日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第9回 日本予防理学療法学会学術大会
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サルコペニア予防
サルコペニアが人工膝関節置換術後の階段昇段・降段時の困難感に与える影響
長野 愛田澤 智央髙橋 遼田中 友也杉本 和隆
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p. 48

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抄録

【はじめに、目的】

整形外科的な手術を受けた者は、一般高齢者よりもサルコペニアの有病率が高いと報告されている。サルコペニアが人工膝関節置換術(Knee Joint Replacement:以下、KJR)の術後アウトカムに与える影響を明らかにしたエビデンスは十分でない。KJRの術後アウトカムとサルコペニアとの関連が明らかになれば、サルコペニアを予防する取り組みの価値をより一層高めるとともに、術後リハビリテーションの戦略を立てるときに役立つ情報になると考える。本研究の目的は、KJR患者を対象に、サルコペニアが術後6 か月の階段昇段・降段時の困難感に与える影響を明らかにすることとした。

【方法】

研究デザインは、後ろ向きコホートスタディとした。対象は、当院にて末期変形性膝関節症によりKJRを受けた者506名とした。除外基準は、脳血管疾患による後遺症がある者、手術既往がある者とした。測定項目は、体組成データと握力、階段昇段・降段時の疼痛と困難感とした。体組成データと握力は術前に測定し、アジア・サルコペニア・ワーキンググループのカットオフ値を基に、サルコペニアを診断した。階段昇段・降段時の疼痛と困難感は、術前と術後6 か月に調査した。階段昇段・降段時の困難感は、5段階のリッカートスケール(1:困難なし、2:少し困難、3:中等度困難、4:困難、5:かなり困難)で聴取し、困難なしと少し困難以上の2群に分類した。統計解析は、従属変数を術後6か月の階段昇段・降段時の困難感、独立変数をサルコペニアの有無、共変量を年齢、性別、BMI、術側(片側・両側)、術前の階段昇段・降段時の疼痛と困難感としたロジスティック回帰モデルを用いて、サルコペニアが術後6か月の階段昇段・降段時の困難感に与える影響を検討した。

【結果】

対象は、サルコペニアなし407名(平均年齢±標準偏差:72.5±7.9歳、女性の人数295名、BMI:26.7±4.1kg/m 2)、サルコペニアあり99名(75.0±7.5歳、94名、27.2±4.4kg/m 2)であった。術後6か月に、階段昇段時に困難を感じた者の割合は、サルコペニアなし156名(48.4%)、サルコペニアあり52名(63.4%)であった。一方、術後6か月に、階段降段時に困難を感じた者の割合は、サルコペニアなし212名(65.4%)、サルコペニアあり65名(79.3%)であった。ロジスティック回帰分析の結果、サルコペニアが術後6か月の階段昇段・降段時の困難感に与える影響は、それぞれ1.79(1.05-3.06)、1.86(1.02-3.40)であり、有意に関連した。

【結論】

TKA患者のうちサルコペニアを呈する者は、術後6か月の階段昇段・降段時に困難を感じる可能性が高いことが明らかになった。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に則って進められた。本研究は後ろ向き研究のため、事前に説明と同意を取得することは困難であった。代わりに、対象者向けに文書を公開し、研究参加に対して拒否する機会を設けた。

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