見を比較した研究では,FNHはHCCに対して造影前T1強調像での腫瘍と肝臓の信号強度比が高く,30秒後の動脈相で早期濃染はFNHの方が強く,15分後の肝細胞相での信号はHCCの方が有意に低かった7)

Fig. 2  FALDを背景として生じた肝細胞癌 (A)造影CT後期動脈相 (B)造影CT 平衡相 (C)造影CT門脈相 肺野条件 (D)造影CT門脈相 軟部条件

25歳男性 左心低形成症候群に対して1歳時にFontan手術を受けた既往がある.腹痛を主訴に撮像されたCTで異常を指摘された.

A,B:肝は表面不整で辺縁の鈍化を認める.肝右葉から突出する多結節状の病変が見られる.後期動脈相で早期濃染し,平衡相でwashoutを示している(赤矢印).生検で中分化型肝細胞癌と確認された.脾腫と脾腎シャント(黄矢印)を認める.肝表には少量の腹水がある.

C,D:左肺S10の結節状構造(青矢印)は一見すると肺転移に見えるが,軟部条件のthin section CTで詳細に観察すると,左副腎静脈から供血される脈管構造であることがわかる(桃矢印).左下肺静脈に連続しており(非掲載),VVCと診断できる.

FALDに生じるHCCのサーベイランスとして,2023年に欧州肝臓学会と欧州希少肝疾患ネットワークが共同で以下のように提言している8)

①Fontan手術後10年後からサーベイランスを開始すべき(Fontan循環不全の場合にはより早期に開始する).

②6か月ごとの腹部超音波検査とAFP測定を基本とし,1~2年毎に造影剤を用いたCTまたはMRIを行う(MRIはGd-EOB-DTPAの使用が望ましい).

③画像上悪性が疑わしい1 cmを超える結節には生検を施行すべき.

3) 側副血行路

FALDの診療,画像検査においては,Fontan循環で生じる側副血行路の知識も必須となる.進行したFALDでは門脈圧亢進症から食道静脈瘤や門脈体循環シャントが発生するが,高圧を示す中心静脈から低圧系の肺静脈にバイパスするveno-venous collaterals(VVC)も高頻度に認められる.自験例ではVVCが門脈体循環シャントや肺転移と誤認された例があり(Fig. 2),thin section CTで脈管の連続性を追うなど,丁寧な読影が必要になる.

 胆道閉鎖症による肝硬変

1. 疾患概念

胆道閉鎖症は新生児期から乳児期早期に肝門部および肝外の胆管が炎症により進行性に破壊され,線維性結合織に置換されることで生じる胆汁うっ滞性疾患である.本邦での発生頻度は10,000出生あたり概ね1.3例程度とされる9).病因は単一でなく,環境因子,多因子遺伝または epigeneticsの関与が指摘されている.病理学的には,著明な胆汁うっ滞から肝小葉の門脈域優位に線維化が生じる(これは静脈うっ滞のために肝中心静脈領域から線維化が進行するFALDとは対照的である).進行とともに線維化は不規則に拡大して肝小葉構築の改変をきたし,最終的に肝硬変に移行する.門脈域および周囲において細胆管の著明な増生が見られる点も特徴である.無治療の場合,肝硬変から肝不全へと進行し,生後1~2年で死に至るため,閉塞した肝外胆管組織を全て切除して肝門部と空腸を吻合する肝門部空腸吻合術(葛西手術)が一般的に行われる.生後60日以内の葛西手術は自己肝生存率を向上させることが判明しており,生後30日以内の早期手術の有用性を示した報告もある10)

2. 臨床像

胆道閉鎖症において,肝の線維化,肝硬変への進行が問題となる臨床像は大きく次の2パターンがある.

1) 発見が遅れる例

本邦では母子健康手帳に綴じ込まれる便色カードにより胆道閉鎖症の主症状である淡黄色便を検出する取り組みがなされており,生後1か月前後に多くの胆道閉鎖症が診断される.しかし,遷延性黄疸との鑑別がときに難しく,便色異常が1か月を過ぎて明白になる例もある.このような例では,生後3~4か月頃に黄疸で気付かれることが多く,来院時にはすでに肝の線維化が進行している.生後3~4か月頃に肝脾腫,腹水,門脈圧亢進症による門脈系側副血行路増生が顕著な例では胆道閉鎖症をまず疑う(Fig. 3).

Fig. 3  発見が遅れた胆道閉鎖症(IIIb1μ) (A)(B)腹部超音波 (C)造影CT 門脈相 (D)造影CT 門脈相 冠状断

4か月女児 1か月健診では異常を指摘されず,3か月健診時にはじめて黄疸に気付かれた.近日中に小児科受診を予定していたが,鼻出血が持続するために救急受診.

A:胆嚢は不明瞭で,著明に萎縮している(赤矢印).

B:傍臍静脈の拡張が見られる(黄矢印).肝門部で門脈周囲に高輝度が厚く観察される(緑矢印).

C:脾腫(青矢印)と腹水(桃矢印)を認める.

D:門脈本幹は径2 mmで非常に細い(紫矢印).脾腎シャントを認める(白矢印).

日齢145で葛西手術が行われたが,肝不全に改善は見られなかった.他院に転院の上,日齢159に生体肝移植が施行された.

また,胆道閉鎖症では胆汁酸産生低下や胆汁うっ滞により腸管への胆汁酸の分泌が不十分となり,脂溶性ビタミンであるビタミンKの吸収に障害をきたす.ビタミンK吸収障害による病的出血は胆道閉鎖症の約9%に観察され,発症は平均62.1日であった10).生後2か月前後で発症する原因不明の出血は胆道閉鎖症を鑑別に加える必要がある.

2) 葛西手術後に肝の線維化が進行する例

生後60日以内の葛西手術は自己肝生存率を向上させるが,ほとんどの症例は術後も肝の線維化が進行する.The Japanese Biliary Atresia Registry(JBAR)によると,1989年から2021年の間にレジストリに登録された3,777例の20年全生存率は87.1%,自己肝生存率は44.9% であった10).長期生存例の多くが肝不全や繰り返す胆管炎のために肝移植を必要とする状態にあるが,特に成人期にドナー不足や合併症のコントロール不良から移植のタイミングを逸して死亡する症例があり,臨床的な課題となっている(Fig. 411)

Fig. 4  胆道閉鎖症術後,胆汁うっ滞性肝硬変,肝内結石,門脈肺高血圧症 (A)造影CT平衡相 (B)造影CT平衡相 冠状断 (C)(D)造影CT動脈相 (E)MRI 脂肪抑制T1強調像 (F)MRI Gd-EOB-DTPA肝細胞相

28歳女性 日齢57に胆道閉鎖症(IIIb1ν)に対して肝門部空腸吻合術(駿河II法)を施行.胆管炎を繰り返している.

A:右葉は著明に萎縮しており,下大静脈(赤矢印)が引き攣れて大きく右側に偏位している.右肝静脈(黄矢印)は肝辺縁近くを歪んで走行している.

B:十二指腸水平脚の周囲には,上腸間膜静脈から分岐し,下大静脈に排血する著明な門脈体循環シャントを認める(緑矢印).

C,D:肺動脈と右室,右房の拡張が著明(青矢印)で,心室中隔の扁平化を認める(桃矢印).右心負荷を示唆する所見.心膜液が貯留している(紫矢印).

E:肝門部の拡張した肝内胆管には高信号を示す肝内結石が多数描出されている(白矢印).著明な脾腫を認める(赤矢印).

F:肝細胞相で肝S1にGd-EOB-DTPAをリング状に取り込む15 mmの結節が見られる(黄矢印).FNH(FNH-like lesion)や肝腺腫が疑われたが,生検せずに経過観察の方針となった.

繰り返す胆管炎と門脈肺高血圧症のために肝移植待機中であったが,ドナーが見つからず,31歳時に右心不全で永眠された.

3. 画像検査

胆道閉鎖症を診断するための画像所見は他稿に譲り,ここでは胆道閉鎖症による肝の線維化,肝硬変とその合併症を扱う.

1) 肝の線維化,胆汁うっ滞性肝硬変

肝辺縁は鈍,表面は不整で,肝実質は粗造になる.外側区域や後区域に著明な萎縮を認めることがある.特に肝辺縁部の萎縮が強くなるため,肝内門脈や肝静脈の末梢部分の走行が歪む.超音波では門脈周囲にびまん性に高輝度が見られる.これらは胆汁うっ滞性肝硬変の画像的特徴であり,胆道閉鎖症に特異的な所見ではないとされるが,思春期から若年成人で著明な肝の変形をきたす疾患は胆道閉鎖症以外にあまりない.この他,胆道閉鎖症では肝内門脈の狭小化をきたす例があり(Fig. 3),肝移植時に門脈再建を要することもある12)

2) 肝内胆管拡張,肝内結石

葛西手術後に胆汁のうっ滞から肝内胆管拡張をきたすことがある.胆汁うっ滞,肝内胆管の拡張は胆管炎や肝内結石を惹起する.胆管炎は肝内結石形成の素地となり,逆に肝内結石も胆汁うっ滞をきたして胆管炎の原因となるため,相互に影響することで悪循環に陥る.肝内結石の大部分が胆汁うっ滞と胆道感染に起因するビリルビンカルシウム結石であるため13),MRIのT1強調像にて高信号に描出される(Fig. 4).

3) 門脈圧亢進症

胆道閉鎖症術後には高頻度で門脈圧亢進症を認め,食道・胃静脈瘤をはじめとした門脈系側副血行路の発達,脾腫をきたす(Fig. 4).胆道閉鎖症術後に中央値5.5歳で最初の静脈瘤出血が見られたとする報告もある14).内視鏡による観察は静脈瘤の治療も兼ねることができ有用だが,一方で麻酔,鎮静に伴う合併症や,出血,穿孔などのリスクは無視できない.より低侵襲な画像検査で内視鏡を代替できるか,画像検査,血液検査を組み合わせて出血リスクの層別化が可能かは今後明らかにすべき課題である.

門脈圧亢進症は肝肺症候群,門脈肺高血圧症を惹起し,これらの併存は肝移植の適応にも影響する.呼吸症状や酸素化の経過観察は重要で,必要に応じて心臓超音波,肺血流シンチグラフィなどで精査を行う.門脈肺高血圧症に関してはCTや単純X線写真による右心負荷所見が診断のきっかけになることもあり(Fig. 4),肝,脾,門脈系のみならず,胸部にも注意を払う.

4) 肝結節

長期的生存例が増えるに従って様々な肝結節が生じることがわかってきている(Fig. 4).FNH(FNH-like lesion)の頻度は3.8%と比較的高く,肝腺腫の発生もある.さらに,悪性腫瘍として肝細胞癌,肝内胆管癌の発生も報告されており,長期生存例ではAFPなどの腫瘍マーカーと画像検査を組み合わせた腫瘍サーベイランスが必要になる15)

 下垂体機能低下症によるMASLD/MASH

1. 疾患概念

2023年6月,国際コンセンサス会議で,non-alcoholic fatty liver disease(NAFLD)はmetabolic dysfunction–associated steatotic liver disease(MASLD)に,non-alcoholic steatohepatitis(NASH)はmetabolic dysfunction associated steatohepatitis(MASH)に名称が変更されることが決定した.本稿では基本的には新名称に準拠して記載しているが,過去の文献を参照する際には旧名称が用いられている場合が多く,用語の対応関係に留意する必要がある.MASLDは肝臓への過剰な脂肪蓄積に起因する慢性肝疾患であり,小児でも成人と同様,インスリン抵抗性,肥満,脂質異常症などの代謝異常と関連している.MASLDの中でも脂肪沈着に加えて炎症と細胞障害を伴い,線維化が進行しやすい病態をMASHと呼ぶ.

MASLD/MASHは様々な内分泌機能異常を背景にして発症することがあり,近年小児期に生じた下垂体機能低下症でMAFLD/MASHの発症リスクが高いことが問題視されている(Fig. 5).小児期発症の下垂体機能低下症76例と年齢およびbody mass index(BMI)を一致させた対照群74例とを比較した研究では,下垂体機能低下症では対照群に比べてNAFLDの有病率が高いことが示された.この研究では,下垂体機能低下症の原因として頭蓋咽頭腫が最多であり,29例(38.1%)を占めていた16).North American Society of Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition(NASPGHAN)の小児NAFLD診療ガイドラインにも下垂体機能低下症はNAFLD/NASH,肝硬変のリスクとして明記され,早期のスクリーニングが推奨されている17).視床下部障害による過食の他,複数のホルモン欠乏による脂肪分布の変化や肝臓での脂質代謝異常が重層的に作用すると推測されるが,その中でも,growth hormone deficiency(GHD)とinsulin-like growth factor-1(IGF-1)の低下が肝の脂肪化,線維化のリスク因子であることが示唆されている16).GHは脂肪分解を促進し,肝臓の脂質取り込みを抑制する作用を示す.GHDにより,肝臓での中性脂肪の合成増加,脂肪組織からの遊離脂肪酸の流入増加,very-low-density lipoproteinの分泌低下により脂質輸送が障害され,肝の脂肪化が進行する.IGF-1はGH依存的に肝臓で産生されるホルモンであり,この低下によりインスリン抵抗性の増悪から肝の脂肪化が増強する.IGF-1は抗炎症作用も示すため,IGF-1低下によって肝細胞の炎症,線維化が惹起される18).GH/IGF-1は単に成長を促進させるだけのホルモンではなく,GHDは成人期においても体脂肪の増加,筋肉や骨塩量の減少,脂質異常症などをきたすことが知られている.MASLD/MASHもこうした代謝異常の一環と捉えることができる.「小児期に発症したGHDの患者は,成人身長到達後に再検査を行い,GHDの持続があれば治療継続を検討すべき」という推奨もあり19),移行期から成人期における治療継続の重要性が強調されている.

Fig. 5  頭蓋咽頭腫術後,汎下垂体機能低下症により生じたMASH,肝硬変,門脈圧亢進症,肝肺症候群 (A)MRI造影後T1強調像 矢状断 (B)腹部超音波 (C)造影CT門脈相 (D)99mTc-MAA肺血流シンチグラフィ

11歳男児 5歳時に頭蓋咽頭腫に対して開頭腫瘍摘出を施行.術後にGH分泌不全が判明していたが,成長率の低下がなかったため,当時はGHが保険適用外で使用できなかった.

A:5歳時の頭部MRIでは視床下部に嚢胞と造影される充実成分が混在した腫瘍を認めた(赤矢印).第三脳室を閉塞させ,水頭症を呈している(黄矢印).摘出され,頭蓋咽頭腫(エナメル上皮腫型)と診断された.

B:11歳時の超音波では,肝実質はびまん性に高輝度を呈し,肝腎コントラストが増強している.他院で肝生検がなされ,肝硬変の診断となった.

C:肝腫大と脾腫(緑矢印)がある.傍臍静脈の拡張(青矢印),脾腎シャント(桃矢印)を認め,門脈圧亢進症が示唆される.

D:酸素化不良の精査として撮像された肺血流シンチグラフィでは淡く両腎が描出されており(紫矢印),右左シャントが示唆される.シャント率は13.75%の高値で,肝肺症候群の診断となった.

2. 画像検査

MASLD/MASHは線維化が進行する前に治療を開始すれば,病態を改善できる可能性が示唆されているが,無症候性に経過することがほとんどであり,肝酵素の軽度上昇や肥満のスクリーニングのみでは早期診断に限界がある.画像検査は非侵襲的に肝の脂肪沈着を評価でき,有用性が示されている.近年,超音波でも定量化が可能になりつつあるが,本稿では高い再現性を持って評価可能なMRIに焦点を当てる.

1) MR spectroscopy

水分子と脂肪分子のプロトン信号を単一のvoxelから取得し,スペクトラム上にピークとして表示する.他の画像検査の精度を評価するためにreference standardとして広く使用されてきたが,肝生検と同様にsampling biasの制限がある20)

2) Proton density fat fraction(PDFF)

水分子と脂肪分子のプロトンの共鳴周波数のわずかな差を利用して脂肪比率を定量する手法である.体内の脂肪は複雑な分子構造のために複数の共鳴周波数ピークを持つため,実際の解析アルゴリズムにはmulti-peak構造が組み込まれている.この他,flip angleを可能な限り小さくしてT1の影響を最小化し,T2*減衰を加味して補正を行う.これらの交絡因子を補正し,影響を最低限に抑えることで,PDFFでは肝の脂肪比率を定量化できる(Fig. 620,21).PDFF map上でのregion of interest(ROI)の置き方に定まった方法はないが,大血管,病変,アーチファクト,肝辺縁を避けつつ,脂肪沈着が疑われる代表的な領域を可能な限り大きなROIを置いて(あるいは直径2 cm以上の円形ROIを3~4個配置して)計測する20,21).成人領域ではPDFFはすでに肝生検に代わる最も精度の高い肝脂肪化評価法と考えられており,肝生検を施行せずにPDFFの変化をエンドポイントとするような治験デザインもなされている22).小児領域においてもその有用性を示す報告が複数あり,これまでMASLD/MASHの評価に用いられてきたALTなどの生化学検査やBMI,腹囲といった指標に加え,肝脂肪沈着をより直接的かつ客観的に画像評価できるようになってきている.今後は,治療効果判定や経過観察の指標としてPDFFの応用が期待される.

Fig. 6  頭蓋咽頭腫術後,汎下垂体機能低下症,中枢性尿崩症,GHDに対して撮像した肝PDFF (A)MRI 3D-T1強調像 矢状断 (B)MRI PDFF(C)MRI water image(D)BとCのfusion

7歳女児 2歳時に頭蓋咽頭腫(エナメル上皮腫型)に対して内視鏡下経鼻頭蓋底アプローチによる腫瘍摘出術がなされた.腫瘍再発なく,4歳よりGH補充療法を開始.

A:腫瘍の再発は指摘できない.第三脳室底に破壊性変化が見られる(赤矢印).下垂体前葉は菲薄化しており(黄矢印),下垂体柄と後葉は不明瞭.

B~D:主要血管と肝辺縁を避けつつ,円形ROIを4つ配置している.ROI 1~4の値はそれぞれ,3.9%,3.5%,4.0%,3.6%(平均で3.8%)と計測された.

小児脂肪肝の診断カットオフ値として6%が最適とする報告がある23).この基準を採用すると,本症例は脂肪肝には当てはまらない.7歳時点でのIGF-1値も221 ng/mlと基準値内であり,GH補充療法の有効性が示唆される.

 おわりに

本稿では,小児期に発症し肝の線維化,肝硬変に進行する病態として,FALD,胆道閉鎖症に伴う肝硬変,下垂体機能低下症に伴うMASLD/MASHを概説した.画像検査は全身管理の一環として肝病変および関連する病態を適切に把握し,予後改善や合併症の予防につなげる上で重要である.

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