主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第4回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第56回 日本理学療法学術大会
会議名: 第8回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: Web開催
開催日: 2021/11/13
p. 94
【はじめに、目的】
知的障害者施設では、ご利用者の高齢化と疾患の重度化などによる職員の身体的負担の増加が問題となっている。当園でも数年前から福祉用具の導入等の腰痛対策が講じられ、新施設には天井走行リフトの導入が決まっている。そこで理学療法士が介護リフト(以下、リフト)の操作講習や対象ご利用者の選定などを主導し、令和元年11月からリフトの導入を開始した。今回、職員へのアンケートを基にリフトの導入による腰痛効果を検討した。
【方法】
対象は、当園の高齢者寮の職員で、協力の同意が得られた男女合わせて17名(25~68歳、平均年齢48.9±13.64歳)。方法は、令和2年2月に対象者全員にリフト導入の効果と腰痛の実態を調査する目的で、独自に考案したアンケートを実施した。回収したアンケートは単純集計を行い、1か月間の腰痛の有無と雇用形態、夜勤の有無、性別についてはクロス集計後にFisherの正確検定を、1か月間の腰痛の有無と年齢については対応のないT検定を用い、有意水準を5%未満として解析を行った。
【結果】
アンケートの単純集計の結果は、性別は「男性」9名(52.9%)、「女性」8名(47.1%)。雇用形態は「正規職員」10名(58.8%)、「非正規職員」7 名(41.2%)。夜勤の有無は「あり」14名(82.4%)、「なし」3名(17.6%)、1か月間の腰痛の有無は「あり」13名(76.5%)、「なし」4名(23.5%)、リフト使用による腰部への負担は「減った」10名(58.8%)、「少し減った」6名(35.2%)、「変わらない」1名(6.0%)。リフトの継続使用は「必ず使用したい」16名(94.0%)、「時々は使用したい」1名(6.0%)であった。また移乗介助以外の腰部負担の強い業務については「更衣介助」8名(47.1%)、「食事介助」と「洗い物」がそれぞれ1名(6.0%)であった。1か月間の腰痛の有無と雇用形態、夜勤の有無、性別については、3項目とも有意な関連性は認めなかった。また1か月間の腰痛の有無と年齢についても有意差は認めなかった。
【結論】
腰痛のない職員を含め94%が腰部の負担が減り、継続して使用したいと回答しており、リフトの腰痛予防効果を示している。また、76.5%の職員が性別や雇用形態、勤務内容、年齢に関係なくリフト導入後に腰痛を自覚していることは、介護業務の腰部負担の強さを示すが、逆にリフトの活用は、腰痛があっても腰部の負担が少なく業務が可能なこと示し、職員の意思に反する休暇取得や業務の制限を減少できると考える。ただ、腰痛発症の要因は、移乗介助以外の業務や場合によっては、リフト非使用ご利用者の移乗等の影響も考えられ、理学療法士が、リフト対象者の見直しを適宜行う等のリフトが活用されるための取り組みを継続すると同時に、介助技術や作業姿勢等の対策を並行して実施することがリフト活用による腰痛の予防効果を高めると考える。
【倫理的配慮、説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的、方法、個人情報の取り扱い等について書面、及び口頭にて説明し、書面にて同意を得た。