主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第7回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第57回 日本理学療法学術大会
会議名: 第9回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: 赤羽会館(東京都)
開催日: 2022/11/19 - 2022/11/20
p. 28
【はじめに、目的】
マインドフルネスストレス低減法(Mindfulness-based stress reduction: MBSR)は、うつや慢性疼痛に有効であることが知られている。近年MBSRは、認知症発症や、認知症進行の抑制に対しても効果があることが報告されている。これまで、脳のfunctional MRIの所見から、扁桃体・前帯状回などの血流が、MBSRによって増加することが知られている。しかし、どのような分子的な変化が、MBSRによって引き起こされているか分かっていなかった。本研究では、MBSRプログラムに参加した高齢者の血液から、ニューロン由来細胞外小胞(neuron derived extracellular vesicles: NDEV)を単離し、NDEVのどのようなmiRNAの変化が認知機能向上に関与しているかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
千歳市の町内会から65歳以上の高齢者を募り、Group1とGroup2 に分けた。Group 1では、4週間の非介入期間の後、4週間のMBSR 介入を行った。Group 2では、非介入期間は設けず、4週間のMBSR のみを行った。MBSRは、週3回4週間、計12回行った。また介入前後で、認知機能検査(MoCA-J)と採血を行った(計2回のアセスメントを行った)。Group 1は当初21名がリクルートされたが、2回目のアセスメントに参加しなかった人を除き、最終的に10名が調査の対象となった(非介入群)。Group 2は当初25名がリクルートされたが、MBSRプログラムの参加回数が8回以下の方、並びに2 回目のアセスメントに参加しなかった人を除き、最終的に19名が調査の対象となった(介入群)。
【結果】
非介入群と、介入群のMoCA-Jの結果を、Linear Mixed Modelを用いて解析したところ、MoCA-Jの総得点が、MBSR介入群で増加していた。またMoCA-Jの各項目においては、視空間実行系の点数が、MBSR介入群で増加していた。また参加者の血液から、NDEV を単離し、認知症に関するmicroRNA(miRNA)を測定したところ、miR-29cの発現が介入前後増加していた。さらにmiRNA-29cがターゲットとするDNMT3A・DNMT3B・STAT3・BACE1のNDEV中の遺伝子発現を調べたところ、DNMT3A・DNMT3B・BACE1の発現が介入前後で低下していた。以上から、miRNA-29cの増加が、DNMT3A・DNMT3B・BACE1の発現を抑制していたと考えられた。また実際にmiRNA-29cがそれらの発現を抑制することが、ルシフェラーゼアッセイにて明らかになった。次に、miRNA-29cの増加が、 脳内にどのような変化をもたらすかを検証するため、miRNA-29c mimicをアルツハイマー型認知症モデルマウスに脳室内投与した。その結果、認知機能障害が抑制されていることが、Y字迷路試験で明らかとなった。また海馬におけるmiR29cの増加及び、DNMT3A・DNMT3B・BACE1の発現低下が確認された。組織学的検索では、海馬におけるアミロイドβの発現に変化は見られなかったが、神経細胞死が抑制されていることが明らかとなった。この神経細胞死の抑制については、DNMT3A・DNMT3Bの低下による効果だと考えられた。
【結論】
以上からMBSRは、ニューロンのmiRNA-29cの発現を増加させ、神経細胞死を抑制することで、認知機能を向上させると考えられた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は、札幌医科大学倫理委員会で承認が得られており(倫理委員会承認番号:30-2-17)、ヘルシンキ宣言に基づき行われた。また参加者に対しては、本研究について事前に説明し、書面にて同意を得た。動物実験に関しても、札幌医科大学動物実験委員会にて承認された計画(動物実験承認番号:19-052)の下、行われた。