日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第9回 日本予防理学療法学会学術大会
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予防一般口述4
大腿骨近位部骨折後の歩行能力と退院3か月後における手段的日常生活活動能力の関連
松﨑 英章森岡 直輝大石 優利亜髙橋 真紀
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p. 37

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抄録

【はじめに、目的】

大腿骨近位部骨折では、退院後の手段的日常生活活動(IADL)能力に歩行能力が関連することが報告されているが、この先行研究では受傷以前より既に歩行障害を有する者が対象に含まれている。そのため、このような患者ではIADL能力障害を生じるリスクが 高く、その関連性が過大評価されている可能性がある。つまり、退院後のIADL能力と歩行能力の関連を正確に評価するには、受傷前の歩行が自立していた者のうち、退院時点においても歩行が自立した者を対象とし、歩行能力を客観的に評価する必要がある。本研究では、回復期リハビリテーション(回リハ)病棟退院時における大腿骨近位部骨折患者の客観的に評価した歩行能力と手段的日常生活活動能力の関連を3か月間の前向き追跡研究によって明らかにする。

【方法】

対象は、回リハ病棟に入院した65歳以上の大腿骨近位部骨折患者とし、病棟内歩行が自立した者である。指示理解が困難、下肢関節痛、神経系疾患を有する者は除外した。

IADL能力は老健式活動能力指標の手段的自立5項目の合計点とし、退院3か月後に質問紙を郵送して評価した。歩行能力は、歩行速度、歩幅、単脚支持時間、歩隔4項目とし、退院時に三次元動作解析装置(VICON社)を用いて、8mの歩行路上を快適速度にて歩行した際のデータを100Hzの頻度で取得した。なお、歩幅、単脚支持時間には術側下肢のデータを用いた。重回帰分析を用いて、IADL合計得点に対する各歩行能力指標の標準化偏回帰係数(β)と95%信頼区間(95%CI)を算出した。なお、各分析では性、年齢、認知機能、膝伸展筋力、受傷前1年間における転倒経験を調整因子として用いた。有意水準は5%未満とし、統計解析にはR 4.2.0を使用した。

【結果】

対象は30名(年齢79.9±5.3歳、男性4名、女性26名)であり、各歩行能力は歩行速度0.77±0.22m/秒、歩幅0.43±0.10m、単脚支持時間0.42±0.08秒、歩隔0.15±0.04mであった。退院3か月後のIADL合計点は3.80±1.8点であった。重回帰分析の結果、退院3か月後のIADL能力と関連を認めた歩行指標は、歩行速度(β:0.40, 95%CI:0.02-0.78, p<0.05)と歩幅(β:0.47, 95%CI:0.11-0.82, p<0.05)であった。

【結論】

大腿骨近位部骨折患者における客観的に評価した各歩行能力と退院3か月後のIADL能力との関連について前向きに調査した結果、歩行速度、歩幅が退院3か月後のIADL能力との間に正の関連を認めた。本研究の結果より、自立歩行の再獲得が得られている患者であっても、客観的に評価した歩行速度や歩幅等の歩行能力が退院後のIADL能力と関連する重要なマーカーである可能性が示された。

【倫理的配慮】

本研究は、当院の倫理委員会で承認を得て、対象者に対する説明を行い、同意を得て行われた(課題番号:201811-6)。

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