日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第8回 日本予防理学療法学会学術大会
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介護・転倒の予防2
当院血液内科病棟における入院中に転倒した患者の身体機能要因
小藤 大樹野中 崇大原 弘明平石 宏行杉浦 憲子菱澤 方勝宮﨑 博子
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p. 44

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抄録

【はじめに、目的】

入院中の転倒・転落により、時に骨折や頭部外傷を生じ、入院期間の延長やADLの低下を来すことがある。したがって、入院中の患者に対し、転倒リスクが高い患者のアセスメントや予防対策は重要で、多職種で連携して行うことが推奨されている。当院では、血液内科病棟に理学療法士が専従配置されており、患者の身体機能とADLを評価して、病棟内で血液内科医師・看護師・その他の医療スタッフと共有するよう努めている。本研究の目的は、当該病棟において転倒した患者について身体機能要因を分析し、今後の転倒予防に向けて対策を検討することである。

【方法】

対象は、2020年4月から2021年3月(12ヶ月間)に当院血液内科病棟に入院した患者607名のうち、身体機能とADLを評価でき、除外基準の患者を除いた443名(年齢72.3±12.2歳、女性39%)とした。除外基準は、Mini-Cog2点以下で認知症が疑われる患者、失神による転倒患者、調査項目で示す身体機能検査が困難であった患者とした。調査項目は、基本属性として年齢、性別、身長、体重、BMIを、身体機能・ADL評価項目として、握力最大値、握力体重比、Standing test for Imbalance and Disequilibrium(SIDE)、Functional Ambulation Categories(FAC)、歩行速度(m/分)、入院時Barthel Index(BI)を設定した。統計解析は、転倒の有無を従属変数に、調査項目を独立変数とするロジスティック回帰分析を用いて、オッズ比を算出した。有意な連続変数因子では、受信者動作特性曲線(ROC 曲線)を用い、曲線下面積(AUC)を求め同時にカットオフ値を算出した。いずれも全体数ならびに男女別にて検討した。統計解析にはSPSS ver.21を用い、有意水準は5%未満とした。

【結果】

対象者443名のうち、転倒した患者は14名(3.2%)であった。転倒者の疾病と疾病別の転倒者割合は、悪性リンパ腫が7/257名(2.7%)、多発性骨髄腫が3/43名(7.0%)、急性リンパ性白血病が2/6名(33%)、骨髄異形成症候群が2/53名(3.8%)であった。各項目の転倒に影響する有意なオッズ比は算出されなかった。男性では、転倒に影響する因子として歩行速度(オッズ比: 0.93、95%信頼区間: 0.89-0.97)が抽出された。転倒の有無と歩行速度におけるROC曲線を評価した結果、AUCは0.84で、カットオフ値は31.2m/分(0.52m/秒)であった(感度: 0.97、特異度: 0.90)。女性では、転倒に影響する因子としてSIDE(オッズ比: 0.40、95%信頼区間: 0.18-0.89)が抽出された。

【結論】

本研究では、入院中の転倒に影響する身体機能要因に男女差を認めた。男性では歩行速度が低下している患者、女性では下肢バランス能力が低下している患者に、特に転倒に注意する必要があると考えられた。今後の転倒予防を推進するため、男性には歩行速度、女性には下肢バランス能力を維持改善する理学療法が必要であると示唆された。

【倫理的配慮、説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づきデータの集計は患者が特定されないよう匿名化し管理を行った。

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