日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第8回 日本予防理学療法学会学術大会
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介護・転倒の予防5
長期透析患者の手指機能の特徴 ~表在感覚、筋力、関節可動域を指標として~
前田 夏季冨田 健一松島 一誠石井 竜幸上本 真椰
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p. 123

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抄録

【はじめに、目的】

近年、透析医療の発達により透析患者の生命予後は著しく改善している。しかしながら長期の透析医療は種々の合併症との共生を意味するため、その早期発見と重症化の防止が透析患者のADL、QOLを確保するためには重要である。透析患者に対するリハビリテーションでは、サルコペニアやフレイル対策として、下肢筋力や歩行能力に対する取り組みは多数報告されているが、長期透析患者に好発する手根管症候群に代表される手指機能の低下に着目した報告は少ない。以上の事から本研究では長期透析患者の手指機能の実態を調査することで、合併症の重症化防止対策について検討したので報告する。

【方法】

対象は透析歴10年以上の外来透析患者、男性15名(年齢67.4±8.4歳)、女性9名(年齢68.2±9.8歳)の計24名とした。対象の選定にあたり認知症・失語症・脳血管疾患・糖尿病・手根管症候群のある者は除外した。評価は対象の上肢を透析肢、非透析肢に分別し、その双方に対して表在感覚、筋力、関節可動域を測定することとし、表在感覚では手指の主観的な感覚障害の有無についてアンケートを、客観的な評価としてセメスワインスタインモノフィラメントを用い触覚閾値を測定した。筋力はピンチメーターを使用し、親指・小指の指腹つまみ時のピンチ力を測定すると共に、デジタル握力計を用いて握力を測定した。関節可動域では肘関節伸展、手関節掌屈、背屈、肘関節完全伸展位での手関節背屈(以下: 伸背屈)を測定した。統計処理は統計処理ソフトSPSSver11.を使用し、透析肢・非透析肢における各項目について男女別にParsonの相関係数を算出した。有意水準は5%とした。

【結果】

表在感覚の主観的評価では、しびれを自覚する割合は男性で0%、女性は22%であった。表在感覚の客観的評価では、男性の親指では非透析肢60%、透析肢47%、小指では非透析肢47%、透析肢40%。女性の親指では非透析肢33%、透析肢22%、小指では非透析肢22%、透析肢11%に感覚鈍麻を認め、特に男性において自覚症状の無い表在感覚低下を認めていた。表在感覚と他項目の相関係数は女性では透析肢の親指感覚と伸背屈でr=-0.6759(p<0.045)、男性では透析肢の小指ピンチ力と伸背屈r=0.5445(p<0.035)、小指ピンチ力と小指感覚でr=-0.5425(p<0.036)であり有意な相関関係を認めた。

【結論】

長期透析患者は、主観的な感覚障害の自覚と客観的な触覚閾値に差があり、特に男性では感覚障害の診断や治療が遅延する可能性が考えられることから、透析患者の手指の合併症の重症化防止には、自覚症状の有無に関わらず、客観的評価を定期的に実施する必要があると考えられた。また、女性は伸背屈と親指感覚、男性は小指ピンチ力と伸背屈及び小指感覚との相関関係を認め、前腕屈筋群のうち二関節筋の柔軟性を確保することが手指の感覚や筋力の維持、合併症の重症化防止に有用である可能性が示唆された。

【倫理的配慮、説明と同意】

研究を実施するにあたり、ヘルシンキ条約に基づき本研究の主旨と本研究によって得られた個人情報の管理について十分に説明するとともに、本人の意思でいかなる時でも本研究より辞退できる旨について説明を行い、書面にて同意を得た上で実施した。

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