主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第4回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第56回 日本理学療法学術大会
会議名: 第8回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: Web開催
開催日: 2021/11/13
p. 149
【はじめに,目的】
加齢に伴い嚥下機能は低下するが,このような高齢期の嚥下障害は低栄養状態やサルコペニアの発症リスクを高め,身体機能の低下に影響をおよぼすことが示されている.加えて,嚥下機能は可逆性を有していることから,これが低下するリスクの高い高齢者を早期に発見することは身体機能のみならずADLの低下を予防するために重要である.しかしながら,急性期病院においても急増している高齢入院患者の嚥下障害が身体機能ならびにADLにおよぼす影響は明らかとなっていない.本研究では,急性期病院の高齢入院患者を対象に嚥下機能と身体機能ならびにADLとの関連性について検討することを目的とした.
【方法】
対象は一般急性期病院に入院した65歳以上の患者57名(平均年齢84.9±6.7歳,男性33名,女性24名)とした.調査項目は基本属性(BMI,疾患名,入院前ADL(BI)),嚥下機能(摂食嚥下障害臨床的重症度分類;DSS),身体機能(下腿最大周径,握力,歩行速度),ADL(BI)とした.基本属性はカルテより聴取し,嚥下機能と身体機能ならびにADLは退院時に評価した.分析手法については,嚥下機能と各調査項目の関連性を単相関分析にて検討し,その後,嚥下機能の評価結果を基にDSSが4以下である者を誤嚥有り群(35名),DSSが5以上である者を誤嚥無し群(22名)に分け,身体機能とADLを2群間で比較した.
【結果】
対象者の疾患は,呼吸循環器疾患46名,脳血管疾患8名,泌尿器疾患2名,消化器疾患1名であり,下腿最大周径は男性で27.4±3.4cm,女性で27.8±2.9cm,握力は男性で18.4±3.3kg,女性で13.4±4.1kg であった.下腿最大周径と握力の値は,アジアのサルコペニアワーキンググループ(以下,AWGS)が作成した「サルコペニアの可能性」の判定基準を下回る結果であった.嚥下機能と各調査項目の関連性を検討した結果,DSSは基本属性(BMI,入院前ADL)と正の相関を認めた.また,DSSは下腿最大周径ならびにADLと正の相関を認め,歩行速度とは負の相関を認めた.さらに,群間比較の結果,誤嚥有り群の下腿最大周径と歩行速度ならびにADLは,誤嚥無し群に比べ有意に低値を示した.
【結論】
急性期病院の高齢入院患者では,AWGSが作成した判定基準の「サルコペニアの可能性」に該当する者が多く,加えて,誤嚥リスクは身体機能の低下ならびにADL障害と関連していた.つまり,急性期病院に入院している高齢入院患者では,嚥下障害が身体機能やADLに悪影響をおよぼすことが示唆され,嚥下機能を評価し適切な対策を講じることは身体機能やADLの低下を予防するために重要であると思われる.
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した.データは匿名化処理を行い,個人情報保護に十分配慮して管理した.