2025 年 41 巻 2 号 p. 92-101
小児の外科的肝疾患である腫瘍,外傷,血管・門脈異常症について画像診断を中心に総説した.肝腫瘍は年齢やAFP値と併せたUS,CT,MRIを用いた多面的評価が必要で,肝芽腫・小児肝細胞癌ではPRETEXT分類に基づいて病期診断と治療方針を決定する.肝外傷ではFASTによる初期評価と造影CTが重症度判定に不可欠で,PECARNルールにより不要なCT回避が推奨される.肝血管・門脈異常症では,先天性門脈体循環シャント,肝外門脈閉塞症,静脈管開存症の正確な診断が重要で,US,CT,MRI,血管造影が治療方針決定に寄与する.
This review focuses on imaging evaluation of pediatric surgical liver diseases, including tumors, trauma, and vascular/portal venous anomalies. Liver tumors require comprehensive assessment using ultrasound (US), computed tomography (CT), and magnetic resonance imaging (MRI), in conjunction with age and alpha-fetoprotein (AFP) level. For hepatoblastoma and pediatric hepatocellular carcinoma, staging and treatment planning are based on the PRETEXT classification. In hepatic injury, initial evaluation with focused assessment with sonography for trauma (FAST) and contrast-enhanced CT is required for determining the severity, while the PECARN rule is recommended to avoid unnecessary CT scans. For hepatic vascular and portal venous anomalies, accurate diagnosis of congenital portosystemic shunt, extrahepatic portal vein obstruction, and patent ductus venosus is critical. Imaging modalities such as US, CT, MRI, and angiography play a key role in guiding therapeutic decision-making.

小児の肝腫瘍の鑑別において,患児の年齢や血液検査が重要である.画像診断だけでは非特異的な所見に留まり,確定診断に至らないことが多いが,MRIは放射線被ばくがなく,組織分解能に優れており,肝細胞特異性造影剤や拡散強調画像を用いることで,腫瘤の検出や質的診断,治療効果判定に有用な情報が得られる.American College of Radiology Pediatric LI-RADS Working Groupは,小児の肝腫瘍に特化した画像診断の推奨ガイドラインを策定しており,成人のLI-RADSとは異なるアプローチが推奨されている1).
2. 肝腫瘍における画像診断モダリティの役割【US】小児腹部腫瘤のスクリーニングや初期評価,経過観察に広く用いられる1–3).造影超音波検査(CEUS)は,病変の内部血流や造影パターンをリアルタイムで示すことで,従来のUSを補完し診断に役立つが4),本邦では小児への使用は適応外.
【CT】短時間でのスキャンが可能で,全身の軟部組織,骨格,肺転移の評価に有用3).特に肺転移の評価にはCTが不可欠だが1,5,6)放射線被ばくを伴うため,撮影は必要最低限に留め,多相撮影は避ける7).
【MRI】小児の肝腫瘍の診断と病期診断において重要である.放射線被ばくがなく,組織分解能に優れているため,特に肝細胞特異性造影剤(Gd-EOB-DTPA; EOB)や拡散強調画像(DWI)を用いることで,腫瘤の検出,質的診断,治療効果判定に有用な情報が得られる5,8,9).
【Gd-EOB-DTPA(EOB)】肝細胞に特異的に取り込まれる特性を持ち,造影後15~20分後の肝細胞相で,正常肝実質と病変とのコントラストを明確にする1,6–10).
【DWI】水分子の拡散運動を画像化し,腫瘍の細胞密度が高い(悪性)ほど拡散制限(高信号)を,拡散係数(ADC)マップでは低信号を示す1,7,8,10).悪性腫瘍の治療効果判定にも有用で,治療によりADC値は上昇する傾向にある8,10).
3. 悪性腫瘍の病期分類(肝芽腫と肝細胞癌)肝芽腫や肝細胞癌などの小児肝悪性腫瘍では,国際的にPRETEXT(Pre-Treatment EXTent of tumor)分類が推奨されている1,3,5–7,9).これはCouinaudの4つの肝区域における腫瘍の占拠範囲に基づき病期(I~IV)を決定し,肝静脈・門脈浸潤,多巣病変,肝外進展,腫瘍破裂,遠隔転移などの付記因子(annotation factor)を評価することで,リスクを分類し治療を計画する5).
4. 各疾患の画像診断所見 1) 肝芽腫小児原発性肝悪性腫瘍の中で最も頻度が高く,通常3歳までに発症し,90%以上の症例でα-フェトプロテイン(AFP)が上昇する11).
a)CT:境界明瞭で不均一な濃度を示し,石灰化を伴うこともある12).造影CTでは,肝実質に比して不均一で弱い造影効果を呈し,周囲の被膜部分が強く造影されることがある11,12).肺転移の評価には必須5).
b)MRI:T1WIでは一般的に低信号,T2WIでは不均一な高信号を示し,壊死や変性を示唆する所見がみられることがある8,9,11).DWIでは高信号,ADCマップでは低信号(拡散制限)を示す1,7,8,10–12).EOB-MRIの造影早期相では不均一な造影増強効果を示すが,肝細胞相(造影後15~20分)では,周囲の正常肝実質が高信号を示すのに対し,腫瘍は低信号となり,コントラストが明瞭になる6–12).小さな病変や肝内多巣性病変の検出,PRETEXT分類に有用6–8,10,11).
c)PET/CT:FDG集積は亢進していることが多いが,pure fetal typeでは代謝活性が低く,偽陰性に注意する13).
2) 肝細胞癌肝芽腫よりも年長児,特に学童期以降に多い9,14).小児肝細胞癌の約70%は基礎疾患がない肝臓に発生し,AFP値は肝芽腫より低い数千ng/mL台であることが多い1,9,12).
a)CT:早期相での濃染像および平衡相でのwash-outが典型的な所見12).
b)MRI:T1WIでは低信号.T2WIでは高信号8).EOB-MRI:肝細胞相で周囲肝実質と比較して低信号を示す5,8,12).肝芽腫と同様の所見であり,鑑別が困難な場合がある12).
c)鑑別:年齢,AFP値,画像所見(特に造影CTのダイナミックパターン)が手がかりとなるが,生検前の鑑別は困難な場合が多い12).
3) 先天性血管腫(congenital hemangioma)出生時から存在する良性血管腫瘍で,通常生後6か月以内に診断される高血流性血管腫瘍9).多くは単発性(focal type)で,出生後急速に退縮するrapidly involuting congenital hemangioma(RICH)が多い4,9,15).病理組織でGLUT-1陰性であることが特徴4,15).臨床的には,胎児期に高拍出性心不全や非免疫性胎児水腫を呈することもあり,出生後は凝固障害を伴うことがある4,9).
a)US:境界明瞭で通常低エコーだが,高エコーの場合や不均一な内部エコーを示すこともある4,14).カラードプラで異常血流やシャント血流が確認され,肝動脈の肥大や,腹腔動脈遠位の大動脈の口径減少が特徴的にみられる4).
b)CT:周囲肝実質に比して低吸収域を示し,辺縁から中心に向かって造影される求心性造影効果(centripetal enhancement)を呈する4,15,16).
c)MRI:T1WIで低信号,T2WIでは明瞭な高信号を示す4,8,14,15).大きな星状のflow voidが見られることがある.EOB-MRIの肝細胞相では,正常肝細胞機能を持たないため低信号となる4,8).
4) 間葉系過誤腫(mesenchymal hamartoma)乳幼児期(通常2歳まで)にみられる良性の肝腫瘍9,18).未熟な間葉組織と偽嚢胞からなる良性病変で,胆道系との交通はない9).臨床的には無痛性の腹部膨満で発見されることが多いが,胎児水腫や呼吸困難を伴うこともある.治療は完全外科的切除が推奨され,未分化胎児性肉腫(UES)へ悪性転化する可能性があるとされる9,17).
a)US:嚢胞性成分と充実性成分の混合病変としてみられる17,18).
b)CT:大きな嚢胞性腫瘤として描出され,内部に充実性成分を伴う.嚢胞性成分は造影されないが,充実性成分は動脈相で強く造影され,静脈相で造影効果が低下する17,18).
c)MRI:T1WIでは不均一な低信号を示し,内部に出血を伴った場合はそれを反映して高信号域を伴う.T2WIでは嚢胞性成分が高信号を示し,内部に隔壁を伴うことがある9).線維性被膜は低信号として描出される9,18).
5) 乳児血管腫小児で最もよくみられる肝の良性腫瘍性病変で,血管内皮細胞から増殖する血管性腫瘍である4).通常,生後数週の増殖期を経て,その後退縮期に至り縮小する4).巨大な場合,心不全や凝固異常などの重篤な合併症を引き起こす危険性もある4,15).多巣性(multifocal)やびまん性(diffuse)のタイプは乳児血管腫の特徴で,皮膚の血管腫を合併することが多い(>60%)4,15)病理組織ではGLUT-1陽性が特徴4,15).
a)US:増殖期では典型的に高エコーですが,大きくなると不均一となる4,14).カラードプラでは高血流領域が確認され,大動脈の口径減少や肝動脈の肥大もみられる4).CEUSでは,初期動脈相で辺縁に不完全な結節状増強効果を示し,その後求心性に造影剤が充満し,門脈相・後期相で周囲肝実質と同等または高信号を呈す4).造影剤のwash-outがないことが悪性腫瘍との鑑別点となる4).
b)CT:多巣性病変は均一な低吸収域を示し,環状の辺縁増強効果を示します4).びまん性病変では,ほぼ全肝実質が多数の病変に置き換わった状態がみられる4).
c)MRI:T1WIで低信号,T2WI:明瞭な高信号を示す4,8).EOB-MRIの肝細胞相では,正常肝細胞機能を持たないため低信号となる8).
d)PET/CT:低い代謝活動を反映して,FDGの取り込みは少ないと推察されている13).
6) 限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia; FNH)9)良性の肝腫瘍であり,肝内の血流比率の変化に伴う肝細胞,クッパー細胞,奇形血管,未熟な胆管の過形成によって生じる.通常は単発で,正常肝に発生し,治療は不要.化学療法歴やFontan術後など,びまん性肝疾患の既往がある小児にみられるFNHに類似した病変(FNH-like lesion)は,通常は多発性でFNHより小型であり,中心瘢痕がないことが多い.肝細胞相での造影剤保持は,転移性病変との鑑別に役立つ.
a)MRI8,9,16):T1WIでは周囲の正常肝実質と似た信号またはやや低信号.T2WIでは周囲の正常肝実質と似た信号または軽度高信号,内部の瘢痕部分に高信号を呈することもある.ダイナミック造影の動脈相で早期濃染し,その後は周囲肝と同程度の信号を呈する傾向がある.EOB-MRIは最も重要な鑑別点で,FNHは正常肝細胞の機能を持つため,EOB投与後の肝細胞相(20分後)で周囲の正常肝実質と同様に造影剤を取り込み,高信号を呈する.これは肝芽腫や血管腫,腺腫など他のほとんどの肝腫瘍が肝細胞相で低信号を示すのと対照的であり,高い診断能(96%)を持つと報告されている.特徴的なT1低信号・T2高信号の中心瘢痕は,細胞外液性造影剤では増強されるが,EOBでは増強されない.
7) 腺腫8,9)肝細胞性腺腫は良性腫瘍であるが,悪性化や出血の可能性がある.主に女性に発生し,経口避妊薬の使用や糖原病I型・III型,バッド・キアリ症候群など様々な基礎疾患との関連が知られている.
a)MRI:T1WIでは不均一,T2WIでは高信号を示す.ダイナミック造影の造影効果は多様で,炎症性腺腫は動脈相で強く増強され,門脈相で持続的な増強効果を示す傾向がある.EOB-MRIの肝細胞相では,FNHと異なり,低信号から等信号を示す.一部の炎症性腺腫やβ-カテニン活性化腺腫では,肝細胞相で不均一な造影剤保持を示すことがあり,悪性転化の可能性を示唆する.HNF-1α不活性化腺腫では,脂肪沈着によりin-phase/opposed-phase画像で信号低下を示し,肝細胞相ではOATP8発現低下のため低信号となる.FNHと鑑別が難しい場合があるが,EOB肝細胞相での造影効果の違い(FNHは高信号,腺腫は低~等信号)が重要な鑑別点となる.
小児における外傷性肝損傷は,鈍的外傷による腹部臓器損傷の中で最も頻度が高い.正確な画像評価と適切な治療介入の判断は,小児の予後を大きく左右する.
2. 主要な画像診断モダリティの役割小児外傷性肝損傷の初期評価では,超音波検査(focused assessment with sonography for trauma; FAST)が用いられる19,20).
【US(FAST)】ベッドサイドで迅速に腹腔内出血の有無を確認するスクリーニングとして有用20).診断能は個人の技能に依存し,痛みや啼泣によって診断が困難な場合がある20).臓器損傷の程度の詳細な評価にはCTが優れており,FASTが陰性であっても臓器損傷を否定できないことがあるため,繰り返し施行することを推奨する21).
【CT】血行動態が安定した小児の腹部外傷患者の評価におけるゴールドスタンダードである20–22).肝裂傷,被膜下血腫,実質内血腫,血管外漏出像,仮性動脈瘤などの詳細な損傷形態を評価し,重症度を分類するために不可欠19,23–25).CT検査は放射線被ばくを伴うため,小児においてはその適応を慎重に検討する22).造影CTでは,動脈相で造影剤の血管外漏出像や仮性動脈瘤の有無を評価し,実質相(門脈相)では主要静脈系の評価や実質臓器損傷を評価する23).多相撮影を行うことで被ばく線量は増えるため,適応を吟味する.
【MRI】一般的に,外傷初期の検査としては適さないが,急性期を過ぎた後の経過観察や,膵損傷や胆道損傷といった特定の合併症の評価に有用な場合がある20).
3. 画像所見からみた重症度評価と治療介入 1) 外傷形態と重症度評価(日本外傷学会肝損傷分類24)とAAST肝損傷分類22)肝損傷の重症度評価には,日本外傷学会肝損傷分類とAmerican Association for the Surgery of Trauma(AAST)Organ Injury Scale(OIS)が用いられる.外傷形態から見た治療方針の概要が解説されている.
2) 治療介入の画像的判断基準とガイドライン①CTで造影剤の血管外漏出が確認された場合,活動性出血を示唆するため,TAEの適応となる19,24,25).特に,肝被膜を超えて腹腔内に漏出している場合は,迅速な止血が必要とされる.外傷後に発生する仮性動脈瘤は稀だが,破裂による生命を脅かす出血のリスクがあるため,多くの場合TAEが推奨される.②無症状で比較的小さな仮性動脈瘤(10 mm未満)で胆汁漏出がない場合は,自然血栓化による消失が報告されており,厳重な入院下での経過観察が選択されることもあるが,その場合は密にモニタリングする26).仮性動脈瘤のフォローアップには超音波検査でも可能で,TAEの実施判断は明瞭な仮性動脈瘤がある場合や胆汁漏出がある場合,または仮性動脈瘤の拡大傾向,症状悪化(腹痛悪化,バイタルサイン異常,ヘモグロビン低下)が見られた場合に検討する19).
自験例の画像を提示する(Fig. 2).

a.肝部下大静脈周囲を中心に肝損傷を示す造影不良域(矢印)がみられ,外側区被膜下へ血腫が広がっている(*).左葉の門脈域周囲には活動性出血(矢頭)が認められ門脈損傷合併が疑われた.日本外傷外科学会分類IIIb.
b.下大静脈周囲に血腫を認め,造影剤の血管外漏出像(矢印)を伴った.日本外傷外科学会分類III.
PECARNは,小児における肝外傷を含む腹部損傷の診断において,不必要な放射線被ばくを伴うCTの使用を減らすことを目的に,臨床判断ルールを開発した.CTは詳細な診断と損傷の重症度評価に用いられるが,放射線被ばくによる生涯発がんリスクなどの欠点がある一方で,その使用は近年増加し,施設間や臨床医間で大きなばらつきがみられる.
PECARN腹部外傷ルールは,鈍的体幹部外傷後の小児において,急性期介入を必要とするIAI-I(緊急介入を必要とする腹部損傷)のリスクが非常に低い小児を特定するために開発された.これにより,CTスキャンを安全に避けることができるとされる.このルールは,病歴および身体診察に基づく以下の7つの変数で構成されている:
1.腹壁外傷の証拠またはシートベルトサイン,2.グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)スコア14未満,3.診察時の腹部圧痛,4.胸壁外傷の証拠,5.腹痛の訴え,6.呼吸音の減弱,7.嘔吐の既往.
これらのリスク因子が1つも存在しない小児は,IAI-Iのリスクが非常に低い.PECARN腹部ルールは,臨床的判断に加えて使用することで,不必要なCT使用を制限し,診断の見落としを減らす助けとなると提唱されている.
肝血管・門脈異常症は,肝臓への血流供給や肝臓からの血流排出に異常をきたす疾患群であり,小児期に様々な症状を呈す28,29).これらの疾患は,門脈圧亢進症による消化管出血や脾機能亢進症,肝機能障害,さらには肺合併症や肝腫瘍など多岐にわたる病態を引き起こす29,30).正確な診断と適切な治療方針の決定には,画像診断が極めて重要な役割を果たすと言える31–33).本稿では,小児期にみられる主要な肝血管・門脈異常症である先天性門脈体循環シャント(CPSS),肝外門脈閉塞症(EHPVO),および静脈管開存症(PDV)に焦点を当て,それぞれの画像診断の特徴と臨床的意義について総説する.
2. 先天性門脈体循環シャント(congenital portosystemic shunt; CPSS)a)概念と病態:CPSSは,肝実質に異常がなく,先天的に門脈血流の一部または全てが肝臓を介さずに直接体循環に流入する病態である34,35).かつてはアバネシー奇形(Abernethy malformation)という分類も用いられたが36),現在はより広範なCPSSという診断名が一般的に使用される.本症では門脈圧が通常は高くなく,脾腫や食道静脈瘤などの門脈圧亢進症状を合併することは稀だが,シャントによって肝臓が本来解毒すべきアンモニアなどの物質が全身に回り,多岐にわたる症状を引き起こす35–37).
b)疫学と症状:CPSSの発生率は約3万人に1人と推定されており,近年画像診断の進歩により報告が増加している28,36).日本では高ガラクトース血症の新生児スクリーニングを契機に発見されることが多い36,38,39).主要な症状としては,高ガラクトース血症や高アンモニア血症,これに伴う肝性脳症(精神運動発達遅滞や意識障害)が挙げられる35,36,39).また,致死的な合併症として肺高血圧症34)や肝肺症候群34,37)があり,これらは生命予後に大きく影響する.肝腫瘍の合併も高頻度(24~73%)に認められ,多くは結節性再生性過形成(NRH)や限局性結節性過形成(FNH),肝細胞腺腫などの良性腫瘍だが,約4%に肝細胞がんや肝芽腫などの悪性腫瘍が発生することが報告されている29).成長障害も約半数に認められる28,31).
c)CPSSの分類の意義:CPSSの病型分類は,個々の患者のシャントという「複雑な交通網の地図」を読み解くようなもので,この正確な地図が最適な治療経路を見つける鍵となる.かつては肝外シャントと肝内シャントに大別されたが,この分類には限界があり現在では不十分とされている.より詳細な分類として,Morganらの分類は肝内門脈血行系(IPVS)の有無でType I(IPVSなし)とType II(IPVSあり)に分けられる36,38).以前Type Iは肝移植適応と考えられていたが,現在ではシャント閉鎖後に肝内門脈血流が描出される症例が多く,シャント遮断が治療の第一選択となっている36,38).また,Kobayashi分類ではシャントの終末部位に基づきType A(下大静脈流入),Type B(腎静脈流入),Type C(腸骨静脈流入)に分類され,臨床的特徴の把握に有用である.Blancの分類も治療法の選択に用いられる32,36,40).
d)画像診断:シャントの解剖学的特徴や肝内門脈血流の状態を詳細に評価し,治療方針を決定する上で不可欠となる31,32).特に,シャント閉塞試験下の門脈造影は,肝内門脈の発達や門脈圧を評価し,治療方針決定に重要である32,36,37,39).CPSSの診断には,超音波検査(US),CT検査,MRI検査,血管造影検査が主に行われる.
【US】スクリーニング検査として有用であり,肝内門脈血流の減少や異常血管の有無を評価する31).
【CT】造影CTはシャントの全体像や解剖学的評価に優れ,特にマルチスライスCT(MDCT)による3D再構成画像は,シャント血管の走行や流入部位(例:下大静脈流入型Type A,腎静脈流入型Type B,腸骨静脈流入型Type C)を明瞭に描出できる31,32,37,38).
【MRI】MR portographyは,CPSSの診断感度がほぼ100%と高く,閉塞距離や側副血行路の描出,肝内門脈の状態評価に有用30,31).脳基底核に生じるマンガン沈着の評価にもT1強調画像が用いられる41,42).
【血管造影】最も侵襲的な検査だが,血行動態を判断するために重要な検査である.シャント血管の詳細な評価,肝内門脈系の血流評価,およびシャント閉塞前後の門脈圧測定に不可欠である32,36,37,39).特にバルーン閉塞下門脈造影は,肝内門脈の低形成の程度を評価し,安全にシャント閉鎖が可能か(例:閉塞後門脈圧が25 mmHg以下)を判断するために必須とされている32,37,39,41).
【治療戦略における画像診断の役割】CPSSの治療はシャント血流の遮断が根本であり,肺高血圧症などの不可逆的な合併症の発症を予防するため,無症状であっても早期の治療介入が推奨されている37).血管内治療(IVR)は低侵襲であり,コイル塞栓術や血管内プラグを用いたシャント閉鎖が第一選択となることが多い32,34,36,37).シャント血管が短い場合やIVRが困難な場合は,外科的シャント結紮術が選択される36,37,39,41).肝腫瘍を合併している場合,良性であっても増大傾向や悪性化の懸念がある場合は,外科的切除や肝移植が検討される29,36).術前の詳細な画像評価,特に肝内門脈の評価は,シャント閉鎖の可否や術後の門脈圧亢進症のリスクを予測するために極めて重要である37,39,41).
自験例の画像を提示する(Fig. 3).

a.門脈域に門脈構造の描出が確認されない.
b.肝門部レベルで固有肝動脈の不自然な拡張が認められる(矢印).
c.腸管静脈は肝臓に注がれず(矢印),d.下大静脈へのシャントが確認される(矢印).
a)概念と病態:EHPVOは,肝門部を含む肝外門脈が閉塞することで門脈圧亢進症をきたす症候群である30,33).原因不明の原発性EHPVOと,新生児臍炎,敗血症,腫瘍,肝硬変に伴う門脈血栓,腹部手術後などの二次性EHPVOに分類される30,31,33).門脈閉塞後,6~20日で門脈海綿状変化(cavernomatous transformation)と呼ばれる求肝性の側副血行路が発達する30,31,33,43).
b)疫学と症状:国内では年間約700人の患者が推定されており,男女比は男性にやや多く(1.4:1),20歳未満と40~50歳代に二峰性の発症ピークがある30).主な症状は門脈圧亢進症に起因するもので,食道・胃静脈瘤や消化管出血が最も頻繁にみられ,小児では平均3.8~5.2歳で初発出血を呈するとされる28,30,31).その他,脾腫,脾機能亢進症,成長障害(30~50%),portal biliopathyなどが挙げられる28,30,31).肝機能は,求肝性の側副血行路により肝内血流が保たれるため,通常は軽度異常にとどまることが多い30,31).
c)画像診断:EHPVOの診断における画像診断の主眼は,門脈の閉塞と特徴的な海綿状変化の確認となる30,43).
【US】海綿状変化の描出に優れ,ドプラ併用で血流評価も可能30,31,43).侵襲性が低く,スクリーニング検査として推奨される42).
【CT・MRI(MRP)】いずれも側副血行路や門脈系の全体像を把握するのに有用であり,meso-Rexシャント術の術前評価など,門脈系解剖の全体像の把握が重要となる場面で活用される30,43).CTは高い空間分解能を有し,門脈閉塞部位や海綿状変化を明瞭に描出でき,過不足のない評価が可能である30,42,43).MR portographyは被ばくがないことに加え,造影剤を使用せずに門脈系を評価できる点が利点である.一方で,撮像に時間を要し,呼吸数の多い小児では画質が不良となることがあり,多くの施設では明瞭な画像の取得が難しい場合もあるため注意が必要である30,31,42).
【血管造影】門脈閉塞と海綿状血管腫の診断に有用で,求肝性・遠肝性の血行動態を評価できる30,42).特に二次性EHPVOにおいて,CTやMRIで把握が困難な脈管解剖の評価に重要な役割を担う.ただし,侵襲性や診断能の点でCTやMRIに劣る場合があり,他の検査で情報が不十分な場合に考慮される30).
【治療戦略における画像診断の役割】EHPVOの治療は,主に静脈瘤に対する内視鏡治療(EIS, EVL)や,門脈圧減圧を目的とした手術療法が中心となる31).特に小児では,meso-Rexシャント術が良好な成績を示しており,生理的な肝血流を回復させ,成長改善や脾腫消失などの長期予後改善に期待される28,31).術前の詳細な画像評価は,シャント手術の適応や術式選択のために重要である31,43).
自験例の画像を提示する(Fig. 4).

a.Bモード像,太く蛇行した脈管を肝門部に認め(丸囲い),b.ドップラーでは求肝性血流であることが確認できる.いわゆる海綿状血管増生である.
c.門脈本幹および肝外門脈が不明瞭で,側副路として門脈海綿状変化がみられる.脾腫を認める.
a)概念と病態:PDVは,胎児期に臍静脈から肝臓を迂回して直接下大静脈に血流を送る役割を果たす静脈管が,出生後も閉鎖せずに開存し続ける先天性の門脈体循環シャントの一種である.通常,出生後1か月前後で機能的閉鎖が完了するとされているが,未熟児や心疾患を持つ乳児では遷延することがある.PDVでは門脈血が肝臓を経由しないため,高アンモニア血症や高ガラクトース血症などの代謝異常,および肝内血流の不均衡が生じる.
b)症状:PDVの初発症状は,新生児マススクリーニングによる高ガラクトース血症の指摘が最も多く,次いで肝腫瘍(27.5%),肝機能異常,高アンモニア血症,意識障害,精神発達遅延などが報告されている.肝腫瘍は,FNHなど良性腫瘍が多いが,稀に悪性腫瘍(肝細胞がん,肝芽腫など)を合併することもある.T1強調MRIでの脳基底核に生じるマンガン沈着も特徴的所見である.
c)画像診断:PDVの診断においても,US,CT,MRI,血管造影が用いられる.
【US】まず施行されることが多く,肝内門脈の低形成や異常血管(静脈管)の描出,肝動脈の代償性増生などを評価する.
【CT/MRI】開存した静脈管を明瞭に描出し,肝内門脈の状態や肝腫瘍の有無,さらには脳の変化(淡蒼球の高信号)を確認できる.MDCTの進歩により,侵襲的な血管造影を避けつつ血行動態を的確に把握できる.
【血管造影】診断と治療戦略の立案に不可欠である.バルーン閉塞試験を併用することで,低形成の肝内門脈も描出可能となる.閉塞前後の門脈圧の変化を測定することで,安全にシャントを結紮できるかを判断する(例:閉塞後門脈圧が22 mmHgを超えなければ安全と判断されることがある).
【治療戦略における画像診断の役割】PDVの治療は,主にシャント血流の遮断である.無症状の肝内シャント(CIPS)の場合,2歳までは自然閉鎖が期待できるため経過観察することもあるが,合併症がみられる場合や2歳を過ぎても閉鎖しない場合は治療が検討される.シャント閉鎖の方法としては,低侵襲なIVR(コイル塞栓術,血管内プラグ)が第一選択となり,IVRが困難な場合は外科的結紮術が行われる.肝腫瘍はシャント閉鎖後に縮小傾向を示すことが報告されており,継続的に画像フォローアップする.