抄録
2004年打ち上げ予定の月探査衛星LUNAR-Aでは、2本のペネトレーターと呼ばれる槍型の装置を月面に貫入させ、水平動、上下動2成分の短周期月震計や熱流量計といった観測機器を月面に設置し、観測を実施することで、月の内部構造を探ることを目的としている。ペネトレーターが月面に貫入する際、月震計は、強い衝撃を受けるため、その衝撃で特性が観測上許容できるレベルを超えて、変化しないだけの耐衝撃性を有していなければならない。その耐衝撃性が余裕を持って、実現されているか確認するために、ペネトレーターの月面貫入時の1.25倍という条件で貫入衝撃の試験が実施されている。 本研究では2003年6月に実施された貫入衝撃試験前後の月震計の特性調査を行った。この結果より、月面貫入衝撃を受けた月震計が月震観測実施のための特性を保持しているかを評価した。特性調査として、衝撃を与えた水平動、上下動2台の月震計のキャリブレーション波形、固有周波数、減衰定数等を求めた。月震計は、観測対象となる深発月震の卓越周波数が1Hz近傍である事が、アポロでの観測より予測されているので、固有周波数を1.0-1.2Hzに定めている。衝撃試験に供する月震計は事前に特性を取得し、仕様が満たされている事を確認している。衝撃後の月震計は、水平動、上下動ともに、これらの仕様を保持している事が示された。これにより、推定される月面貫入衝撃を上回る衝撃を受けた月震計が、衝撃前の特性を仕様の範囲内で保持している事が示された。 次に、衝撃を受けた月震計の地動に対する応答を調査するために、名古屋大学の犬山地震観測所において、常時微動の観測を実施した。犬山地震観測所は地動ノイズレベルが低く(常時微動は昼間で2.0×1.0 m/sec、夜間で1.5×10 m/sec程度)、微小振動である月震の観測用に感度を高めた月震計の観測に合せて選定した場所である。観測では、比較用として広帯域地震計STS-2と、月震計と同様、固有周波数1Hzの移動観測用地震計L-4を用い、月震計と同成分の地動の観測を行っている。これらの観測結果と、月震計による観測結果を比較することで、推定される月面貫入衝撃を上回る衝撃を受けた月震計が、一般の地球用地震計に対して、どの程度まで一致した応答を示すかを水平動、上下動ともに評価、検討する予定である。