主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
【目的】N-acetyl-β-D-glucosaminidase (NAG)は加水分解酵素の一つである。近位尿細管が障害されると細胞内のNAGが逸脱するとされ、尿中NAGは臨床で尿細管障害の指標として用いられている。薬剤性腎障害 診療ガイドライン 2016では、腎障害の判定はChronic Kidney Disease;CKDあるいはAcute kidney injury;AKIの指針に準じ、尿細管障害の早期発見には尿NAGや尿liver-type fatty acid-binding protein;L-FABP等が参考になると記載されている。一方、糖尿病患者の尿中NAGは非糖尿病患者に比して高値となることが報告されており、グルコース刺激がNAG放出を促す可能性が考えられる。しかしながら、NAG放出機構に関する詳細は明らかでない。本研究では、尿細管におけるNAG放出機構の解明の起点として、in vitro実験系にてグルコースを始めエネルギー代謝に関わる物質添加によるNAG放出を評価した。【方法】ヒト尿細管培養細胞株HK-2にD体あるいはL体グルコース、ピルビン酸、グルコースに似た構造で体内に存在する単糖類の1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)を負荷し、24~72時間後の培養上清中のNAG活性を測定した。グルコース刺激はピルビン酸存在下と非存在下で、ピルビン酸刺激はD体グルコース存在下と非存在下でそれぞれ検討した。1,5-AG刺激はD体グルコース・ピルビン酸存在下で検討を行った。さらに刺激後の細胞数を評価するため、刺激後の細胞を溶解し、タンパク量を測定した。【結果・考察】ピルビン酸の有無によらず、D体グルコース負荷後の培養上清中のNAG活性はD体グルコース濃度依存的に増加した。D体グルコース濃度依存的なタンパク量の増加を認め、細胞数の増加も予想されたが、上清中のNAG活性をタンパク量で除した値でもD体グルコース濃度依存的なNAG活性の増加を認めた。L体グルコース負荷後の培養上清中NAGには、変化を認めなかった。また、D体グルコースの有無によらずピルビン酸負荷後の培養上清中NAGにも変化を認めなかった。1,5-AG添加によるNAG活性の変化は認めなかった。【結論】ヒト尿細管培養細胞株HK-2を用いたNAG評価実験にて、D体グルコース刺激によるNAG放出を評価できた。