主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第4回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第56回 日本理学療法学術大会
会議名: 第8回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: Web開催
開催日: 2021/11/13
p. 14
【はじめに、目的】
人工膝関節全置換術(TKA)を施行することにより、膝関節機能の改善、ADLが改善することが緒家により報告されている。TKA 患者の多くは高齢者であり、術前から身体機能低下を有しているケースが多い。今回、TKA前の身体機能低下が術後のADLの変化、身体機能の変化に及ぼす影響について後方視研究を行った。
【方法】
対象は当院にて術前、退院時、術後3ヶ月(3M)、術後6ヶ月(6M)に評価が実施可能であったTKA患者を対象とした。検討する評価項目は、KOOSにおける日常生活の項目(K-A)、TUG、CS-30を使用した。比較方法は、フレイルの判定基準として使用されるJ-CHS の判定項目の1つである歩行速度基準の1.0m/秒未満を使用し、術前評価において快適歩行速度による1.0m/秒未満であったものを非フレイル群、1.0m/秒を超過したものをフレイル群とした。内訳は、非フレイル群8名(男性: 1名、女性: 7名、平均年齢72.6±4.8歳)、フレイル群18名(男性: 2名、女性: 16名、平均年齢75.2±5.9歳)に対して、1)K-Aの結果(%)、2)TUG、3)CS-30を術前、退院時、3M、6Mの時期別の評価結果を比較検討した。統計学的分析には、Mann-WhitneyのU検定を使用して2群間の各項目を比較した。なお、有意水準は5%未満とした。
【結果】
K-Aの術前における比較は非フレイル群64.5±14.0%、フレイル群55.0±16.1%(p=0.06)と有意傾向が見られたが、退院時、3M、6 Mは有意差を認めなかった。TUGの術前における比較は非フレイル群10.5±3.1秒、フレイル群16±6.3秒(p =0.02)と有意差を認めたが、退院時は有意差を認めず、3Mで非フレイル群9.1±1.4秒、フレイル群12.2±3.4秒(p =0.01)、6Mでは非フレイル群8.4±1.3秒、フレイル群11.4±2.8秒(p =0.01)と有意差を認めた。CS-30における比較は、術前、退院時、3Mと有意差を認めなかったが、6Mにおいて非フレイル群12.8±2.4回、フレイル群11±5.4回(p =0.03)と有意差を認めた。
【結論】
K-Aにおける比較では、術前は有意傾向を認めたが、退院時、3M、6Mは有意差を認めず、両群共にTKAによってADLの改善を認めたことが推察される。TUGやCS-30における比較では、いずれも退院時に有意差を認めなかったが、TUGでは3M、6Mで、CS-30では6Mでいずれも有意差を認め、フレイル群で低下する結果となった。この結果より、両群共にTKAによってADL能力は向上したが、退院後の経時的変化によって身体機能に差が生じることが考えられた。今回、J-CHSの判定項目の1つである歩行速度で分析を行った結果、非フレイル群において有意に身体機能の改善が見られた。J-CHSには、体重減少や活動量減少などの身体的要素によりフレイル判定を行うが、フレイルには心理精神的要素、社会的要素も含まれる為、このような複合的な要素も含めて判定を行うには、基本チェックリストが有用とされている。今後、他の身体的要素や、複合的な要素も考慮した更なる調査が必要と考える。
【倫理的配慮、説明と同意】
患者を特定する個人情報に十分配慮して、堅牢なデータ保管の元に取り扱った。