主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
WHOは,1990年代より新興再興感染症(emerging/re-emerging infectious disease)という概念を導入し、感染症に対する強化を図り始めた。新興感染症とはヒトにおいて始めて認識された感染症で、新しい病原体のヒトへの侵入、既知の疾患が新たに感染症であると判明したもの。再興感染症とは、既知の感染症ではあるが、新たな場所で、あるいは病原性を変えて、あるいは耐性を獲得し、あるいは非定型的な症状で再出現した感染症、とされる。人社会のグローバル化は、新興再興感染症の発生と拡散に常に目を注いでいなくてはならなくなった。
演者は1990~1994年WHO西太平洋地域事務局(WPRO)で感染症対応担当官(Regional Advisor)であったが、その概念の理解には時間がかかった。帰国後、新興感染症対策の一環として国立予防衛生研究所から国立感染症研究所と改組され新たに設立された感染症情報センターに1997年から赴任したが、その年に発生したのが香港における鳥インフルエンザH5N1のヒト感染の集団発生であった。その後マレーシアにおけるニパウイルス感染症(1998)、ウガンダにおけるエボラ出血熱(2000)、そしてSARS(2003)、パンデミックインフルエンザ(2009)と続いた。その後もSFTS(2012) 、MERS(2012)、エボラ(2014)、ジカウイルス(2015)など次々と発生をしたが、日本国内での大きな流行に結び付いたのは2009年のインフルエンザパンデミックのみであり、今回のCOVID-19は、まさに世界とともに直撃を食らった感がある。COVID-19に対して、これまでの経験が生きた点も少なからずあげられるが、国の大きな方針としての新興再興感染症対策の具体的対応としては不十分であったと言わざるを得ない。
今回経験したことは、今度こそは積み残しが多くならぬよう、きちんと次世代に現実的な対応としてつないでいく必要がある。COVID-19によるパンデミック状態が去った後、次なるパンデミック感染症が発生するか否か。正確な回答はないが、"riskとしてのパンデミックに対して備える必要はある"と考えるのが正答であろう。