日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第42回日本臨床薬理学会学術総会
選択された号の論文の410件中1~50を表示しています
会長挨拶
  • 谷内 一彦
    セッションID: 42_greeting
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/08
    会議録・要旨集 フリー

     第42回日本臨床薬理学会学術総会会長を仰せつかりました東北大学大学院医学系研究科・機能薬理学分野の谷内一彦です。第42回日本臨床薬理学会学術総会を、2021年12月9日(木曜日)から12月11日(土曜日)までの3日間、仙台国際センター(宮城県仙台市)において開催させていただくことになりました。歴史ある本学術総会の会長を担当させていただきますこと、誠に光栄であるとともにその責任の大きさを強く感じております。仙台での開催は1991年に涌井昭会長(東北大学抗酸菌病研究所)が務められて以来、2回目になります。

     日本臨床薬理学会は有効でかつ安全な薬物治療の恩恵を受けられるように、学術的貢献および社会的貢献に資する目的で、1980年に設立されました。臨床薬理学は、合理的薬物治療を志向する学問で、薬物治療の有効性と安全性を最大限に高め、最良の治療を提供することを目指しています。合理的薬物治療を実践するためには、「創薬と育薬」のための臨床試験に関する科学、個々の患者の病態に合わせて薬力学的側面および薬物動態学的側面からの合理的薬物投与設計等の構築、患者と医療者との信頼関係の形成が重要となります。このために日本臨床薬理学会は臨床研究と治験の体制整備に関して、全国的な普及・啓蒙活動を活発に行ってきました。

     今回の日本臨床薬理学会学術総会は、テーマを最近の話題である「Open Innovationへの挑戦」としました。これまでと同様に第42回日本臨床薬理学会学術総会でもあらゆる医療関係者(医師、歯科医師、薬剤師、看護師、CRC、検査技師、放射線技師、AROなど)、関連企業、規制当局等でご活躍の方々にお集まりいただき、幅広い臨床薬理学に関する発表を基に討論や情報交換をしていただき、最新の知見を吸収していただく場を設定いたします。このような視点から、特別講演、教育講演、シンポジウム、ワークショップ、海外研修報告、合同セミナー、ランチョンセミナー、一般発表、他学会共催セミナー、臨床薬理学講習会、男女共同参画セミナー、臨床薬理振興財団賞授与・受賞講演、海外研修員帰朝報告会、臨床薬理学講習会などのプログラムを予定しております。

     私にとりましても臨床薬理学会への積極的参加を通して、薬理学分野教授就任した1998年から東北大学における治験・臨床研究の基盤整備に尽力し、日本における臨床研究倫理審査システムや利益相反管理体制の構築に関与してきました。第42回学術総会会長の重責を果たして2022年3月末に東北大学を定年退職する予定ですので、私の個人史の集大成と考えて企画を充実させたく考えています。

     現在、世界各国で新型コロナウイルスが猛威をふるっています。新興感染症の拡大は、人類にとって大きな試練の時ではありますが、大きな変革の時機と考えて積極的に新しい取組に邁進していきたく考えています。今後の感染状況の急激な変化や緊急事態宣言の再発令などの場合には変更になる可能性はありますが、現状ではハイブリッド開催と年会終了後12月のオンデマンド配信となることをご理解いただけますと幸いです。第42回日本臨床薬理学会学術総会の企画をご理解頂き、多くのご参加を賜りたく、ここに謹んでお願い申し上げる次第です。第42回学術総会に一人でも多くの皆様と仙台の地で直接にお会いできることを楽しみにしております。

会長講演
  • 谷内 一彦
    セッションID: 42_1-PL
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/08
    会議録・要旨集 フリー

    私は東北大学を卒業以来、広義の薬理学研究(分子薬理学、応用薬理学、精神神経薬理学、臨床薬理学、神経科学、放射性医薬品化学など)を行っている。情報伝達の仕組みにdirected系とdiffuse(拡散)系があることが知られている。会長講演として私の研究履歴である"拡散系"薬理学研究を紹介する。大学院時代は、放射性医薬品として癌診療に一般的に使用されるフルデオキシグルコース(FDG)の開発者である井戸達雄教授(薬学)と松澤大樹教授(医学)の指導を受けて新規PETプローブ開発に従事した。当時は神経伝達のPETイメージングの勃興期であり、神経伝達PETイメージングプローブの標識と動物実験で学位を取得した。

     米国でPET臨床研究が開始されていたので、1986年に米国ジョンスホプキンス大学のWagner教授のラボに留学した。神経伝達で著名なSnyder教授と一緒に、ドパミン、セロトニン、オピエート受容体のヒトにおけるPETイメージングを行っていた。モノアミンオキシダーゼ(MAO)のPETイメージングがWagner教授から与えられた私の研究テーマであった。米国留学前にヒスタミン神経の発見者である渡邉建彦教授(薬理学)と相談して、ヒスタミン系のPET研究を開始したので、Wagner教授の許可を得て[11C]Pyrilamineや[11C]Doxepinの標識を行った。米国におけるPET臨床研究の手法を理解し、帰国後に渡邉建彦教授の薬理学教室に在籍して臨床試験を開始できた。当時のホプキンスのラボにいた研究者とは今でも交流があり、現在もタウPETイメージングや神経炎症のPETイメージングを共同で行っている。特にMAO-BのPETイメージングは神経炎症のよいバイオマーカーになると考えて、[18F]SMBT-1 (J Nucl Med 2021;62:253-258)を開発して、国際共同PET臨床研究を進めている。

     米国留学中に開始したヒスタミンH1受容体のPETイメージング研究は、1990年代から開発されてきた非鎮静性抗ヒスタミン薬の脳内移行性を客観的に判断する指標であるH1受容体占拠率(H1RO)測定を開発して、国内外のガイドラインで私の非鎮静性抗ヒスタミン薬の考え方が採用されている(Pharmacol Ther 2017;178:148-156)。ヒスタミン研究はPET研究始まり、遺伝子ノックアウトマウス、分子生物学的研究、プロテオミクスなどの最新技術を導入して広範な"拡散系"薬理学研究を行っている。

特別講演
  • Chester Mathis
    セッションID: 42_1-SL1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    This presentation will summarize the discovery, development, and use ofamyloid-beta (Ab) imaging agents in Alzheimer's disease (AD). Amyloids areproteins composed of different amino acids with variable molecular weights. Twodefining characteristics of amyloid proteins are their propensity to aggregate(both in vitro and in vivo in different tissues in the body) and to formextended beta-pleated sheet structures that avidly bind fluorescent dyes such asCongo red and thioflavin-S. Aggregated amyloids accumulate both peripherally andin the brain and are associated with a variety of diseases such as systemicamyloidosis, AD, frontal temporal dementias, Parkinson's disease, andHuntington's disease. Historically, the clinical diagnosis of many of theamyloid-related diseases was confirmed in post-mortem tissue samples andutilized the location and concentration of the amyloid aggregates as definitiveevidence of disease presence at the time of death.

    A goal of researchers throughout the world was to develop methods capable of thedefinitive diagnosis of amyloid-related diseases prior to death in living humansubjects. This would permit the identification of early stage disease cases inwhom the natural history of disease progression could be defined, as well asassist in the evaluation of the efficacy of anti-amyloid therapeutics atdifferent stages of disease. Non-invasive imaging methods, such as positronemission tomography (PET), could be utilized pre-mortem for this purpose, ifsuitable radiotracers for the different amyloids were developed and applied. Thefirst reported amyloid imaging radiotracers were non-selective and bound withhigh affinity to a variety of different amyloids. The development of PETradiotracers that bound selectively to one type of aggregated amyloid over allother types is desirable, particularly in AD where both aggregated Ab (in theform of Ab plaques) and tau (in the form of neurofibrillary tangles) can bepresent. In the early 2000's, our research groups at the University ofPittsburgh identified the first selective amyloid PET radiotracer,carbon-11-labeled Pittsburgh Compound B (PiB), for imaging aggregated Ab.Thousands of research PiB PET imaging studies in normal elderly subjects,subjects diagnosed with mild cognitive impairment, and AD have been conductedworldwide, and the results of those studies will summarized. Subsequentdevelopment of longer-lived fluorine-18-labeled Ab PET radiotracers permittedtheir wider distribution and clinical use at a variety of PET imaging centers.Currently, Ab PET imaging is being used to understand the natural history of Abdeposition, to help define and identify pre-AD subjects, to assist drugdevelopment efforts in clinical trials, and to add an etiological component intothe pre-mortem diagnosis of probable AD in research settings. The future usesand expansion of Ab PET imaging will likely be affected by the degree of successof plasma-based AD biomarkers, such as Ab40/42 and phospho-tau species.

  • 西野 精治
    セッションID: 42_3-SL2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    私は、大阪医科大学大学院4年在学時の1987年に、早石修学長 (当時) の早石生物情報研究所共同研究員としてスタンフォード大学睡眠研究所に留学することになった。その後34年にわたり、スタンフォード大学で睡眠研究を続けている。その間、東北大学にはヒスタミンの国際シンポジウムなどで度々訪れる機会があった。本学術総会では、ヒスタミンにちなんで脳内マスト細胞と睡眠に関する研究成果を報告する。ヒスタミン神経のみならず、マスト細胞由来のヒスタミンは覚醒系の伝達を担い、ストレス性不眠、不眠による脂肪細胞等における炎症や耐糖能異常などにも関わるという結果が動物実験で得られた。次に、新型コロナウイルス感染症と睡眠に関する疫学的調査の結果を報告したい。2000年初頭より新型コロナウイルス感染症「COVID-19」が猛威を振るい、全世界で多くの死亡者を出す事態となった。COVID-19の広がりによって人々の生活習慣や労働様式から睡眠習慣まで大きな影響がみられ、今後、新型コロナウイルスとの共存を考える上で生活変化・職場での生産性の分析は重要である。2020年4月に行った1,000人規模の調査では、コロナ禍の下で特にリモートワークにより睡眠時間は長くなったが、就寝時間が後ろ倒しになり、睡眠の質が低下したケースも多いことがわかった。さらには、コロナ禍が約一年経過した2021年2月には調査対象者10,000人規模で睡眠状態やコロナ感染についての疫学的調査を行い、「マスクをせずに外出(OR 7.01, 95% CI: 4.50, 10.92)」などがCOVID-19のリスク因子として認められた。また調査対象者10,323名中、新型コロナウイルス感染を認めなかった8,693名のうち睡眠時無呼吸症候群 (SAS) の既往歴がある者は231名(2.7%)であった一方、新型コロナウイルス感染者144名の中でSAS既往者は51名(35.4%)に及んだという衝撃的な結果が得られた(OR 4.93, 95% CI: 2.81, 8.63)。新型コロナウイルスの感染者はインフルエンザの感染リスクも高く(OR 6.30, 95% CI: 3.79, 10.49)、SAS既往者では双方の感染リスクが高いことも分かった。最後に、谷内学会会長より研究成果のみならずスタンフォードでの研究生活やシリコンバレーでの生活も紹介していただきたいとの依頼を受けたので、米国での研究室の主宰者としての研究生活についても紹介させていただきたい。

教育講演
  • 出澤 真理
    セッションID: 42_2-EL1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    Muse細胞は生体内に存在し、骨髄から血液を通じて各組織に定常的に供給され、組織を構成する細胞に自発分化して傷害細胞を置き換えて修復し、組織恒常性に関わる非腫瘍性の多能性修復幹細胞である。骨髄・末梢血・各臓器の結合組織に分布し、傷害細胞・死細胞を組織恒常性に寄与している。脳梗塞などの大きな傷害では臓器共通の傷害シグナルsphingosine-1-phosphateを検知し、傷害部位に集積して「場の論理」に応じて組織を構成する細胞に分化し、血管等を含めて修復する。HLA-Gの発現など特異な免疫特権を有するため、ドナーMuse細胞はHLA適合や免疫抑制剤無しに長期間、分化状態を維持して組織内で生存できる。

    Muse細胞は遺伝子導入による多能性獲得や分化誘導操作が不要であり、点滴投与で傷害部位に選択的に集積するため、外科手術も原則不要である。現在、心筋梗塞、脳梗塞、表皮水疱症、脊髄損傷、新生児低酸素性虚血脳症、ALS, 新型コロナ急性呼吸逼迫症候群への治験が行われており、これら全てがドナーMuse細胞の直接の点滴投与である。

    脳梗塞のプラセボ対照二重盲検比較試験において、Muse細胞製剤が投与された群の約70%は寝たきり・失禁状態(mRS5)ないし歩行や身体的要求には介助が必要な状態(mRS4)から、一年後には公共交通機関を介助なしに利用できるなど身の回りの事が出来る状態(mRS2以下)となり、さらに約30%は発症前の生活にほぼ戻り職場復帰を果たした(mRS1)ことが明らかとなった。Muse細胞は今後の医療を大きく変える可能性があり、今後の展望について考察する。

  • 南 博信
    セッションID: 42_2-EL2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインは平成17年に一度改訂されたが、その後に抗悪性腫瘍薬の開発は大きく変化した。がん遺伝子検査に基づいた希少なサブタイプを対象とした分子標的薬の開発がなされ、さらに共通の遺伝子異常を有するがんにたいしがん種を超えてtumor agnosticに承認される事例も出現した。近年では免疫チェックポイント阻害薬が大きな効果を示し盛んに臨床開発がされているが、これらは効果も副作用も従来の抗悪性腫瘍薬とは大きく異なった特徴を有している。平成17年に改訂されたガイドラインではこれらに対応困難となっており、このたび抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインを改訂し、厚生労働省から令和3年3月31日に発出された。今回の改訂では日本から国際共同第I相試験に参加する際に障害となっていた入院管理を、十分な安全対策がとれる環境では不要とした。これらにより我が国でのFirst in humanの薬剤開発が進むことを期待する。また免疫チェックポイント阻害薬では画像でpsudoprogressionを示した後に腫瘍が縮小したり、腫瘍縮小の程度が大きくなくても長期間にわたり増大を抑えたり、治療を中止しても効果が持続したりすることもある。また、免疫に基づいた副作用を生じるため、従来の抗悪性腫瘍薬とは全く異なった副作用が異なった時期に出現する。こられにも対応できるようにガイドラインを改訂した。今回の改訂の最も大きな特徴は、がん遺伝子検査に基づいた希少なサブタイプに対する分子標的薬の開発に関して章を新設したことである。その上で、第III相比較試験の実施が困難な希少なサブタイプの抗悪性腫瘍薬では単群の第II相試験で評価し、ヒストリカルデータと比較し臨床的有用性を示す考え方を明記し、また、バスケット試験やアンブレラ試験、プラットフォーム試験など新しい試験デザインのマスタープロトコルにも言及した。最近は海外企業が直接日本で抗悪性腫瘍薬を開発する事例もみられ、今回改訂したガイドラインを英文化しCancer Science誌に掲載し、海外にも情報発信した。ガイドラインの改訂作業は抗悪性腫瘍薬の臨床開発に携わるアカデミアの研究者ばかりでなく、製薬企業の関係者、規制当局、患者さんの協同作業で行った。今回の抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインの改訂について解説する。

  • 田中 敏博
    セッションID: 42_2-EL3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    新薬の開発において妊婦や授乳婦は、その方々を投与対象とした薬剤でない限り、対象者の除外基準に該当して治験に組み入れられることがない。登録の時点で妊婦ではなかったとしても、治験期間中に妊娠が判明するや否や、フォローは継続されるものの解析の対象からは除外されることになる。したがって、上市後も多くの薬剤の添付文書上、妊婦や授乳婦は投与の対象としては禁忌の扱いであったり、「経験がない/少ない」といった記載となったりしている。

     しかし現実の世界では、様々な場面で、様々な疾患で、薬を投与しよう、しなければというその患者さんが妊婦であったり授乳婦であったりすることが日常茶飯事である。では、妊婦や授乳婦における開発時のデータがないか乏しい場合に、医療者として、臨床薬理家として、どのような態度で投薬の安全性や有効性を判断することが適切なのであろうか。

     まず、その薬の投与が必要かどうか、というそもそもの判断こそが第一義である。「念のため」という魔法の言葉で正当化される医療行為が、特に日本の医療界では枚挙にいとまがない。

     次に、データはないとされているが本当に存在しないのか、乏しいと言われるがその情報がどれほど頼りになるのかならないのか、検索し、検証することである。

     最後に、自身の経験、周囲に散らばる知見を、コツコツと積み重ねていくことである。データがないならば、情報が乏しいならば、自らそれを創り出せないものか、考えたらよい。

     「データがないから安全性や有効性が不明であるので投薬をしない」「投薬をしなければ、わずかでもあるかもしれない危険性を回避できる」、これらは、一見理にかなった対応のようではあるが、見方を変えれば単なる不作為である。投薬により守れる健康や命をないがしろにしているかもしれないことまで、想像力を働かせる必要がある。

     妊娠・授乳中の服薬に関するデータや情報は、大切であるのに半ば放置された、まるで作業を終えた後の畑に散らばる落穂のような存在である。日々患者さんと接する医療者の誰しもがそれを拾い上げることができる。そしてその姿勢が、妊婦や授乳婦、そして赤ちゃん達の健康を支え、命を守ることにつながっていくであろう。

  • 佐瀬 一洋
    セッションID: 42_2-EL4-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対応し、診断/治療/予防それぞれにおいてイノベーションの推進が求められている。一方、レギュラトリーサイエンスの観点からは臨床研究に参加する被験者の保護や承認後を視野に入れた安全性情報の管理について、IRB審議へのWEB会議システムの全面的導入や必須文書の電子化に代表されるようなデジタル化の流れが一気に加速した。

     ヘルシンキ宣言に示されている通り、医学の進歩は最終的には人を対象とする臨床試験に一部依存せざるを得ないため、GCPすなわち科学性、倫理性、信頼性を担保する仕組みが必要である。世界的にはGCP 刷新すなわちICH-E6(R2)とICH-E8(R1)の抜本的改訂が進みつつある。

     我が国におけるICH-GCPへの対応は、まず薬事法(現・薬機法)に基づく法令および支援体制整備として始まり、臨床研究における倫理指針や臨床研究支援体制の整備へと広がった。特に、2006年に研究戦略開発センター(JST/CRDS)から提言された臨床研究基本法(仮称)と臨床研究開発複合体を骨子とする臨床研究システムの抜本的改革は、2014年の健康・医療戦略推進法およびAMED法、および2017年の臨床研究法につながり、倫理審査委員会に法的根拠を与えるとともに、GCPの本質である「被験者保護」と「インテグリティ」を担保しつつ患者中心の社会貢献としての臨床研究の基盤となった。

     臨床研究法及び関連する法令や諸通知の成立過程においては、「インテグリティ」に対する議論と比較して「被験者保護」に対する議論が少なかった。しかしながら、国会における附帯決議では「被験者保護」と「国際整合性確保」が明示されている。従って、特に安全性情報の管理については、DSUR / PBRER / RMP等の国際基準を念頭に簡素化と質の向上の両立を図ることが重要である。

     本教育講演では、レギュラトリーサイエンスの手法であるGCPコンパリソン法を紹介する。有害事象と疾病等、IRBと認定CRBなど、各国の指針において共通の哲学に基づき定義された用語や運用上の留意点について、研究責任医師がつなぐ「思い入れ」と生物統計家が防ぐ「思い込み」を対比しながら、GCPを熟知する各職種のプロフェッショナルとともに理解を深めたい。

  • 大津 洋
    セッションID: 42_2-EL4-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    臨床研究の本質は「イノベーションの推進」と「被験者の保護」であり、その目的のために「適切にマネジメントされた」研究組織が運営されるべきである。

    我々は、臨床研究はデータの収集・データ管理を行い、分析、報告(論文化)が一連の流れであることから、試験全体に関わる「安全性情報の管理」に着目し、臨床研究法の特徴と運用面の留意点について報告した (大津,信濃ほか. 臨床評価. 46(2);303-320, 2018.)。

    (1)「疾病等」を含む用語の更なる国際整合化: 臨床研究法では、安全性情報の流れにおいて、「疾病等」という用語が使用されている。しかしながら、現時点では法、施行規則、課長通知、事務連絡における用語の定義には本質的では無いものの誤解を招きやすい点があり、重篤度、因果関係、既知/未知判断等、国際整合化を念頭においた運用が重要である。

    (2)リスク・ベネフィット評価の主体である「Sponsor」機能の確立とIDMCの設置: 安全性情報に関する用語として、例えば治験安全性最新報告(DSUR)、リスク管理計画(RMP)、定期的ベネフィット・リスク評価報告(PBRER)等はICH等により国際整合化されている。現時点では臨床研究法及び関連書通知に明記はされていないが、試験デザインに応じたSponsor機能の整備や、利益相反に対応した独立データモニタリング委員会(DSMC/IDMC)の設置は可能である。

    (3)被験者保護の観点からのCRBの体制整備: 臨床研究法では中央IRBとしてのCRBに法的根拠を与えている。被験者保護の観点からはCRB審査の質の向上が期待される一方で、業務負荷の増大も懸念されている。具体的には、情報量の増加に伴いシグナル検出力が低下することから、既に米国FDAでは逐次報告/緊急報告と集積報告/定期報告のバランス見直しが進んでいる。

    最近では、COVID-19の流行下での臨床研究基盤のパラダイムシフトの中で、これまでとは大きく異なる臨床研究の実施を経験することとなった。臨床研究の本質は変わらないまでも、新しい時代の方法論の多様化が求められていると考える。本講演では、論文化以降の研究計画の立案および実践等、最新の状況を踏まえて考察することを目的としたい。

  • 稲野 彰洋
    セッションID: 42_2-EL5-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    30年前に第1回ICH会議がブリュッセルで開催され、産官学による医薬品開発ルールの国際協調が進みました。20年前の2001年10月に第1回「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」(代表世話人 中野重行先生)が別府で開催されました。プログラムを眺めると、産官学の国内GCP対応の熱量を感じることができますし、現在も継続して取り組んでいる課題もあります。

    この時のGCP対応を足掛かりにして、多くの国内医療機関は、後続の各種指針や法令、制度に合わせて変化を遂げて来ました。医学薬学研究者を要するAcademic Medical Center(AMC)は、対応できる業務に差異が顕在化してきました。2年前の報告1)では臨床研究センターなど、呼称は様々ですが、AMCの体制や実績から(1)拠点型、(2)中規模型、(3)小規模型に分類され、さらに拠点型は得られている成果から、非臨床知財系と臨床試験系という特性があるようです。

    COVID19の出現は、製薬企業やバイオベンチャーが担うSponsor機能は科学的かつ熾烈な競争環境にあり、医薬品開発の基本はモノづくり(製造)であることを再認識させられました。既存医薬品のre-purposingや関連する調査研究には、Sponsor-investigatorが素早く機能することが重要でした。いずれのSponsorが主導しても国際競争を勝ち抜くことで、公衆衛生への貢献が可能となります。

    国際競争の観点から、SponsorがAMCに何を求めているか?20年前、AMCが変化に対応したように、再度、方向性を確認する必要がありそうです。Sponsorに優しい試験環境は、Sponsor-investigatorにとっても良いものとなるでしょう。臨床試験の実施面だけでなく、準備や管理に関する業務についても、良き見本となると考えらます。20年前に存在していた世界の医薬品市場の日本のシャアは相対的に低下しています。治療モダリティの新規性や開発対象疾患から、AMCが直面する課題は20年前よりも大きくなってしまったのかもしれません。

    1)「ポジショニング分析を用いた本邦AROの類型化」第42回日本臨床薬理学会年会

  • 岡田 久美子
    セッションID: 42_2-EL5-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    日本も含む世界の治験・臨床試験の環境が著しく変化していることは、語られ始めて久しい。ICHの大幅改定を一つのきっかけとして、新しい考え方の導入、プロセスやシステムの多様化が進んでいる。日本国内に目を向けてみても、薬機法の改正や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が一つに統合され、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」という新たな指針になるなど、転換点に来ていると考えられる。

    国内で行われる企業治験の多くが国際共同試験となっている昨今、治験実施国として日本の立ち位置も変化しており、市場規模や治験実施のクオリティ、スピード、コストの観点からも、日本は世界の中の治験実施国の一つにすぎず、国際共同試験で実施国として選ばれないということも発生している。日本を「選ばれる国」にするためには、医療機関と治験依頼者、両者でより効率的で効果的な治験を行うための改善が必要不可欠であると考えられる。

    ここでは、ファイザーが行っているいくつかの治験環境改善活動を紹介しながら、企業スポンサー側から見た臨床試験の準備や管理について、生産性の向上(Central IRB活用、リソースの最適化)、コストの最適化・透明化、Qualityの管理等の観点から議論したい。

    企業治験においてスポンサーが求めること、治験実施医療機関が求めることをお互いに理解し、より良い治験環境を築くことは、企業治験以外の臨床試験の環境改善にも良い影響を及ぼすと考えている。

  • 満間 綾子
    セッションID: 42_3-EL6
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    免疫チェックポイント阻害薬は、単剤療法から併用療法へ治療開発が進んでいる。適用疾患も拡大し治療成績の向上につながっている。免疫関連有害事象(immune-related adverse event:irAE)に留意しながら、より効果的に安全に使用するためにガイドラインを活かすなど各施設での適正使用への取り組みが重要である。

    抗PD-1(programmed death-1)抗体薬のニボルマブと 抗CTLA-4(cytotoxic T lymphocyte-associated antigen 4)抗体薬であるイピリムマブの併用療法は悪性黒色腫、次いで腎がん、非小細胞肺がんと複数のがん種で保険承認されている。従来の単剤治療と比較して治療成績は優れているが、irAEの発症割合は増加する。また、抗PD-1抗体薬のペムブロリズマブ、抗PD-L1(programmed death-ligand 1)抗体薬であるアテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブと分子標的治療薬などとの併用療法では、下痢や倦怠感、肝機能障害、甲状腺機能障害など免疫チェックポイント阻害薬でもチロシンキナーゼ阻害薬でも発現しうる症状に遭遇する。

    irAEの発症時期はさまざまであり、副作用モニタリング、副作用マネジメントの実際について、頻度は高くないが重篤な事象である心血管系障害、神経障害などにも触れながら概説する。ここでは、1.適応拡大が進む免疫チェックポイント阻害薬の現状を整理し、2.併用療法における副作用管理、3.治療対象として増加する高齢がん患者での適用における取組みを中心に述べる。

シンポジウム
  • 加藤 和人
    セッションID: 42_1-S01-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    高齢化社会の進展やグローバル化など、さまざまな社会状況の変化の中で、医学・医療を取り巻く環境にも大きな変化が生じている。医学・医療の発展には人を対象とする医学研究が欠かせない中、その実施の枠組みである研究倫理指針についても、近年、複数回の見直しと改正がなされてきている。

    令和3年(2021年)には、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が統合され「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が施行された。多施設共同研究の研究計画は原則として、一つの倫理審査委員会による一括した審査を行うことになったほか、インフォームド・コンセントにおいて電磁的手法を用いることが可能になるなど、医学研究の変化に対応した新しい内容が盛り込まれた。

    一方、医学に限らない社会全体の変化として、情報通信技術の発展やビッグデータの利用がますます進むという状況がある。それを踏まえて、個人情報保護の法制度も近年、大きく変わってきている。令和2年(2020年)6月には個人情報保護法が改正された。さらに、令和3年(2021年)5月には、個人情報を含む関係の法律が大きく改正され、それまでセクターごとに分かれていた3つの法律(個人情報保護法[個情報]、行政機関個人情報保護法[行個報]、独立行政法人等個人情報保護法[独個報])が統合され、さらには地方公共団体の個人情報保護制度についても、全国的に共通のルールを定めることになった。その中で、学術研究に関しては、これまでと異なり、法律で定められたいくつかの規定が適用された上で、一定の例外規定が置かれることになった。現在は、研究倫理指針について、法律の改正に対応した改正の準備が進められている。

    本講演では、こうした研究指針および個人情報保護法制の変化について、医学研究の現場に参考となることを意識しつつ、いくつかの重要なポイントを紹介する。

  • 中村 健一
    セッションID: 42_1-S01-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    臨床研究法は2018年4月1日より施行されたが、法の附則第二条で施行後5年以内に法律の規定に検討を加えることとされている。2021年現在、厚生労働科学審議会臨床研究部会で、臨床研究法および同施行規則等の改正を含めた議論が行われている。臨床研究法はその施行直後から、法の対象のわかりにくさ、責任体制の不明確さ、国際整合性の欠如、手続きの煩雑さ、コストの高さといった問題点が指摘されていた。これらの問題点の影響もあってか、施行後1年間は新規に開始される介入研究の数が激減し、法第一条に謳われた臨床研究の実施を推進するという目的に反しているという研究者の声も多く聞かれた。実施上の問題点についてはJapanese Cancer Trial Network(JCTN)、日本医学界連合、日本臨床試験学会等からも具体的な改善策が提言されていたが、これらをまとめる形で令和2年度の厚生労働特別研究班(堀田班)で論点整理が行われた。堀田班から示された論点は8つであり、すなわち、1)観察研究に関する適用範囲、2)医療機器に関する臨床研究の適用範囲、3)適応外薬に関する特定臨床研究の適応範囲、4)Sponsor概念の導入、5)疾病等報告の範囲、6)実施計画の簡略化とjRCTとの分離、7)利益相反申告手続きの効率化、8)認定臨床研究審査委員会の認定・更新要件の見直し、である。具体的な論点整理の内容は臨床研究部会の資料として厚生労働省ウェブサイトで公開されているが、現在これらの論点整理をもとに法改正、省令改正の議論が行われている。研究者からの不満が大きかった手続き面での煩雑さはかなり解消される方向での議論が進んでいるが、国際整合性の欠如については、解決の方向に向かうかどうか予断を許さない。また、臨床研究法成立時の国会附帯決議にあった、臨床研究法下で実施された臨床試験データを薬事面で利活用するという点についても今後議論が進む見通しであるため、議論の行方に注目したい。

  • 吉山 友二
    セッションID: 42_1-S02-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    今、地域で安心して医療を受けられる体制づくりの強化等が期待されている。 近年の地域医療を取り巻く情勢は、医療の複雑化、国民の少子高齢化の進展に加え、医療そのものの質が問われるようになってきた。 急速な高齢化と医療の高度化に対応するためには、取組の質を更に高め、幅広く実践していくことが求められる。外来から入院、在宅へ必要な医療を切れ目なく提供できる体制を地域全体で整備する必要があるが、多くの医療職が関わるため、治療の基本方針の明確化、円滑なコミュニケーション、患者情報の共有など、多くの課題を抱えている。また、患者一人一人の病状にも違いがあるため、身体的苦痛と同時に心理的、社会的、精神的な問題を抱えるケースが少なくない。例えば、病気の再発に対する不安、薬の副作用に対する不安、退院後の食生活に対する不安など、抱える問題は様々である。 多職種連携とは、言い換えれば異なる専門性を持った多くの職種が関わることである。そこで求められるのは、共通の目的意識を持ち、各専門職がそれぞれの能力を発揮し、他者の持つ機能と調整しながら連携し、患者に総合的に効率よくきめ細かい良質な医療を受けてもらうことである。そのためには外来から入院、在宅とステージが変わっても、科学的根拠に基づいた医療を実践し、臨床薬理を基盤としたチーム医療を病院の中だけでなく、住み慣れた地域に戻った後も継続して提供していく必要がある。 臨床薬理学は、患者の臨床ケアを向上させるために、患者個人の個別化医療と医薬品の合理的な使用を実現することに貢献している。地域医療の実践に向けて臨床薬理学の知識の重要性を事例から検証することは大変意義深いことと思われる。 使用する薬の薬理作用を理解し、副作用にも配慮して使用する努力はしているが、その知識は不十分と言わざるを得ない。その上、多剤服用者の増加による併用薬の相互作用、次々に認可される新薬など必要な知識はますます増えている。これらの現状に対応していくためには、基本的な薬理学知識と最新の薬に対する客観的で正確な知識を持たなければならない。しかし、その修得は極めて困難であり、この状況を補うために、多職種連携による協動が不可欠である。 地域医療の実践に役立つ臨床薬理学の研究および教育を展開することが臨床薬理学研究者の腕の見せ所と確信している。

  • 城戸 和彦
    セッションID: 42_1-S02-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    Access to the appropriate healthcare in a rural area is very challenging. Especially, residents in a rural area may not be able to receive an appropriate cardiology care. Especially, heart failure is one of the most common disease states in the cardiology field. Guideline-directed medical therapy (GDMT) for heart failure with reduced ejection fraction (HFrEF) showed mortality benefits but pharmacotherapy for residents in rural areas may be suboptimal due to lack of access to cardiology care. Although multiple studies revealed that the maximum tolerated dose of GDMT was associated with better clinical outcomes than low dose, real-world studies showed that GDMT use and dose were currently sub-optimized in real-world settings. Ambulatory care pharmacists in rural areas could play a pivotal role in optimizing pharmacotherapy for patients with HFrEF. The author will present four major heart failure care issues that ambulatory care pharmacists in rural care could improve: 1. Heart failure GDMT use and dose suboptimization 2. The use of medications that could worsen heart failure3. GDMT sub-optimal adherence rate 4. Lack of patients' understanding of non-pharmacological therapy for heart failure care

  • 柴田 有理, 荒牧 弘範
    セッションID: 42_1-S02-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    我が国の急速な高齢化に伴い、健康で自立した生活を少しでも長く継続できるよう、健康日本21(二次)でも健康寿命の延伸が設定されている。しかし、多くの自治体の健康づくりや介護予防の施策には健康関心層しか集まらず、実際に必要としている健康無関心層に届いていないという課題がある。

    その解決策の一つとして、地域住民が日常生活で利用するドラッグストアで買い物「ついで」、処方薬を受け取る「ついで」に、気軽に健康づくりができる場を提供することと考え、自社の店舗内に管理栄養士が個別に食事・運動の支援を行う会員制「スマイルクラブ」を設置した。店舗内で健康相談会や健康測定会などを行い、測定値の不良な方へのクラブ入会の誘導ならびに医師や薬剤師からの紹介などで、スマイルクラブの利用者は10年間で延べ約5000名にのぼった。入会目的は主にダイエット、筋力アップ、生活習慣病予防・改善などである。例えば、会員の中には検査値が糖尿病や高血圧の境界で、主治医からこのままでは薬物治療に移行する旨を告げられ、入会した例もある。管理栄養士による臨床薬理的な取り組みを加味しながらの食事・運動の支援で会員の体組成や体力の改善が見られ、薬物治療にいたらなかったケースも見られる。

    一方、スマイルクラブの利用者の約60%は65歳以上の高齢者であり、健康寿命の延伸の観点から、サルコぺニアやフレイルの予防にも活動を展開している。会員の7年間のデータを解析した結果、サルコペニアの会員は体組成・体力の改善がみられ、食事・運動支援が有用であった。また、フレイル予防に対しては、は早期に検知し、「体力・社会性・栄養」に着目した対策で要支援・要介護認定者数の減少が期待できる。店舗内で65歳以上の来店者に対し簡易フレイルチェックを実施した。その後、フレイルのリスクがある高齢者に対し、管理栄養士の体操および脳トレの支援並びに食事会を組み合わせた教室を週1回行い、自宅での運動や脳トレのホームワークコンテンツを展開した。その結果、新たな友人関係や交流を促し、フレイルのリスクの改善、自助・互助の意識や社会性を確保できることが確認できた。

    今後も、地域住民の買い物「ついで」、処方薬を受け取る「ついで」に、普段着で気軽に立ち寄れる場所での機会を一つでも増やし、臨床薬理的な取り組みにより、健康無関心層の健康や介護予防に貢献していきたい。

  • 谷内 一彦
    セッションID: 42_1-S02-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    私は1998年の東北大学医学部教授に就任以来、臨床薬理学会への参加を通して、薬理学教授の立場から東北大学における治験・臨床研究の基盤整備に尽力してきた。1998年当時は新GCPの施行により治験が日本国内で停滞していた時期でもあり、幾つかの大学を見学して東北大学病院に治験センターを設立した。薬剤師、看護師、病院事務などの多職種の方との連携により、東北大学病院における治験関連制度の確立し、現在に至っている。私の設立した治験センターは東北大学病院臨床研究推進センターとして発展している。

     10年ほど治験センター・副センター長の職にある時に倫理委員会委員長として臨床研究の制度設計に関与することになり、臨床研究倫理審査システムや利益相反管理体制の構築に関与してきた。この中で事務職員との密接な協力と連携の重要性を実感している。2007-2008年に「厚生労働科学研究における利益相反に関する検討委員会」や「臨床研究の倫理指針に関する専門委員会」に参画できた。

     米国大学の利益相反の取組み状況を東北大学として調査したことがあり、ハーバード大学、ジョンスホプキンス大学、ペンシルベニア大学、スタンフォード大学、オレゴン健康科学大学、マサチューセッツ総合病院、AAMC、NIH、OHRPなども見学した。米国では多職種連携による組織運営が一般的であり、特に驚いたのが法務修士号JDを持つ専門職が学長、学部長室において実務を担当していた。日本では多職種連携によるリスクマネジメント人材の確保・育成・処遇が十分ではないと思っている。

     私の個人史の集大成として臨床薬理学会での多職種の意見交換は重要である。医師の立場から多職種連携による臨床薬理学の重要性を認識し、さらに国際化の中で国際的情報共有ネットワークが必要である。

  • Vikram P Sinha
    セッションID: 42_1-S03-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー
  • Vijay V. Upreti
    セッションID: 42_1-S03-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    With potentially "single dosing curative paradigm" promised by CAR-Ttherapies there is a paradigm shift in the treatment and management ofhematologic malignancies, and the field is rapidly evolving. US FDA approvedCAR-T therapies now extend beyond CD-19 targeting CAR Ts to also include themost recently approved BCMA CAR-T for relapsed refractory multiple myeloma.Advancements in the field are also being made towards reducing the long anddifficult wait for critically ill patients with "off-the shelf"allogenic CAR-T therapies now in various stages of clinical development. Frominitial focus to only hematologic malignancies, indications are now broadeningto solid tumors with a focus on TCR-T therapies for solid tumors in clinicaldevelopment. There are unique clinical pharmacology and biopharmaceutic aspectsof development of CAR-T therapies that offer challenges yet great opportunitiesfor optimization of the clinical development for this important class oftherapies. This oral presentation will highlight those.

  • Nagendra V. Chemuturi
    セッションID: 42_1-S03-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    Due to recent technological advances in gene editing and gene delivery, several gene therapy products to treat rare diseases have been approved, and many more are in various stages of clinical trials. Gene Therapies using viral vectors are perhaps the most popular with other vectors like lipid nano particles, exosomes, etc., not too far behind. The current talk provides an introduction to what gene therapies are, the different types of gene therapies and different DMPK and clinical pharmacology aspects of gene therapies. The presentation will more specifically focus on shedding and immunogenicity aspects of viral gene therapies. As host immune response plays a critical role in clearing the body of the virus, immunogenicity against the virus and the newly expressed transgene product can limit the efficacy of the administered gene therapy product and, in certain instances can cause adverse events. The presentation will parse out different aspects of immunogenicity against the gene therapy products and provide an insight into its management in the clinic.

  • 竹下 滋
    セッションID: 42_1-S03-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    昨今の医薬品開発においては,先進的技術の活用によってモダリティの選択肢が広がりを見せており,将来の医療に変革をもたらすことが期待されている。遺伝子治療や細胞治療といった新規モダリティ(New modality)を活用して,希少疾患や難治性疾患をはじめとして革新的な医薬品を目指して開発が進められている。New modality技術のうち,非病原性ウィルスに由来して非分裂細胞に効率よく遺伝子導入できることが知られるアデノ随伴ウイルス(Adeno-Associated Virus: AAV)は既に臨床において活用が進んでおり,安全性が高い遺伝子治療技術として更に幅広く臨床応用が進んでいくものと考えられる。

    IQ Consortiumでは,CPLG(Clinical Pharmacology Leadership Group)とTALG(Translational and ADME Sciences Leadership Group)との連携でNew modalityを検討するJoint WGを設立した。これまでにWGでは,様々なNew modality薬剤の開発をする上での課題や新たな基準について企業横断的に議論を重ね,検討を進めてきている。

    本講演ではAAV薬剤の開発にフォーカスし,生体内分布(Biodistribution)やPK/PD評価に関する考慮すべき事項についてWGでの検討結果を発表する。非臨床Biodistribution試験のデザイン設計やFirst-in-human(FIH)試験の初回用量設定など,New modality薬剤の臨床薬理学的な検討について具体例を交えながら紹介する。

  • 庄司 健介
    セッションID: 42_1-S04-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    薬物療法は医師の仕事の内容のかなりの部分を占める医療行為であるが、実は医師が臨床薬理について体系的に学ぶ機会は少ない。例えば厚生労働省が定める初期研修医向けの臨床研修の到達目標には「薬物の作用、副作用、相互作用について理解し、薬物治療(抗菌薬、副腎皮質ステロイド薬、解熱薬、麻薬、血液製剤を含む。)ができる。」と記載されているが、多くの場合は先輩医師から口伝として処方の仕方を学ぶにとどまっていることが多く、薬物動態学、薬力学を含む臨床薬理を深く学んでいるとは言い難い。また、演者は小児科専門医であるが、小児科専門医の教育目標には臨床薬理に関する項目がない。実際の臨床現場で、様々な背景をもった小児患者に対して薬剤の適切な投与設計については悩むことが多かった。そこで、臨床薬理学、薬物動態学を学ぶために米国に留学したが、そこでの様々な経験を通して、日本における医師に対する臨床薬理教育の不足を実感した。医師が臨床薬理について学ぶことは、日々の臨床における薬物療法の質の向上や、薬剤師の先生方との「共通言語」用いたディカッションの内容の向上、さらには臨床現場のニーズの把握がしやすいというメリットを活かした、臨床に直結するような薬物関連研究の実施ができるようになるなど、様々なメリットがあると考えられる。当日はこれらの内容を通じて、今後臨床薬理に求められることについて皆様と一緒に考えてみたいと考えている。

  • 林 宏祐
    セッションID: 42_1-S04-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    私は名古屋市立大学を卒業後、5年間臨床医としての経験を主に内科、循環器内科で積んだ後に2021年4月から大分大学医学部の臨床薬理学講座に入局した。現在は一から臨床薬理学の勉強をしている。

    臨床薬理学を学ぼうと思った大きな理由は、一度自分の行ってきた臨床を学問的に見つめ直してみたいと考えたことである。現在の循環器内科で行う非薬物治療は冠動脈インターベンション、カテーテルアブレーションから今や心不全、弁膜症治療までもカバーしようとしている。私自身もそのような手技に魅せられて循環器内科を選択し、日々自分の技術の成長を感じながら充実した5年間の研修を行うことができた。しかし、ともすれば手技に大きな関心が行くことが多くなり、内科医としての本分である薬物治療に対する自分の意識が低くなってきていることも感じるようになった。循環器内科領域で扱う薬物は時代の淘汰に耐えてきた良薬ばかりであり、依然循環器内科領域において薬物治療が果たす役割は大きい。それゆえ私は改めて学問として薬物治療を学びなおす必要があると感じ、特に創薬、育薬に長い歴史を持つ大分大学臨床薬理学講座へ入学した。

    確かに、一旦臨床の現場を離れて大学院で学び直すことは勇気のいることであった。特に私の学年は新専門医制度へ移行した一期生であり、プログラム制度の導入はますます医学部卒業後の専門医志向に拍車をかけている。対して、臨床薬理専門研修を行うことは日本専門医機構にはプログラムとして認定されていないのが現状である。そこに対する不安はあるが、私が臨床薬理を勉強することは私の医師人生において必ずプラスとなるはずだと信じている。

    大分大学で勉強し薬物治療のプロフェッショナルな臨床薬理医兼循環器内科医になりたいと考えている。そのため学会には日本専門医機構と連携した臨床薬理医の育成プログラムの整備等、若手が進路として選択しやすいような体制が構築されることを望む。

  • 林 阿英
    セッションID: 42_1-S04-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    2020年からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより社会的システムは大幅に変化している。医療現場及び医薬品開発産業はその中でも大きく影響が生じている。臨床薬理分野もパンデミックに対応するため治療や予防のために最大限の努力を払っている同時に、COVID-19関連の医薬品開発が続々進んでいる。パンデミックの初期には医療従事者の負担、医療資源の不足、感染対策等の理由にて新規の治験の中止や実施中の臨床試験の中断等の対応が取られていることであった。パンデミックの長期化により、新しい環境に合わせ様々な規制の緩和やパンデミック以前から検討していた新しいシステムの導入等にて柔軟に対応している。臨床試験は費用だけではなく、人、物、時間を含む医療資源が手厚く関与する研究であり、パンデミックのような環境にて既存のプロセスの円滑な進行ができない際にも高い質を維持するためにいち早く適切な対策と必要な行動指針を策定し、更に新たな情報等に基づき最適化をして、強化する必要がある。従来のシステムを緩和、改良した新システム導入は臨床試験における効率性や新薬開発プロセスの向上に寄与する可能性が高いことかわかっているが、そのためには、システム政策だけでなく、現場での正しい知識を身につけられるような教育や対応が重要と考える。今回のCOVID-19パンデミックでは、臨床試験を過渡期的の対応にて規制緩和が行われ初期対応としてその社会的使命を果たすことができた一方、今後の感染拡大を抑え込むために有効な治療薬、ワクチンの開発、製造、供給に向けて改善、解決すべき課題を再度確認する機会となった。その課題に対する対策として、将来の新型感染症パンデミックへの備えを含め、新たにグローバルな標準化し、政策動向について再整理していく必要がある。今後も新型感染症のパンデミックが生じる可能性があり、それに伴って新しい形態のシステムへの対応する必要性も増加すると考えられる。

  • 竹内 正宣
    セッションID: 42_1-S04-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    演者は小児科専門医を取得し,小児血液腫瘍を専門として臨床経験を積んだ後,薬物動態学,薬理遺伝学に関わる研究に従事した.臨床薬理学を勉強する中で,成長発達過程にある小児は個体差が大きく,薬物動態学理論を基にした薬剤の投与量設計は重要であることを実感した.また,小児領域では日常診療で使用している医薬品の多くが適応外使用であり,小児への適応拡大の促進,エビデンスの収集は大きな課題であることを再認識した.その後臨床現場に戻り,臨床薬理学の知識をもとに,より精度の高い診療を行うことを心がけてきたが,薬剤の適応外使用の判断や保険適応外の検査などが障壁となり,実践することに労力を必要とした.症例を提示し,解決策について議論する.1.造血幹細胞移植の前処置に使用するブスルファン(BU)は,症例ごとの体内動態の差が大きいことが報告されている.BUの血中濃度時間曲線下面積(AUC)が高値では肝中心静脈閉塞症などの副作用の、低値は拒絶や再発の可能性が高くなる.そのため,小児血液腫瘍疾患の臨床試験では,BUの試験投与を行い,継時的に血中濃度を測定して算定したAUCに基づいて,BU投与量を調節することが行われてきた.我々はBU投与予定の1歳患児に対し,BUの薬物動態解析に基づいた投与量調節を実践しようとした.しかし,この投与方法は添付文書に記載のないことから適応外使用になる可能性があると指摘を受け,院内の規定に沿って臨床倫理委員会,未承認薬検討会議に申請した.2.9歳男児 急性リンパ性白血病に対し6-メルカプトプリン(6-MP)とメソトレキセートによる維持療法を行っていた.内服開始5か月目より白血球減少を認めなくなったことから服薬不遵守を疑った.6MPの代謝産物である6-TGN,6MMP濃度を測定することにより不遵守の診断が可能と考えたが,6-TGN,6MMP測定は保険収載されていなかった.保険適応外の検査を行うため,医事課や製薬企業と協議した.3.小児癌の治療には中心静脈カテーテルが必須である。カテーテル内血栓によりカテーテル閉塞に陥った場合,小児血液がん学会のガイドラインでは,カテーテル内ウロキナーゼ充填が推奨されている.しかし,カテーテル閉塞・機能不全に対するウロキナーゼは保険適応がないことを指摘され,院内の規定に沿って,臨床倫理委員会,未承認薬検討会議に申請した.

  • 花岡 正幸
    セッションID: 42_1-S05-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    薬剤性肺障害は、「薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの」と定義される。薬剤は医師が処方したものだけでなく、一般薬、生薬、健康食品・サプリメント、さらに非合法薬などすべてを含む。また、呼吸器系の障害とは肺胞・間質領域病変だけでなく、気道病変、血管病変、胸膜病変などが含まれ、さらに器質的障害から機能的障害まで様々である。

    薬剤性肺障害の診断は、「すべての薬剤は肺障害を起こす可能性があり、薬剤投与中のみならず投与終了後にも発生することを常に念頭に置く」ことから始まる。すなわち、多種多様な薬剤を扱う臨床医にとって、肺に異常陰影の出現をみた場合、必ず鑑別しなければならない病態である。

    薬剤性肺障害のうち、肺胞・間質領域に病変の主座を認めるものを「薬剤性肺炎」と呼ぶ。薬剤性肺炎の被疑薬として、抗悪性腫瘍治療薬、関節リウマチ治療薬、漢方薬などが多く、大部分は薬剤の投与開始から120日以内に発症する。中高年の男性に多い傾向があり、喫煙歴や既存の肺病変などリスク因子が存在する。国際比較により、海外よりも国内(日本人)での発生頻度が高いことが知られている。自覚症状は咳嗽、呼吸困難、発熱が多いが、その臨床病型は多彩で非特異的である。診断の手がかりは高分解能(HR)CT所見であり、画像パターンと既報告との類似性の評価が重要となる。薬剤性肺炎の画像パターンは、びまん性肺胞傷害(DAD)、過敏性肺炎(HP)、器質化肺炎(OP)、非特異性間質性肺炎(NSIP)、急性好酸球性肺炎(AEP)の5つに大別される。現在までのところ診断の決め手はなく、除外診断となる。鑑別診断としては、呼吸器感染症、既存の肺病変の悪化、および心原性肺水腫が重要である。

    治療の原則は被疑薬の中止であり、重症度に応じてステロイド治療を考慮する。さらに、呼吸不全やDAD型肺障害を呈する症例は、ステロイドパルス療法を含めた集学的な治療が必要となる。予後は比較的良好であるが、一般的にDAD型肺障害は治療抵抗性で予後不良である。

    本シンポジウムでは、薬剤性肺炎の病態、診断、治療など臨床像を中心に解説する。

  • 松沢 厚
    セッションID: 42_1-S05-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)は、がん増殖に重要な上皮成長因子受容体(EGFR)を選択的に阻害する抗がん剤で、肺がん治療薬として世界に先駆けて日本で2002年7月に承認された。現在、世界約90カ国で、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がんに適応されている。ゲフィチニブのような特定の分子を狙い撃ちする分子標的治療薬は、治療効果と安全性の高さが期待されたが、上市直後から急性肺障害や間質性肺炎などの致死性副作用の報告が相次ぎ、我が国で大きな社会問題となった。しかし、ゲフィチニブによる急性肺障害や間質性肺炎の発症メカニズムはこれまで良く分かっていない。そこで我々は、ゲフィチニブ副作用発症の機序解明を目指して解析を進めた。

     ゲフィチニブの副作用は、EGFRとは別の標的を介して惹起されると考えられる。急性肺障害や間質性肺炎はいずれも炎症性疾患であることから、ゲフィチニブが炎症誘導に関わる分子やシグナル経路を標的として炎症を惹起していると考え、その分子メカニズムを解析した。その結果、ゲフィチニブは免疫応答に重要なマクロファージに作用し、炎症性サイトカインIL-1βと核内タンパク質HMGB1という2種類の起炎物質の細胞外分泌を促進して炎症惹起することが判明した。HMGB1にはIL-1β分泌促進作用があることから、ゲフィチニブによるHMGB1分泌は、IL-1β産生量を増強し、強い炎症誘導の引き金になっていると考えられる。そのメカニズムとしてゲフィチニブは、IL-1β分泌を促進して炎症誘導に働く分子複合体であるNLRP3インフラマソームを活性化すること、また、DNA障害などに応答する炎症誘導分子PARP-1の異常な活性化を介してHMGB1分泌を促進することが明らかとなった。従って、ゲフィチニブは「NLRP3インフラマソーム活性化」と「PARP-1の異常活性化」という異なるメカニズムを同時に動かし、相乗的に炎症を惹起することが判明した。さらに、IL-1β分泌を遮断したマウスでは、ゲフィチニブによる肺炎が起こらず、ゲフィチニブの肺障害や間質性肺炎の原因がIL-1βの過剰分泌であることが示された。

     本研究では、ゲフィチニブによる間質性肺炎の発症メカニズムの一端を解明した。今後、ゲフィチニブ服用時の致死性副作用の予防・治療法開発や、さらに、その他の抗がん剤による間質性肺炎発症の機序解明にも繋げていきたい。

  • 熊谷 和善
    セッションID: 42_1-S05-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    Trastuzumab deruxtecan (T-DXd; DS-8201) is a HER2-targeting antibody-drug conjugate composed of a humanized anti-HER2 antibody and an exatecan derivative (DXd), a topoisomerase I inhibitor, which are bound together by a cleavable peptide-based linker. Before clinical trials, 6-week toxicity studies (every 3 weeks totaling 3 doses) with T-DXd were conducted in cynomolgus monkeys (cross-reactive species) and in rats (non cross-reactive species). The major target organs/tissues in rats and monkeys were the intestines and bone marrow. This effect seemed to be attributable to the cytotoxic effects of DXd and typical dose-limiting factors in the clinical use of topoisomerase I inhibitors. T-DXd caused pulmonary toxicity in monkeys at 30 mg/kg, although it was not observed in rats. In a 3-month monkey toxicity study (T-DXd every 3 weeks for a total of 5 doses), pulmonary toxicity was observed at 30 mg/kg (the highest dose). An extended dosing period did not increase the severity of lesions. While comprehensive mechanisms of the pulmonary toxicity remain unclear, this finding in monkeys could be relevant to the understanding of mechanism of interstitial lung disease (ILD) in patients treated with T-DXd. In this presentation, nonclinical toxicity data are reviewed with an emphasis on relevant safety findings.

  • 荒川 憲昭, 花岡 正幸
    セッションID: 42_1-S05-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    薬剤性間質性肺炎(DILD)には様々な病型が存在し、病理組織学的なパターンに基づいて分類される。中でも、びまん性肺胞傷害(DAD)は特に予後が悪い。DADは急性呼吸促迫性症候群(ARDS)で見られる代表的な病型であり、治療反応性に乏しく、回復しても線維化を残す。そのため、DAD型のDILDは、その疑いの段階からステロイドパルス療法を含む集学的治療を行うことが治療ガイドラインで推奨されており、DILDが疑われる場合は、同時に、患者がDADを有するか否かを早期に判別することが重要とされる。

    DILDの病理組織パターンの確定診断には、外科的肺生検による判定が必要とされているが、症状が重篤である患者に対しては侵襲的な検査を回避するケースが多く、画像検査と臨床所見のみでDADを疑い、治療方針を決定しているのが現状である。高分解能コンピュータ断層撮影(HRCT)胸部スキャンは、DILDの病型を予測するために広く用いられている画像検査法であるが、その読影に専門的な知識とトレーニングが必要であり、呼吸器専門医以外の一般医が画像のみでDADを正しく診断するのは困難である。DILDの診断に用いられているバイオマーカーとしては、Surfactant protein (SP)-AやSP-D、Krebs von den Lungen-6(KL-6)が挙げられるが、これらは間質性肺炎全般を検出するものであり、DADの診断に適したバイオマーカーではない。このような問題から、現在、DADを特異的に診断できる血液バイオマーカーの開発が求められている。

    これまで、我々の研究グループでは、DILD患者血漿を用いたプロテオーム解析を行い、DAD診断マーカーの開発研究を進めてきた。ここでは、本研究の進捗や、見いだされた新規マーカー候補の有用性について報告する予定である。

  • 松山 琴音
    セッションID: 42_1-S06-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    2019年にStep3に到達したE8R1ガイドラインにおいてはCritical to Qualityの観点から被験者保護とデータの信頼性確保を志向するQuality by design(QbD)による計画・質の確保と、実施可能性を考慮したリスクに基づくアプローチ(RBA)の実践を求めている。治験あるいは臨床研究は非常に複雑化、多様化しており、それらの試験マネジメントにおいてどのように質を確保するべきなのかは、昨今大きな課題である。本来、目指すゴールによって求められる品質は異なっており、どのようにして目指すべき品質と試験の実施をバランスするか、そして どのように質を確保するプロセスを組み込むかは大きな課題であるが、その方法論やプロセスアプローチに関して、治験依頼者とCRO、医療機関での対応は三者三様である。本来、1試験を通して品質目標やゴールは共通していなければならないが、あるプロセスでは1つのミスもなく実施することを求められたり、本来重視するべきポイントがCROや医療機関に伝わらないなど、計画と実務での壁があったり、対話があまりなされてきていないなどの課題がある。そこで本講演では、まずICHE6R3により何がどう変わるのかを中心として、Quality by DesignとRisk Based Approachに関する最新の話題および今後の試験の計画、実施段階で何が必要になるのかを概観し、依頼者、CRO、医療機関において、果たすべき役割や協働に向けて必要な要素を検討する。

  • 川邊 香代
    セッションID: 42_1-S06-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    臨床試験におけるQuality by design (QbD) において、被験者保護とデータの信頼性確保を担保するためのCritical to Quality Factorsの特定と、それらの要因に対するリスク管理が重要である。

    試験の質を試験実施計画書および実施手順の中に設計することにより、試験の質の積極的な向上を確実にする。CROにおいては、試験のデザインや計画段階からの設計への関与は限定的であるが、データの性質に応じたその収集方法の対案などオペレーションレベルの検討を通じ、品質の作り込みに貢献できると考える。

    ICH E6 (R2) により、製薬企業およびCROにおけるRisk Based Approach (RBA) の対応や取り組みは進んでいる。試験の実施段階におけるRBAの導入実践は益々重要性を増しているが、リスク評価を行い、その上流の過程での試験計画へのフィードバック、すなわちQbDに対する教育・周知やオペレーション上の課題解決が求められる。

    本演題では、CROの立場から、ICH E8 (R1) およびE6 (R3) を踏まえたRBAとQbDの導入実践に向けた取り組みと、今後の展望について紹介する。

  • 筒泉 直樹
    セッションID: 42_1-S06-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    近年、臨床試験および臨床研究における品質がいっそう重視されるようになっている。監査は試験や研究に対して体系的に独立性をもって検証することにより、その品質を評価する活動であるが、特に臨床研究では資金や人材の不足を理由に実施されないケースがあるとされてきた。また、2020年に始まった新型コロナウイルス感染症拡大は、臨床試験・臨床研究そのものの実施・継続に大きな影響を及ぼし、監査においてもその実施に支障をきたしている事例が少なくない。このような状況のなかで、従来とは異なる方法で監査活動の継続を図る取り組みが進められており、その1つがリモート法で行う監査モデルの構築である。これまで企業治験のモニタリング業務等で試みられてきたデータや書類へのリモートアクセスの経験を踏まえ、さらに監査の実施者および被監査者の意見を取り入れて構築された戦略的なリモート監査モデルは、 "書類の確認"、"データの確認"、"施設ツアー"および"インタビュー"といった監査の主要要素のすべてにフルスケールで適用できるものである。実証実験では、従来法である施設訪問型監査と同レベルの品質が確認され、従来法からリモート法への移行によるコスト削減や業務時間の短縮効果といったベネフィットも示唆された。しかしながら、現在のところ同モデルを実装したフルスケールのリモート監査はほとんど行われていない。一方で、書類の確認やインタビュ―といった監査業務の一部のみをリモートで対応しようという取り組みは企業治験を中心に進められている。主に、クラウドサービスを活用した文書ファイルの共有やオンライン会議システムを用いたインタビューの実施であり、新型コロナウイルス感染症拡大に伴って社会全体に普及したリモートワークの手法に通じるものである。これに伴い、リモート対応が難しいとされるのが"データの確認"と"施設ツアー"である。個人情報を含む診療録等の原資料の閲覧や、試験・研究関連設備の確認をリモートで行うことに対する懸念が根強くあり、それを克服するための手法が普及していないことがその背景にあると考えられている。本セッションでは、我々が構築した戦略的なリモート監査モデルとともに、新型コロナウイルス感染症拡大下で実際に行われている監査のリモート的アプローチを報告する。

  • 忽那 賢志
    セッションID: 42_1-S07-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は新興感染症であり、全く治療法のない状況でパンデミックとなった。当初、COVID-19の治療薬は、Repositioning(Repurposing)としてレムデシビル、イベルメクチン、ファビピラビル、ヒドロキシクロロキン、など様々な薬剤が検証されたが、2021年10月時点で臨床的な有効性が示されたのはレムデシビルのみである。回復者血漿療法は、特定の感染症に罹患した人の血漿を採取し、新たに感染した患者に投与する治療法である。これまでに、エボラ出血熱やSARSなどで試みられてきたが、有効性については示されていなかった。COVID-19においては、アルゼンチンで行われたランダム化比較試験で発症3日以内に高力価の血漿を投与した場合に重症化予防効果が示されている。この回復者血漿などの抗体治療の上位互換となるのがモノクローナル抗体であり、中和活性の強い特定の抗体を大量に精製するものである。カシリビマブ/イムデビマブ、ソトロビマブなどのモノクローナル抗体は発症早期に投与することで重症化を防げることが分かっており、日本国内でも承認されている。また、経口抗ウイルス薬であるモルヌピラビルは第3相試験で入院または死亡を約50%減少させたと発表されており、早期承認が期待されている。このCOVID-19の治療薬の研究、承認の過程は今後、COVID-19以外の感染症や今後現れる新興感染症にも適用できる枠組みとして活用すべきものである。

  • 吉川 彰一
    セッションID: 42_1-S07-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    From the outbreak of COVID-19, Eli Lilly has been dedicated globally to delivering treatment options against the disease which include baricitinib and neutralizing antibodies. COVID-19 is known to be associated with dysregulated inflammation. Baricitinib, an oral JAK1/2 inhibitor was identified as a potential treatment for COVID-19 among already approved and available drugs on market through artificial intelligence conducted by BenevolentAI. With that, phase 3 trial (the Adaptive COVID-19 Treatment Trial 2 (ACTT-2)) sponsored by National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID) began in May 2020 to assess the efficacy and safety of baricitinib plus remdesivir versus remdesivir in hospitalized patients with COVID-19. A total of 1,033 patients including one Japanese were randomized. The study met the primary endpoint of reduction of time to recovery in comparison with remdesivir. With the result, baricitinib received EUA (Emergency Use Authorization) in November 2020 in the US. In Japan, Eli Lilly Japan filed an application in December 2020 and the drug was approved in Apr this year. For now, baricitinib is an only approved drug for COVID-19 in Japan through a regular review process (remdesivir, casirivimab/imdevimab are available based on special approval). It was the first regulatory approval in the world for baricitinib though the drug became available in the US in November last year by Emergency Use Authorization system. After the approval and launch, as one of the safety risk management plans, Eli Lilly Japan is preparing for a Post Marketing Surveillance Study to confirm safety and efficacy of baricitinib in clinical use by enrolling 250 patients. In the future, it is hopeful to obtain the clinical data of the drug against COVID-19 for Japanese patients.

  • 原田 明久
    セッションID: 42_1-S07-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    2020年初より世界を一気に巻き込んだパンデミック、これに挑戦することこそ社会における製薬企業の役割を示す機会であった。新しいメカニズムのワクチンが開発され、社会の"日常"を取り戻す一歩となりつつある。この成功は一企業の力だけではなく、このパンデミックに打ち勝つと信じた多くの方々の力の結集である。コロナ禍で奮起した製薬企業のワクチン開発とそれを支えた業界の結束力、そしてその挑戦に参加したボランティアと医療従事者、規制当局をはじめ様々な面で支援をしてくれた多くの方々の勇気、これらすべてがサイエンスを実臨床に結び付けた。

  • 一丸 勝彦
    セッションID: 42_1-S07-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、本邦において、2020年1月15日にSARS-CoV-2に感染した1例目の患者が確認され、2020年2月1日、新型コロナウイルス感染症 )が感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づく指定感染症 )及び検疫法に基づく検疫感染症 )に指定された。COVID-19は急速に拡大し、WHOは2020年3月11日にパンデミックであるとして公衆衛生上の緊急事態を宣言している。PMDAにおいては、2020年3月以降、COVID-19に関連する医薬品等の開発については、治験の取扱いや承認審査に関する取扱いに関して厚生労働省からの通知や事務連絡等に基づき、その取扱いを優先的に取り扱う対応を行ってきた。また、従来対面で実施していた業務については、オンライン会議を導入し、感染予防を行いながら、審査等への影響を最小限とするよう対応を行ってきた。本講演では、COVID-19に関連する医薬品等の開発について、PMDAでの取り組みを述べる。

  • 中神 啓徳
    セッションID: 42_1-S08-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界での感染拡大に対しワクチン開発が急速に進められ、開発から1年を待たずに緊急承認されるワクチンが登場した。特に、今回のワクチン開発においては遺伝子治療技術を用いたウイルスベクターあるいは核酸医薬技術(RNAワクチン・DNAワクチン)を用いた開発が迅速に開始され実用化まで進んだことが大きな特徴である。今回のCOVID-19に対する遺伝子治療技術を用いたワクチン開発において、先行研究での感染症の臨床試験における免疫応答解析など、基盤技術の準備が出来ていたことが大きいと考えられる。ワクチン設計・製剤開発・薬効試験を迅速にスタートし、非臨床試験から初期臨床試験までを一気に完了させ、実証試験である第3相試験で感染予防効果を検証するステージに早期に進む驚異的なスピード開発がなされた。2020年7月に発表されたFDAのCOVID-19ワクチンのガイドラインにおいては、ワクチンの期待される有効性は最低でも50%とされていたが、先行するmRNAワクチンはそれを大きく上回る90%以上の有効性が得られたことは大きな驚きであった。新興感染症に対する迅速ワクチン開発の一つのモデルになると考えられる。我々も同様のコンセプトで迅速DNAワクチンの構築に着手し、新型コロナウイルス感染症に対するDNAワクチン開発の安全性・有効性評価を迅速に行うために、企業と連携しながら、製剤開発、薬効試験、非臨床試験を並行して進め、迅速に臨床試験を開始するための準備を行った。CMCに関しては、DNAワクチンの製剤開発を迅速に行い医薬品としての供給体制を産学連携体制で構築し、スパイク糖蛋白を標的としたDNAワクチンを作成した。並行して、DNAワクチン製剤をラット等に投与して抗体価の上昇を確認し、投与ルートに関しては筋肉内投与および新規デバイスを用いた皮内投与を並行して進めた。また、COVID19感染患者血清を用いた解析も並行して進め、抗体価やウイルス中和活性の測定を行いながら、臨床試験に向けた準備を進めた。本セッションでは我々のアカデミアの立場からの取り組みを紹介し、企業治験および医師主導治験を実際に実施した体験からの課題についても議論できればと思います。

  • 寺尾 公男
    セッションID: 42_1-S08-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    疾患の診断、医薬品のMode of Action(MoA)の理解、薬物の有効性・安全性を適切にコントロールするためにはバイオマーカーは医薬品開発において必須の検討項目となっている。患者さんにとってリスクを小さく、効果を最大化するための用法用量の策定は暴露―反応関係に基づいて検討され患者の薬物動態に基づいて考察され、その後疾患毎の遺伝子変異による説明が加わることで同じ暴露であっても個体間変動が存在し、それを説明することが可能となった。 こうした薬剤の暴露量、局所でのミクロの動態を考察し、さらに標的分子もしくは薬効発現に寄与する分子の挙動やその下流分子の制御を定量的に理解することで薬剤のPoM(Proof of Mechanism)を明らかにし、Phase2の投与量設計に範囲する取り組みが存在する。この取り組みの成功のカギは臨床有効性を代替えするバイオマーカーと薬剤のMoAを紐づけるバイオマーカーの関係性を見出し定量的に関係性を表現することである。糖尿病や腎性貧血など臨床エンドポイントが定量化しやすい疾患を除けば、多くの疾患において疾患代替えバイオマーカーの探索には遺伝子発現、細胞プロファイル、タンパク発現の変化など疾患部位での変化に注目した研究や臨床エンドポイントをもっとも代替えする血液マーカーからのアプローチもあるが、多くの疾患において患者集団、その病因の多様性があるためにバイオマーカー同定には困難を極めている。 開発候補薬剤のMoAは多種多様かつ複雑化しているがために定量系の工夫が求められ、高感度化、Multiplex測定系による多項目同時測定や対象となる生体試料も血液、尿にみならずバイオプシーサンプルなど多様になっている。抗体医薬品においてもこれまでの従来の抗体医薬品にくわえ、SWITCH抗体、リサイクリング抗体など改変技術によりPoMの証明方法も複雑化してきている。本演題では臨床PoCの証明前に分子の観点から考えたMoA、PoMおよび生体反応を示したBiologicalPoCについて実例の説明を加え、早期臨床開発の進め方について議論を行いたい。

  • 水柿 秀紀
    セッションID: 42_1-S08-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    肺癌診療では75歳以上を高齢者と定義することが多く、日本の肺癌患者の高齢化は年々進んでいる。加齢に伴い薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)の変化が起き、また慢性疾患の合併が増え、薬剤相互作用のリスクが増加する。薬物体内動態(PK)は、加齢、臓器機能、併用薬などの影響を受けるため、有効性/安全性を指標とする薬力学(PD)に基づくPK/PD解析から投与量や目標血中濃度を決定することは重要である。第1相試験における臨床薬理試験は、臓器機能が正常な比較的若い患者を対象とするため、高齢者および臓器機能低下患者など慎重投与例の報告は少ない。日本国内でも臓器横断的に抗がん薬のPK/PD臨床研究が行われ、細胞傷害性抗癌剤や分子標的治療薬の適正使用におけるPK/PD解析の有用性が報告されている。現在、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の開発が進み、高齢者に対する使用制限はないがPK/PD解析、安全性や有効性の情報は不十分である。高齢者における免疫関連有害事象(irAE)発現のリスク因子の解明、固定投与量による過剰投与の懸念など解決すべき問題点は多い。ICIのトラフ血中濃度が低い患者の有効性が低い傾向にあること、体内動態の変動要因は血中アルブミン値および患者の体重であることが報告されているが十分ではない。そのため、高齢者におけるICIの有効血中濃度と変動要因の探索は、他の抗がん薬との併用療法開発においても重要な基礎情報となる。また、遺伝子多型と薬物動態、有害事象発現の関連性が報告されているが、高齢者における報告は少ない。遺伝子多型においても網羅的解析の必要性が高まることが予想される。今後、高齢者を対象とした薬剤投与量調整指針の作成は、高齢化の日本における医療経済、precision medicineの推進において喫緊の課題である。

  • 古田 俊介
    セッションID: 42_1-S08-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)関連血管炎は血管炎症候群のうちの一つで、自己抗体であるANCAの存在と小型血管の壊死性血管炎を特徴とする血管炎である。無治療では80%の患者が亡くなるとされ、かつては予後不良な疾患であった。1990年代以降、海外を中心に多くの臨床試験が実施され、治療法の進歩に伴いその予後は改善した。現在の標準治療である大量ステロイド+シクロホスファミドもしくはリツキシマブにより、寛解導入率は80%に達している。しかし、未だに5年生存率は80%で、その原因としては大量ステロイドに起因する感染症死が最も多い。また、糖尿病や脂質異常、骨粗鬆症など大量ステロイドに伴う副作用により患者のQOLは大きく損なわれている。 B細胞系列が産生するANCAは、好中球と結合し、好中球を異常活性化する。活性化した好中球が血管壁に炎症を起こすことが、ANCA関連血管炎の本態だと考えられている。一方、リツキシマブはB細胞の表面抗原CD20に対するモノクローナル抗体で、B細胞除去という従来の免疫抑制剤にはないユニークな機序によりANCA関連血管炎に対する効果を発揮する。海外で実施されたRAVE試験とRUTUXVAS試験において、リツキシマブは大量ステロイド併用下でシクロホスファミドと同等の有効性を示し、2013年には我が国でも公知申請によりANCA関連血管炎の治療薬として承認された。 現在のANCA関連血管炎治療において、標準治療の問題点である大量ステロイドに伴う種々の副作用の軽減のため、ステロイド減量が望まれていた。しかし、従来型の免疫抑制剤ではステロイドを減量すると有効性も減弱するとの結果が小規模な試験やメタアナリシスで示唆されていた。我々は、新規の作用機序を持つリツキシマブであればステロイドの減量が可能かもしれないと考え、臨床試験(LoVAS試験)を実施した。低用量ステロイド+リツキシマブ治療は大量ステロイド+リツキシマブに対し有効性は非劣性、有害事象の大幅な減少を認めた(Furuta et al. JAMA, 2021)。試験を実施するに至った経緯および結果を紹介する。

  • 小牧 宏文
    セッションID: 42_1-S09-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)はジストロフィン遺伝子変異に由来するジストロフィン蛋白の欠損による筋線維の壊死・再生を主な病態とし、骨格筋量の減少や線維化を来すことで進行性の機能低下を生じる希少性難治性疾患である。ジストロフィン遺伝子は79のエクソンからなる巨大遺伝子であり、病因となる遺伝子変異は全エクソンに存在し、かつエクソン単位の欠失・重複、微小変異と変異の種類も多様である。近年DMDを対象に様々な作用機序をもつ薬剤の臨床開発が行われているが、その中でも特定のエクソン単位の欠失を標的としてアンチセンス核酸の投与によってエクソンスキッピングを人工的に生じさせて遺伝子変異の影響を軽減するエクソンスキッピング療法は、ジストロフィン遺伝子のエクソン51、53、45、44などをターゲットとして臨床開発が進んでおり、国内外で承認を受け臨床使用が行われているものもある。またナンセンス変異を標的としたリードスルー治療、ウイルスベクターを用いた遺伝子治療も臨床開発が活発に行われている。今回は筋ジストロフィーの中でも臨床開発が活発に行われているDMDのDisease-modifying therapyの現状と課題について解説する。

  • 勝野 雅央
    セッションID: 42_1-S09-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    近年様々な脳神経疾患の分子病態が明らかとなり、根本治療法(disease-modifying therapy:疾患修飾療法)の開発が急速に進められている。中でも神経筋疾患に対するdisease-modifying therapyは毎年のように次々と治療薬が薬事承認されており、そのほとんどがこれまでには全く治療法のなかった疾患である。本講演では、最近disease-modifying therapyが実用化された球脊髄性筋萎縮症と脊髄性筋萎縮症を中心に、開発の歩みと今後に向けた課題を概説する。 球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、成人男性に発症する下位運動ニューロン疾患であり、アンドロゲン受容体(androgen receptor:AR)遺伝子第1エクソン内のCAG繰り返し配列の異常延長を原因とする。2017年にリュープロレリン酢酸塩がSBMAの進行抑制の効能を有する治療薬として薬事承認された。リュープロレリン酢酸塩はアンドロゲンの産生を抑制する薬剤であるが、SBMAの根本病態である変異ARの集積がアンドロゲン依存性に生じることがマウスモデルで明らかにされたのに基づき、原因蛋白質を標的としたdisease-modifying therapyとしてアカデミア主導で開発された。複数の医師主導治験を経て承認に至ったが、非臨床試験に比べ臨床試験における有効性が低かったことから、その長期の有効性・安全性に係るリアルワールドエビデンスを今後の市販後臨床研究で明らかにしてくことが必要と考えられる。 脊髄性筋萎縮症 (SMA)はSMN1欠失もしくは変異を原因とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患であり、一般に6ヶ月までに発症する重症型(1型)から1歳半以降に発症する軽症型(3型)に分類される。1型では2歳までに人工呼吸器装着もしくは呼吸不全による死亡を余儀なくされる。2017年にアンチセンス核酸nusinersenが承認されたのを皮切りに、AAVによる遺伝子補充治療、経口薬による遺伝子発現調整治療が次々と承認された。これらの治療はいずれもSMAの原因遺伝子であるSMNを標的とし、核酸レベルで作用するdisease-modifying therapyである。小児を対象とした治験で高い有効性が示され、開発・承認が迅速に進み、さらには新生児スクリーニングとリンクした発症前治療も進んでいる。しかし、軽症例に対する治療開始時期や、病気の進んだ成人例に対する治療のエビデンスは確立されておらず、国内外で進んでいる大規模レジストリ・コホート研究の成果が待たれる。

  • 鈴木 啓介
    セッションID: 42_1-S09-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    高齢化の進行に伴い、認知症、特にアルツハイマー病(AD)の患者数が急増している現在、その治療法開発は、我が国のみならず世界的にも喫緊の課題となっている。本邦では、AD(正確には、アルツハイマー型認知症)に対して4種類の薬剤(ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミン)が承認を受けている。ただいずれの薬剤は神経変性そのものを抑制する機序ではなく、認知症の根治治療となりうる「Disease-modifying therapy(DMT)」の開発に期待が高まっている。

    近年、分子生物学の発展によって多くの神経変性疾患の分子病態が判明してきた。ADにおいても、アミロイド前駆タンパク質から切り出されるアミロイドβ(Aβ)が凝集してオリゴマーを形成し、プロトフィブリルからフィブリルを経て、老人斑の主要構成成分となる病態が解明されてきた。このAβの蓄積によって神経細胞の機能低下や細胞死が引き起こされ、ADの発症に大きく関わるとするのが、いわゆる「アミロイド仮説」である。

    このアミロイド仮説に基づき、能動あるいは受動免疫を用いてAβの除去を図る治療法の開発が進められてきた。ただ能動免疫であるワクチン療法の治験では、細胞性免疫で生じる髄膜脳炎の副作用が問題となったため、それを回避しうる受動免疫療法、特にAβに対するモノクローナル抗体の治験が数多く行われている。ただ検証的試験において有効性が検証されず、開発中止となる例が続出していた。またAβ産生を阻害するβセクレターゼ阻害薬でも開発中止が相次いだ。最近では、Aβと並んでADの病態に深く関わるタウを標的とした抗体薬の開発も盛んであるが、今のところ上市にまで至った例はない。

    そのような中、抗Aβ抗体である「Aducanumab」は、中間解析によって一旦は開発中止が決まったものの、追加解析では主要評価項目が達成されたとし、2020年8月に米国FDAに対し申請が行われた。2021年6月、条件付きであるがADに対するDMTとして世界初の承認を取得した。日本や欧州の規制当局においても現在、審査が行われている。

    このようにADにおけるDMT開発の歴史はいわば失敗の歴史でもあったのだが、「Aducanumab」によって一筋の光が差し込んだとも言える。本講演ではADにおけるDMT開発の現状のほか、失敗の裏に潜む課題や、その克服に向けた最新の動向について触れていきたい。

  • 狩野 修, 平山 剛久, 渋川 茉莉, 柳橋 優
    セッションID: 42_1-S09-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    筋萎縮性側索硬化症(ALS)は神経変性疾患の中でも特に進行が早く、平均生存期間は3-5年とされている。本邦の患者数は約1万人と推計されており、希少疾病の部類に含まれる。全国の神経内科専門医数は2018年の時点で約5500名であるため、1人の神経内科医が担当するALS患者も2名程度と少ない。米国では1970年代からALSの治験や研究促進のために、ALSの専門外来である多職種連携診療(multidisciplinary clinic:MDC)が開設されるようになった。多くの専門家を同じ場所で同じ時間帯に集結させ、患者が抱える様々な問題を一度の診療で解決するシステムである。一度に多くの患者が来院するため、希少疾患であるにも関わらず治験や研究が活発化するようになった。その後米国ALS協会や筋ジス協会が中心になり全米各地で施設認定を行い、その中でも治験を実施する環境が十分に整備されている約70のALS-MDC施設を厳選し、これらの施設でのみ治験を実施するようになっている。しかし、欧米中心にMDCが整備されてきたにも関わらず、50件以上行われてきたALSのdisease-modifying therapyのランダム化比較試験のほとんどが失敗に終わってきた。薬効評価も臨床評価スケールなどが中心で、診断ならびに治療効果を判定するバイオマーカーが欠如していることが大きな原因として挙げられている。そのため、現在は原因遺伝子別やバイオマーカーを用いたALSの個別化医治療を視野に入れる段階になっている。 現在ALSの治験は、世界各地で少なくても50件以上が実施されている。治験件数のトップは米国で、本邦は数件のみの世界10位以下と大きな遅れをとっている。治験に参加できるのは、病初期の患者に限定される場合がほとんどのため、米国では多くの治験数に参加者が追いつかない状況になっている。このような状況下において、北米中心のNEALSというコンソーシアムでは、数種類の治験薬を同時に組み込むプラットフォーム治験が実施されるようになった。治験薬同士の効果も比較できる上、治験に要する時間が通常の約半分で、治験コストとプラセボの約1/3を削減することにも成功した。本講演では、2020年にアジアで初めてNEALSの施設として承認された東邦大学脳神経内科のALS MDC(通称"ALSクリニック")も併せて紹介する。

  • 内田 裕之
    セッションID: 42_1-S10-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    精神科を受診している患者の処方欄を見て、あまりにも多くの薬を飲んでいて驚いた経験は誰しもあるだろう。日本ではこれまで特に統合失調症の治療において、多種類の向精神薬を投与する薬物療法(多剤併用療法)が広く行われてきた。多剤併用療法が必要な場合もあるが、副作用を最小化するという観点からシンプルな処方に越したことはない。本発表では、まず多剤併用療法の現状を批判的に考察し、抗精神病薬の減量・単剤化に関する代表的な研究をいくつか紹介する。そして、今日なお蔓延している多剤併用療法に対して医療従事者がどのように対処していくべきか考えたい。

  • 猿渡 淳二, 古郡 規雄
    セッションID: 42_1-S10-2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    精神科のポリファーマシーを考える上で、薬物相互作用は避けては通れない問題である。薬物相互作用は、薬物動態学的と薬力学的の2つの相互作用に大別される。前者は、バルプロ酸ナトリウム併用による血中ラモトリギン濃度の上昇と、それに伴う重篤な皮膚障害の発現に代表されるように、致死的な事象をきたす可能性もあることから、その予測と回避は精神科治療で不可欠である。なかでも、多くの精神科薬はCYPの基質であり、一部は阻害薬又は誘導薬であるため、CYPを介した相互作用の予測と回避が重要である。

     一方、精神科領域ではP糖蛋白(P-gp)等のトランスポーターの輸送活性を介した薬物動態学的相互作用が知られている。我々は、健康成人を対象とした検討により、フルボキサミンやパロキセチンの併用がP-gpの基質薬物であるフェキソフェナジンの暴露量を上昇させることを明らかにした(Saruwatari et al. J Clin Psychopharmacol, 2012)。また、カルバマゼピンの併用が血中パリペリドン濃度を顕著に低下させたことから、カルバマゼピンによる消化管のP -gpの誘導作用を介した機序が考えられた(Yasui-Furukori et al. Ther Drug Monit, 2013他)。このように、P-gpを介した相互作用は精神科薬治療で極めて重要である。

     薬力学的観点からは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬が上部消化管出血や脳出血のリスクを高めることが報告されていることから(Jiang et al. Clin Gastroenterol Hepatol, 2015他)、非ステロイド性抗炎症薬や抗血小板薬を服用する患者に当該薬を用いる際は、消化管出血等の副作用に十分な注意が必要である。我々は、日本精神科病院協会及び日本臨床精神神経薬理学会の「抗精神病薬治療と身体リスクに関する合同プロジェクト」の大規模調査のデータの再解析により、女性の統合失調症患者で抗精神病薬3剤以上服用者において過体重の頻度が高いことを明らかにした(Oniki, Yasui-Furukori et al. in preparation)。さらに、抗コリン作用を有する薬剤数の増加に伴って、高齢入院者での嚥下障害リスクが上昇することを解明した(Takata et al. BMC Geriatr 2020)。このように精神科薬の有害反応を回避する上で、薬力学的相互作用の予測も必要である。

     本発表では、近年の知見を提示しながら、精神科薬の薬物相互作用の観点からポリファーマシーへの対策について議論する予定である。

  • 高橋 結花
    セッションID: 42_1-S10-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    高齢化に伴い、生活習慣病などの複数の疾患を合併した患者が増え、治療薬や症状を緩和するための処方が増加し、ポリファーマシーが問題となっている。併用する薬剤が増えれば増えるほど、薬物相互作用により有害事象の出現頻度も増加する。疾患ごとに別の医療機関で治療を受けている場合、医師は別の医療機関で処方されている薬剤を把握することは難しく、重複処方にさえ気づかないこともある。また、同一医療機関で治療を受けている場合にも、機械的にチェックがかからない限り、外来診療では見過ごしているケースも多いと考えられる。

    このような状況の中でさらに精神科病棟での問題は、抗精神病薬やベンゾジアゼピン(BZ)系薬のポリファーマシーも散見される。BZ系薬剤は、抗不安、鎮静・催眠、筋弛緩といった作用をもち、すみやかな効果が期待でき、患者もその効果を実感しやすい。そのため、あらゆる診療科で処方されており重複処方も散見され、多剤併用に陥りやすい。BZ系薬のポリファーマシーの問題としては、過鎮静や持越し作用による作業能率や集中力の低下、特に高齢者では筋弛緩作用によるふらつきや転倒リスクの増大、認知機能の低下や健忘の発生、依存性などの有害事象があるが、多剤併用となった場合には、さらにそのリスクは高まる。特に依存が形成されてしまうと、減量・中止しにくい現状があり、診療報酬改定にて減算の対策がなされていても、改善されていない現状もある。

    東京女子医科大学病院神経精神科病棟では、毎週1回全職種が参加しているカンファレンスをおこなっている。2013年からそのカンファレンスにおいて薬剤師から抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬に関してクロルプロマジン換算値とベンゾジアゼピン換算値を伝え、減量についての提案・検討を行っている。特にベンゾジアゼピン系薬剤に関しては減量の効果が上がっており、全職種が参加しているカンファレンスでの減量提案は、精神科のポリファーマシーを解決するために一つの方策だと考えられる。また、患者本人の誤った認識により減量が進まないケースもある。薬剤師から、パンフレットなど活用し患者自身にBZ系薬剤服用のメリットとデメリットを説明し、減量・中止を決心させることから始め、薬剤を減らす指導だけではなく、認知行動療法や心理的サポートと併用することで効果があるとされているため、全職種と連携してすすめている。

  • 古郡 規雄, 橋本 亮太
    セッションID: 42_1-S10-4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    精神科医療においては、薬物療法と心理社会学的療法がその両輪であるが、その実践については、臨床家ごとのばらつきが大きく、よりよい医療を普及させることが必要とされている。例えば、代表的な精神疾患の一つである統合失調症においては、抗精神病薬の単剤治療を行うことが海外の各種ガイドラインで推奨されているが、本邦では諸外国と比較して突出して抗精神病薬の多剤投与が多く薬剤数が多いことが知られている。2011年及び2016年の日本精神神経学会においては、統合失調症における多剤療法の問題が取り上げられたシンポジウムが行われ、抗精神病薬の多剤併用率が65%程度であり、抗パーキンソン薬、抗不安薬/睡眠薬、気分安定薬の併用率もそれぞれが30-80%と高いことが報告された。このような背景から2014年には、向精神薬の多剤処方に対する診療報酬の減額がなされた。 

    このような状況にもかかわらず、まだこれらの治療ガイドラインが十分に普及したとはいえない現状があり、よりよい精神科医療を広めるための工夫が必要であると考えられる。そこで、EGUIDEプロジェクト(精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究:Effectiveness of GUIdeline for Dissemination and Education in psychiatric treatment)においては、ガイドラインの普及と教育を行うために、ガイドラインの講習を若手の精神科医を対象に行うことにより、その効果が得られるかどうかを検討することを目的する。EGUIDEプロジェクトにて講習を行うこと自体によってガイドラインの普及が進み若手の精神科医により適切な治療の教育が行われ、その結果として、より適切な治療が広く行われるようになることが期待きでる。また、教育効果を検証することにより、さらに効果的な講習の方法論が開発され、精神科医および精神科医療にかかわるコメディカルスタッフへの生涯教育法の開発や当事者やその家族への教育にもつながる可能性もある。本シンポジウムではEGUIDEプロジェクトを紹介し、精神科医に向けた多剤併用の克服に向けた取り組みを紹介する。

  • 岩崎 甫
    セッションID: 42_1-S11-1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/17
    会議録・要旨集 フリー

    我が国の多くの優れた基礎研究を活かした新規な革新的医療技術の創出および臨床現場への提供のためには臨床研究力の強化が必須な条件である。これまでもこの推進のために治験の強化推進策や橋渡し研究拠点や臨床研究中核病院の整備など様々な方策が講じられてきた。しかしながら、最近のSARS-CoV-2感染症に対するワクチンや治療薬の臨床開発では欧米の後塵を拝しており、未だに本邦における臨床研究の実力は十分とは言えない状況であり、特に病院など臨床現場における臨床研究力の強化や臨床試験の更なる活性化・振興は喫緊の課題である。臨床研究・試験の推進には医師・研究者の積極的な参画はもちろんであるが、それに留まらず臨床研究や試験の実施に必要な様々な要素を的確にこなすメンバーによるチームの形成が求められる。中でも臨床試験の被験者に寄り添い医師をサポートして臨床試験の円滑な実施を担当するCRCの役割は大きい。これまで日本臨床薬理学会としてもCRCの認定に努め、現在では約2500名のCRCが認定されている。この状況を活かして、更に試験の企画段階からの関与や試験全体の進捗を管理するなど、より高度な役割を担う臨床研究専門職を設けることは、CRCのキャリアアップを通じて臨床研究力の強化と研究の質の向上に有用な手段となると考えられる。この新たな専門職の要件の設定や認証システムに関しては日本臨床薬理学会が担うことにより、学会活動の振興にも資するものとなり、本邦における臨床研究の強化に本学会としても一定の役割を果たすことに繋がることが期待される。

feedback
Top