日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第8回 日本予防理学療法学会学術大会
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地域実践活動1
外出自粛環境下にある地域在住高齢者における主観的認知機能低下発生要因
田中 繁弥齊田 高介村山 明彦樋口 大輔目崎 智恵子石井 純子鳥塚 典恵青木 久美井野 由美篠原 智行
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p. 49

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抄録

【目的】

COVID-19感染拡大予防のために外出自粛が求められたことにより、身体機能ばかりでなく認知機能等精神機能の低下も危惧される。主観的認知機能低下(subjective cognitive decline:以下SCD)は、客観的な認知機能の低下は認められないが自覚的な認知機能の低下を訴える状態であり、将来の軽度認知障害や認知症の発症との関連が指摘されている。本研究では、地域在住高齢者を対象に前向き観察研究を行い、半年後のSCD発生に関連する要因を検討した。

【方法】

A市在住高齢者1953名に質問紙を郵送配布・回収にて調査を行った。第1次調査は2020年5-7月、第2次調査は2020年11月-2021年1月に実施し、1次調査時点でのSCDがなく、欠損値の認められなかった534名を解析対象者とした。

SCDはJessen Fら(2014)、およびSlot REら(2018)を参考に、本研究では後期高齢者の質問票で「周りの人から『いつも同じことを聞く』などの物忘れがあるといわれていますか」「今日が何月何日かわからないときがありますか」の2つの質問のうち、1つでも「はい」と回答した者と操作的に定義した。

対象者のうち、2次調査時のSCD発生有無で2群に分け、基本属性と1次調査時点における後期高齢者の質問票の項目に対してマンホイットニーのU検定及びχ二乗検定を行った。さらにSCD新規発生有無を従属変数として、群間比較にて有意であった項目を独立変数とする強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を実施した。共変量として年齢、性別、併存疾患数、同居家族の有無で調整を行った。

【結果】

第2次調査でのSCD新規発生者は534名中85名(15.9%)だった。SCD発生有無での群間比較の結果、後期高齢者の質問票の歩行速度(p=0.001)、喫煙(p=0.001)、相談相手(p=0.002)に有意な差が認められた。有意差が認められた項目を独立変数に強制投入したロジスティック解析の結果、後期高齢者の質問票の歩行速度(オッズ比2.115、95%CI: 1.259-3.553)と相談相手(オッズ比3.619、95%CI: 1.553-8.443)が有意な関連要因であった。モデルχ2 検定の結果はp=0.003で有意であり、各変数も有意であった。Hosmer とLemeshowの検定結果はp=0.787で良好であり、判別的中率は83.6%であった。

【考察】

地域在住高齢者の半年後SCDの発生には、歩行速度の低下に加えて、ソーシャルサポートの有無による影響が示唆された。主観的認知機能低下に対しては、外出自粛が求められる中でも、心身状況を相談できる機会の確保が重要と考えられた。今後はSCD者の追跡を継続し、生活変化について検討を行う必要があると考える。

【倫理的配慮、説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に基づき、高崎健康福祉大学研究倫理委員会審査会の承認を得て実施された(許可番号2009号)。研究参加の同意は質問紙への氏名の記載をもって取得とした。

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