主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第4回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第56回 日本理学療法学術大会
会議名: 第8回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: Web開催
開催日: 2021/11/13
p. 37
運動誘導性の脂肪組織の褐色化は肥満の進行を抑制し、肥満症に伴う慢性合併症を予防することが期待されているが、運動誘発性の褐色化が肥満と非肥満で同等に生じるかどうかは不明である。よって、本研究では肥満症を対象とし、運動が脂肪組織の褐色化に及ばす影響を検証した。肥満モデル動物として19週齢の雄性OLETFラット、非肥満モデル動物として同一週齢の雄性LETOラットを用いた。両系統のラットを運動群と非運動群にそれぞれ区分し、運動群のラットは2週間の実験飼育期間中、暗期の12時間(20時~8時)、自走運動ができるランニングホイールを設置したケージで個別飼育した。自走運動は毎日実施し、平均走行距離はOLETFラットが1.2±0.3km/日、LETOラットが1.5±0.4 km/日であった。2週間の実験飼育期間終了後、肩甲骨周囲から褐色脂肪組織、鼠径部の皮下から白色脂肪組織を摘出した。実験飼育期間中の体重変化について、LETO ラットでは、非運動群は約4%の増加、運動群は体重の変化をほぼ認めなかった。OLETFラットでは、非運動群は約5%の増加、運動群は約11%の減少を認めた。褐色脂肪組織のHE染色所見について、LETOラットの非運動群と比較して、OLETFラットの非運動群では白色脂肪細胞の形態的特徴を示唆する単胞性の脂肪滴を有する細胞の浸潤が顕著であった。また、両系統の運動群において、単胞性の脂肪滴を有する細胞の浸潤は非運動群より少なかった。白色脂肪組織のHE染色所見について、LETOラットの非運動群と比較して、OLETFラットの非運動群では大径の白色脂肪細胞が多く存在していた。また、LETOラットの運動群では非運動群で観察されたものよりも小径の白色脂肪細胞が多く存在していた。OLETFラットの運動群においても大径の白色脂肪細胞は存在したが、極度に大きいものは確認されなかった。褐色脂肪組織におけるUCP1の発現量に関して、LETOラットでは運動の有無による顕著な差を認めなかったが、OLETFラットの運動群におけるUCP1の発現量はその非運動群と比べて顕著に高値であった。白色脂肪組織に関しては、全ての個体でUCP1の発現は検出限界以下であった。運動に伴う体重や脂肪の減少は肥満と非肥満の両者に生じた一方で、運動による褐色脂肪組織におけるUCP1の発現は、肥満において顕著であった。白色脂肪細胞における中性脂肪が分解されると、褐色脂肪組織のエネルギー源となり、UCP1の発現を促進する脂肪酸が生成される。肥満では運動によって分解される中性脂肪が多く、その脂肪酸産生が促進され、褐色脂肪組織におけるUCP1の発現が増加した可能性がある。
【倫理的配慮、説明と同意】
全ての実験は広島大学における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の承認を受けた上で実施した(A19-163)。