日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第8回 日本予防理学療法学会学術大会
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予防その他1
看護・介護職員を対象とした短時間・頻回を特徴とする腰痛対策研修の有効性
榊原 和真田中 誠也鈴木 啓介
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p. 95

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抄録

【はじめに、目的】

腰痛は第3次産業における職業性疾病の7割を占め,看護・介護の現場でもその予防が重要な課題となっている.これまでに当施設では,施設職員を対象に多忙な業務状況を考慮し短時間・頻回の腰痛対策研修(以下,本研修)を業務改善活動として実施してきた.これまで本研修より得られる効果については,職員毎に評価のみにとどまり,統計学的手法を用いた検討は行っていない.そこで我々は,本研修の前後に実施したアンケート調査の結果を用いて,本研修の有効性について検討した.

【方法】

解析対象者は,2019年4月~10月の間にメディコ阿久比で実施された本研修に参加した看護・介護職員のうち,研修前後に実施したアンケート調査の両方に回答した89名(男性12名,女性76名,未記入1名).本研修の有効性については,アンケート調査の項目のうち,主に腰痛の重症度を腰痛予防研修の前後で比較・検討した.腰痛の重症度は,NRS(0:痛み無し~10:想像できる最大の痛み)を用いて評価した.また,解析対象者のうち,本研修開始時に腰痛を有していた職員(以下,研修開始時腰痛あり職員)を対象にサブグループ解析を行った.その他,腰痛の既往歴や腰痛を感じる場面についても調査した.

【結果】

解析対象者のうち,看護師25名,介護士63名(未記入1名).勤続年数は平均11.1±6.0年.今までに腰痛を経験したことがある職員は研修開始時腰痛あり職員を含めると82名(92%)で,そのうち,研修時腰痛あり職員は52名(61%)であった.腰痛を感じる場面で最も多かったのは,「おむつ交換」39名(44%),続いて「移乗介助」32名(36%)であった.全職員を対象にした解析の結果,研修前後で腰痛の程度に有意な差は認められなかった. 研修開始時腰痛あり職員を対象にした解析の結果,研修前後で,平均3.8±1.9から3.0±2.0へと有意に改善を示した(p=0.039).その一方で,全職員のうち23名(26%),研修開始時腰痛あり職員では,17名(31%)に腰痛の悪化を認めていた.悪化の程度は,それぞれ21名(91%),16名(94%)がNRS2以下の軽度の悪化であった.

【結論】

看護・介護職員の9割以上の惻隠が腰痛を経験しており,腰痛対策は介護福祉施設において重要な課題であることがあらためて示された.統計学的解析の結果,研修開始時腰痛あり職員においては,本研修の実施が腰痛の改善・予防につながった可能性が示唆された.その一方で,一部の職員においては軽度ではあるが腰痛の悪化を認めており,本研修の受講により改善した職員と悪化した職員の講習内容の遵守率や職員の生活習慣等の特性を比較し,改善度に違いが生じた要因を検討する必要があると考える.改善もしくは悪化につながる要因が明らかとなれば,本研修の内容を再検討し,より効果的な研修の立案・実施につながると考える.

【倫理的配慮、説明と同意】

本研究は,既存情報のみを用いた研究であるため,国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会で審査・承認され,各研究機関の長からの許可を得た上で実施した(1339・1340).研究対象者には,本研究に関する情報を公開し,拒否する機会を提供した.

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