主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合, 第58回 日本理学療法学術大会
共催: 第6回 日本産業理学療法研究会学術大会
会議名: 第10回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: 函館市民会館・函館アリーナ(函館市)
開催日: 2023/10/28 - 2023/10/29
【はじめに、目的】
高齢者の道路横断中の死亡事故は少なくない (内閣府,交通安全白書2020)。道路横断中における事故の原因には、車の接近速度に対する知覚感度の低下と関連した横断判断ミスがある。車の接近速度を正確に知覚するためには、接近に伴って網膜上で変化する車の拡大率を正確に知覚する必要があるが、物体の拡大率に対する知覚感度が加齢によって低下する可能性が示されている。そのため、高齢者の衝突事故を予防するためには拡大率の知覚感度を改善させることができる練習が必要であると考えられる。そこで本研究は、接近物体の拡大率の知覚に特化した練習課題をVR環境に構築し、衝突予測能力および道路横断判断の改善に有効であるか検証した。
【方法】
65歳以上の地域在住高齢者18名 (72.5±5.8歳、女性9名)を、拡大率の知覚に特化した練習課題群 (Expansion Task;ET群)とインターセプション課題群 (Interception Task;IT群)との2群にランダムに分類した。参加者はそれぞれの練習課題を1時間行った。評価課題はインターセプション課題、物体の接近検出課題、VR道路横断課題を用い、それぞれ衝突予測パフォーマンス、接近する物体の拡大率に対する感度、道路横断判断の正確性をアウトカムとして評価した。練習前後の2地点の測定時期で評価した各アウトカムが練習課題によって異なるかを線形混合モデルで分析した。
【結果】
衝突予測パフォーマンス、接近物体の拡大率に対する感度において、測定時期および練習課題の有意な効果はなかった。道路横断判断の正確性において、練習課題と測定時期の有意な交互作用効果を認めた (p < .05)。ET群では、練習前から練習後にかけて有意に道路横断判断の正確性が改善した (p < .05)。一方、 IT群で有意な変化はなかった。
【考察】
今回新たに構築した拡大率の知覚に特化した練習は、高齢者の道路横断判断の改善に有効である可能性が示された。しかし、移動物体に対する衝突予測能力および拡大率の感度改善に対する練習効果は有意ではなかったことから、根本的な知覚機能の改善は確認できなかった。
【結論】
今後は知覚感度の改善にも繋がる練習課題を構築し、高齢者の衝突事故予防に貢献できる練習システムを開発していく。
【倫理的配慮】
東京都立大学研究倫理委員会の承認を得た (承認番号H3-63)。