主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第4回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第56回 日本理学療法学術大会
会議名: 第8回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: Web開催
開催日: 2021/11/13
p. 25
【はじめに】
整形外科疾患と循環器疾患との関係について,変形性関節症は高齢者の心血管疾患の危険因子であることが報告されており,変形性膝関節症については,人工膝関節全置換術の施行により,重度の心血管疾患発症リスクが低下することが明らかにされている.一方,腰部脊柱狭窄症(LSS)は,脊椎の変性疾患であるが,循環器疾患との関連性が十分に明らかにされていない.そのため,腰椎変性疾患および腰椎変性疾患に対する観血的治療の周術期では,疾患特異的な活動量の低下がみられるにもかかわらず,動脈スティフネスへの影響を考慮したリハビリテーションが確立されていない.そこで本研究では,LSSに対する観血的治療前後の動脈スティフネスの変化を検討とした.
【方法】
LSSに対する観血的治療を施行し,喫煙者,糖尿病,心血管疾患の患者などを除外した65.0±9.1歳の男性8名,閉経後の女性3名を対象とした.手術内容は,腰椎椎弓切除術3例,腰椎後方椎体間固定術(PLIF)2例,腰椎椎弓切除術/腰椎椎間板切除術4例,腰椎椎弓切除術/完全内視鏡下腰椎椎間板摘出術1例,腰椎椎弓切除術/PLIF 1例であった.対象者は入院の翌日に手術が施行され,後療法はLSS の一般的な理学療法を手術翌日より開始した.手術前,術後3日後および7日後に動脈機能の指標として,上腕足首間脈波伝播速度(baPWV),収縮期/拡張期血圧(SBP/DBP)を測定した.観血的治療前後の動脈機能の経時変化を検討するために,反復測定による一元配置分散分析を行い,事後検定にはBonferroni法をそれぞれ用いた.統計処理はSPSS ver25.0を使用し,有意水準を5%とした.
【結果】
手術前,術後3日後および7日後のbaPWVは,16.4 ± 3.8 m/sec,14.6 ± 2.5 m/sec,14.6 ± 2.8 m/secであり,手術前と7日後の間に有意差が認められた.SBPは,133.9 ± 13.3 mmHg,122.7 ± 10.2mmHg,124.3 ± 12.3 mmHg,DBPは,80.9 ± 7.8 mmHg,73.3± 6.9 mmHg,77.4 ± 9.4 mmHgであり,それぞれ手術前と術後3 日後の間に有意差が認められた.
【結論】
LSSに対する観血的治療前後に,動脈スティフネスの変化を検討した結果,baPWVおよびSBP/DBPは,手術前と比較して手術後に低下した.したがって,LSSに対する観血的治療は循環器疾患発症リスクの低減に有効である可能性が示された.一方,LSS患者では動脈スティフネスが増大する傾向があり,保存療法では,動脈スティフネスの悪化を予防する理学療法の必要性が示唆された.
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は,徳島鳴門病院倫理審査委員会の承諾を得たものであり(受付番号1342),被験者には,事前に文章および口頭にて研究内容・趣旨,参加の拒否・撤回・中断などについて説明し,書面にて承諾を得た後に実験を開始した.