日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第42回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 42_1-S05-2
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シンポジウム
抗がん剤ゲフィチニブによる間質性肺炎の発症機序の解明
*松沢 厚
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抄録

ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)は、がん増殖に重要な上皮成長因子受容体(EGFR)を選択的に阻害する抗がん剤で、肺がん治療薬として世界に先駆けて日本で2002年7月に承認された。現在、世界約90カ国で、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がんに適応されている。ゲフィチニブのような特定の分子を狙い撃ちする分子標的治療薬は、治療効果と安全性の高さが期待されたが、上市直後から急性肺障害や間質性肺炎などの致死性副作用の報告が相次ぎ、我が国で大きな社会問題となった。しかし、ゲフィチニブによる急性肺障害や間質性肺炎の発症メカニズムはこれまで良く分かっていない。そこで我々は、ゲフィチニブ副作用発症の機序解明を目指して解析を進めた。

 ゲフィチニブの副作用は、EGFRとは別の標的を介して惹起されると考えられる。急性肺障害や間質性肺炎はいずれも炎症性疾患であることから、ゲフィチニブが炎症誘導に関わる分子やシグナル経路を標的として炎症を惹起していると考え、その分子メカニズムを解析した。その結果、ゲフィチニブは免疫応答に重要なマクロファージに作用し、炎症性サイトカインIL-1βと核内タンパク質HMGB1という2種類の起炎物質の細胞外分泌を促進して炎症惹起することが判明した。HMGB1にはIL-1β分泌促進作用があることから、ゲフィチニブによるHMGB1分泌は、IL-1β産生量を増強し、強い炎症誘導の引き金になっていると考えられる。そのメカニズムとしてゲフィチニブは、IL-1β分泌を促進して炎症誘導に働く分子複合体であるNLRP3インフラマソームを活性化すること、また、DNA障害などに応答する炎症誘導分子PARP-1の異常な活性化を介してHMGB1分泌を促進することが明らかとなった。従って、ゲフィチニブは「NLRP3インフラマソーム活性化」と「PARP-1の異常活性化」という異なるメカニズムを同時に動かし、相乗的に炎症を惹起することが判明した。さらに、IL-1β分泌を遮断したマウスでは、ゲフィチニブによる肺炎が起こらず、ゲフィチニブの肺障害や間質性肺炎の原因がIL-1βの過剰分泌であることが示された。

 本研究では、ゲフィチニブによる間質性肺炎の発症メカニズムの一端を解明した。今後、ゲフィチニブ服用時の致死性副作用の予防・治療法開発や、さらに、その他の抗がん剤による間質性肺炎発症の機序解明にも繋げていきたい。

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