抄録
特に内科的な合併症がなくスポーツ活動中に膝蓋腱の皮下断裂を生じた症例の理学療法を担当した。手術は膝蓋骨にアンカースーチャーを使用し腱縫合を行い,半膜様筋腱を採取し膝蓋骨及び腱実部に通し断裂部を補強した。手術翌日より全荷重が許可され,6週より他動的関節可動域運動を開始した。初期の理学療法評価において,腫脹,膝蓋骨の低可動性,筋スパズムが膝関節の可動域制限の主たる問題点であると仮設をたて,治療を行った。術後12週では順調に可動域は回復してきたが,荷重位における筋力トレーニング(スクワット)で膝蓋骨の外上方付近に疼痛を訴えた。これに対し,内側広筋の筋機能不全による膝蓋骨の軌道変化が問題であるという再評価を加え,膝蓋大腿関節に関与する筋群の動的支持機構を考慮した治療を行ったところ,術後20週では正座,応用動作,軽いランニングが可能となるまで回復した。膝蓋腱断裂は稀な障害であるとされているが,中高年のスポーツにおいて受傷率の高いACL断裂に加え,障害予防の観点から見逃せない障害であると考える。