日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第10回 日本予防理学療法学会学術大会
セッションID: YOS-10-3
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予防OS10
関節包の解剖学的特徴に基づいた下肢の関節支持機構
堤 真大工藤 慎太郎二村 昭元秋田 恵一
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抄録

変形性関節症に代表される関節疾患の進行予防において、関節 の安定性を保つことは重要である。我々は「関節包」に着目し、関節支持機構について解剖学的再考を試みてきた。可動性を有する滑膜性の関節は関節包に覆われる。関節包の内層は滑膜、外層は線維膜という解剖学用語で呼ばれ、関節包=膜性の袋として考えられることが多い。そのため関節包は靱帯や筋に比べて関節支持機構としての役割について注目されることが少なかったといえる。 たとえば、股関節を例にあげてみると、教科書では関節包は寛 骨臼縁に線状に付着するように描かれる。対して、股関節の安定性に寄与する構造としては関節包よりも靭帯が着目され、なかでも腸骨大腿靭帯はヒトで最も強靭な靭帯ともされる。しかし実際には、腸骨大腿靭帯が付着するとされてきた下前腸骨棘の下方には、関節包自体が幅広く付着し、その形態が機械的ストレスに順応したものであることがわかってきた。このように関節包の骨への付着は線状でなく、多くの関節で従来考えられてきたよりも付着幅が広いことがわかってきている。また、腸骨大腿靭帯が存在するとされる関節包前面には、いわゆる“靭帯”を想起するような、逆Y字型の線維束様の構造は観察され ない。一方で、関節周囲の筋と関節包の関係に着目すると、小殿筋腱と腸腰筋深層腱膜が関節包前面に結合している。そして、関節包自体の厚みが一様でなく、小殿筋腱や腸腰筋深層腱膜が結合することによって厚みをなした関節包部分が腸骨大腿靭帯に相当することがわかってきた。一般には、関節の動きに合わせて張力を発揮する「筋」を “動的”支持機構、一定の可動域に達した場合に作用する「靭帯」を“静的”支持機構と区分する。しかし、腱や腱膜が筋張力の影響を受ける構造であることを念頭におくと、腸骨大腿靭帯に相当する関節包部分は関節の動きにあわせながら作用する“動的”支持機構ともいえる。このように、多くの関節において、いわゆる靭帯は関節包の特徴の一部を捉えたものに過ぎず、“静的”/“動的”支持機構という区分も構造的には曖昧であることがわかってきた。 本演題では、股関節に限らず、同様に荷重関節である膝関節や足関節を例にあげ、関節包は①付着部に幅がある、②関節周囲の腱・腱膜と連続する、という解剖学的特徴から、支持機構としての関節包の重要性について概説したい。

【倫理的配慮】

全ての研究は、東京医科歯科大学の倫理審査委 員会の承認を得た後に行われた (M2018-044、M2018-243-01、 M2020-382)。また、「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、日本解剖学会が定めた「解剖体を用いた研究についての考え方と実施に関するガイドライン」に従い、実施した。

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