主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第4回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第56回 日本理学療法学術大会
会議名: 第8回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: Web開催
開催日: 2021/11/13
p. 43
【はじめに、目的】
我々は脳卒中患者の歩行自立後の転倒を予防するために、高精度な歩行自立判定指標(以下、指標)の開発を続けてきた。第1報では、病棟歩行自立判定基準日を病棟歩行開始後14日目に設定し検証した結果、独自に開発した杖把持片脚立位(以下、杖OFS)が最有用指標として選択された。第2報では、高次脳機能障害(以下、高次脳)の影響はADL能力に包括されると考え、高次脳有の評価基準を「作業療法士・言語聴覚士の評価を基に主治医が高次脳有と判定した者、かつ更衣・排泄FIMが何れも5点以下(以下、第2報高次脳)」と設定し検証した結果、「高次脳無、かつ非麻痺側杖OFS17.9秒以上」であれば歩行自立と判定できる指標が作成できた。しかし、詳細な高次脳評価を用いた検証の必要性が課題として残った。そこで本研究では、定量化した高次脳評価であるCognitive-related Behavioral Assessment(以下、CBA)を用いて、歩行自立後の転倒を予防するための指標完成を目的とした。
【方法】
対象は2018年3月から2021年4月までに当院回復期リハビリテーション病棟を退院した脳卒中患者のうち、入院時に病棟歩行非自立、かつ退院までに病棟歩行が自立または見守りとなった94人とした。
主要評価項目として病棟歩行自立判定基準日(病棟歩行開始14日目)の評価(非麻痺側杖OFS、第2報高次脳、CBA)、病棟歩行自立後から退院までの転倒の有無を前向きに調査した。退院時の歩行自立度で自立75人と見守り19人に分類、統計解析はROC曲線でCBAのカットオフ値を算出し、第2報高次脳とCBAのどちらが指標として有用であるかを正確度で判定した。また、この結果を反映した指標の妥当性をFisherの正確検定を用いて比較し、病棟歩行自立後の転倒率も算出した。
【結果】
CBAのカットオフ値は21点であり、感度は94.7%、特異度は78.9%、AUCは0.947であった。正確度はCBAが91.5%、第2報高次脳が85.1%であった。よって指標は、「CBA21点以上、かつ非麻痺側杖OFS17.9秒以上」となった。本指標該当者55人のうち、病棟歩行自立が52人・94.5%、非該当者39人のうち、病棟歩行自立が23人・59%であり、両者の間に有意差を認めた。病棟歩行自立後の転倒率は、本指標該当者が17.3%、非該当者が26.1%であった。
【結論】
今回の検証の結果、CBAの方が第2報高次脳よりも指標として有用であると考えられた。CBAは病棟生活での認知に関連する行動を評価できる点が特徴であり、更衣・排泄能力を基に判定した第2報高次脳よりも指標として高精度であることが確認できた。また本指標該当者は、非該当者に比べて病棟歩行自立率が高く、自立後の転倒率が低い傾向にあった。このことから、高次脳評価と立位バランス評価を組み合わせた本指標の妥当性が確認できた。つまり、病棟歩行開始から14日目を基準に行うCBAと非麻痺側杖OFSの評価が、病棟歩行自立後の転倒を予防する指標になるという結論を得た。
【倫理的配慮、説明と同意】
人を対象とする医学系研究に関する倫理指針によると本研究は、侵襲と介入がなく、人体から取得された試料を用いず、要配慮個人情報も新たに取得しない研究に該当、かつ臨床で通常行う理学療法での測定・評価を用いるため、必ずしもインフォームドコンセントを必要としない。しかし、対象者には、口頭での説明と同意を得て測定を行った。また、本研究を行うにあたり当院倫理委員会の承認を受けた(倫理審査承認番号共倫第290023号)。